【インタビュー】STUTS | Keep the Groove Going

STUTSは、プロデューサーであり、アーティストであり、MPCプレイヤー、そしてエンジニアでもある。2016年のアルバム『Pushin'』以降、ソロ作や数々のアーティストとのコラボレーション、バンドセットをはじめ様々な形態でのライブ、ドラマやCMの音楽制作まで、活動の幅は絶えず広がってきた。武道館単独公演や今年開催するアリーナ公演など、規模感は大きくなりながらも、本人はそのスタンスを変えることなく、STUTSらしさと向き合い楽曲を生み出してきた。ヒップホップが根底にありつつ、世代もジャンルも越えて人々をつなぐ楽曲を生み出し続ける彼はどんな価値観や方法論で音楽と向き合ってきたのか――今回のインタビューでは、プロデュースの手法や制作過程、パフォーマンスなどを聞きながら、彼の本質に迫った。
このインタビューの動画版はスペシャオンデマンドで視聴することができる。
取材・構成 : 渡辺志保
撮影 : 三浦大輝
- 今日は改めて”STUTSはどんな人なのか”という視点でお話を伺いたいと思います。プロデューサーやミュージシャン、MPCプレイヤー、アーティストなど様々な肩書きがあると思うのですが、最も自分のアイデンティティを表していると思うものはどれですか?
STUTS - 最初にトラックを作って、そこにどういうボーカルの方が合うのかを考えて、その後に曲のテーマやどんな構成で仕上げるか、ということを考えるんです。自分の場合はその後のミックス作業も自分でやるので、そこまでを含めて一つの楽曲として成立させる。そういった意味で”プロデューサー”が、いちばん適しているアイデンティティだと思っています。
- ここ数年でも、バンド形式のMirage Collectiveや、同じプロデューサー同士でもあるZOT on the WAVEさんとのコラボ・プロジェクトSTUTS on the WAVEなど、様々な形態でプロデュース・ワークを行っています。それぞれ、プロデューサーとして関わる度合いのようなものが異なるのでしょうか。
STUTS - ああ、やっぱり違うかもしれないですね。 Mirage Collectiveは「この方と一緒にできたら」と、自分がバンドメンバーの方に声をかけてご一緒させてもらったんですけど、あんまりない機会だったのですごく楽しかったです。ZOTさんは同じプロデューサーという立場で色々言ってくれるので、本当にイーブンに作れたという感じがしました。すごく新鮮な経験でしたね。今までの制作の中では、一番風通しよくスムーズにできたんじゃないかと思います。自分一人だと限界もあるので。
- プロデューサー同士で一緒に制作をする、ということはやはり違うプロセスが発生するものでしょうか。
STUTS - そうですね、全然違いますね。でも、今までに近い感覚があったとするなら北里彰久さんがAlfred Beach Sandal名義だった時に、一緒にAlfred Beach Sandal + STUTSとしてコラボEPを作った時の感覚にすごく近いかもしれないです。連名で一緒に作品を出すっていうことは、言い方は悪いですけど、その分、責任も半分っていうか(笑)。それに、お互いに補完し合えるーー悩んだところに対して、お互いに意見を言い合えるので、そういうところは強みです。しかもこう、お互いに担当する部分が違うし、リスペクトしている者同士で進めることができるので、それがすごく楽しかったですね。
- 楽曲ごとに色々なアーティストがSTUTSさんのところに集まる、という点も、STUTSさんの紛れもない魅力の一つだと思います。自分でビートを作って、どれくらいの段階で「この曲には、あの人に参加してもらいたい」という風にひらめくのでしょうか。
STUTS - トラックのベーシックな部分やループの部分ができたときですかね。毎回じゃないですけど、トラックを作っている時に、何となくテーマも込みで作る場合もあるんです。そんな時に、テーマというか情景やムードが浮かんできて、「このムードだったら、こういうボーカルやこういうラップが乗っかったらいいな」と聴いているうちに浮かんでくるんです。
- コーラスのトップラインやメロディー、ラップのリリックなど、少し踏み込んだところにもプロデューサーとして言及することもありますか?「ここのメロディをこういう風にしてほしい」とか。
STUTS - 基本的には、ご一緒させてもらっているシンガーソングライターの方やラッパーさんは、自分も普通に好きだったりファンだと思えたりする方としか一緒に作っていないので、基本的にはその人から出たものを生かしつつ仕上げます。でも「このトラックはもっとこういうイメージだった」「こういう風にしたら曲としてもっとよくなりそう」ということがあった場合には、「このメロディー、もっとこういう風に動いたほうがいいと思う」とか「こういう歌詞はどう?」と提案することはあります。
- 先ほどもご自身で触れていましたが、STUTSさんはミキシングもご自身で担当する。やはり、そこもプロデューサーとしては外せない部分ですか?
