【インタビュー】MIKADO 『HOMUNCULUS』 | その日しか作れないものを

MIKADOが、同郷・和歌山出身のプロデューサーHomunculu$と共作した新作『HOMUNCULUS』。日本の楽曲のサンプリングとメンフィスのサウンドの融合からスタートした今作は、ラッパーの力を十二分に発揮させるHomunculu$の強度あるビートも相まって、MIKADOの現在地を伝える作品となった。
即興的なセッションで曲が生まれていくスピード感や、その場の空気をパッケージするリリック、そしてHomunculu$との強固な信頼関係。2024年から2025年上半期にかけて怒涛のリリースを重ねてきたMIKADOは、いまどんなモードにあるのか。アルバムリリース翌日にインタビューを行った。
取材・構成 : 和田哲郎
撮影 : 寺沢美遊
- 『HOMUNCULUS』のリリース、ヒップホップチャートの1位獲得おめでとうございます。まだ1日しか経ってませんが、どうですか?
MIKADO - 狙い通りですね。よかったっす。1位はいけるやろと思って。
- 前回インタビューしたのが1年前ですね。今作は、この1年間の状況の変化を詰め込んだ作品になっているのかなと思います。『Re:Born Tape』を出して、それからljさんとのEP『Walk the Walk』もリリースして。MIKADOさんにとって、2024年から2025年の上半期ってどういう時期でした?
MIKADO - 忙しいですけど、基本的にやることは変わらないって感じで。でも出来事が多いから、昔のこと忘れてるっすね。初めっからこうなってたかのような気がして(笑)。
- 直近のことしか覚えていない?
MIKADO - 思い出しづらくなってる感じするっす。
- じゃあ曲を書くことで、その時のことを記録しているというか。
MIKADO - それを意識して、忘れやんようにっていうか、最近は今の自分に言えることを言おうかなって。
- それぐらい忙しくて、ストレスは感じないですか?
MIKADO - いや、ないかな。暇な時の方がやっぱ「どうしよう」とか変なこと考えるっすね。今はそれもないぐらい。逆に集中できてるかもしれない。
- やることが定まっている感じ?
MIKADO - なにかに向けてって感じですかね、最近は。
- ラップをしている時って「仕事」っていう感じではない?
MIKADO - ですね。普通に楽しくてやってるっす。隣で誰かがRECしてたら自分も録りたくなるし、タバコと一緒っすね。「うまそうなタバコ吸ってんなー、俺も吸いたい」みたいな感じで、いい曲作りたくなるっす。
- 具体的に『HOMUNCULUS』について聞いていきたいんですが、この作品はいつ頃から計画していたんですか?
MIKADO - まず収録曲は、『Re:Born Tape』の時に作ってたやつもあります。はじめはコンセプト的に、日本の歌謡曲のサンプリングとメンフィスを混ぜた曲だけのアルバムを作ろうと思ってて。だから、それ系はだいたい制作の初期に作ったやつっすね。たしか“ADHDTHC”ができた時に「これを主としてアルバム作ろう」って感じで始まったんで。“SENSU”、“ADHDTHC”が一番初期の曲っすね。
- そのコンセプトでやろうと思ったのはどうしてですか?
MIKADO - まずホムさん(Homunculu$)とよく一緒にいてて、2、3年前からずっと「メンフィスかっこいい」ってなってたんすよ。日本でメンフィスやってる人そんないないし、それで作ろうってなったけど、途中でいろいろ状況の変化とかもあって、メンフィスにどんどん足してった感じで。
- メンフィスで特に聞いていたラッパーは?
