Baauerインタビュー - 不完全さが生むリアル -
2013年Diplo主宰のMad Decentのサブレーベルからリリースされたフリーダウンロードチューン"Harlem Shake"のプロデューサーBaauerがYoutubeでバズり大ヒット。新星のごとく一躍人気プロデューサーの仲間入りを果たした。
しかし彼自身は「"Harlem Shake"のBaauerとどこに行っても言われるようになったのを呪いと感じるようにもなった」と後に述べている。その呪いを振り払うかのように、Baauerは3月にデビューアルバム『Aa』をリリースした。
MIAやG-Dragonをはじめとして世界各地から様々なアーティストを招集して作られた『Aa』はアーティストとしてのポテンシャルやサウンド面における多様性が開花した傑作だ、。FNMNLは今夏フジロックフェスティバルで4回目の来日を果たしていた彼に、アルバム『Aa』についてや世界各地を飛び回っていた少年時代のこと、彼自身のルーツについてなど日本語では初のインタビューをおこなった。
質問・構成:和田哲郎 取材 : Beatink
- あなたはさまざまな国で幼少時代を過ごしていたとのことですが、常にその隣には音楽がありましたか?その時聴いていたのはその土地のヒットチューンだったりしたんでしょうか?
Baauer - あったね。でもそれは、土地の影響というよりは両親の影響だった。彼らは毎日音楽をかけていたんだ。
- それぞれの住んでいた都市の音楽には触れていましたか?
Baauer - イギリスに住んでいた時は特に影響されたよ。音楽的に影響を受けたのはほとんどがイギリスだったね。
- 旅する度にその場所の音楽を聴いたりしていましたか?
Baauer - 子供の時はそんなに意識してなかったな。でも、今は確実に意識しているよ。インスピレーションをその土地その土地で探しているんだ。
- たくさんあると思いますが、あえて子供時代の象徴的な曲をあげるとすればなんでしょうか?
Baauer - 親父が聴いてた音楽だな。例えば、Steely Danとか。親父がすっごい聴いてたんだ。どの曲ってのはわかんない(笑)沢山ありすぎるからね。
- では、他のアーティストはどうでしょう?
Baauer - うーん…自分で好きな音楽を選んで聴くようになってからは、MF Doomとか、ヒップホップを沢山聴いていたんだ。だから、Madvillainのアルバム『Madvillainy』に収録されている"All Caps"かな。
- 現在はNYにずっと住んでいますが他のところに移りたいとかはありますか?
Baauer - あるよ。NYって、たまに住むのが窮屈になる時があるから。でも同時に、最高の場所でもあるんだよな。大好きな街なんだ。だから、難しいところだよ(笑)
- NYには何年くらい住んでいるのですか?
Baauer - 2007年からだから、ほぼ10年になるね。
- 長いですね!マンハッタン?
Baauer - ブルックリン。多少マンハッタンより落ち着いてるから(笑)
- もしNY以外の街に住む機会があったら、どこに住みたいですか?
Baauer - 難しいな…日本にいるから言うわけじゃないけど、東京に住んでみたい。東京はカッコいいから、大好きなんだ。
- 今回のアルバムのゲストアーティストも世界中の様々な土地のルーツを持った多様なアーティストが集まっていますね、それはあなたの幼少期の経験と関係がありますか?
Baauer - もしかしたら、それもあるかもしれないね。でも、基本的には自分が好きなアーティストを選んでいるんだ。自分自身がファンなアーティスト。場所を意識して選んでいるわけではないけど、もし結果的に様々な場所のアーティストの集まりみたいになれば、それはすごくクールだよね。
- ただ、あなたの場合様々な土地や音の影響を得ていても、いわゆる”トライバル”なジャンルの音にはなっていなくて、あくまで聞いたことのないアーバンなサウンドとなっているのが特徴かなと思いますがいかがでしょうか?
Baauer - 俺自身は、トライバルとアーバンがイコールにバランスがとれている音楽を作りたいと思っているよ。それが、俺が作ろうとしている音楽なんだ。
- あなたのサウンドのどの要素が、あなたの音楽をアーバンにしているのだと思いますか?
Baauer - 自分が子供の時に聴いていた音楽の影響じゃないかな。今聴いている音楽からの影響もあるだろうし、全ての音楽がアイディアやインスピレーションを与えてくれる。
- 今回のアルバムのメッセージで気になったのが、「音を特別にする要素が、その不完全さ、その独自性にある」という点です。独自性というのはもちろんわかるのですが、不完全さというのはどういったことを指すのか、教えてもらえますか?