STUTS - そうかもしれないですね。トラックを作り始めた時くらいから、自分が一番大事にしている部分って(音の)鳴りだったりとか、音像ーー音の形ーーが好きだったので、そこまで自分で仕上げたいなと思っています。とはいえ、結構テクニックというかスキル的なものが必要なので、2ndアルバムまでは自分が尊敬しているエンジニアさんに頼んだ楽曲が半分くらいあったんですけど、その中で勝手ながら「あ、この音はこうやって処理したらカッコよく聴こえるんだ」とか色々吸収したりして。なので、ツボイさん(illicit tsuboi)とかD.O.I.さんとかがどうやってエンジニアリングしているのか、ということをふわ〜っと感じて、自分なりにこうやったらいいのかな、と試行錯誤してきました。最近の自分名義の曲は基本的にミックスまで自分一人でやっています。
- 2016年に1stアルバム『Pushin'』をリリースして、9年間ほどプロのプロデューサー/ミュージシャンとして活動している。その頃のSTUTSと、こんなにも活動の幅が広がった今のSTUTSを比べると、見ている視野というか、ご自身が見える光景はより拡がったと感じますか?
STUTS - 拡がりはしたと思いますね。単純に、できることが増えたということ、さらに色んな方との出会いにも恵まれて、見える世界はだいぶ変わったなと思います。
- プロデューサー・STUTSとして、一番醍醐味や喜びを感じるのはどんな時ですか?
STUTS - なんだろうな…そもそも、好きな人と曲が作れているだけでも普通に幸せなんです。さらに、その曲がとてもいい曲になった瞬間…その瞬間かな。完成した瞬間に、なんか涙が出るみたいなことがあるんですけど、そういう瞬間はすごく大事にしたいなと思っています。
- STUTSさんといえば、やはりMPCがシグニチャーになっていると思います。楽器でもありマシーンでもあるMPCですけど、STUTSさんのパフォーマンスを見ていると、一つ一つのパッドから出てくる音にめちゃくちゃソウルが籠もっているな、と感じるんです。機械を超える音、というか。MPCと向き合ってパフォーマンスをする際に、一番大事にしていることはありますか?
STUTS - 演奏している時は色々考えながらやっている、という感じではないんですけど、自分の感情やその時の思っていることを何となく表現したいな、みたいな気持ちはあります。だから、気持ちの部分ですかね。ただ、正確に叩けばいいということではないのかなって。時と場合によると思いますけど、自分のライブパフォーマンスの時は、正確さよりも感情の部分、あとはグルーヴを意識しています。気持ちいいグルーヴのスポットに、一音一音はめてやるというか。そこを感じながらパフォーマンスする、というのがすごく楽しいです。
- ステージの上に立っていて、「今、ゾーンに入ったな!」という瞬間はありますか?
STUTS - ライブをやっているときは、毎回そういう感じになっているかもしれないです。すごく強気というか、「これがいいと思ってやっているんだ!」みたいな気持ちになる。いや、でも何も考えていないのかな(笑)。ライブしていると、あまり何も気にならなくなるんです。会場がどんな場所であっても、同じ熱量のパフォーマンスができると思いますし、ニューヨークのハーレムで路上ライブした時から、変わっていない部分かなとも思います。

- 最近は、生楽器のバンドの皆さんと一緒にグルーヴを作りだす、というステージも多いですよね。MPCを携えて一人でステージに立つのと、ミュージシャンの皆さんとセッションしつつステージに立つ時の違いはどのように感じていらっしゃいますか?