MIKADO - Key Glock。あと亡くなってますけど、Young Dolphとか。それまではアトランタ、フロリダとかそっち系聞いてたんですけど、メンフィスに出会って、ノリ方とかビートとか、やっぱ「メンフィスっぽい」っていうのがあって好きっすね。NBAもメンフィスが一番好きっす。
- だからグリズリーズのジャ・モラントがシャウトアウトされてるんですね。
MIKADO - そうっす。
- Key Glockのアルバムが出た時に、Homunculu$さんがストーリーに上げていたのを見たんですよね。そういう共通点があったんですね。
MIKADO - あげてましたね。「ネタかぶった」とかよく言ってるっすね。「先やられてるわー」とか。
- (笑)。メンフィスラップについてもう少し聞きたいんですけど、Key GlockやYoung Dolphのラップの魅力って、MIKADOさん的にはどんなところですか?
MIKADO - 一発目見た時に「うわかっこいい」ってなったんすよね。声もかっこいいし、それにメンフィスのダークなフロー。もともと自分も明るい曲よりダークなやつの方が好きだったんで。で、「ラップ」って感じ。今まで聴いてたやつってもうちょいメロディーあったりしてたけど、ラップだけでカマしていく感じ。和訳とかも結構見て「歌詞もヤバいな」みたいな、「超かっこいい」みたいになって、よく聴くようになったっす。
- それで、制作初期にメンフィス系で作っていた曲は『Re:Born Tape』には入れずに、その次の作品集に入れようと決めたと。
MIKADO - そうっすね。ほぼ同時進行っすけど、やっぱホムさんとやってるやつは全部『HOMUNCULUS』でまとめたかったんで、それをずっと集めてたのもあって。
- RASENでも〈HomuさんMetroで/オレがFuture〉と言っていました。Metro Boominって、一人でトータル・プロデュースする代表的なプロデューサーじゃないですか。一人のプロデューサーでまとめて一枚作るということを、なぜHomunculu$さんとやろうと思ったんですか?
MIKADO - やっぱ俺にとって特別なプロデューサーやし、はじまりから見てもらってたし。やっぱ直感的に、他の人のビートと比べて違うんですよね。一緒に入れられない感じ。もちろん他の人のよさもあるっすけど、ホムさんは超スペシャルなもの持ってるから、ほかに誰も入ってない感じがまず普通にかっこいいし、その方が合ってるかな、みたいな。
- まとめて一枚一緒に作ろうという話は前からしていたんですか?
MIKADO - そうっすね、結構言ってました。
- Homunculu$さんはそれに対してどういう感じで?
MIKADO - 「もちろんやろう」って。ほぼ同意見。どっちかから「やろう」じゃなくて、もう自然にそうなって。

- 最初は日本語サンプリングとメンフィスというテーマがありつつ、徐々に幅が広がっていったのかなと思うんですが、どうやってビートを選んでいったんですか?
MIKADO - 何曲かはホムさんがもともと作ってたビートを「これどう?」っていうのでピックしていって、残りの半分以上は、会った時にその日にその場でホムさんが作ってました。ネタを探して、ホムさんが聞いて「これいいやん」ってなって、「じゃあもう打ってみるわ」で打ち出してく感じ。1、2時間でビートができて、俺もそのあと1、2時間で録って、曲完成。それを繰り返してたっす。
- 相変わらずすごいスピード感ですね……。
MIKADO - だから、ホムさんがネタ選んでウワ音入れてる間に、その後ろで、ドラムも入ってない状態でフリースタイルするんすよ。そっからドラム入って、ビートが完成する頃にはラップの型ができてるみたいな。マジで早いっすね。
- 他のラッパーやプロデューサーの方も、セッションで作るのは、ビートが送られてくるのと全然違うんだって言いますよね。「テンションが違うんですよね」って言う人が多くて。
MIKADO - どうなんですかね? あんまそこの違い考えたことないっすね(笑)。普通にスタジオ行ったらもう作るみたいな、そういうノリがあって。ホムさんもいろんな仕事で忙しいから、直接行って、「今この作業してるけどMIKADO来たからやるかー」みたいな感じで始まったりしたんですよ。
- しかも、Homunculu$さんは最後は和歌山に引っ越したんですよね?
