【メールインタビュー】EARTHGANG | アトランタ・AI・日本文化

J. Cole率いるDreamville Recordsに所属する2人組EARTHGANGが、12月に一夜限りの初来日公演を行う。ジョージア州アトランタ出身のOlu(オルー)と WowGr8(ワウグレート 愛称はDOC)によって2008年に結成されたEARTHGANGは、2010年にファースト EP『The Better Party』をリリース、2017年にDreamville Recordsと契約を結び、2019年には同レーベルのコンピレーションアルバム『Revenge of the Dreamers III』にも参加し、"Down Bad"はグラミー賞のベストラップパフォーマンス部門にノミネートされた。また2人はレーベルメイトであるJ.I.Dや6lackとのコレクティヴSpillage Villageにも参加している。

アニメやゲームなどの日本文化にも大きな影響を受けたというEARTHGANGは、今回の初来日公演を前に新作『Perfect Fantasy』をリリース。ゲストにはPharrell WilliamsやSnoop Doggなどのレジェンドも参加した新作についてや、出身地のアトランタ、そして日本文化についてメールインタビューに答えてくれた。

取材・翻訳 : Renya John Abe (ゲツマニぱん工場)

OLU - 間違いなくそうだね。アトランタは常に、できるだけユニークであること、自分らしくあること、探求すること、そして、自分らしくある方法を見つけることに意識が向いていくような街なんだ。今だにOutKastが『SpottieOttieDopalicious』とか『Stankonia』とか『Speakerboxxx / The Love Below』を出した時のことを覚えているよ。あれはYing Yang Twinsがやっていたこととも違ったし、Sean PaulやYoungbloodsがやっていたこととも違っていた。みんな独自のスタイルと各々の味を持っていた。アトランタは”何をやるか”ではなく、”自分らしくやりきる”ことを重視する街なんだ。

OLU - アトランタにある全てのスタジオが重要な役割を果たしているよ。アトランタはコミュニティと文化で溢れている場所なんだ。だから一度そこに触れると、もうインスピレーションが途切れることはないね。世界がまだ発見していないものを育むインキュベーションシステムみたいなものさ。ニューヨークとかLAは、世界中から人が飛んで来て、影響を与えて、それを誰かが感じて、吸収して、その影響がより大きくなって、規模を拡大していって、みたいなことが一瞬で起こる。でもアトランタでは、6ヶ月から1年半はここで温められてから世界に発信されるんだ。それがアトランタという地の本質であり、純粋さなんだ。

OLU - 『Perfect Fantasy』は、創造性と機械の完璧な関係を表現したものさ。人間が創造性で、AIが機械といったところかな。正直なところ、全てのルールを壊してこのアルバムを作りたかったんだ。火曜日にアルバムを出すとか、内容をもっと消化しやすい構成にするとかね。というのも、最近の人たちは集中力が低下してるからね。あらゆるジャンルをミックスして、どのプレイリストにも収まりきらないようにしたかったんだ。できるだけクリエイティブで自由でありたい。自分たちにとって、それこそが人間とAIが共存する"パーフェクト・ファンタジー(『Perfect Fantasy』)"なんだ。

OLU - ミュージックビデオなどは、いわば実験で、普段とは違う刺激を与えることでファンがどう反応するかを確かめたかったんだ。中には、「ああ、こんなの嫌いだ」とか「ひどい」とか、「ダサい」という人もいた。ただ、AIの世界に本格的に飛び込んだら、どんな反応が返ってくるのか、そしてどんな風に仕上がるのか見てみたかった。結果的に、みんな「いや〜、好きじゃないな」って感じだった。今ではAIを、単調な作業をこなすためのツールとして使いたいと思ってるよ。楽曲の分解やサンプリング、楽曲のアイデア出しの補助とかね。

WowGr8 - 創作の本質が人間の中にある限りって感じかな。全てのアートやスポーツ、科学には少し単調な部分がある。そういう部分を高速化したいならAIに任せればいいと思う。でもそれ以外の部分は、心から、自分たち自身の力で作られるべきだね。

