【インタビュー】DJ KRUSH | 25年の『軌跡』そして一歩先へ
DJ KRUSHがソロデビュー25周年を迎える。黎明期の日本のヒップホップシーンを盛り上げたMUROとのユニットKRUSH POSSEの活動休止後、Mo' Waxなどの海外レーベルからのリリースと90年代以降のKRUSHは、インターナショナルな活動を展開、オリジナルのサウンドを追求。名だたるフェスティバルへの出演をはじめとした、世界ツアーを毎年敢行し続けてきた。
そんなKRUSHがアニバーサリーイヤーにリリースする作品は、なんと自身初となる日本語ラップアルバムだ。『軌跡』と名付けられた今作には、RINO LATINA llをはじめ、5lack、OMSB、R-指定、呂布カルマ、志人、Meiso、チプルソという様々なスタイルを持った日本のラッパーたちが名を連ねている。
KRUSH POSSEからの念願だったという日本語ラップアルバム『軌跡』について、その尽きないモチベーションの源、そしてKRUSHからみた今の日本のラップシーンなどについて話を聞いた。
取材・構成 : 和田哲郎
写真 : 横山純
- ソロデビュー25周年おめでとうございます。アニバーサリーイヤーにリリースされるアルバム『軌跡』を作ろうと思ったタイミングはいつだったんですか?
DJ KRUSH - 日本語のラップだけで1枚アルバムを作りたいなっていうのは、MUROとKRUSH POSSEをやってた頃からずっと考えてたことで。でも当時の大きなレコード会社に、日本語のラップアルバムを出したいってデモを持っていったこともあるんだけど上手くいかなかった。KRUSH POSSEもなくなって、ラッパーがいない中でヒップホップをどうやっていこうって思って、色々試行錯誤して、アルバムを出して、世界中をツアーして、世界を2周くらいはしたかな、あらかた自分のやりたいこともやってきた。そんな時に、ふと自分の国を見てみたら日本のラップシーンもすごく成熟してきていて、昔思っていた夢を実現するのは今がベストタイミングじゃないかなと思った。ただ、いかんせん自分はオールドスクールな人間だから、自分の音がどこまで今の若い人たちのラップにハマっていくのかなっていう興味もあったね。そんな色んな思いがあって作ったのが今回のアルバムだね。
- なるほど、これまでのKRUSHさんの軌跡という内容でもありつつ、新しい一歩になってるアルバムかなと思いました。
DJ KRUSH - 嬉しいですね。常に物を作る側としてみたら、毎回どのアルバムも自分が生んだ作品だし、子供のようにかわいいし、新しい一歩になっている。でもそれが終わってしまうと、また次の一歩がやってきて、常に新しい一歩を踏み出さなければいけなくて、どこまで行ったら目的地に着くんだって感じですよ。多分一生着かないんだけど。着かないくらいが、ちょうど良くて、目的地に行こうとする行為が大切なことで。
- 以前のインタビューでも、前回と同じことはやりたくないっておっしゃってました。
DJ KRUSH - 今回はラップが乗るための音だから、プールで例えれば、水を貯める土台をコンクリートで作って、あとは水を張るんだけど、いつも僕がインストで作ってるものは、自分の好きな色の水を、深さも自由に張って、最終的には自分が泳いじゃうんですよ(笑) でも、今回はラッパーが泳ぐんですよね、でも土台は俺が作るわけだから、彼には何色が合うのかなとか、普段はこんな色でやってないけど、この色で泳いでもらったらどうだろうとか、そういう楽しみがすごくあった。
- これまでも英語圏のラッパーが作品に参加することはありましたが、日本語が自分の曲にハマっていくというのは、音を作る上でも、間とかが英語とは違うって感じですか?
DJ KRUSH - そうですね、言葉がわかるし、日本語だと言葉の中の感情の機微がわかるわけじゃないですか、日本人だから。力強かったり、緩かったり。だからテンションの持っていきかたが違いますね。どういう意味でその言葉を使ってるか、ニュアンスがわかるし、そこは面白いですね。
- ドラムの鳴りも90年代っぽい鳴りがあったり、そういったものは意識されましたか?
DJ KRUSH - そうですね、あえて意識しました。アルバムの構成を考えてる時に今のヒップホップは大きく枝分かれしていて、やれトラップだとか、ダブステップにラップが乗っていたり、バンド的なヒップホップもあるし、色んなタイプがあるじゃないですか。その中で俺がトラップをやってもしょうがないかなと思って、やっぱりリアルタイムで聴いてきたルーツのサウンドを入れたいなと思って、意識的にそういう質感のドラムを何曲かに入れていった。
- OMSBくんが参加している"ロムロムの滝"だと、リリックで「Can I Kick It」って言ったあとに、ATCQの"Can I Kick It"のあのベースラインが鳴るじゃないですか、ああいった部分などはどのように作り込んでいったのですか?
