【インタビュー】Heiyuu | CreativeDrugStoreの若き映像ディレクター

近年、日本の若手映像ディレクターの活躍が目立っている。CreativeDrugStore(以下:CDS)のHeiyuu(ヘイユー)もそのひとり。Heiyuuはこれまでに、CDS関連の映像や同クルーのTHE OTOGIBANASHI’Sをはじめ、BIM、in-d、dooooのソロ名義でのミュージックビデオを手がけている。また、PUNPEEの“夜を使いはたして”や、SUMMITの“Theme song”などのミュージックビデオも監督し、ひとりで撮影から編集までをこなしている。BIMがリリースした1stアルバム『The Beam』収録曲の“Tissue”のビデオもHeiyuuが手がけたもの。

今回、CDSのオフィスに行き、Heiyuuが映像を始めるきっかけや今まで監督したビデオの裏話を語ってくれた。

取材・構成・写真 : 宮本徹

- “Tissue”のビデオで、BIMくんがウェットティッシュにリリックを通して語りかける映像が印象的でした。

“乾いたウェットティッシュは
なんでゴミ箱の中で泣いてる
それは一体なんでか聞きたい”(BIM - “Tissue”)

Heiyuu - このリリックは、「物事は捉え方によって変わる」って意味が込められていると思いました。昔の失敗を後悔するのではなく、その失敗があって今の自分がいる。このビデオのストーリーは、部屋で悩んでるBIMがテレビを見ながら過去のことを振り返り、ポジティブに過去のことを捉えて未来に向かっていくということをイメージしてビデオにしました。ウェットティッシュがゴミ箱の中で泣いているという表現をそのまま映像に使おうと思って。ティッシュがBIMやゴミ箱の中のウェットティッシュに対して語りかけるようにしてみました。テレビの中に入っていくシーンは、走馬灯のように記憶が蘇ってくるところをイメージして、ネガティブを乗り越えて未来への希望を持って表情が変わっていくというところを意識して制作をしましたね。もともとLA旅行ついでにビデオを撮る予定だったので、時間はギリギリで。最後の1日に気合いで撮影しました。LAは朝5時くらいから夜の20時くらいまで明るいので、それに助けられましたね。

- そもそもなんだけど、映像を始めるきっかけはなんだったの?

Heiyuu - BIMは高校時代の友だちで、アメフトを一緒にやってたんですよ。高校3年のときにアメフトで太ももを折っちゃって。そのタイミングで暇になって、BIMとよく遊ぶようになりました。自分は当時とても根暗であまり友達も出来なかったのですが、何故かBIMは仲良くしてくれて。BIMの実家行ったり、一緒にピストバイクを買いに行ったりして遊んでました。BIMが"Pool"を出すタイミングで、クルーをやりたいって話をしてて。メールが一通送られてきたんですよ。そのメールに名前と役割が書いてあって、“Heiyuu:ピストライダー”みたいな。ピストライダーになりたいわけじゃないのに(笑)。そういう感じで始まっていって、THE OTOGIBANASHI’Sが“Pool”を出したタイミングで、メンバーが集い始めましたね。その中で自分は何をしようって考えたときに何も浮かばなくて(笑)。BIMが“ビデオやってみれば?”って言ってくれたんです。昔から作ることは好きだったので、まあそれで良いかみたいな感じでした(笑)。だから、昔から映像好きだったとか映画の学校行ってましたみたいな、かっこいい経歴が自分にはないんですよ(泣)。

- (笑)。THE OTOGIBANASHI’Sの“Pool”のPVを撮ったのは、Heiyuuくんではないんだよね?

Heiyuu - “Pool”のPVを撮影したのは高校の同級生なんですよ。YOHJI UCHIDAっていう子で、今は海外でフォトグラファーとして活動しています。“Pool”は、山田くん(ductch_tokyo)がビデオ編集で入って、BIMと一緒に作っていて。自分は撮影場所に遊びに行っただけで、冒頭でコンビニで“範馬刃牙(はんまばき)”を立ち読みするという謎の出演をしてます。そのとき足折れてボルト入れたばっかだったんですけど、めちゃめちゃ走らされましたね。走らされたシーンは、チャリでBIMとパル(PalBedStock)が交差していくんですけど、何度も撮り直しやらされて大変でした(笑)。そこから、MA1LLさん(SIMI LAB)とGivvnさん(Giorgio Blaise Givvn)が“Closet”のPV撮ってるのを見て勉強したり、山田くんが編集や台本の書き方を教えてくれたりして。それで初めて撮ったPVは“Fountain Mountain”でした。ビデオ撮って、編集して。このときのディレクション自体はBIMがやっていました。僕も考えたりしたんですけど、当時は積み上げてきたものがなかったんで、いろんな映像を見て真似しながらやっていました。

- Heiyuuくんが今まで見てきたPVで影響を受けた作品ってある?