WowGr8 - これは、長いアドベンチャーの集大成みたいなものなんだ。僕たちが言う”Perfect Fantasy”という言葉は、何もかもが100%完璧な状況や環境を指しているわけではないんだ。完璧さとは、自分たちのやり方で愛することをやり遂げる、その能力の中にある。僕にとって『Perfect Fantasy』はこれまでの旅そのものを表していて、まるでビデオゲームのようなものなんだ。ファンタジーゲームには、色んなストーリー性とか展開があるよね。このアルバムもそんなゲームの中の大きなステージの1つなんだ。

WowGr8 - 僕にとっては夢が叶ったようなものだったよ。彼らは音楽やスタイルだけでなく、物事の考え方の面でもパイオニアだと言える。彼らはやりたいことをやってきたんだ。自分たちらしい方法でね。その結果、彼らは最もユニークな存在から業界のスタンダードとなる存在へと変わった。それが僕たちの目標でもあるんだ。

OLU - 自分たちが影響を受けた人たちがプロジェクトに参加してくれるのは、本当に刺激的なことだよ。どんなことでも実現可能なんだって実感させてくれる。自分のとんでもない夢も叶ったんだ。どんなことでも実現できるんだ。正に”パーフェクト・ファンタジー”みたいなものだよね。

OLU - その曲は『GHETTO GODS』の時期にレコーディングしたんだ。PharrellとはKP(音楽プロデューサー、KAWAN PRATHER)の紹介で知り合った。僕たちはレコーディングのためにマイアミに飛んで、一緒に制作してみたんだ。その時、5、6曲制作に取り掛かったと思う。Snoopとはどうやって繋がったんだっけ?

WowGr8 - 初めてSnoopに会ったのは2019年か2020年のAllstar Pro Bowl(アメフトのオールスターゲーム)だったよ。僕たちはセレブリティ・フラッグフットボール(有名人が参加するフラッグフットボールの試合)に出たんだけど、その時Snoopがコーチだったんだ。そしてその後、楽曲でコラボをするために彼に連絡して、そしたらなんと客演として参加してくれることになったんだ。『Perfect Fantasy』を送ったら気に入ってくれて、完璧に仕上げてくれたよ。最近の女子っぽく言うと、彼は完全に”食ってた”ね。

OLU - 最高だよ。アリウープ(バスケットボールのプレイ)の連続みたいな感じだ。素晴らしいスポーツマンシップがあって、エンターテイメント性も高い。思わず客席から立ち上がらせるような感じで、何ができるのか、どんな可能性があるのかを見せたいんだ。そして、まるでジムを飛び出すくらいの勢いで驚かせたい。

WowGr8 - グループやデュオで活動する最大の魅力のひとつは、異なる視点とか2人の間で共通している視点がアートに反映されることだね、わかるかな。ソロアーティストの場合、1人の思考の流れがそのまま反映されて、その考えに引き込まれてしまうんだ。僕たちのアートにはもっと議論の余地がある。それこそがアートの本質さ。僕が思うに、多くの考えが混ざれば混ざるほど、議論も増える。アートとはそういうものだと思う。

WowGr8 - そうだね、基本的にキャリアの初期から日本文化には影響を受けてきたんだ。このプロジェクトでは、その部分にもっと集中して、より的確に表現した。でも、過去の『Strays with Rabies』とか『ShallowGraves For Toys』を見てもわかると思うけど、色々なものがドラゴンボールZみたいな作品からインスパイアされているんだ。いくつかのサンプルとか管楽器の要素とかが正にそうだよ、わかる?そういうものは全部『ドラゴンボールZ』にあるんだ。僕たちは『Toonami』みたいなアニメ番組を観たり、アニメのゲームをしたりして育ってるから、日本文化は自分たちの人生にずっと浸透してきた。このタイミングで、日本文化を取り上げて、感謝を示すのは良い機会だと思ったんだ。

OLU - 日本人の真剣な創作物の受け止め方も好きなんだ。彼らは創作を楽しみながらやっているし、同時に熟練した技も持っている。なんというか、楽しむことを1つの体験として真剣に捉えているんだ。しかも、そういう瞬間を当たり前だと思っていない。一瞬一瞬をとても大切にしている。いや、この楽しみに全力を注ぐよ、この仕事に全力を注ぐよって感じだね。