MIKADO - この作品を完成させるために引っ越して。最後もうずっとホムさんの家で作業してたっすね。
- それはミックスの段階で?
MIKADO - いや、ビートの制作も、やっぱ近い方がいいじゃないですか。もちろんミックスもそうですけど。
- もう関東に戻ったんですか?
MIKADO - まだ和歌山ですけど「もう戻る」って言ってます。
- すごい(笑)。Homunculu$さんと制作していて、ラップに対するアドバイスもあるんですか?
MIKADO - 昔はそれこそ「こういうフローいいんちゃう?」とかあったっすけど、最近は俺が勝手にやってる。でも、やってる途中に「次こういうトピック面白いんちゃう?」みたいなアイディア出しはちょいちょいある。
- 今作の制作中に言われて印象的なことってありますか?
MIKADO - あー、それこそ「ADHDTHC」ってワードはホムさんが先言ったっすね。で、「フック全部ADHDTHCだけでよくない?」みたいな。そういうラフな感じで、すぐ録り始めて、もうOKみたいな。
- そういった二人での作業って、どれぐらいの頻度でやっていたんですか?
MIKADO - ラストの方はもうほぼ毎日。2日に1回はホムさんのスタジオ行ってたっすね。そうじゃなくてもLINEとか電話でずっとやり取りしてて。
- で、最終的には21曲のアルバムになっていますけど、実際に作った曲数は?
MIKADO - 倍以上はありますね(笑)。
- それはボツになったのか、また別の機会にリリースされるのか?
MIKADO - リリースしようともボツにしようとも思ってないって感じです。外れただけ、みたいな。
- Homunculu$さんというプロデューサーについて、特別な存在と言っていましたけど、もうすこし、どういう人なのかっていう。
MIKADO - やっぱり、ちょっと難しいんですよね、「ホムさんってどんな人?」って聞かれることあるっすけど、マジ会ってみないとわからんっす。やっぱスタジオ一緒に入ったらわかることなんすよね。もうそれ口で言われへん。Homunculu$って感じっす。なに考えてるか、なにするかマジわからんけど、後でわかるみたいな。でもだんだん、周りのヤツからしたら、俺もそうなってる気するんすよ。だから俺もHomunculu$っす。Homunculu$は実在します。
- (笑)。和歌山にいるっていう。
MIKADO - はい、一回来てみたらわかるっす(笑)。
- 話聞いてみたいんですよね。インタビューとかしてくれるかわかんないですけど。
MIKADO - インタビューしてほしいっすね、全部嘘とかの。そういうのもやるっすよ。意味わからんこと言ったりするし、面白いっす。
- MIKADOさんにとって、直感的なものかもしれないですけど、いいビートの基準ってなんだと思いますか?
MIKADO - えー、いいビート……
- いや、今って、アルバムになるとヒップホップ以外のビートも使うラッパーも多いですよね。例えばUKガラージだったり。でも今作がいいなと思うのは、シンプルにヒップホップのビートだけで構成されているところだなと思って。
MIKADO - 王道ではありますよね。やっぱシンプルやけど、シンプルやからこそ、一個一個の音選びとかがやっぱ重要なんすかね。で、ホムさんは、作業してる時に「ここはこうすんねん」みたいな言ってくるんすよ。「ここのハットはこうやって」とか「こうクリップすんねん」とか、「じゃあ今のこいつらがやってるみたいな音になるから」みたいな、そういうの聞いて「わーすげー」みたいな。細かさがすごいです。しかもめっちゃ速い。で、ウワ音もこうピアノ持って、ワワワワーみたいなやって……そう、だから、なにがいいとか別にあんまよくわかってない(笑)。いいなと思ったらいい。「なんかいいなー」の「なんか」の部分がいいんだと思います。
- なるほど(笑)。でもシンプルだからこそラップが入るビートになっているのかなと。
MIKADO - そうっすね。
- ちなみに前回インタビューした時は「今はずっと楽しいが続いてる状態」と言っていたと思うんですけど、それはずっと継続しているんですか?