Heiyuu —いろんなものからの影響はあると思いますが、特に映像始めたてに見た、スパイク・ジョーンズが監督したBeastie Boysの“Sabotage”のビデオには喰らいましたね。色々なビデオを見たあとだったのですごい衝撃を受けましたね。編集技術じゃなくて、アナログでやばいことできるのがすごいなって思って、これを見て本気でビデオをやりたくなりました。映像監督とかのインタビューでいちばん名前が出てくるのがスパイク・ジョーンズだと思うんですけど、あの人が及ぼした影響は本当にすごいんだなって感じます。

Heiyuu - あと、Kanye West の“Touch The Sky”のPVですかね。監督はChris Milkで、リリックの比喩でロケット打ち上げの話を入れてるあたりとか最高です。サンプリングソースのジャケ写とかも入って、そういうのも入れちゃうんだって(笑)。リップビデオっぽくないビデオが好きなのかもしれないです。

Heiyuu - 割と最近のだと、Drakeの“God's Plan”は賛否両論あるビデオだと思いますが、僕は大好きです。Drakeってジャケットもそうですけど、正攻法じゃないやり方をして話題を作っていくのが、すごいなと思います。エミネムのCDの宣伝で、高圧洗浄機で汚れを落として合法的にタギングしてしまう感じというか。僕も普通に映像作るだけではなく、一線離れて、考えられた映像を作っていきたいなと思っています。

- なるほど。話が戻るんだけど、“Fountain Mountain”を撮ったあとはどんな作品を撮っていったの

Heiyuu - まだ台本を書けなかった頃は、CDS関連やゴルフの映像を撮ったりしました。ゴルフの映像のCM部分は海外の作品をもろパクったりしてるんですけど(笑)。そうやってなんとなく編集の要領を掴んでいきました。最初はあれを作るのにもグダグダやってたら1ヶ月ぐらいかかってしまって...。

- (笑)。そのときのカメラは何を使って撮影してたの?

Heiyuu - カメラはCANONのX4っていうカメラをBIMから買って、魚眼付けてそれで撮ってました。当時はこだわりもなくて、クオリティも気にしてなかったです。とりあえず撮って残すことだけ考えてました。ひとつのビデオに時間をかけて、学校サボりながら自由気ままにやって。また何か遊びだけの映像も出したいですね(笑)。けど、今だとクオリティを気にせず撮るとかはできないです。

- 今だとクオリティを気にせず撮ることができないっていうのは、Heiyuuくんの中で転換期みたいのがあったとか?

Heiyuu - THE OTOGIBANASHI’Sの“Department”あたりですかね。このビデオは8ミリビデオカメラのHi8で撮ろうと思って、カメラを探してたんです。PV撮影の1ヶ月くらい前に買ったんですけど、それが壊れてて。最初は壊れたことに気づかず、ずっと試行錯誤しながらいじっていたんですけど、撮影の1週間前に壊れてからだってようやく分かって(笑)。当時はHI8のことを聞ける知り合いがいなかったので、時間がかかるけど、自分で解決するしかなかったです。とりあえず新しいのを遠くのブックオフまで買いに行きました。カメラのことばかり気にしてたら、台本を書けずにNYまで行くことになって。みんなにアイデアもらったり、自分で考えながら、NYで行き当たりばったりで撮りました。そのタイミングで、ちゃんとやらないとマズいなって思いましたね(笑)。

Heiyuu - そう思って、次に撮ったのがTHE OTOGIBANASHI’Sの“ピザプラネット”だったんです。そのタイミングで自分の考えをしっかり入れて、スタジオ借りて、撮影しようって思いました。"ピザプラネット"は、「THE OTOGIBANASHI’SがCDを届けに行く」っていうテーマなんですけど、宅配便と宇宙を組み合わせたら面白いかなって。地球のお客さんひとりひとりに届けに行く。途中で僕が演じてる老人はTHE OTOGIBANASHI’Sのヘイター役で。1stの『TOY BOX』を聴いて、好きじゃなかった人が2ndの『BUSINESS CLASS』を聴いて好きになってくれたら良いなっていう別テーマを勝手にで入れたんです。最後はヘイターも好きになって、仏壇に2ndのアルバムを飾るのですが、そこまで細かく見てくれてる人がいたら嬉しいです(笑)。サンプリングが多いんですけど、一本の筋を通そうって思ったのは、そこからですね。それまでの作品はなんとなく撮ってたから、納得できない部分もあって。起承転結のPVが好きだったので、そういうのをやってみようって思った作品ですね。

- そこから、THE OTOGIBANASHI’Sの“大脱出”や、STUTSくんの“夜を使いはたして feat. PUNPEE”、CDSメンバーのソロ楽曲、SUMMITの“Theme Song”を手がけたよね。

Heiyuu - “大脱出”は足尾銅山に行って、90年代のヒップホップのイメージで撮りましたね。みんなで軍モノで揃えてたり。また、こういう王道なヒップホップビデオも撮ってみたいですね。

