【特集】渡辺志保のトロント訪問記 Vol.1 | Drakeが愛し愛される街

2016年に発売されたDrakeの4thアルバム『Views』に収録されている"9"という楽曲。1ヴァース目の最後に、こんな歌詞があります。

Keeping people fed is my only peace of mind now

And I turn the six upside down, it's a nine now

(人々を食わせ続けることが、俺の心の安らぎなんだ

そして、”6”を逆さまにしてやる、今は"9"になるのさ)

ここに出てくる数字の「6」とは、カナダの都市・トロントのこと。トロントの市外局番である416または647にちなんで、そして、トロントはもともと6つの都市が合併して出来上がったという歴史的背景も汲んで「6」または「the 6ix」などと表現されることが多いのです。逆さまになるほどシックス・シティを揺り動かすパワーを持ったローカル・スター、いや、世界的な大スターとなったDrake。今回、私はトロント観光局のサポートのもと、いかにトロントでDrakeが愛されているかを実感する旅へと出かけました。

トロントは、カナダのオンタリオ州の州都かつ、カナダ最大の都市。Drakeはジューイッシュ・カナディアンの母親であるSandra、そしてアメリカはメンフィスを拠点に活動する有名なドラマーのDennis Grahamの間に生まれました。父はDrakeが2017年に発表したアルバム『MORE LIFE』のカヴァーになっているほか、MV"Worst Behavior"にも登場しているので、その姿を見たことがあるファンは多いと思います。

ちなみにDrakeの叔父さんは天才ベーシストのLarry Grahamでして、さらにお祖母さんはレジェンダリーなジャズ・ミュージシャン、Louis Armstrongのベビーシッターをしていたらしく、彼の音楽的バックグラウンドは十分に濃いのです。幼少期、Drakeはトロントの北部に位置するエリア、フォレストヒルで育ちました。ここはユダヤ系の移民が多く住むエリア。Drakeは自身がジューイッシュであること、そして黒人であることにとても自覚的であり、かつてのインタヴューでは13歳の時にはユダヤ教徒としてバーミツバ(※ユダヤ教の成人式)のお祝いを行ったとも話しています(ユダヤ教では男性は13歳、女性は12歳になると成人として見なされ、バーミツバはユダヤ式成人式のようなもの)。ちなみに、Drakeのバーミツバは、全く異なるバックグラウンドを持つ母方の親族と父方の親族が初めて一堂に会した、なかなかリマーカブルな出来事だったようでして、わざわざアメリカの人気コメディ番組『Saturday Night Live』のコントとして彼自身がそのときの様子を再現しているほどです

今回、私もフォレストヒル周辺に出向き、その一帯で有名なジューイッシュ・サンドイッチの名店「Wolfie’s Deli」に行ってきました。パストラミやハムをぎっしり挟んで頂くのがジューイッシュ・サンドイッチのスタイル。40年続く「Wolfie’s」で一番人気だというスモークハムのサンドイッチを美味しく頂き、「Drakeのお母さんも、このあたりにルーツがあるはずだよ〜」というお話も伺いました。

Wolfie’sの外観
店内

現地の方と話していると、いかにDrakeが大きなパワーを持ったアーティストであるかがひしひしと伝わってきます。もともと、カナダは音楽的にとても肥沃なエリア。Joni MitchellやNeil Youngといったロック・シーンのレジェンドに、Céline Dion、Avril Lavigne、そしてJustin Bieberなど、世界的に活躍するポップスターたちを多く輩出してきました。ただ、私がお話を伺ったトロント観光局の女性によると「音楽界で成功すると、みんなアメリカのシーンに染まりきってしまう。自分で稼いだお金をカナダに持ち返り、アルバムを出すたびに地元トロントについて言及しているのはDrakeだけ」だそう。確かに、Drakeはデビューしてから最新アルバム『Scorpion』まで常にトロントについて言及していますし、都度、地元トロントに大きな看板を掲出するプロモーションでも世間を賑わせています。