STUTS - 最高に楽しいですし、こんな幸せなことないなって本当に思います。なんでバンドセットを始めたのかというと、基本的に自分のライブでMPCで演奏しているのは、ドラムの部分なんですよね。だから、それ以外の部分は(音源を)流しています。前まではRolandのSP-404でドラム以外の音源を流していて、最近はMacでAbleton Liveのコントローラーを使って流しているんですけど、その部分も生(楽器)でやれたら絶対楽しいよな、とずっと思っていて。MPCだけで全部解決しようと思うと、それはそれで限界がある。自分が表現したい音楽って、パフォーマンス的に音楽を表現したいわけじゃなくて、もっと曲としていいもの、作り込んだものを表現したいという思いがある。そうなったときに、ドラム以外の音を生演奏でやってもらえたら違う世界が見えるんだろうな、と。それで(バンドセットを)始めたのが5年前くらいなんですけど、そこから試行錯誤しながらやっていて、バンドメンバーの皆さんと色々経験できていい感じになっていると思います。
- 他の一般的なバンドだと、ベースがあってギターがあって、ドラムを補完するような形でMPCがある、という形式が珍しくないのかもしれないですけど、STUTSさんとバンドの皆さんの関係性だと、あくまでフロントマンとして立っているのはMPCプレイヤーのSTUTS、ということになりますよね。ステージの中央にMPCが鎮座している形態も、とてもユニークだと感じます。
STUTS - 「これで大丈夫かな」と思いながらやってるんですけどね。普通にヴォーカルの人が前に立つバンドのほうが分かりやすいだろうなと思うし。フィーチャリングの楽曲で、ゲストの方がいらっしゃる時は本当にありがたいなと思いながらやってるんですけど、バンドだけでやっている時は「観ている人はどんな感じで観ているんだろう」と少し不安になる時もあるんです。なので最近は自分も少し歌ったりしています。さっきも話した通り、MPCというより、プロデューサーとしてのアイデンティティが一番大きいんですけど、MPCを叩き始めた時から、ただ人に(楽曲を)提供するプロデューサーというだけじゃなくて、自分で何かをやるアーティスト的な側面も段々と芽生え始めた感じがあって。自分が作った曲を演奏しているので、バンドでもフロントマン的にMPCを叩いているって感じですかね。
- ”バンドの皆さんと一緒だからこそ作り出せる何か”があるとしたら、それは何だと思いますか?
STUTS - 単純に、脳がいっぱいあって、それぞれみんなが考えながらやって下さるので、毎回少しずつ違うものになりますし、尚かつ自分が作ったものをさらに拡張してくれているみたいな感じもあって。絶対に、ライブならではのアレンジとか、ライブでしか出せない音になっている。そういうことかもしれないですね。自分一人のライブでしかできない表現もあると思っているんですけど、同様に、バンドでしかできない表現がものすごく…もう本当にいっぱいあって。よりダイナミックというか、いろんなうねりが混ざって一つのものになっている。バンドの演奏でしか得られない感覚なので、そういうところですかね。全員本当に最高なミュージシャンでずっと一緒にやれていて本当にありがたいなと思います。
- 2023年には『STUTS “90 Degrees” LIVE at 日本武道館』が開催されました。あれだけの規模での単独公演、ということで、率直な感想はいかがでしたか?
STUTS - とにかく、感慨深かったです。今まで、ずっと曲を作ってきた方々とステージに立てたので。でも、これまでの延長線上というか、昔から基本的なところはあまり変わっていないと思っているので、その感じも見せられたのは良かったなと思っています。
- ニューオーリンズ出身のバンド、TANK AND THE BANGASの来日公演に飛び入りしたり、かつては星野源さんのツアーに参加したりなど、さまざまな場所でプレイヤーとしてステージに立っていますよね。これまでの経験を経て、どのような可能性をMPCに感じていますか?
STUTS - 単純に、楽器として面白いと思います。 バンドメンバーでもあるコントラバスの岩見継吾さんにも言われたんですけど、MPCって作り込んできた音をそのままスパンっと出せるんですよ。生のドラムだと、どうしても叩き方や叩く位置、その場の空気や気温、湿度でも(音が)変わってきちゃうと思うんです。MPCだと、スピード感も毎回同じ感じで出せて、タイミングは生だし、ボリュームとかも叩く強さで強弱をつけて調整ができるんですけど、基本的に同じ音色を出せる。そんな楽器ってあまりないし、しかも、リズムセクションでそういうことができるのは利点だと思います。だから、みんなもっとやったら楽しいのに、とも思いますね。同期の音源を流しているライブも多いと思うんですけど、生楽器で再現できない音を同期で流していることも多いと思うんですよね。それをMPCに置き換えて演奏しても楽しいだろうなとも思うし。もちろん同期の音源を流すことでしか作れない曲の世界観もあるのでケースバイケースだとは思いますが。
- STUTSさんの姿を見て、「自分もこういうことをやってみよう!」とチャレンジする方も多いのでは?
