【Rappers Update Vol.1】Weny Dacillo

そのミームは何を生み出すのだろうか? Weny Dacilloが2016年2月に発表したProcess、そして、2017年3月に発表した〝1000%という2曲のラップ・ソングは、日本特有の現象であるいわゆるフリースタイル・ブームではなく、世界中に広がるラップ・ミュージックの生態系の中で捉えてこそ、その可能性を把握することが出来るだろう。もしくは、それらは日本のラップが進化するべき方向を示しているのだと言っても過言ではない。新世代のラッパーに取材する連載『Rappers Update』。第1回は96年生まれ、21歳のWeny Dacilloに話を聞いた。

取材・文 : 磯部涼

写真 : 横山純

- 基本的なことなんですが、〝Dacillo〟は何と読むんですか?

Weny Dacillo - 〝ダシーリョ〟です。

- 本名は違いますよね。

Weny Dacillo - 〝Weny Dacillo〟はラップ・ネームです。最初は〝Weny〟と名乗ってて……それは、〝We Need(ウィーニー)〟って響きがもとになってる。名前を呼ばれる時に〝ウィーニー〟って言われると、皆に必要とされてる感じがして良いなと。で、適当な文字をあてて〝Weny〟にした。その後、ファーストネームが欲しくなったんですけど、母親の旧姓がダシーリョなんで使った感じです。

Weny

- 13年9月、17歳で出場した『高校生RAP選手権』第4回大会の紹介映像では、板橋区出身であること、お母さんがフィリピン人であることが語られていました。地元と家庭はどんなところでしたか?

Weny Dacillo - 地元は大谷口っていうところで、ベッドタウンですね。団地があって、夜のコンビニに不良がたまってて。

- 不良でしたか?

Weny Dacillo - 自分ですか? 不良じゃないですよ。友達はオラオラなやつが多かったですけど、自分は髪が長くて、どっちかというとギャル男って言われてました(笑)。

- 音楽は子どもの頃から好きだった?

Weny Dacillo - 母親がスナックを経営してたんですけど、店のカラオケで美空ひばりなんかをよく歌ってたんで、子供の頃に聴いていたのはそういう演歌ですね。

- ちなみに、Weny君がYoutubeのアカウントで高く評価した750曲をチェックしたんですが……。

Weny Dacillo - えっ(笑)。

Weny Dacillo

- 確かに美空ひばりも入ってましたね。あと、河島英五とか。

Weny Dacillo - そうそう。でも、SMAP、久保田利伸、徳永英明、宇多田ヒカル……色々聴いてましたよ。

- 日本のポップミュージックの中でも、ある種、ソウルフルなものが好きだったのかもしれないですね。ちなみに、お父さんはどんな方ですか?

Weny Dacillo - お父さんはいないです。物心ついた頃にはもう。代わりに家には母親の愛人がいて。新しい愛人が前の愛人を追っ払ったりとか。喧嘩して警察沙汰になったりとか。

- Weny君は今も板橋に住んでいる?

Weny Dacillo - はい。でも、今はひとり暮らしをしてて。家族関係がヤバいんで。

Weny Dacillo

- なるほど。件の『高校生RAP選手権』の紹介映像によると、ラップを始めたのは16歳、SEEDAの影響で、ということですが。

Weny Dacillo - 正確にはSCARSですね。あと、地元の同い年の友達が先にラップを始めて、よく一緒にいたんでその影響を受けてどんどんのめり込んでいったっていうか。

- クラブで遊ぶようになったのはいつくらい?

Weny Dacillo - いつだろう? 気付いたらクラブにいた、みたいな(笑)。

- TOKYO YOUNG VISIONというのがクルーなんですか?

Weny Dacillo - そうですね。M-6POとButya‏と、あと自分。ただ、今は活動してるって言っていいのか。もともと、始めた人間がいて、彼が辞めてしまったんで。

- 現在はBAD HOPにいるVingo君ですよね。

Weny Dacillo - はい。彼ともクラブで知り合って、ちょうどラップを始めた頃だったんで、その話で盛り上がって、一緒にやろうということになりました。随分、会ってないですけど。

- 『高校生RAP選手権』に出ることになったきっかけは?

Weny Dacillo - 当時、自分が代々木公園で『代々木サイファー』っていうのをやってて。100人くらいひとが来てたんでちょっと目立ってたというか、「こいつを出してみよう」みたいなことになったんだと思うんですよね。……あの、昔話は。

- あ、したくないですか?

