【インタビュー】Spikey John | かっこいいものを撮りたいだけ

kiLLAやYENTOWN、さらにはゆるふわギャング、SALU。そしてその鮮烈で、今としか言えないムードを反映させたJP THE WAVYの"超WAVYでごめんね"のビデオのバイラルヒット。これらの現在のヒップホップシーンの重要アーティストのミュージックビデオを制作しているのが、1996年生まれの映像作家の早矢仕貴之ことSpikey Johnだ。

本格的にミュージックビデオの制作を始めてわずか1年ほど、ものすごいペースでミュージックビデオを制作し、一気に日本語ラップシーンの重要なビデオグラファーとなったSpikey Johnには、どのようなルーツがあるのか?そして彼が撮りたいものとは?

取材・構成 : 和田哲郎

写真 : 横山純

- 今って映像の学校に行ってるんですよね?元々映像制作に興味を持ったのは?

Spikey John - 高校の時ですね、それでCGとか学べる学校に入ったんです。映画とかは特に影響は受けていなくて、ただヒップホップが好きなだけでした。好きな映画とかも特にないですし。映像が好きじゃなくて、撮るのが好きなだけなんですよね。影響を受けた映像作家は木村太一さんです。日本人でこんな感じの撮るんだって。『Lost Youth』は、日本を舞台に撮っているのに海外みたいに見えるし。The 日本の東京の街って感じじゃなくて、場所のチョイスがかっこいいなと思って。

_DSC2515

- ヒップホップはどういうきっかけで?

Spikey John - 中学までは全然聴いてなかったんですけど、高校入ったときくらいからスケボーをやり始めて、それで90年代のNasとかを聴き始めて、大学入ったときからトラップを好きになりましたね。The Pharcyde"Drop"のスパイク・ジョーンズが撮った逆再生のミュージックビデオを観て、こんな昔にこんなイケてるビデオあるんだって、それは喰らいましたね。

- 名前はスパイク・ジョーンズから?

Spikey John - それめっちゃ聞かれるんですけど、知らなかったんですよね。Pharcydeのそのビデオの監督ってあとから知って。この名前はシド・ヴィシャスのWikiを見てて、別名見てたらSpikey Johnってあったんでかっこいいなと思ってInstagramのIDにしてたら、スパイキーさんって呼ばれるようになって浸透しちゃったんで、この名前でいくかって。本名でもいいんですけどね。ちなみにシド・ヴィシャスのことも全然知らないんですよ。

- なるほど、それで撮り始めたのは最近なんですよね。

Spikey John - YDIZZYの"OOOUUU(Remix)"のミュージックビデオですね。去年の11月。そこから本格的に月に何本も撮り始めるって生活が始まりましたね。このビデオは知り合いがYDIZZYとつながっていて、ビデオを撮りたがってるって聞いて、特に何も決めずに撮りましたね。ロケーションだけ指定されて、サクッと。それまでイベントとかはたまに行ってたくらいで、kiLLaのビデオを撮ってる人と知り合いで、その人経由でつながりましたね。

- JP THE WAVYくんに"超Wavyでごめんね"のビデオについて聞いたときも、渋谷に集まることだけが決まってそれで撮ったって言ってて。

Spikey John - そうですね、最近はコンテとかも書くようになったんですけど。WAVYのやつは曲を聴いて、すぐにそういうアイディアが思いついて。だから考えてやるよりも現場でフリースタイルでやったほうがいいの撮れるかなって。大雑把に渋谷でワイワイしてるっていうのは、イメージはできてましたけど、具体的にここで撮ってみたいなのは決めてませんでしたね。リミックスのほうはちょっとは考えてやりましたね、反響があったんで。

- ゆるふわギャングの"Don't Stop The Music"のミュージックビデオでも、すごい色味にこだわってるのかなって思いました。

Spikey John - 色味はすごいこだわっていて、一緒にやっているSeiyaくんがそこをやってくれてますね。彼は共通の友達を介して知り合って、それで一緒になんかやろうってなって、一時期は同棲もしてました。ビデオに出てくれる人も自分で結構連れてきたりしてますね。あるビデオに出てくれた人と仲良くなって、その次のにも出てもらうとかはあります。Gontakaって友達は今年入って僕が撮ったビデオ5~6本出てて。

- ああいう色味とかだと結構サイケデリックなものが好きなのかなって思うんですが?