STUTS - あるかもしれませんね。とても嬉しいことなのですが、「STUTSさんを見てMPCを買いました」と言われるとなんだか申し訳ない気持ちになって。トラック作る機材やDAWとしては他にもたくさんいいものがあるので。
- いやいや、めちゃくちゃ業界に貢献していると思います(笑)。
STUTS - 自分自身MPCでトラック作り始めましたし、MPCでしかできないことが色々あってその良さを実感しているので使い続けています。ちょっと話がズレちゃうんですけど、やっていることはフィンガードラムなんですよ。でもなんで、自分がMPCでやっているかというと、一つ一つの音を自分が作り込んで、たまにドラムじゃない音も叩いたりしてます。いまだに「肩書は何ていうの?」って聞かれるんですけど、自分ではフィンガードラマーっていう呼び名にしっくり来ないんですよね。MPCプレイヤーの方がしっくりくる。でも海外だとフィンガードラマーって言った方が通じると思うんですよね。
- なるほど、フィンガードラマーという呼称もあるんですね。
STUTS - 海外にもMPCを叩くかっこいい人が色々いるんですけど、大体肩書きはフィンガードラマーって書いてあるんですよね。


- 2025年には、9月にKアリーナでの単独公演も控えています。そこに向けての仕掛け作りや演出、バンドの編成など、今、どんなふうに計画しているのでしょうか。
STUTS - 今回は、これまでの公演でやったことがないことを色々とやりたいなと思っていて。あともう一つ、前回の公演では『90 Degrees』というバンド編成でやるSTUTSのライブという位置付けのライブって感じだったんですけど、今回は『Odyssey(オデッセイ)』というタイトルを付けていて。バンド編成に加えて、もうちょっと別の表現を試してみたり、自分がトラック提供しているけど、自分名義じゃない曲をやってみたりしてみたいなと思っています。なので、武道館の感じとはちょっと変わるかもしれません。
- すでに参加アーティストたちも続々と発表されています。中でも、熊井五郎さんやDJ Mitsu the Beatsさん、前回も参加したKO-neyさんといった歴代の名だたるMPCプレイヤーの方達も参加する、ということで楽しみです。
STUTS - そもそも、そのアイデアを思いついたのが、2年くらい前だったんです。DJ FUMIYAさんとLINEでやりとりしていた時に「いつかSTUTSがMPCプレイヤー何人かでバンド的にやることがあったら、俺も呼んでね」みたいなことを言ってくれて。そんなこと考えたこともなかったけど、面白いなと思って。MPCを叩く人として、一緒にやってきた同志や諸先輩方とここで一緒に何かやれたらいいんじゃないかな、と思ったんです。たとえば、僕はMPCの叩き方を、HIFANA の『FRESH PUSH BREAKIN'』の演奏映像で「こうやったらいいんだ」と最初に参考にさせてもらって、(メンバーである)KEIZOmachine!さんから学ばせてもらったんです。そういった方々と一緒にステージに立てるのはすごく楽しみですね。
もう一つ、付け加えておきたいんですけど、今回は映像演出もよりこだわりたいなと思って、自分の作品にも何回も参加してもらっている映像監督のSpikey Johnさんに演出を頼んでいて。そこも、今までにない感じに仕上がると思います。
- 2021年にはカンテレ・フジテレビ系連続ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の主題歌"Presence"シリーズを手掛け、そこには主演俳優の松たか子さんがシンガーとして参加していました。翌年は同系列のドラマ『エルピスー希望、あるいは、災い』の主題歌"Mirage"シリーズをMirage Collectiveとして手掛け、やはり作品の主演を務めた長澤まさみさんも参加しています。今年、2025年にはポカリスエットのCM楽曲として"99 Steps"が起用されている。しかも、こちらには新進気鋭のKohjiyaとHana Hopeがフィーチャーされていて。テレビでも小さなクラブでも常にSTUTSの音が流れているというか、縦にも横にも幅広く、各フィールドの橋渡し役としても唯一無二の存在なんだなと思わされます。こうしたご自身の動きについて、何か自覚的なところはありますか?