DJ KRUSH - 各ラッパーに3曲ぐらいデモを用意したんだよね。『軌跡』のコンセプトを伝えて、「好きなビートを選んでくれ」って言って。それで、OMSBくんはあのビートを選んでくれた。彼も音を作る人間だから、これがKRUSHさんぽいかなって気を使ったんだろうね(笑)彼も面白い音を作るじゃん。それでこのビートを選んでくれて、一回リリックが乗った状態で帰ってきたんだよね。聴いたときにTribeのフレーズが入ってたから、こっちも90年代を歩んだ身としては、体がうずくわけじゃないですか(笑)DJ心が騒ぐわけですよ。ここは入れないとダメでしょって。RINOの"Dust Stream"もそうだね。あのフレーズを歌ってるところに、あのDJ YASのビートを差し込んだりね。
- ラッパーたちにコンセプトを伝えたということなんですが、どのような内容を伝えたんでしょうか?
DJ KRUSH - 軌跡っていうのは足跡だったり、先のこともあるし、大きく捉えられるよね。自分の人生も語ることもできるし、動物のことも話せるし、地球規模や宇宙規模でも話せる。僕自身も25周年歩いてきて、足跡を残したつもりだし、参加してくれたみんなもこれまでの足跡は勿論、これからも足跡を残していくだろうしって感じで伝えたんだよね。それで自由に書いてくれと。歌詞の内容に関しては一切口出しはしてない。返ってきた曲を聴いて、刺激されてドラムを打ち直して、また返して聴いてもらって、それでさらに微調整をして、お互いにOKが出た時点でミックスにうつったね。そういう方法で全員とやりました。おれは彼らのラップに対して応えたかったし、遊びたかったから。出過ぎないように、ちょっとKRUSHが顔を出すみたいな。
- ゲストラッパーのメンツも幅が広いじゃないですか。音楽性やキャリアも違うラッパーを揃えたのはあえてですか?
DJ KRUSH - 基準はやっぱり自分が刺激される人。例えばRINOは昔からキレの良さとか言葉の選び方で刺激してくれたし、純粋にこの人のためにトラックを作ってみたいって音源を聴いて思った人たち。そこにはR-指定もいるし、全然違うタイプの5lackがいたりとか、考えていったらこうなったんだよね。ただRINOはちょっと上の世代、レジェンドと言われるような世代になってて。じゃあおれたちどうなんだって感じだけどね、骨溶けてるだろみたいな(笑)そういう上の世代にも1人やって欲しくて今回はRINOに頼んだ。RINOはMICROPHONE PAGERとかをみて育ったりしてるんで、そういうリリックになってるしね。
- RINOさんの曲は日本語ラップの歴史がつまった歌詞になってますよね。
DJ KRUSH - RINOは録ったあとに「これだけだと足りないっす」って言ってたよ。あの頃の話をしたらもっと続いちゃいますって。リリックに出てくるドゥルッピードゥルワーズは六本木のクラブで、自分とdj hondaが毎週土曜日のゲストで回してたんですね。その時はMUROと一緒にやってたんで、お客さんの前で即興でMUROがラップしたりしていて、RINOはそれをみてたんだよね。RINOはもともとダンサーで、そのドゥルッピーに店員として入ってきて、僕らをみてたんだよね。
- RINOさんは日本語ラップの軌跡だとしたら、5lackとの曲"誰も知らない"では孤独な道を歩んできたアーティストの軌跡が描かれているようにも感じました。KRUSHさんも5lackも孤独な道を追求してきたアーティストですよね。
DJ KRUSH - あの曲はすごく絶妙な微妙なところを書いてるよね。5lackも影響を受けた人がいるし、その人自身も憧れた人がいて、「そういうことは知らないだろ?」って意味合いにも取れるしね。色んな思いで紆余曲折やってきたのは、一緒だし、そこはお互いにわかりあえるところはあるよね。今回面白かったのは5lackくんは自分の作品だとメロウな柔らかいテイストのビートの上で、独自のフロウで泳いでるんだけど、今回はあえてハードなトラックにしていて,、5lackくんもそれが興味あったみたいで、「普段はメロウなのでやってるから、KRUSHさんとやるならハードなのでやります」って言ってくれて、それでこのトラックになった。そしたら案の定すごいフロウで乗せてきたから、やっぱすごいなって。
- 今回のアルバムを作るにあたって、日本のラッパーを聴き始めるタイミングなどがあったんですか?