MIKADO - ですね。さらに自由度が増した感じっす。「ナシからアリ」じゃないけど、みんなが言ったら無理なことも、「俺やったら言える」みたいになってきて、なんでも言えるようになってて超楽しいです。
- しかも、ラップ自体もどんどんよくなっていると感じるんですけど、そういう感覚はありますか?
MIKADO - いや、ないっすね(笑)。「上手くなった」みたいなのはないっす。
- 上手いというか、無駄が無くなってきているのかなって。
MIKADO - こう、研ぎ澄まされてる感じはあるかもしれない。
- 録り方も変わっていない?
MIKADO - 前どんな言い方したか忘れたっすけど。
- その時は「フリースタイルでいける」と言ってましたね。
MIKADO - それはそんな感じのままっすね。
- 前作だとそこまで感じなかったんですけど、今作ではMIKADOさんより年上の日本のラッパーの引用が増えた印象があります。これって意識的なものですか? それとも無意識的に?
MIKADO - どうなんすかね……無意識の意識。言ったら面白いかなっていう、もうそれだけっす。上手いこと使いたいっす。ANARCHYさんは正直めっちゃ聞いてるっす。正味、一番ヤバいパンチライン残してると思うんですよ。しかも自分が好きな、超ヒップホップのパンチライン。「ココとココが掛かってて上手いです」じゃない、もうマジでヤバいっていう、鳥肌系。ホムさんから教えてもらったパンチラインあって、〈始まりは団地の四畳半でもルブタンほどするレアなジョーダン〉(“VVVIP”)とか、めっちゃ好きです。超かっこいい。ANARCHYさんはガチっす。
- MIKADOさんにとってのパンチラインって、上手い言葉を掛け合わせていくことじゃなくて、本当に聞いた時に直感的に……
MIKADO - 「うおーっ」てなるやつが好きっすね。べつに狙ってないと思うんですけど。
- 狙っていないからすごい。
MIKADO - 「これどうだ」じゃない。普通に生活の一部として出てきた言葉が、すげえ感じるっすね。
- ちなみに今作の中で、自分で気に入ってるラインは?
MIKADO - あー、ちょっと待ってください……今のANARCHYの話からいったら荷が重いかも(笑)。なんやろ。でも、“Dirty”の〈タトゥーもお揃いで同じweed回し/あいつらが悲しいと俺まで悲しい〉とか、すげえいいリリックだったと思うっすね。言ってて「うわーかっこいいなこの言葉」ってなったっすね、RECの時。
- あと、ダイヤというワードがめっちゃ出てくるなと思ったんですよ。MIKADOさんにとって、ダイヤモンドってどういう象徴なんですか?
MIKADO - 成功っす。成功の象徴。俺も思ったんすよ、「めっちゃダイヤって言ってんな」って。たぶん取り憑かれてると思うんすよ。ヒップホップ好きじゃない人からしたら、ダイヤってそんな価値を感じないっすよね。「ダイヤが欲しいから頑張る」みたいなことってないじゃないっすか。普通に車欲しい、家欲しい、服欲しいじゃないっすか。でもダイヤってたぶん、俺らみたいなやつが欲しがってて。なんなんすかね、なんでこんなにダイヤ、ダイヤって言ってるんすかね。すごい怖いっす、自分でも(笑)。作ってる途中もホムさんと二人で「これリリースしたらダイヤ買えるね」ってずっと話してるんすよ。なんで二人ともそんなダイヤ欲しがってるのか、よくわかんないんすけど。怖いっすね。ダイヤ。
- 無意識的に執着している?