STUTS - 光栄なことです。基本的にフィールドが変わっても、自分が作っているものってあんまり変わらないのかなって思います。たとえば、ドラマの楽曲だったら、脚本もあって、そのエンディングに合うものを自分が勝手に考えて「こういう感じかな」と作っていくんです。「大豆田」の時は、大衆性というかヒップホップをあまり知らない人でも聞きやすいような開放的なメロディーがいいなと思って、松たか子さんが歌うメロディーや歌詞はbutajiさんと一緒に作ったんですけど、「それは楽曲がどうしたら良くなるか?」ということを考えているだけというか。でも、音としていいものプラス、文脈やストーリーも考慮した上で、どんなものがそこで流れたら面白いのか考えながら作る、ということはあるかもしれない。考えているというか、ただのフィーリングに近いんですけど。
"99 Steps"に関しては、Kohjiyaくんが最高なのでいつかご一緒できたらいいなと思っていたんです。最初、広告代理店さんからポカリスエットの今年のCM楽曲を作ってほしいという依頼があって、色々コンセプトを伺った上でまずトラックを作ったんですけど、トラックを作った時に割とハイトーンでメロディアスなラップの人がいいなと思っていて、そしたら「Kohjiyaさんだ!」と。クライアント側から、「男性ラッパーと女性シンガーの方で」というリクエストももらっていたので、メロディラインは自分が書くこともできるけど、それだとあまり広がらなさそうだなと思って、北里彰久さんにお願いすることにしたんです。「誰に歌ってもらおう?」と思った時に、Hana Hopeさんの最近のシングルを聴いたらすごく良かったので、Hanaさんとご一緒させてもらおうと。そこから、北里さんに「Hanaさんが歌うメロディーはどんなものがいいか」と色々考えてもらって。そうやってできたんです。フィーチャリング表記には二人の名前しかないんですけど、実質、4人で作った曲ですね。
自覚というか、単純に、もう全員大好きなんだっていうことに尽きるんですけど、昔からずっとヒップホップを聴いてきて、全部大好きなんですよね。80年代のオールドスクールのものから、最新の曲までーー全てチェックしきれているとは全然思っていないんですけどーーやはり色んなものが大好きなので、その結果なのかな、と。
- 色んな場面で、”STUTSらしさ”が求められている、ということが美しいなと感じてしまいます。
STUTS - 自分らしさって何なんでしょうね。やっぱり、いびつさみたいなものが自分らしさに繋がっているのかもしれないです。ミックスとかもこだわっていて、海外の音と遜色ないようなすごくいいものを作ろうと意識しているんです。とはいえ、やはり出来上がったものって、数ヶ月後に聴くと「もうちょっと出来たな…」とか思うんですよね。でも、そういうところももしかしたら自分の個性なのかもしれないし、むしろ自分の音として大事にするというか、そこにそんなに引き目を感じなくてもいいのかなと思っています。
- ヒップホップ・ファンとしては、やはりベースやドラムの音のいびつさとか、不完全さこそが魅力だなと感じます。生々しい部分や荒々しいところも、「それこそがいいんだよ!」って。
STUTS - ヒップホップの面白いところですよね。ヒップホップに限らずだと思うんですけど、音がいいものが必ずしもいいもの、ではない気がします。その楽曲に合った音があるな、と思うし、中三の時に初めてWu-Tang Clanの1stアルバムを聴いて「何だこれ?」って思ったんですよ。めちゃくちゃ音が荒々しいけど、すごくかっこいい。特にヒップホップはそれがよりかっこいい、っていうのはありますよね。
- 先ほどの話に戻りますけど、コラボレートするアーティストの世代もさまざまですよね。若手のラッパーもいれば、スチャダラパーの皆さんや大貫妙子さんのようなレジェンドたちもいて。こうした先輩格のアーティストと共作して、新たな気づきを得たり、発見したりしたことなどはありますか?
STUTS - 基本的には何も変わらないんだなって感じました。それぞれ、本当にずっと昔から聴いてきた大好きな先輩方ばかりなんですけど、やっぱり創作に向かうスタンスとかは全然何も変わらない。もちろん、最初は緊張することもあったんですけど、曲を仕上げていく過程においては普段の創作と変わらない感じで作れたので。それこそ、大貫妙子さんも年齢は離れていますけど、そうした違いを意識しないような感じで曲を作らせてもらえて、それは貴重なことだと思うし、こういうことって音楽や創作活動でしか出来ないことかもな、とも思いました。本当にありがたいですね。
- 普段、とても忙しいと思うんですけど、そんな中、どうやってインプットしていますか?音楽的にも、そのほかのメンタル的な部分でも。
STUTS - 悩ましいですね。自分より忙しい人はいっぱいいるし、今は自分のキャパシティ的に忙しいっていうところなんですけど、インプットがなかなか出来ないという悩みはやっぱりあって。”毎日一時間、ちゃんと音楽を聴く時間を設けている”という人もいると思うんですけど。とはいえ、普段生きている中で、気になっているアーティストの新譜が出たら聴きますし、普通に街中で流れている音楽からでも「この感じ、いいな」と思うこともありますし。あとは会話とか経験とか体験とか、そういう全てのものがインプットになっているのかなあと思うので。でも最近は、もっと音楽を聴きたいなと思っています。
- 逆に、忙しくても普段の生活の中においてインスピレーションが湧いてくるというか「うわ、今すぐ曲にしておきたい!」と感じるような瞬間ってありますか?