Weny Dacillo - いや、何ていうか、今、ナイーヴなんですよね。新しいプロジェクトが進んでますし、それが受け入れられてきてる感じもあるんで、後ろを向きたくないっていうか。

Weny Dacillo

- 最近、〝Process〟や1000%でWeny Dacilloの才能を知ったひとは多いと思うんですよね。僕もそのひとりですが、だからこそ、これまでどんな道を歩んできたのか知りたい。ただ、Weny君としては、過去は関係ないというか、以前とは変わったと考えている?

Weny Dacillo - 大きく変わりましたね。何も気にしなくなったっていうか。もちろん、身内に言われたら傷つきますけど、赤の他人にあーだこーだ言われても気にしなくなった。

- 『高校生RAP選手権』では結果を出せなかったこともあって、Youtubeのコメント欄なんかで叩かれていましたよね。

Weny Dacillo - 自分は選手権にはこだわってないですね。リスナーたちがこだわってる。フリースタイル・ブームなんでそれも仕方がないと思うんですけど。

- とは言え、フリースタイルはラップ・ミュージックの一部でしかない。

Weny Dacillo - でも、今の日本だとそれが〝=Weny〟のイメージになっちゃうでしょう。じゃあ、覆してやるよと思って、ある時期から、曲をめっちゃつくるようになったんです。

- Weny Dacilloと名前を変えたことにも仕切り直しみたいな意味合いがあったんですか?

Weny Dacillo - そうですね。高校生RAP選手権では格好良いところが見せられなかったので、新しくファーストネームを付けて再出発しようっていうか、自分の表現から、一旦、フリースタイルを切り離した。それで、曲を書き始めて。

- ラップを始めたばかりでああいう大舞台に出て、上手くいったひとは良いですけど、そうじゃないと落ち込みますよね。

Weny Dacillo - 落ちましたね。気分っていうか、モチベーションっていうか、全てに関してダダ下がりして。

- "Process"は、タイトルの通り、全てを未来へ繋がる過程として捉えようというポジティヴな曲です。

Weny Dacillo - はい。その時は、本当に欲望しかなかったんで。全てが欲しかった。もちろん、それはいますぐには無理なんですけど、そう考えられるなら頑張れるなと。人間、希望よりも欲望の方がエネルギーになると思うんですよね。

 

- そして、さっきも言ったように、〝Process〟でWeny Dacilloを(再)発見したひとたちも多いですよね。

Weny Dacillo - それは凄く感じます。そういうひとたちがいなければ心が折れてたかもしれない。落ちてる時に地元の奴らが後押ししてくれのも嬉しかったんですけど、それとはまた別に、顔も知らない人でオレの曲を良いっていってくれる人がいるんだったら続けてみようかなと思えたんで、感謝してます。

- 一方で、〝Process〟のラップにはフリースタイルっぽいところもあると思います。いい意味でつくり込んでないっていうか、言葉が奔放に飛び交っている。

Weny Dacillo - オレ、考えるのがあまり得意じゃなくて。曲を書こうっていうモードに入ったら、バーっと殴り書きしちゃう。で、メロディも含めて2時間ぐらいで完成する。例えこの言葉はダメだなと思っても、直感で出てきたものだからもったいないなって残しちゃいますし。

Weny Dacilo

- そして、Weny君のラップはいわゆる日本語ラップのクリシェとは違う。

Weny Dacillo - 韻はあまり重視してないというか、日常会話みたいにラップしたいんですよね。そういう言葉の方が、自然に入ってくると思うんで。

- どちらかというと、アメリカのラップと同時代性があると思うんですが。

Weny Dacillo - アメリカのラップも好きですよ。Travis Scottとか、Lil Uzi Vert、Playboi Carti、21 Savage、6lack……。Mike Studって白人のラッパーもよく聴いてますね。

- 日本と違うと思うところは何ですか?

Weny Dacillo - むしろ、リスナーの質が違うんじゃないですか。あっちは凄く早いっていうか。

- 新しくて面白いラッパーをどんどん見つけ出しますよね。

Weny Dacillo - 成り上がるのも早いですよね。1曲、格好いいやつを出せば一気に有名になっちゃうから、準備が出来なくて大変そうだけど。

- 日本のラッパーで影響を受けたひとは、SCARS/SEEDA以外にいますか?

Weny Dacillo - 歌うみたいにラップするようになったのは、鎮座DOPENESSさんの影響だと思います。

- それはちょっと意外です。

Weny Dacillo - あと、地元が同じ5lackさんとPSGにも影響を受けました。最近だと、気になるのはMiyachiってひと。

- 彼は日系アメリカ人だと思いますが、日本語の使い方が面白いですよね。ちなみに、ビートに関しては、〝Process〟がアメリカのGiovanni Soundのものを、〝1000%〟がニュージーランドのTantu Beatのものを使っています。

 

Weny Dacillo - へー、国までは知らなかったです。

- ビートはどういう風に見つけてるんですか?

