【コラム】Clairo | ポップを拡張する
インディーポップSSWのClairoが、LAのショップ/ビデオグラファー/レーベルYours TrulyとAdidas Originalsのコラボレーション企画『#songsfromscratch』に登場した。先日7月31日に公開された動画には、同世代のアーティストCucoとの楽曲制作の風景が収められている。
Clairoはマサチューセッツ州ボストン出身の19歳。14歳の頃からSoundCloudやbandcampに弾き語りの音源をアップロードしていた彼女はいつしかオリジナルの楽曲を制作することに興味を抱き、Ableton Liveを用いたDTMを始めたという(現在もAbleton LiveとGarage Bandのみを使用しているそうだ)。その後も作曲を続けていく中、昨年YouTubeで公開した”Pretty Girl”のMVによって一躍その名が知られることとなった。
宅録感溢れるローファイなトラックとキュートな歌声、何よりその卓越したポップセンスはインターネット上で大きな注目を集め、バイラルヒットを記録した。当の本人は”Pretty Girl”がここまでのヒットとなることを予想しておらず、突如として得た名声に戸惑ったものの音楽活動を続けていく自信を得られたそうだ。
その後もClairoのYouTubeチャンネルには”Flamin Hot Cheetos”、”4EVER”などのオリジナル楽曲やAmy Winehouseなどのカバーのビデオがコンスタントにアップロードされ続けている。
”Flamin Hot Cheetos”におけるZak VillereやTemporexなどのローファイR&Bを想起させるようなトラップ以降のビートアプローチ、あるいは”4EVER”のディスコやシティポップに接近したようなトラックからは、トレンドを上手く消化しながらも陳腐にならない彼女のバランス感覚が伺える。それは、近年の90sリバイバルの影響をもろに受けていながら一切わざとらしさを感じさせないMV(ソフィアコッポラやデイトン/ファリスの映画を彷彿とさせる)やファッションにもよく現れている。
そのようなクレバーさと高いセンスを持ち合わせつつも、上手くいかない恋愛や人間関係、今の10代に特有の虚無感を歌ったリリックは幅広いリスナーの共感を呼ぶ。
ともすれば「ヒップスター向けのアーティスト」と一刀両断されかねないClairoの特筆すべき点は、あくまで「自分が好きなものを表現している」という自然さと、誰もが共感できるような等身大のチャーミングさだろう。
また、Clairoは同世代の女性ミュージシャンたちと「Production Princeses」というコミュニティを運営している。これはDTMやインターネット上での音楽活動について質問や意見交換を行うことができるプラットフォームで、男性のミュージシャンが作曲についての話をする場のオルタナティブとして作られたという。このようなコミュニティを作った理由については、「Abletonについて男の人の友達に聞いても、ただ私を笑うだけだった。だからこういうコミュニティを作った」とのこと。彼女の根幹となっているDIY精神と感覚は、メインの音楽活動以外の部分でも活きているようだ。
そんなClairoは、今年の5月に初のEP『diary 001』をリリースするに至った。
これまでに発表されていたシングルに加え、アイルランドのラッパーRejjie Snowをフィーチャリングした”Hello?”を収録するなど、単に「ローファイインディーポップ」と聞いてイメージされるようなものに留まらない音楽性の進化を感じさせるEP となっている。また、EPのリリースに伴いバンドセットでのライブ活動も始めたという。
いわゆるベッドルームポップから始まり、幅広い音楽性とともに進化を続けていくClairo。彼女は今後どのような音楽を聴かせてくれるのだろうか?(山本輝洋)