STUTS - たまにあるかもしれないですね。ふわっとメロディ的なものを思いついて、とっさにボイスメモに録音することとかはあります。でも、そこでメモしても結局聴かなかったりするんですよね。あとは人に家でギターやピアノを弾いてもらって「このフレーズ面白い」とかそういう感じで録音することもあるんですけど。結局、トラックを作る時って、スタジオに行って、MPC叩いたりとか鍵盤を弾いたりするところから始まってるんで、そんなことの積み重ねなのかなって思います。普段、ふわっとメモするものはいっぱいあって、それを後から聴き返さなくても、それがあるから次のものが生まれる、のだと思います。

- 普段の制作のプロセスについても教えていただけますか?
STUTS - いろんな場合があるんですけど、一緒にアーティストさんとスタジオに入って、何もないところから「今日はどういうふうに作ろうか」と始める時もありますし、あとは本当に自分一人で何も考えずに作って「この感じだったらこういうテーマにしよう」とふわっと思いついて、「じゃあどの人にお願いしようかな」と進めていく。
あとは、バンドメンバーの皆さんと自分のスタジオとかでセッションして録音して、そうして生まれた楽曲もいっぱいありますし。それこそ、JJJとOMSBさんの"心"とかもそうで。自分のバンドで普段弾いてもらっているベースの岩見継吾さんと、鍵盤の高橋佑成さんと三人で、30分くらいのセッションを経てできた曲なんですけど、その音源をサンプリングみたいに切り貼りして完成した曲ですね。
- ご自身の楽曲が、いい意味で自分の手を離れて、より大きな意味を持つ曲に育ったな、と感じることってありますか?
STUTS - あります、あります。全部そうかもしれないですね。手を離れたという感じなのかな?いろんな人がいろんな場面で聴いてくれて、それでいろんな意味を持つようになった、みたいな。 例えばライブでやると、そういう部分もすごく感じられるというか。だから、プロデューサーだけど、ライブをやっていて良かったなと思う瞬間はそういうところかもしれません。自分の手から離れたけど、演奏しているのは自分たち。でも、そのフィードバックみたいなものを生でダイレクトに感じられるというところですね。
- 先日、JJJさんのお別れ会が開かれていた時に、会場でSTUTSさんの"Changes"が流れていて。その時に「こんな風に人生を表現する曲を作れるなんて」と実感したんです。
STUTS - "Changes"は、JJJと作れたからああいう曲になったんです。自分が作ったトラックで、あの時、JJJがああいうことをリリックにしてくれてーー嬉しいっていうのはちがうのかもしれないけどーー大事な気持ちを表現してくれて嬉しかったですね。ずっと一緒に曲をやってきた友達と、ああいう曲を作れたということが嬉しかったです。
- 先日は、KID FRESINOさんと共に作られた"hikari"という楽曲もリリースされました。あの曲も、実際にFRESINOさんとやり取りして完成したものですか?