Spikey John - いやそういうのは別に好きじゃないですね。好きな世界観とかも特になくて、かっこいいものが好きなだけです。よく聞かれるんですけど、本当に影響受けたものはないですね。確かにたまにUSのヒップホップのビデオを観て、それに寄せたりはするんですけど。ビデオがかっこいいというよりは、プロのテクニックを使ってみるかって感じで。かっこいいの基準も特になくて、自分がかっこいいと思うものを出したら、みんなもそう言ってくれるので、それでいいかなって。そんな深く考えてないですね。

- なるほど、あとスピード感が本当にすごいなって。

Spikey John - そうですね、特にJP THE WAVYはスピード感を意識してやりましたね。あれは結構大変でした。頭の中である程度イメージはできているので、あとはそれを並べていくだけなんですよね。今年だけで15~6本はビデオ出してますね。アイディアとかは考えられる余裕がなくて、今はパターン化してきちゃってるので、1本に時間をかけられないので、それが悩みですかね。Awichさんの"Remember"とかはがっつりやれましたね。

- あれはリッチな作りって感じましたね。

Spikey John - 予算かかってるように見せたくて。多分メジャーの1本の予算の10分の1くらいしか実際はかかってない。もともと真っ暗のなんもないところに発電機と照明を持って行って、10本くらい並べて。それも沖縄で初めて会った人が協力してくれて。焚き火専門の人とかも来てくれて。そういう人たちがいないときつかったですね。今は自分でカメラも回すスタイルなので、それがあんまり良くないですね。ディレクションに専念できないので、絶対毎回帰って編集するときに足りないなとは思いますね。中々一緒にやりたいカメラマンはいないですね、自分でもそれなりにできるようになっちゃったので。最初は全部自分でやりたかったんですけどね。それは難しいってことに気づきました。

- メジャーのビデオって予算はかかってるのかもしれないですけど、あんまり面白いなっていうのは見当たらないですよね。

Spikey John - たくさんの人が関わりすぎてるし、なんか硬いんじゃないですかね。あとは無駄に作りこんだり。普通にカッコ良く撮ればいいのになって。学校にもCG作りつつ、ミュージックビデオ撮ってる同級生とかいるんですけど、みんな意識が高いというか、おれは映像クリエイターっていう気取った感じがしちゃって。そんなの誰もわかってくれないって思っちゃいますね。自己満足じゃんって。僕の自己満足はみんなが、かっこいいと思ってくれることなので。僕が尊敬している木村さんとかDutch(Tokyo)くんとかはそんな気取った感じはないので。あとTakuto Shimpoさんとかはすげえなって思いますね。安っぽくなくて、ちゃんとディレクションしてるなって。

_DSC2575

- 撮ってみたいアーティストってどういう人なんですか?

Spikey John - ヒップホップはもうそんなにいいかなって。バンドとかJ-Popのアーティストとかを今は撮りたいですね。ヒップホップのアーティストをやっていたのは、好きだったからのもあるし、ヒップホップのビデオがショボいっていうイメージが高校の時にあって。それで俺の方がいいの作れるでしょって感覚でやったんですよね。最近は他のビデオもクオリティー上がってきたんで。一時期は勝手に自分の中で役割みたいに感じてた。正直ほぼクソみたいに思ってたんで。ゆるふわギャングとかはすごいこだわってるじゃないですか。2人と一緒にビデオの編集をしてる時に、2人はすごい映画の話をしてたんですけど、おれは全然わからなかった(笑)おれは普通に『トランスフォーマー』とか、すごい好きなんで。あんまりマニアックなものはわからない。

- 自分が撮るのが好きって気づいたのはいつくらいですか?

Spikey John - iPhoneをずっと持ってて、動画撮れるじゃないですか。それで撮ってたら編集のアプリとかが無料であって、それでちょっと目覚めたっていう。Vineとかはやってなかったんですけど、そういう感覚でアプリで編集してTwitterに動画をアップするとかをしてて、そこで編集は覚えたっすね。それで高校の時にたまたまデスクトップのPCを持ってて、ファイナルカットを買って、そこから本格的に編集はやり始めましたね。当時撮ったものを見返すこともあるんですけど、恥ずかしくて胸が苦しくなりますね(笑)普通みんな映像の学校行って、それから映像作るじゃないですか。僕は勉強を無視して、とりあえずビデオ撮って、撮ってる最中にとか編集してる最中にYoutubeで編集テクニックの動画とかを見てやっていくので、毎回使うテクニックが変わっていくんですよね。最近は1週間に何本も撮るんで、似ちゃったりする場合もあるんですけどね。時期で比べるとその時ハマってたカット割りとかは感じますね。

