性を越えていく弟を15年間撮りつづけたRona Yefmanの写真集 『LET IT BLEED』
1996年、イスラエルのアーティストRona Yefmanが撮影し始めたのは、ひさしぶりに再会した実の弟Gilと過ごす思春期の記録だった。
動画・スナップ・演出写真と、イメージの形をさまざまに変えながら撮りためられたその記録は徐々に、男性から女性へと変貌していくGilの姿を記すための記録となっていく。
年月を重ねるごとに、眉毛や肌を、衣服や体つきを変えていく弟の姿を、Ronaは親密な距離から撮影しつづける。
Rona曰く、そのプロセスは「これまでの人生で育み、理解し、見えてきたものをすべて壊し、たどり着いた混沌としたカオスの中心で、自分が誰なのかもわからない。そこから何か異なったものを創造しようとする、予想不可能なプロセス」だった。
近くにいたはずの彼らの親はほとんど存在感を示さない。家族の葛藤の物語はほとんど前景化されないにも関わらず、写されていくGilとRonaの表情は、そこにあったはずの希望と絶望の波形をはっきりと伝えてくる。
この作品集は、一人の人間のアイデンティティをめぐる長い旅の記録簿であると同時に、二人の人間だからこそなし得た交流のドキュメントでもある。Gilにとって性とは「自分」で選んで掴み取っていくものであったが、その道は決して「自分だけ」の道では無かった。
Gilが言うところの「性を越えた存在」へと向かっていくこの旅のアルバムに、終着駅が書き込まれる日は来るのだろうか。(Yuki Kobayashi)
"Let it Bleed" , Artist book by Rona Yefman
Limited edition of 500 copies, 192 pages , Offset, printed in Italy, May, 2016
Published by Little Big Man, L.A, CA. May 2016.
http://littlebigmanbooks.com/products/rona-yefman-let-it-bleed