街中に掲出されたOVOアパレルの看板

地元のメディアTORONTO LIFEでは、ドレイクがアルバムをリリースするたびに「トロントに関するリリック選」という特集を組むほどです。

トロントで活動している音楽関係者の方と話している際に「Kendrick LamarもChance The Rapperも、今年の夏に日本でライブをしたばかり。Kanye Westもたびたび日本を訪れて(最近はご無沙汰だけど)ライブをしているが、Drakeの来日はまだ実現したことがない」と話したら、「超意外!Drakeの曲はヒップホップ・ファンではない子供から女性まで、みんなが歌えるポップ・ソングばかりなのに。KendrickやChanceの曲の方が難しくないか?」との回答。確かに、今でも"In My Feelings"はビルボード・チャートで9週連続一位(※9月13日時点)をマークしているメガヒット曲だし、何よりDrakeのシングル楽曲はどれもキャッチーですよね。東京・渋谷のクラブでも、一晩に何回彼の曲が掛かることか。これほどまでにDrakeがポップスターとしての地位を確立していることに、改めてハッとさせられました。同時に、日本でももっと彼のポップでファニーな面が知られてもいいのにな、と思います。

今や、Drakeがラッパーとしての活動を始めた頃から常に共に活動してきたトロントのビートメイカーのNoah 40やBoi-1daは、KendrickやEminem、DJ KhaledらUSのトップ・アーティストらと多く組み、世界中にヒット曲を届ける存在です。そして、The WeekndやPARTYNEXTDOORら、Drakeのフックアップにより世に出たアーティストらもまた、世界を席巻して活躍中であることは言うまでもありません。他にも、Tory LanezやBelly、NAVといったアーティストたちも、今では大きなフェスのラインナップとしてたびたび名前が挙がる存在。Drakeを筆頭に、まだまだトロント勢快進撃が続くことは間違いなさそうです。個人的に、トロント出身のミュージシャンといえば、今年、デビュー・アルバム『Surrender Your Soul』を発表した新星Killyが気になる存在です。また、数日間だけではありますが、トロントの街を歩いていて目に付いたのは、Drakeのレーベル、OVOからデビューしたBaka Not NiceのデビューEP『4Milli』のポスター。本当に至るところに貼ってありました!

街中に貼られていたBaka Not Niceの最新作のポスター

なお、私がトロント滞在中に伺ったお店の中でも特にエキサイティングだったのは、DrakeがRihannaとのコラボ・シングル"Work"のMVを撮影したレストラン、「The Real Jerk」。カリブの雰囲気、そしてどこか猥雑なヴァイブスが伝わって来るこのMVですが、なんと撮影されたのはトロントに実在するジャマイカ料理店だったのです。

MVの冒頭に大きく映し出される看板を実際にこの目で見た時には超興奮!ちなみに"Work"のMV撮影の話が来た際、撮影日が(一週間のうち最も忙しい)金曜日だったので、最初は断ったそう。ただ、MVの中に自店の看板を映してくれるなら、という条件でOKしたそう。本MVを手がけたのは、もはや大御所とも言えるほとに数々のヒップホップMVを手がけてきたディレクター・X。X自身もトロントの出身で、Drake作品だと"Hotline Bling"や"Started From The Bottom"などを撮ってきた人物です。「The Real Jerk」はもともとX、そしてDrakeの行きつけのお店だったそうで、Xが直々に撮影を依頼したそう。そして、ドレイクはロティ(スパイシーなチキンやビーンズを薄皮で包んだ料理)が好物で、テイクアウトも利用しているとか。

”WORK” MVのロケ地、The Real Jerkの外観
The Real Jerkの店内
The Real Jerkのジャークチキンのプレート

今回、本来であればDrakeとMigosのジョイント・ツアー、「Aubrey & the Three Migos Tour」のトロント公演に伺うはずだったのですが、ライヴはまさかのキャンセルに(一応、オフィシャル・アナウンスメント的には順延という説明ですが、振替日は未定)!キャンセルの理由は、Drakeが心臓の移植手術を控えた11歳の少女、ソフィアちゃんをシカゴの病院へと見舞うためでした。

Me and my love Sofia talking about Bieber and Owls and Basketball???

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結果、ソフィアちゃんの手術は9時間に及んだものの、無事に成功したそう。トロントでの凱旋ライヴが観れぬまま日本に帰国することとなったのは非常に残念ですが、一人の少女の命を救うためだと考えれば、逆に稀有な出来事だったなと思います(今となってみれば、ね…)。
とにかく、デパートにはDrakeの楽曲から引用したリリックがプリントされているマグカップが売られていたり、レコードショップではDrakeをネタにしたZINE的な塗り絵ブックが置かれていたりと、さすがの愛されっぷりを実感した滞在でした。今回に懲りず、いつかまたトロントでDrakeを観る夢を果たしに行きたいなと思っています!(渡辺志保)

トロントで開催中だったSCORPION POP UP SHOP
SCORPION POP UP SHOP

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