- Seiyaくんに聞いたらSpikeyの撮り方は普通のプロの監督がやらないやり方って言ってましたね。

Spikey John - いやそれは自覚してないですね、みんなこんな感じかなって。あとプロの現場ってめんどくさいんですよね、アーティストに対して慎重すぎて。ケータリング用意したりとか。そんなの知ったこっちゃない(笑)アーティストとしっかりコミュニケーション取れれば大丈夫だから。緊張した状態で撮影したくないじゃないですか、こうしてくださいとか言いづらくなるんで。

- ちなみにTwitterでYDIZZYの"OMW"が一番かっこいいビデオだと言ってましたが、気に入ってるところは?

Spikey John - 曲を聴いたときの壮大な感じが、自分的には完全に表現できて、最高のロケーションでかっこいい感じにできたんですよね。本当にわかりやすくかっこいいなって。変なストーリー仕立てになっててとかじゃなくて、観てすぐわかるものになってるので。あれは一番かっけえだろって自信はありますね。メジャーのアーティストとかでも、変に凝り過ぎてるアーティスティックな映像とかって難しいじゃないですか。それより、誰でもわかるものの方がかっこいい。複雑な内容を作ったりとかも面白いと思うんですけど、おれはそういうのが嫌いなんですよね。曲でも聴いてすぐわかるかっこいいものが好きなんで、映像も同じですね。

- さっき今はロックバンドとかJ-Popの人のビデオを次は撮りたいって言ってましたけど、オリジナルで作品を撮りたいっていうのはありますか?

Spikey John - 脚本も自分で書いて、映画は撮りたいなって思いますね。3つくらい決めてて、ホラーかラブロマンスか『スカーフェイス』みたいなものがいいですね、単純にその3つが好きなので。でもぶっちゃけ一番はラブロマンスですね。

- Twitterでも広瀬すずのリツイートをがんがんしてますよね。

Spikey John - 僕はあっち系の人種なんですよ。メインストリームが好き、昔から月9とか好きで。今も映画館に福士蒼汰主演の映画とか普通に観に行きますもん。この前も『一週間フレンズ』ってやつを観て。海外でも『ゴシップガール』とか好きなんで。一番そういうのがやりたいですね。

- 本格的に撮り始めて、まだ1年くらいじゃないですか。こんなに上手くいくとは思ってましたか?

Spikey John - 最初のビデオを撮る前から、おれならいけるでしょってのはあったんで、こんな感じだろうなとは思ってましたね。自信はありました。たまに相談されるんですけど、TwitterとかSNSで「将来こうしたい」とか書いてる暇あったら、映像作らないとダメですね。機材自慢するならいいから撮れって思いますね。考える暇ないくらいにやっていった方がいいなって。確かに映画とかアートに影響受けるのも大事ですけど、その前にやることがあるだろって思います。まずは何も考える前に作った方が一番早いと思うんで。

_DSC2566

Spikey John

https://www.instagram.com/spikey__john/

https://twitter.com/spikey__john

RELATED

【インタビュー】DYGL 『Cut the Collar』| 楽しい場を作るという意味でのロック

DYGLが先ごろ発表したニューEP『Cut the Collar』は、自由を謳歌するバンドの現在地をそのまま鳴らしたかのような作品だ。

【インタビュー】maya ongaku 『Electronic Phantoms』| 亡霊 / AI / シンクロニシティ

GURUGURU BRAIN/BAYON PRODUCTIONから共同リリースされたデビュー・アルバム『Approach to Anima』が幅広いリスナーの評価を受け、ヨーロッパ・ツアーを含む積極的なライブ活動で数多くの観客を魅了してきたバンド、maya ongaku

【インタビュー】Minchanbaby | 活動終了について

Minchanbabyがラッパー活動を終了した。突如SNSで発表されたその情報は驚きをもって迎えられたが、それもそのはず、近年も彼は精力的にリリースを続けていたからだ。詳細も分からないまま活動終了となってから数か月が経ったある日、突然「誰か最後に活動を振り返ってインタビューしてくれるライターさんや...

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。