MIKADO - そっすね、お金よりダイヤの方が欲しいっすもんね。
- (笑)。
MIKADO - だって、入ったお金をダイヤに変えるわけじゃないっすか。でもダイヤの方が価値低いじゃないっすか、正直。だから「なにをしてるんだ」っていう。
- それがSWAGなのかな。
MIKADO - そう、アメリカでもあるじゃないですか、「ダイヤをゲトりたい」みたいな、みんな。そうすると結構王道っすね(笑)。フレックスに憧れてるキッズっすね、普通に。
- あとロレックスも。
MIKADO - ロレックスもめっちゃ出てくる(笑)。
- ダイヤの中でもいろいろ種類がありますけど、具体的に欲しいダイヤってあるんですか?
MIKADO - 欲しいっていうか、ホムさんが「グリンちゃん」って言ってるじゃないですか。これ「グリンちゃん」っていうキャラなんですけど、「俺がフルダイヤでグリーンちゃんのトップ作るからMIKADOチェーン作っといて。で、トップ貸してあげるから、自分でトップ作れたら返して」って言われてるっす。だから作るのは確実っす。

- やっぱりMIKADOさんはラップを簡単なものと感じているんですか?
MIKADO - だと思う、俺は。だから、友達とか下の子とか、超悩んでたりするじゃないですか。ラップしんどいみたいな。
- だって、1曲作るのにも時間がかかりますからね。
MIKADO - けど、その気持ちはよくわかんない、正直。やっぱ違う人間なんで簡単に「やったらいいやん」とか言えやんすけど(笑)。でも普通にそれを言っても「でもなー」みたいになってるから、なんでかなーって不思議になるっすね。俺は。
- “HOW 2 RiCH”でも〈まず用意するHomunculu$のビート/そっから俺みたいにやってみ〉って言ってますもんね。でも、それぐらいのことっていうことですよね。
MIKADO - はい。
- 逆に、MIKADOさんにとって難しいことってあります? 音楽以外でもいいんですけど。
MIKADO - 生活。生活難しいです一番。片付けとか。それぐらいっすね。堕落っすね、俺は。生活能力がちょっと低いって感じっすかね。でも苦手なことはないっすね。苦手なもんは多いっすけど。
- アルバムの話に戻ると、前半にハードでダーティーなビートがあって、中盤の“TIME IS MONEY”がポイントの曲になっているような気がしていて。自分も昨日SNSで検索したら、この曲について言及している人が多かったんです。日本の人が好みな曲調なのかなと思うんですけど、当初言っていたメンフィスっぽいビートからは離れているじゃないですか。「こういう曲を入れよう」となったのはどうしてですか?
MIKADO - えーと、普通にアルバムとしてクオリティ上げたかったのと、意図はしてないって感じです。これはセッションなしで遠隔でやったんですよ。ホムさんから“Drugbaby 5”みたいなタイトルで送られてきて、"Drugbaby”サンプリングなんすよね、これ。でも普通に、「TIME IS MONEY」って言葉どっから出てきてんだろう。映画かな? 忘れたんすけど「TIME IS MONEY」みたいなのよく言ってて、もうそのまま言っちゃったみたいな。
- この曲でSahBabiiの名前も出てくるんですけど、去年のアルバム『Saaheem』はめっちゃいいアルバムだったなと思って。
MIKADO - そうっすね。
- メンフィス以外で最近よく聞いているラッパーっているんですか?
MIKADO - Benji Blue Bills、Molly Santana、Nine Vicious、Bktherulaとか、そこら辺聴いてるっすね。
- メインストリームというより、ちょっとオルタナティブな。
MIKADO - そうっす。もちろんメインストリームも出たら聴くっすけど、やっぱ、こうなってる(上がるジェスチャー)時のやつって一番面白いんすよね。頂点まで行ってたら、そっから新しいのって難しいっすよね。そうなりたくないって感じっす、俺は。『HOMUNCULUS』出して今、みんなのグラフで言ったら上がってるんですよ。で、次もまた「こう」なりたい。ずっと飽きさせないで、新しいことしたいなって。そういう状態の時が、一番美味しい気がするんですよね。
- でもそれって難しいことでもあるじゃないですか。たとえば、今作がめっちゃ聴かれたら「これがMIKADOだ」という固定のイメージができちゃって、そこから変えたくないな、みたいな保守的な気持ちも生まれてくるというか。そういう心理もよくわかるっちゃわかるんですよね。
MIKADO - 保守的にはならないんすけど、昔と比較されるのがダルいすね。「昔の方がよかったな」って言われたら結構ショックっすね。言われたくないっす、一生。でもやっぱ、日本語も海外も、自分が聴いてても「昔の方がかっこよかったな」って思う時あるじゃないっすか。そう思われるラッパーになりたくない……まあでも、それでもいいんかな? わかんないっす。
- 難しいですよね。ちなみに影響を受けたアーティストとしてPlayboi Cartiの名前をあげていたじゃないですか。Cartiのアルバムってどうでしたか?