STUTS - FRESINOくん担当の井坂さんから急に連絡をいただいて。そもそもあの曲は、僕がトラックを作ったというよりか、FRESINOくんとバンドメンバーの皆さんがセッションして作ったベースのトラックがあったんです。FRESINOくんからは「2ヴァース目から、STUTSのビートでやってほしい」と言われて。「他にも何かできそうなことがあったら言ってほしい」、「最終的にはミックスもやってほしい」ということもあわせて言ってくれて。その時は、歌詞も何も乗っていなかったんですけど、なんとなく感じ取ったものがあって。なので、何も言われなくても同じ方向を見て作れた気がします。すごく不思議な制作でした。それも、FRESINO君がこのタイミングで自分に声を掛けてくれたのもとても嬉しかったですし、僕もやっぱり、いっぱい思うことはあるので。そういう気持ちをビートに込めることができたと思っているので、"hikari"の制作に携われて本当に良かったです。FRESINO君の歌詞が乗ってからのミックスが大変でした。作業中、100回以上泣いたんじゃないかな。
- 今年はフェス『POP YOURS』のヘッドライナーもJJJさんで、ご本人は不在のまま、STUTSさんやDJのAru-2さん、ベースの岩見さんたちが中心となってステージを作り上げていらっしゃいました。
STUTS - 人生の中で、こんなに大事な存在が急にいなくなっちゃうことが初めてだったんです。まだ、自分の中では全然実感しきれていないですし、急に気持ちが辛くなることとかもまだあるんですけど…。でも、自分が演奏した曲はJJJのライブ音源を自分で編集してパフォーマンスしたからというのもあるんですけど、『POP YOURS』のステージでは、彼がいなくなってから初めてこう、本当に一緒にやってる気持ちになれました。しかも、あれだけたくさんの人が観ている中で。すごく嬉しかったですね。「また会えたな」という気持ちになれた。それを、すごく思いながら演奏していました。同時に、「何でだよ」という感情はあるんですけど(笑)。でも、仕方ないですよね。そういうことが起きてしまったので。前を見て、進んでいかなきゃなって。でも、気持ちが少しだけ昇華された瞬間だったかもしれないです。
- MPCって、ヒップホップ的にもすごく重要な楽器として認識している方が多いんじゃないかと思うんです。サンプリング・サウンドや、あのドラムの鳴りを生んできたマシーンがMPCですし。STUTSさん的にも、やはり音楽的なフィールドはヒップホップに軸足を置いているという意識が強いですか?
STUTS - そうですね。やっぱり軸にあるものはヒップホップだと、自分は勝手に思っているので。一見、「ヒップホップじゃない」みたいな思われ方をしても、自分的にはスタンスとしてヒップホップなんだ、という気持ちがあります。でも、何がヒップホップかと言われると…。やっぱりヒップホップはずっと大好きですし、それで自分がビートを作る時にも「自分が好きで聴いてきた音楽的に、カッコ悪い音には絶対したくないな」という思いがあるので。それ自体をヒップホップと呼ぶなら、そうかもしれないです。
- STUTSさんが、ヒップホップから学んだことがあるとしたら何ですか?
STUTS - スタンスなのかな。クールとかかっこいいとか、そういう自分の軸になっているものはやはりヒップホップから学んだかもしれないです。ヒップホップを通して学んだ。でもそれも、JJJから学んだことがものすごく大きかったです。本当に、彼がいなかったら自分は今の自分では絶対にないし。すごく、背中で見せてくれたんで。音楽がなかったら全然違う人間になっていただろうと思います。「これ」って言えないですけど、スタンスやアティチュード的な部分かな。こうあるとかっこいい、みたいな面をその人にしかできない方法で体現している人がたくさんいると思うんです、ヒップホップの世界には。自分にはそれをラップで表現する自信がなかったというか、自分が納得するものを作れるのがトラックだったので、プロデューサーになったみたいなところがあるんですけど、でもやっぱり、ラップしたいという気持ちもあって、たまにやってみるんですけど。いろんなラッパーさんがそれぞれの生き様で見せてくださっているものも、全部、心に刻まれていく感じが勝手にしています。
- 前回の武道館公演の際には、最後、出演していたラッパーの皆さんがわーっと出てきて、いきなりサイファーが始まる、という一幕もありました。そうした雰囲気を作り出せるのが、STUTSさんと皆さんのかっこいいところだなと感じました。
STUTS - ラッパーの方達には無茶振りをしてしまって申し訳なかったなと思うんですけど(笑)。C.O.S.A.さんが一番手に(サイファーに)入って下さった時、本当にありがたかったしとても嬉しかったですね。そのあと、JJJ、Campanellaさんと続いて。ああいう流れになったのはA&Rの平川さんが力技でやってくれたみたいなところもあるんですけど、セッション感が楽しいんですよね、フリースタイルって。バトルだけじゃないんです。それぞれで、今の感覚を共有し合うサイファーやフリースタイルは、自分がMPCを叩き始めた(渋谷のクラブの)FAMILYや池袋bedとか、色々な現場でオープンマイクの時にやってきたことなので。そういうところも含めて提示できたのが良かったかなと思います。ちょっと前から、(MC)バトルと音源の分断みたいなことが言われていると思うんですけど、フリースタイル自体は昔からあるフォーマットですし、そういうことが実際に武道館のステージでできたことは良かったなと思っています。
- パフォーマンスする際のヴェニューの大きさと、ご自身のパフォーマンスは関係していますか?大きな舞台だと緊張する?