WowGr8 - まあ、ビジネスマンとして、新しい市場を開拓することを常に意識しているんだよ。新しい市場を開拓することが常に目標さ。ただ、このプロジェクトで取り入れて、敬意を示したテーマとか、インスピレーション、文化的な要素が、日本と密接に関わっているから、今回特に上手くいったんだ。すごく簡単に実現できたと思うよ。実は、日本でのライブは長い間ずっと計画していたんだけど、コロナで中止になったりもしたんだ。前から日本にファンがいるのはわかっていたから、ようやく期待に応えることができるね。

WowGr8 - そうだね、ロボットとかも結構見たからね。あそこで何回も見た小さいロボットがいるんだよな、覚えてる?すごく可愛かったんだよ。

OLU - 僕が覚えてるのは、朝8時なのに、みんなめちゃくちゃおしゃれだったことかな。正直何時でもって感じなんだけど、朝8時だとしてもお年寄りがカッコよく決めてたんだよ。だから、僕は「君ら好きだ、ここはいい場所だな」と思った。東京の人たちのファッションを見るのは楽しいよ。信じられないくらい素晴らしいね。なんでみんなこんなにおしゃれなんだ?

WowGr8 - 電気がパチパチする感じで言うと、実はあれは僕の髪のビーズの音なんだ。これは注目して欲しい点だね。曲のミックスとマスタリングをしてくれたやつが、1度あの音を抜いてたんだけど、俺は彼に電話して言ったんだ。「あれはミスっぽく聞こえるかもしれないけど、僕は頭をめちゃくちゃ振ってたんだ。あのビーズを入れてほしい。」ってね。僕はマイクの前で歌いながら頭を振ってたんだ。それで、ボーカルにパチパチ音が入ったんだよ。気づいてもらえて嬉しいよ。好きなポケモンっていう話で言うと、強いて言うなら…ポケモン界のMarcus Garvey(ジャマイカ出身の政治活動家)だから、ミュウツーかな。ミュウツーこそが自身を解放しようとしていたんだ。人間のために自分たちは働く必要はないってね。ミュウツーは革命をリードしていたんだ。

OLU - 僕はルギアが好きだね。水や海、滝とかとのつながりがいいなと思う。

WowGr8 - そう、Little Dragonは大好きだ。”Deep Blue”は今でも僕のお気に入りだ。多分、ここ最近の、どんなミュージシャンの曲よりも好きかもしれない。本当に好きだ。

OLU - ”Deep Blue”はこのプロジェクトで1番好きな曲だね。すごく良い。洗礼(キリスト教における儀式の1つ)を受ける時に”Deep Blue”を流すべきだよ、そうすべきだ。

WowGr8 - いるよ、サカナクションはやばいね。大好きだ。彼らは北海道の札幌出身で、山口一郎、岩寺元晴、草刈亜美、岡崎恵美、江島啓一によるグループだよね。彼らが大好きで、実際に僕たちのビデオの一部は彼らに影響を受けてるんだ。"OSMOSIS"のビデオのビーチの部分はサカナクションインスパイアだよ。

OLU - 日本のローファイの曲が好きだね。例えばバーとかで流れているようなやつ。聴きながらぼーっとしてる。実際、「これ誰の曲?」とまではならないけど、でも素晴らしい曲だなとは思うんだ。

WowGr8 - 超やばいエネルギーで臨むよ。自分が持ち得るエネルギーを全部出してね、わかる?満月のエネルギーで行くよ。

OLU - アニメエネルギーで行くよ。

Info

EARTHGANG
アースギャング

東京:2024 年 12 月 5 日(木)開場 18:00 / 開演 19:00

duo MUSIC EXCHANGE
チケット料金
●スタンディング:8,000 円

※入場時ドリンク別途必要 / ※入場整理番号付 / ※未就学児(6歳未満)入場不可
公式チケット販売事業者以外の転売サイト等でご購入されたチケットに関しましては、入場の保障や、電子チケッ
トへの振替等は対応致しません。会場への入場にはチケットが必要となり、購入履歴等での入場はできません。

お問い合わせ
キョードー東京 0570-550-799

オペレータ受付時間(平日 11:00 〜 18:00・土日祝 10:00 〜 18:00)
https://kyodotokyo.com/pr/earthgang2024.html
主催・招聘・企画制作: KYODO TOKYO / EVENTIM LIVE ASIA

EARTHGANG - Perfect Fantasy

https://earthgang.lnk.to/perfectfantasy

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