DJ KRUSH - インターネットで見たりして、あれ、こんなことが起こってるんだ日本でって思ったんだよね。ずっと海外に行ってるから気がつかなかった。ずっと日本語ラップのアルバムを作りたいとは言ってたんだよね、そこまでチェックしていなかった。そこから色々聴くようになっていって、いまこんなレベルになってるんだって発見して。あとバトルもだよね。自分も若い頃DJの大会に、賞品が欲しいがために出まくってて、3位以下になったことはなくて「バトル荒らし」って言われてたんだけど。それで色んなラッパーを聴くようになって、リストを作っていって、今回のアルバムで自分が一緒にやりたいラッパーは誰だろうって。今回参加してくれた人以外にも、色んなラッパーの名前がそのリストには入ってる。一通り全部聴かないと失礼だし、自分の作品でどういうフロウでどういうラップをしてるのかっていうのを聴いて、今回のコンセプトにハマるかどうかは確認したね。最終的には自分が好きな世界観を持つ人を選んだつもり。
- 常にKRUSHさんはヒップホップを表現してきたとは思いますが、やはりラッパーと一緒にやるという意味でフォーマットとしてのヒップホップに戻ってきたというのは、原点回帰的な思いもあったんでしょうか?
DJ KRUSH - ラッパーが目の前に立ってて、やることが自分にとって最初に影響されたヒップホップだったから、そこに戻った感じだよね。KRUSH POSSEの時から時代は過ぎてて、MUROはMUROで独自のヒップホップをやってて、僕は僕なりにヒップホップの解釈を求めていって、色んな経験をしてきて、吐き出してるのは今なんだけど、ルーツは昔にあるっていう。両方交じってるのかな。でも90年代に生きてきた男だから、そこに寄りかかる部分はもしかしたらあるのかもしれない。だからTribeで反応しちゃうし、OMSBくんも反応するってわかって、ぶち込んでるのかもしれないし(笑)
- OMSBくんのそういう部分もですし、ラッパー全員からKRUSHさんに対してすごい愛を感じましたね。
DJ KRUSH - みんなで良いものを作ろうって、全員がそこに向かおうとしてから、ただ乗っけましたって感じじゃなくて、がっちり入っていけるようなものを、お互いに求めてやりとりできたのは、すごく良かったですね。
- ラッパーの参加してる曲の中で1曲インストの曲を入れたのは?
DJ KRUSH - 箸休め的に1曲あってもいいかなと思って、ゆるいヤツを入れておいたんだけど。深い意味はなくて、全曲ラップの曲でも良かったんだけど、でもインストのKRUSHもいるので、1曲くらい入れておかないと誰かに怒られるかもみたいな(笑)
- あの曲から前半から後半に移っていくって感じですよね。
DJ KRUSH - そうですね、今回みんなそれぞれの個性がめちゃくちゃ濃いので、曲順を決めるのが大変で。まあ今は時代も変わってiTunesとかで単曲で買えたりもしちゃうじゃない。でもやっぱり曲順は大切だし、難しかったな。
- 現在におけるアルバムフォーマットの難しさもKRUSHさんは指摘されてましたよね。
DJ KRUSH - 昔のヒップホップだと15曲とか18曲とか余裕で入ってるじゃん。まして今回は濃いから、聴いてる人が疲れちゃうかなと思ったし、10曲くらいに絞るのがちょうどいいかなって。最初からそれくらいでいこうと思ってたね。
- 以前はダブステップやミニマルテクノなどに興味を持たれていて、実際DJでもプレイされてたと思うんですけど今は何かのジャンルに興味を持たれていたりしますか?
DJ KRUSH - ダブステップでも、あとはトラップでもかっこいいインストはあるし、ハマっちゃうようなやつとか、単純にかっこいいと思ったものはなるべく自分のプレイにハマるんであれば入れようとは思ってますね。それがたまたまダブステップだったり、トラップのインストだったり、あとはJay Dillaをもっとハードにさせて、もっとヨレたビートにさせたものが好きだったり。スネアここに落とすのかみたいな(笑)
- 今回のトラックを作るにあたり、90年代のものを聞きなおしたりして参照したものとかはありますか?