STUTS - どのライブでも緊張します。始まる前、本当にそわそわして、ひたすら歩き回ったりとか、そういうことはあるんですけど。武道館は感慨深さもあって最初とても緊張したんですけど、演奏し始めたらそうでもないっていうか…それに、一緒にやっているバンドの皆さんとか舞台監督の皆さんたち、皆様のお力をお借りして全員で大きなステージを作り上げているので、本当に皆さんに支えられてという感じですね。もちろん、大きな会場によっては、ハウリングとか音のかぶりとかを無くすために舞台監督の方と機材をアレンジすることはあるんですけど、基本的なスタンスは何も変わらない気がします。
- 毎年、新しいことにますます挑戦している、という印象があります。そうした好奇心やチャレンジ欲みたいなものは今も増していますか?
STUTS - そうかもしれないですね。やっぱり、日々出会う人も増えて、それぞれがみんな頑張っていて最高な方々じゃないですか。そして、それぞれ時を経て状況も変わっていって、また皆で集まったらさらに違う景色が見える。今までの焼き直しみたいなことはしたくないなって気持ちもありますし。そういう意味では、結果、毎年違うことをしているように見えるのかもしれないです。頑張らなきゃ。
- STUTS on the WAVEとしてのリリースもありましたが、STUTSさんご自身のソロ・プロジェクトは、現段階でどれくらい構想が膨らんでいますか?
STUTS - ふわっと、という感じですね。まだちゃんと制作に取り掛かれていないんですけど、そろそろまとめられたらなと思うので。またその時の自分が納得するものができたらいいなと思っています。
- 具体的に、次はどんなものが作りたいと思っていらっしゃいますか?
STUTS - あまり変わらないっていうか、今まで通りなのかなあ。自分が納得する曲ができる、まずそこの基準をクリアしないと。その後、世に出た時に色んな場所で自分の音楽が鳴ってくれたらいいなあと思っています。そのために、自分ができることがあるなら、自分がやれる範囲で最善を尽くしますし。場所についてもあまり限定したくなくて、海外でもやっていけたらなと思っていますし、国内だけではなくまた海外のアーティストともコラボレーションできたらな、と。とはいえ、変に切り替えたくはないので、全部一緒にできたらいいですよね。日本とか海外とか変わらず、自分の好きなアーティストと一緒に曲を作るということ自体は何も変わらないので。世界のいろんな場所で同じことができたらいいなあと思っています。

Info

STUTS
Odyssey
2025.9.23 (火・祝)
K-Arena Yokohama
OPEN 15:30 START 17:00
特設サイトURL:
https://stutsbeats.com/odyssey/
チケット一般発売:8月13日19:00-
https://eplus.jp/odyssey/
一般 指定席 ¥11,000
出演:
STUTS with His Band
岩見継吾 仰木亮彦 TAIHEI 高橋佑成 吉良創太 武嶋聡 佐瀬悠輔
Guest
Benjazzy、BIM、Campanella、Candee、鎮座DOPENESS、C.O.S.A.、Daichi
Yamamoto、iri、JJJ、Kaneee、KID
FRESINO、北里彰久、KMC、Kohjiya、LEX、長岡亮介、PUNPEE、OMSB、RYO-Z、スチャダラパー、tofubeats、Tiji
Jojo、T-Pablow、Yo-Sea、Zeebra、ZOT on the WAVE and more…
-MPC Special session-
DJ FUMIYA、DJ Mitsu the Beats、熊井吾郎、KEIZOmachine!、KO-ney
映像演出:
Spikey John
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STUTS & ZOT on the WAVE
1st E.P. 「STUTS on the WAVE」
is available everywhere now
https://stutsonthewave.lnk.to/stutsonthewave
Atik Sounds / ZOT on the WAVE / SPACE SHOWER MUSIC
[Track List]
01.Perfect Blue (feat. Tiji Jojo, Daichi Yamamoto, RYO-Z)
02.Shall We (feat. Yo-Sea, LEX)
03.Natural (feat. BIM, Watson)
04.Mom & Dad (feat. Kaneee, 7)
05.雨 (feat. iri, Benjazzy)
06.Final Destination (feat. Campanella, Candee, 鎮座DOPENESS)