Baauer - パッと見ると間違ったように見えるからもしれないけど、よく見てみるとそれがキャラ(特徴)だったりする。それが俺が意味する不完全さ。人間ぽさというか、楽器をプレイしていると、間違えてめちゃくちゃになってしまう時ってあるだろ?それと同じ。そっちの方がリアルだと思うんだ。
- 不完全さというのは常に自分を1ジャンルの枠のなかに押し込めないということだったりしますか?
Baauer - 俺は、全てのジャンルに属したいんだよね。トラップアーティストと呼ばれることに関してはべつにかまわないけれど、俺自身は、1つのジャンルにとらわれたくない。だから、それぞれのジャンルでパーフェクトになるわけにはいかないんだ。
- またあなたは音楽教育的なものは受けていないということですが、理論からは生まれない突然変異みたいな音楽も不完全さと関係がありますか?
Baauer - 少しだけスクールに通ったことはあるけど、ちゃんとした教育は受けてない。自分ではわからないけど、もしかしたらそれも不完全さと繋がっているのかもしれないね。可能性は充分にあると思う。
- "Pinku"ではクレジットこそされてませんが、YENTOWNのPetzがフィーチャーされてますね。驚きましたが、これはどのように実現したのですか?
Baauer - 渋谷のジャンクマニアって洋服屋で彼に会ったんだ。ただ店に立ち寄っただけだったんだけど、たまたま会って、それがきっかけで彼らの作品をチェックしたら、それがすごく良くてさ。だからPetzに”君の作品すごく気に入ったよ。一緒に何かやらない?”ってメッセージを送ったんだ。
- 彼とのコラボはどうでしたか?
Baauer - すごく良かったよ。彼は日本に住んでるし、俺はNYに住んでるから直接一緒に作業は出来なかったんだけど、インターネットを使って音源を交換したんだ。スムーズだったし、クールだったね。
- また彼と作品を作りたいとは思います?
Baauer - もちろん。実は、明日東京に戻って彼と作業するんだよ。
- このアルバムのゲスト勢はすべて驚きなのですが、なかでもMIAとG-Dragonの”Temple”は強烈なバンガーになってると思います。この組み合わせはどのように成り立ったのでしょうか?
Baauer - 最初はMIAにそのトラックのために歌ってもらったんだけど、そのあとG-Dragonとコラボする時に、同じトラックをピックアップしたんだ。G-Dragonには何がいいかと考えてた時、その2組が一緒になると超クレイジーになると思った。だから合わせてみることにしたのさ。
- アルバムタイトルの『Aa』という言葉はどういった意味でしょうか?
Baauer - タイトルって考えるのが難しいんだよな(笑)だからすごくベーシックなものにしようと思って、そのタイトルにしたんだ(笑)俺の名前、Baauerの中にaが2つは言っているだろ?だからクールだと思って。
- このアルバムタイトルは、他に何か意味を持っていますか?
Baauer - 最初にリリースしたEPが『β』だっただろ?で、今回のアルバム・タイトルが『Aa』だから次は『u』かなって思ってるんだよね(笑)俺の名前のスペルになってるんだよ。
- あなたのMixを聞くとかなりのラップフリークなのがわかりますが、現在注目しているラッパーとその理由を教えてもらえますか?
Baauer - 沢山いるな。まずはYoung Thug。彼は最高。スタイルがすごくユニークで、新しいんだよね。彼の作品は好き。あとは…Pusha T。歌詞に力を入れていて、内容がすごく面白くてクールなんだ。
- 音楽を作りながらNetflixやYoutubeを見ているということですが、その方が集中できるんですか?
Baauer - 時にはね(笑)あまり考えすぎずに作る事が出来るから。あまり意識せずに、自然なものを引き出すことが出来るんだよ。『ザ・オフィス』とか見てるよ(笑)
- 別のインタビューでEnyaとコラボしたいということを読んだのですが、Enyaにはどういうトラックを送りたいですか?
Baauer - ははは(笑)そうだな…多分、サンプルをいくつか送ると思う。自分がレコーディングした中から気に入っているものを送って、彼女がそれに対して何をするかを見てみたいね。
- 他にコラボしてみたい憧れのアーティストは?
Baauer - Missy Elliot。彼女はベスト。最高だよ。
- 今日はありがとうございました。また日本にも戻ってきてほしいですが、前回日本に来た時の思い出はありますか?
Baauer - 前回はいつだったかな…そうだ。electroxってフェスのために来日したんだ。そのフェスのステージで、でっかいピカチュウが10匹くらいダンスしていたのを覚えているよ(笑)あれは忘れられないな(笑)あと、そのフェスにDiploも出ていたんだけど、アフターパーティーで彼と少しDJをしたんだ。あれはクールだったな。今日はありがとう!
<Release Info>
Baauer - 『Aa』