MIKADO - いや超好きやったっす。というか、やっぱさすがっす。さすがにちょっと待ったけど(笑)。でもCartiは超いい例っていうか、「昔の方がよかった」とも言われてるけど、『MUSIC』やっぱみんな好きやし、俺も好きやったし。
- フォーマットはどんどん変えている感じがありますよね。一緒にやるプロデューサーとかも。
MIKADO - そういう感じっすね、俺は。たぶんそんな感じになるかも。
- やっぱりフレッシュなまま居続けることが一番難しいことなんじゃないかって、よく思います。
MIKADO - ですよね。辞める方が簡単な気するっすね。
- ある程度、自分の型に収まる方が簡単とは言わないですけど、やっぱり自然とそうなっていくのかなって。そうならないために大事なことってなんだと思いますか?
MIKADO - 常にチャレンジする。新しいことにトライする。毎回勉強な感じ。昨日の自分、前の自分を超えるような感覚。今はそれを保ててるけど、いつまで保てるかわかんないんで、やりまくるって感じです。チャレンジ精神っす(笑)。
- ちなみにパウンド・フォー・パウンドみたいなリリックもあったじゃないですか。MIKADOさんはシーンの中での自身の立ち位置みたいなものって、今どこにあると思いますか?
MIKADO - どうなんすかね、自分じゃわかんないっすよ(笑)。
- 考えたこともない?
MIKADO - そっすね、比べるのちょっと難しいっす。でも、ヒップホップ好きな子からしたら、みんな知ってるぐらいにはなってきたんかな。そういう意味でパウンド・フォー・パウンドみたいな。トップ10に入ってくるみたいな感覚ではあるっす。
- あと、結構ヘイターにも言及しますよね。でも正直ヘイターがいる印象あんまりないんですよね。
MIKADO - ですよね。
- (笑)。なんであえて言及するんですか?
MIKADO - 自分のヘイターじゃないんですよね。なにかのヘイター。誰かのことを悪く言ってるヤツらに対して言ってるって感じです。「悪口言ってるヤツら」。それなんて言うんすかね?
- ヘイターですね。
MIKADO - ラッパーが「ヘイター」って言ったらやっぱ自分のことになるんすけど、それよりは、普通にクソなヤツにクソって言うっす。めちゃくちゃなヤツもいてるじゃないですか。だからもうちょい、視野広げたら楽しいのにな、みたいな感じです。てか、やってみたらいいのにな、みたいな。
- アルバムの話に戻って……“Cloudy Frestyle”もすごく印象的だなと自分は感じました。後半の方ってフレックスじゃなくて、孤独感というか、また違う心情みたいなものが表れていて。そういう曲を入れることも、アルバムとしての完成度を高めるという狙いだったんですか?