Weny Dacillo - Youtubeをポンポンって飛ばして観てる時に、〝お、格好いいじゃん。じゃあ、この曲でつくろう〟って思ったら、アポイントを入れて。Paypalで払って。本当は自分の周りにトラックメーカーがいたら、提供してもらいたいんですけど。

- でも、日本では珍しいやり方なので面白いと思います。

Weny Dacillo - そうですよね。あまりいないですよね。

- EPをリリースする、という情報を見ましたが、〝Process〟と〝1000%〟も入るんですか?

Weny Dacillo -  "Processは入ります。"1000%は、その後に出すミックステープに入れようかなと。EPは『AMPM』っていうタイトルで。

- YoutubeのアイコンもTwitterのヘッダーも、『am/pm』のマークですよね。

Weny Dacillo - 昔、家の近所に『am/pm』があって、そこにお兄ちゃんとよく行ってたんです。

-『am/pm』ってもう日本にはないらしいです。

Weny Dacillo - そこも、もう別の店になっちゃってて。ライスバーガーが好きだったな。あと、サンデー(アイス)も美味しかった。

- 『am/pm』のマークは良い思い出の象徴なんですね。

Weny Dacillo - EPにも"Convenience Starって曲が入ってて、そこでは昔のことを歌ってます。

- 先程、〝日常会話みたいにラップしたい〟という話がありましたが、Weny君のラップはモダンな一方で、地に足がついている感じがあります。〝Process〟の「人生、人生、人生」って連呼が好きなんですけど。

Weny Dacillo - (笑)。人生って何か凄いですよね。複雑にしたくないんですけど、複雑になっちゃうっていうか。それぞれが、それぞれの視点で見てるわけだし。

Weny Dacillo

- 同じ人生はないし、当然の話、人間は自分の人生しか生きられないですからね。

Weny Dacillo - 重い言葉だと思います。

- で、それを3回も繰り返すという。

Weny Dacillo -  大事なことって、やっぱり、2回以上言った方がいいと思うんです。

- なるほど(笑)。最後に、腕に入れているタトゥーを解説してもらってもいいですか?

Weny Dacillo

Weny Dacillo - まず、モノポリーは昔好きだったゲームですね。メイクマネーするゲームだから、ラッパーっぽいかなって。で、こっちは『マスク』。

Weny Dacillo

- ジム・キャリーの。生まれる前の映画ですよね。

Weny Dacillo - 子どもの頃、金曜ロードショーとかで観たんじゃないかな。

- そして、裏側に入れているのは紙飛行機。

Weny Dacillo

Weny Dacillo - これも、子供の頃、よくつくってたなぁと思って。

- 子供の頃の記憶を、タトゥーという形で残してるんですね。

Weny Dacillo - 曲でも、夢の記憶について書いたりしますからね。誰と曲がつくりたいとか、どんな場所でライヴしたいとか、そういうことも夢ですし、それを、音楽を通して実現していきたいですね。

Release Info

Weny Dacillo

Weny Dacillo - 『am/pm』

Coming Soon!!!!

Track List

1. Good nigth
2. ViTCH
3. Convenience Star
4. Day Dreaming
5. Process
6. Private

 

Live Info

Mango Sundae

Mango Sundae

5/14(Sun) 18:00~

代官山Saloon

〒150-0021
東京都渋谷区恵比寿西1-34-17
Za HOUSEビルB3F

¥2,000

Live

Yano
Weny Dacillo

DJ

Threepee Boys
KM
粗悪ビーツ
shakke
Wardaa

RELATED

Tokyo Young Visionによる初EPがリリース | OZworld、Only Uに加えWeny Dacilloも参加

Hideyoshi、Young Dalu、Osami、Big Mike、DJ NORIOなどが所属するクルーTokyo Young Visionによる初のEP『Chawalit』が、本日7/9(金)にリリースされた。

Weny Dacilloが1年ぶりの新作『Hapitable Hotel』をリリース

スマッシュヒットの"ビッチと会う"などで知られている東京のラッパーWeny Dacilloが、1年ぶりとなる新作『Hapitable Hotel』をリリースした。

Normcore BoyzやHideyoshi、Weny Dacilloなどを擁するTOKYO YOUNG VISIONによるパーティーが開催

5/6(月・祝)に東京・渋谷HarlemでTOKYO YOUNG VISIONによる主催パーティーが開催される。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。