DJ KRUSH - 当時のものは体に染み込んでるからね。今回のは今の音にしてると思うし、機材も当時のものとは違うしね。変な話、最新の機材で90年代に寄せていってるんだからね。当時のトラックはサンプリングのネタ重視で、聴き飽きないループを作っていくっていうのが基本だもんね。今回は大ネタは使ってないし、質感とか組み合わせとかで90年代を意識したかな。
- リリースパーティーで、前にラッパーが立ってパフォーマンスしますよね。普段はDJとしてそういった機会はあまりないかと思うんですが、ラッパーと一緒にライブをすることについてはいかがですか?
DJ KRUSH - めちゃくちゃ嬉しいですよ。MUROとやってた時は普通にやってたけど、やっぱりその頃のことを思い出すだろうし、ラッパーの背中を見るのは何年かぶりに見れるし、ましてやみんなすごくいいラッパーなので爆音でそれを聴いて、お客さんが盛り上がって、共感してる姿が早くみたいなって。
- ちなみに25年目以降チャレンジしたいことはどんなことでしょうか?
DJ KRUSH - そうですね、今回1つ夢がかなったんで、次は今年中にもう1枚インストでアルバムを出したいと考えていて、それくらいの勢いで作らなきゃならないんだけど。それはDJ KRUSHがちゃんといる音を作ろうと思ってますね。今回日本語のラップをやってみて、色んな発見もあったしね。例えば5lackくんに対するアプローチの仕方と、最後に入ってる志人くんのトラックのアプローチって全然違うから。今回はそうしないとダメだったんだよね、志人くんにはあの景色、5lackくんにはこの景色が合うから。そういう細かい発見はあったね、ましてや日本語だから。
DJ KRUSH - あと反省はもちろんあるし。終わってみたら100点はやっぱりなくて、でも、120点取りたいわけであってさ。やっぱりそれが次へのモチベーションにもなるからね。25年以上もやってるけど、それは常に変わらないね。みんなレジェンドとか呼ぶけど、違うって(笑)まだまだ同じ音楽作ってるし、やりたいことはあるし、背負ってるものもあるし。そういうのを含めて『軌跡』ってことなんだよね。常にそういう目的地に迎える作業が出来てるっていうのは、すごく幸せ。音楽が出来て、国境を越えた人たちが聴いてくれて、もちろん日本もそうだけど、何かを感じてくれて、「KRUSHの音を聴いて、おれやる気になって絵を描いてます」とか、人に与えられてることが出来てるんだったらよかったなって。たかが中卒でもそういうことが出来てるっていうのはさ、逆に頑張れるじゃん(笑)自分の子供たちにもそういう姿を見せてきたつもりだし、まだまだ立てる以上は歩いていこうかなって思ってる。前作を出すまで11年アルバムを出さなかったのが効いてて、そんだけ出してないんだってなったから、最近はまたエンジンをかけなきゃって思ってますね。
- 尽きないモチベーションの源はなんでしょうか?
DJ KRUSH - やっぱり好きなんだよね。あと『ワイルドスタイル』を観て、僕は人生変わっちゃったから、ヒップホップに対してのお返しっていうか、あれを観てすごくいい方向にいけたので、自分なりのなにかをヒップホップで見つけて、音として届けていくのが僕の仕事だし、やり続けるのがヒップホップに対しての恩返しになってくのかなって。その姿を観て育ってる子達がいて、その子達がヒップホップを始めたらまた繋がっていくし、やっぱそれかな。
Info
アーティスト : DJ KRUSH (ディージェイ・クラッシュ)
タイトル : 軌跡 (キセキ)
レーベル : Es・U・Es Corporation
発売日 : 2017年06月07日(水)
●2LP完全生産限定盤●
品番 : Es81-2017A
仕様 : 2LP(Main Ver.のみ収録です。)
税抜価格 : 3,241円
●CD通常盤●
品番 : Es81-2017B
仕様 : CD
税抜価格 : 2,500円
●2CD完全生産限定盤●
品番 : Es81-2017C
仕様 : 2CD(INST CD付属)
税抜価格 : 3,500円
収録曲
01. Intro
02. ロムロムの滝 feat. OMSB
03. バック to ザ フューチャー feat. チプルソ
04. 若輩 feat. R-指定 (Creepy Nuts)
05. 裕福ナ國 feat. Meiso
06. 夢境
07. MONOLITH feat. 呂布カルマ
08. Dust Stream feat. RINO LATINA ll
09. 誰も知らない feat. 5lack
10. 結 ―YUI― feat. 志人
※2CD完全生産限定盤のDISC 2には上記楽曲のインストVer.が収録されます。