MIKADO - 意識はしてないですけど、何個かピックした中のひとつって感じで。でもやっぱ、その場所場所でラップの感じが違うのかなって。“Cloudy Frestyle”は東京で録ったし、ちょうど曇りの日やった。雨も降ってたな。和歌山にいてる時は、もうちょっとゆっくりになって、めっちゃキツいことはあんま言わないかも。でも川崎で録る時はちょっと攻撃的になるっすね(笑)。ホムさんと一緒にいてて、「言ってまえ言ってまえ」みたいな。だから環境は大きいっす。“SOLO”とかも、実際スタジオに一人でいる時に作ってて。誰といてるかでも変わってくると思うんですよ。一人やから言えることもあるし。
- 作る場所が重要。
MIKADO - 作る場所、環境、天気、時間、全部関係してるような気がします。特に俺みたいなやり方だったら。もともと歌詞書いてたら違うっすもんね。でも、前作は「こっからこうしたい」って今まで思ってたこと全部吐き出す感じやったから、今作はもっと、周りからの影響が大きいと思う。今、その場で思ってることを吐き出す感じ。
- 本当に今の状況が表れている。たとえばYeとか、世界中移動して作ってましたよね。
MIKADO - それこそCartiの記事読んだりすると、洞窟とかでレコーディングしてて、ほんまに。洞窟いる時はこうなって、リゾート地行ったらチルになるし、アトランタにいる時は暴力的になるみたいなこと書いてて、なんか、気持ちわかったっす。Travis Scottもリック・オウエンスのスタジオとか作ってるからああいう音楽になるんやろうなっていう、そういうバイブスはわかるっすね。
- そういう意味で、MIKADOさんが行ってみたい場所ってありますか?
MIKADO - リゾート行きたいっすね。全部チルいやつで一枚やりたいっす。
- そうなるとスケッチみたいな感じですよね。一枚の大作をじっくり時間かけて作るというよりは、本当に瞬間的に。
MIKADO - そうですね、たぶん。そんな感じになってきます。
- そういう部分以外で、「自分変わったな」と思うことってありますか?
MIKADO - ポジティブにはなってます。いいふうに受け取る。前よりはもっと柔軟な考えができるようになった。
- 前の方がもっと固かった?
MIKADO - イライラしてたし。今は「こいつウザいな」って思っても、「でもこういう人もおるよな」みたいな。「こんな悪いやつおるか。でもこの人の親もめっちゃ悪いやろな」みたいな、そういうふうに考えるようになった(笑)。
- 自分の感情に影響しなくなった?
MIKADO - うーん、影響はしてるっすね。でも気にしてない、みたいな感じ。
- あと、今作で増えたのがバスケの話ですよね。
MIKADO - 最近やってるっす。俺もともとバスケ部で、仲間もバスケ部多いんです。だから普通にみんなNBA見てて、「あの試合見た?」みたいなずっと言ってるし、プレーしてるし、俺らのラップゲームもそんな感じ。パスし合うみたいな。一人行く時もあるけど、パス回して行くみたいな。
- バスケやる時間があるんですか?
MIKADO - いや全然あるっす。平日とか、ストリートバスケできるとこ地元にあるんで、そこでみんな集まってやったり。来週も体育館借りてるっすね(笑)。
- ここから夏に向けてクラブツアーが始まって、中長期的な目標ってなにがありますか?
MIKADO - プラン的なことっすか?