Heiyuu - “夜を使いはたして”は、BIMと僕の共同制作でPUNPEEさんが2016年に引退した20年後ってイメージで撮っています。2016年に引退したPUNPEEさんが 20年後に若者と遊んで、昔を思い出していくみたいな。

Heiyuu - in-dの“6℃”は都心を散歩して、サッカー観戦して、夜は仲間と会うっていうin-dの日常っぽさを出しました。“iSLAnd”もまさに藤沢育ちのin-dっぽい感じがしますよね。

Heiyuu - その次に撮ったのが、たぶんSummitの“Theme Song”ですかね。ライブ映像はスペースシャワーTVから頂いて、一軒家を借りて撮りました。Summitのこの曲を撮らせて頂けたのは本当に嬉しかったです。他の人にお願いできたと思うんですけど、自分がTHE OTOGIBANASHI’Sと密接に関わってるから言ってくれたのかなって。このときがいちばんの転換期だったかもしれないです。

- dooooくんの“Pain feat. 仙人掌”、“Utage feat. MonyHorse”、“Heiyuu”の三部作のビデオもすごいインパクトあったよね(笑)

Heiyuu - dooooくんって内容作るのが本当にうまくて。“Pain”を撮るとき、Heiyuuを改造してMPCにしたいって言ってきたんですよ(笑)。話を進めていって、なるほどってなって。良いビートが出来ないから人肉MPCを作って良い曲作っちゃおう!という犯行の一部始終のビデオですね。仙人掌さんがdooooくんと人肉MPCについてリリックを描いていてとてもかっこよかったです。

Heiyuu - “Utage”も曲がとてもかっこ良かったので、最初はMonyHorseさんのリリックに寄せたPVにしようかと思ったんです。けど、やっぱり“Pain”の続編を撮ってみようかなって。“Pain”でdooooくんは凶悪犯だし、このまま終わらせたら勿体ないって思ったんです。dooooくんの指名手配のポスターも作ったんですけど、結構人気らしいです(笑)。街で貼ったらやばいですけど。ネット上で逮捕されたシーンのスクリーンショットだけ回って本当に起きた事件だと思われてしまったり、海外メディアにも奇怪事件として取り上げられたりと勘違いさせてしまった人たちには大変申し訳ないです(笑)。あと、一回AbemaMixでdoooo君のDJ中に警官役がリアルタイムで捕まえにくるっていうのをやらせてもらったんですけど、すごい好評で嬉しかったです。

Heiyuu - “Heiyuu”はdooooくんを呪いにいく話です。いきなり連れ去られて人肉MPCにされたら、たまったもんじゃないですからね(笑)。僕が幽霊だったらどう行動するかを考えながら作ってみました。dooooくんに乗り移って面会に来てくれた奥さんに愛想を尽かされるような行動をしたり、ありがちかもしれませんが女湯に入るとか(笑)。

- “Heiyuu”のビデオは笑いました(笑)。BIMくんの“Bonita”は再生回数がすごいことになってたけど、このときの撮影はどうだったの?

Heiyuu - あれはCDS×REEBOK×BEAMSの企画で、ロンドンで撮影したんですよね。 ロンドンってなんか寂しいイメージが自分の中にはあって曲の内容とマッチしてました。BIM、VaVa君の間に色々あって、それはCDSの問題でもあって。簡単には語れないことですが、そんな経緯があって生まれた曲が“Bonita”なんです。お互いが心の扉閉ざしたけど、歩み寄っていく映像にしたかった。毎回ちょっとずつ電話してる相手はVaVaくんってイメージで。僕らも長いんで、いろいろありますよね。

- kZmくんの“Dream Chaser feat. BIM”のビデオでは、いつも集まっている仲間たちと遊んでる姿がすごい印象的だった。

Heiyuu - “Dream Chaser”はCDSやYouthQuake、kZmの友だち、俳優の藤江琢磨くんとか、もともと遊ぶ仲で。ビデオを撮ったあとは一緒にイベントやったり、前よりもっと遊ぶようになりました。最年長が24、25歳なんですよ。だから若かった頃を思い出せるようなビデオを残したいなって思いました。APE世代の方々の若い頃のビデオを見たりして、先輩たちは昔こういう感じだったんだとか思ったりもするんで、そういうのを“Dream Chaser”で少しでも残せればなって思いましたね。このビデオを見て、下の世代の子たちが興味を持ってくれたら嬉しいです。あと最近、「次の日とかどうでもいい」みたいな、そういう若いときの気持ちみたいのを忘れていっちゃいそうな気がしていて。大人になってもできたら良いんですけどね。今年の夏は遊べるようにします。もう夏終わりそうですけど(笑)。

- Heiyuuくんは今後、どんな活動をしていきたいとかある?

Heiyuu - とりあえず今の活動は続けて、少しづつ大掛かりな活動もしていきたいなって。同い年のプレイヤーの人たちが多いので何かしらで一緒に出来たら面白そうですよね。映像以外の活動も出来たらしていきたいです。

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