culture
Christopher Andersonの写真 ── 写り込むまなざしの暴力
by Yuki Kobayashi
極度にクローズアップされ、ハイキーに現像されて並べられた人々の顔は、よく見ると名のしれた政治家たちの姿。オバマ、クリントン夫妻、ポール・ライアンなど、選挙キャンペーンで檄を飛ばす政治家たちの表情は、今にも殴りかかってくるような暴力的な相貌を示している。
この写真を撮影したChristopher Andersonは1970年生まれのカナダの写真家。1993年、新聞社のカメラマンとしてキャリアをスタートさせ、その後、ベネズエラ、ロシア、パキスタンなど、社会問題をドラマチックに切り取ったドキュメンタリーフォトを中心に活躍してきた。2000年にはハイチ難民との旅を撮影した写真群でThe Robert Capa Gold Medalを受賞、2005年からはマグナム・フォトに参加し、現在は正会員となっている。
高い技術と行動力に裏打ちされた硬質なドキュメンタリーフォトが真骨頂のAndersonだが、ここにとりあげたのは彼が2014年に発表した異色の写真集『STUMP』からの写真だ。
ベルリンの地下鉄の乗客を超クローズアップで撮影した藤原聡志『Code Unknown』や、現在日本初の回顧展が開催中のトーマス・ルフの特大プリントされた肖像写真などにも見られるように、人の顔へと等身サイズ以上に「近づく」という操作は、そのポートレートに個人を越えた奇妙な匿名性を帯びさせる。
画一的な撮影方法で陳列された政治家たちの表情は、ビジュアル面での強いインパクトだけでなく、類型学的な魅力が詰まっている一度、ページをめくりその不思議な感覚を味わってみてはどうだろうか。