- プランでもいいですし、気持ち的な部分でもいいですし。
MIKADO - まあ普通に物質的なことで言うと、まずダイヤ買って、車買って、時計買う。それがこのアルバムで俺がやるべきことで(笑)。プランは考えてるっすけど、言えないっすね。でもいつまでも前線にいようとは思ってないから。
- 前も言っていましたね。
MIKADO - 残せるもの残していこうかみたいな、「ラフにやりたい気持ち」と「残したい気持ち」で戦ってるっすね、結構。
- でも、「ラフなクラシック」みたいなものが一番かっこよかったり。
MIKADO - やっぱそれで生まれるっすよね、たぶん。だからラフな気持ちを忘れずに行こうって感じっすね。けど、なんか残したいなみたいなのもあって。
- 今作では「残した」という感覚はありましたか? 前作のインタビューでも「俺、今、死んだら伝説になると思う?って友達に聞いた」と仰っていました。
MIKADO - 本能的には、潜在的には「残したい」っていうのがあるっす。でも気負わずやることを意識をしてるっすね。
- アウトプットは気負わず。
MIKADO - ビートが超良かったりすると結構考える時もあるんすけど、そういうのってあんまよくないことが多いんで、「ボツになってもいい」っていう気持ちでいつもやってるっすね。「危な危な」みたいな、「めっちゃ考えてた」みたいな。「ラフにやっていいんや」っていうのは意識して、一旦身の周りを見渡す。そこにあることを歌っていく。それで一回自分のバランス戻す、みたいな。
- そういうマインドセットがあるんですね。
MIKADO - まず周りになにが置いてあるか。誰がいてるか。その人はなにを飲んでるか。一回それで全部リセット。全部そのことについてラップするわけじゃないんすけど、その状況と思っていることを合わせていくと、その日しか作れやんものになるから。
- 面白いですね。逆に、気負っている時は周りのことが見えなくなっちゃう。
MIKADO - ですね。ビートがよすぎると、もうなんも進まんとグーってなって。「上手いこと言ったんぞ」みたいな、頭だけめっちゃ動いてるけど、「絶対ヒットさせるものにしよう」って魔が差すんすよ。そう思ってヒットさせられたら別にいいと思うんですけど、でもそうなってたらあんま上手いこといかんっすね。感覚的に固くなるっすね。歌い方も言葉も。
- フローも出なくなるみたいな。
MIKADO - そうそう。自分の身から出てきてるものじゃない気がするっすね。
- 面白いです。こういう話をあんまり聞いたことないので。
MIKADO - そうなんですか。
- いいラップが生まれる瞬間の気持ちの状態があると。
MIKADO - あるっすね。いい曲が生まれる瞬間は心臓がすげえバクバクするっすよ。自分でびっくりして手ぇブルブルなるっすね、震えるっすね。ヤバいヤバい楽しい楽しい!みたいな言いながら、すぐ録って。
- でも、気負ってるわけじゃないってことですよね?
MIKADO - もう楽しすぎてブルってくるみたいな。なんていうんですかね、嬉し泣きみたいな(笑)。
- いろいろ聞けた気がします。もっと触れておきたい話ってありますか?
MIKADO - でも特に……なに喋ってたっすか、今?アルバムについて喋れてたっすかね?
- 喋れていたと思います。
MIKADO - いけるなら大丈夫すね。
- ありがとうございます。これで大丈夫です。

Info

Artist:MIKADO
Title:HOMUNCULUS
All produced Homunculu$
Track List:
01.石ころからダイヤ
02.ADHDTHC
03.SENSU
04.BIG FOOT(MIHARA)
05.SAKE
06.ナイトミュージアム
07.Dirty (prod. Homunculus & Nova)
08.Rich’s sound
09.TIME IS MONEY
10.TOES
11.CAMO
12.In The Rain (skit)
13.HOW 2 RiCH
14.HOW MUCH (prod.Homunculus & June)
15.HOW ARE U
16.昔とは違う
17.相談(prod.Homunculus & Zot on the Wave)
18.LONCINO
19.Cloudy Freestyle (prod.Homunculus & Zot on the Wave & Nova)
20.SOLO (prod.Homunculus & Lion Melo)
21.Check Mate

08.09(土) 福 岡 GEKKO NAKASU - DAY EVENT
08.16(土) 鹿児島 KINGYO
08.23(土) 茨 城 CLUB GOLD
09.06(土) 香 川 CLUB NUDE
09.12(金) 熊 本 SPACE
09.14(日) 神 戸 HARBOR STUDIO - DAY EVENT
09.19(金) 岡 山 PARADISE
09.27(土) 愛 媛 BIBROS
10.03(金) 沖 縄 TOPTREE
11.02(日) 大 阪 GALA RESORT - DAY EVENT
11.08(土) 金 沢 DOUBLE
T.B.A 札幌 UTAGE
T.B.A COMING SOON(TOUR FINAL)
