All Digital Music × FNMNL 共同企画 - 新時代の音楽ビジネスを探る - Discogs創業者ケヴィン・レヴァンドフスキーが語る
JK - Discogsが目指しているゴールは何でしょう?
KL - ビジョンは、地球上全ての録音された音楽カタログをデータベース化することだよ。これが最終ゴールだね。チャレンジングな目標だけど、僕らは目指し続けるよ。何年かかるか、自分も検討もつかないよ。だけどそこに向かって進み続けることを、Discogsユーザーも望んでいるよ。
これまで世界でリリースされた曲はどれくらいだと思う? 正直言うと僕らも把握できていない。あるDiscogsユーザーが、「Discogsは全世界でリリースされた曲情報の1-5%はカバーした」と予測したことがあったけれど、僕らのゴールは100%カバーすることだ。これからもDiscogsは、音楽データベースを中心に成長し進化していく。投稿されたカタログ情報と連携した機能をコミュニティ向けに開発するつもりだよ。
僕が最近取り組んでいることは、Discogsのプラットフォームを基準にして、他のコミュニティ向けのサイトを幾つか開発している。レコードショップのデータベース「VinylHub」から始まり、音楽ハードウェアのデータベース「Gearogs」、書籍のデータベース「Bibliogs」、コミックブックのデータベース「Comicogs」、映画のデータベース「Filmogs」をこれまでローンチした。
JK - 今後の展開について出来る限り教えて下さい。
KL - 今、僕の役割はソフトウェアチームのリーダーとして、VinylHubなど新しいサイトの開発を進めている。進めているプロジェクトの一つは、Gearogs用のマーケットプレイス機能を開発して、中古の音楽ハードウェアの購入システムを実現しようと考えている。
僕の役割も徐々に変化してきた。昔はプログラマーとしてDiscogsを始めたけれど、最高経営責任者(CEO)として徐々にマネジメントの仕事がメインになってきた。そして今はマネジメントやマーケティングの専任者が参加し始めてくれたおかげで、僕の本当にパッションを感じるプログラミングに集中できるようになっている。
もう一つ、今後の展開として海外展開がある。これまでDiscogsはアメリカ国内にチームが集まっていたけれど、今はアムステルダムに拠点を構えて、7-8人のチームがサイト運用に加わったんだ。これからもアムステルダムのオフィスはスタッフを雇ってカスタマーサポートやソフトウェア開発のチームを置く予定だ。ゴールとしては、アメリカとは独立した組織としてサイト運用に関われるような形式にしたいと考えている。
Discogs社内ではマーケティングチームが発足し彼らを中心にサイト成長を戦略が検討している。海外展開ももちろん視野に入れている。日本市場は、Discogsが狙いたい市場の一つだ。世界的にハードコアな音楽コレクターが集まっている国だと聞いている。サイト利用における翻訳や言語の壁があると思うが、Discogsはもっと日本人音楽コレクターと関係が作れると思うよ。
JK - 今世界中でアナログレコードの復活が注目されています。Discogsではこの流れはどのように受け止めていますか?
KL - アナログレコード復活のトレンドは、僕たちにとって特に驚くべきことじゃない。Discogsではマーケットプレイスを通じて毎年購入されるアナログレコードの枚数は伸びている。ゆっくりとしたペースで成長しているトレンドを長年経験しているので、”アナログレコードが人気だ”と世間が騒ぎ立てても、僕たちのような常にレコードを買うコミュニティは、落ち着いたほど冷静に見ているよ。
僕にとって音楽が与えてくれるフィジカルな体験は重要だし、アナログレコードだけじゃなくCDでもそれは変わらない。MP3だけを集めていても、徐々に飽きてくるしね。それに人と違う音楽コレクションを持つという体験は重要だ。だから、アナログレコードを買いたい人が増えている事実には同意するよ。
現在のトレンドは今後も続くはずだ。アナログレコードは人気が高まり、CDを買う人は少なくなる。そして一般消費者の大多数は音楽ダウンロードから音楽ストリーミングに移っていくだろう。
JK - では、音楽ストリーミングに対して期待しているということでしょうか?
KL - Spotifyに対して肯定も否定もしないよ。僕は受け入れるよ。ただ僕はSpotifyユーザーじゃないと言っておくよ。僕はSoundCloudとYouTubeユーザーだ。音楽サービスの中ではSoundCloudが一番利用頻度は高いかな。今もCDは聴くよ。沢山のCDコレクションがあるからね。それからアナログレコードも聴くね。頻度ならCD、アナログレコード、音楽サービスの順だね。
僕が懸念していること、それはアーティストをもっと直接サポートできるシステムについてだ。もっと増えるべきだと思うよ。例えば、僕の好きな幾つかのインディーズ・レーベルは、以前からコアファン向けに限定パッケージや特別なアートワークを使ったアナログレコードを出している。僕はその購入者の一人だ。僕は、アーティストやレーベルが膨大な時間と手間がかかった作品が、自分の欲求を満たす楽しみであると同時に、アーティストの収入につながることも理解している。一般消費者は、そこまで考えて聴く人の方が少ないはずだ。だから僕の行動は理解されることはないだろう。しかし、このアーティストを支援するスタイルがもっと一般消費者の中に広がれば素晴らしいと思っているよ。
JK - 最後に、日本のユーザーに何かメッセージはありますか?
KL - レコードフェアをやりたいね。Discogsは中古アナログレコードのイベント「Crate Diggers」 を主催してきた。アメリカで幾つか開催したし、今年はベルリンでも開催する。僕たちは日本でも「Crate Diggers」を開催したいとずっと考えているんだ。日本人の音楽コレクターから興味があれば、検討したいね。
もしDiscogsをまだ使っていないなら、一度サイトを訪れて気になる音楽を検索してほしい。Discogsが提示する情報量の深度に驚くと思います。Discogsは15年以上に渡って、皆さんと同じ音楽に熱狂するコントリビューターたちの投稿で生まれた、世界中の誰もが使える巨大な音楽データベースだからね。きっと日本のユーザーも気に入ると信じてるよ。
ジェイ・コウガミ(All Digital Music http://jaykogami.com)
デジタル音楽ジャーナリスト。音楽テクノロジー・ブログ「All Digital Music」編集長。「世界のデジタル音楽」をテーマに、日本では紹介されないサーヴィスやテクノロジー、ビジネス、最新トレンドを幅広く分析し紹介する。オンラインメディアや経済誌での寄稿のほか、テレビ、ラジオなどで活動中。デジタル音楽ビジネスに関する講演や企画に多数携わる