【インタビュー】Lil' Leise But Gold × KM | 2人なら突き詰められる

Lil' Leise But Goldのファーストアルバム『喧騒幻想』が多くの支持を集めている。クラブフロアで、弾ける音に身をまかせ踊ったことがある者なら誰もが思いだすであろう素晴らしいムードが詰まった本作は、全編に渡りKMがプロデュースを務めた。緻密でフェティッシュな細工が施されたダンスミュージックのビートに乗る、Lil' Leise But Goldのアブストラクトなリリック、そしてラップと歌の境界を曖昧に漂う歌唱。『喧騒幻想』には、クラブで生まれる様々な表情の全てがある――熱気も、冷気も、官能も、陰影も。

二人はプライベートにおいてもパートナーであるがゆえに、一つ屋根の下で作られた今作における表現の工夫、母親として音楽活動をすることについてなど、話題は多岐に渡った。Lil' Leise But Goldは、どうやってことばと声をあれほど魔術的に操っているのか?いま最も多忙を極めるプロデューサー/DJのKMが今回のトラックメイキングで注力した工夫とは何か?初の夫婦インタビューをお届けする。

取材・構成 : つやちゃん

撮影 : 梅崎桃子

- ファーストアルバム、完成おめでとうございます。2022年の年末ぎりぎりのリリースでしたね。

KM - 若干駆け込み気味で作りましたね。年を超すとやっぱりビートが古くなってしまうので、2022年中に出しちゃおうと思って。古いものだと2021年に作ったビートもありましたし。

Lil' Leise But Gold - リリックだと2020年に作ったものもあります。前作のEP『Sleepless 364』に入れたかったけど、これはアルバムの方がいいねって先送りになった。それもあって、私は早くフレッシュなうちにアルバムを出したいという気持ちが先走っていました。

KM - 僕がアルバム(『EVERYTHING INSIDE』)を2021年に出したじゃないですか。そうすると、「私のアルバムも作って」って隣でどんどんストレスがたまっていって(笑)。いいかげん出さないといけないなと。最後の方は、もう毎晩のようにディナータイムに催促されていました。

Lil' Leise But Gold - お腹が満たされて彼が油断した時に、「そういえばあれどうなってるかな?」「あの曲ってアレンジどういう感じがいいかな?」って詰めていきましたね(笑)。

KM - アルバムがまだ出てもいないうちから、「私はこういうアーティストになりたい」とか「ライブはこんなふうにしたい」とかどんどん構想を聞かされていって。というのも、去年は自分はLEXのツアーに参加したり(sic)boyの曲を引き続き作ったりしたことに加えて、BMSGや加藤ミリヤさんなどJ-Popフィールドのアーティストへのビート提供も多かった。それってもちろんビート渡してはい終わりってわけにはいかなくて、最後までしっかりプロデュースしていきますよね。そうすると、なかなかLil' Leiseの作品に集中して取り組めなくて。

- 『喧騒幻想』はハウスやドラムンベースなどダンスミュージックのビートが大きく入ってきましたが、どういった背景があったのでしょうか。

Lil' Leise But Gold - 前作のEPはちょうどコロナ禍に入ったタイミングだったんです。どちらかというと内に向かっていくような内容で、ベッドルーム的な雰囲気を持っていました。一方で、『喧騒幻想』は私たちのベースにあるダンスミュージックというものを描いていった。実際に反応も「踊れるね」っていう声が多くて、ほんの2年くらいの間で、皆のマインドも変化してきたんだなと実感しました。

KM - 前作は内面を歌っていたので、チルできるという声がすごく多かった。Deb Neverのような、下はダンスミュージックだけど上のリリックと歌はふわふわしている組み合わせが自分的にも面白かった時期だった。トラックは倍でとってちょうどいいんだけどボーカルはハーフでとる感じを、日本語で聴きたくて作っていたんですね。一方で今作は、例えば“Remind You”や“BPMF”だと、本当はラッパーやポップスのフィールドの人たちからリリースされたら面白いだろうなと思ってストックしていたビートなんですよ。でも使われなかったので、こちらで出そうかとなって。“BPMF”はけっこう前に作った曲で、2000年代のメロディックハウスのようなものを日本語でもう一回聴きたいなと思ってやってみた。 “Remind You”もリキッドファンクやドラムンベースのビートですけど、あれを日本語でやってみたら面白いんじゃないかと。(2022年の夏前に)Drakeがハウスをやってワーッて盛り上がっていた2週間後とかに出ちゃってるんですけど、あれは別にDrakeに影響を受けたとかではなくて、そもそもああいうビートが少なかったし夏場に出したらクラブでプレイされるんじゃないかというタイミングを見てのリリースでした。単純に、最近あまり聴かないビートなので作ってみたという感じです。“Summertime Blue”も、自分が「80’sのサイケデリックなビートが最近あまりないから聴きたいね」という話をLil' Leiseにしたら、「あぁ、西麻布のあそこで遊んでた時のあの音ね」という感じで盛り上がっていって。

- いま自然に「最近あまり聴いてない系統のビートなので作ってみた」ということをおっしゃいましたが、KMさんは以前からそういうスタンスですよね。

KM - 自分が「そろそろハウスのビート欲しいよね」とか「今なんとなくダンスミュージックっぽい感じだよね」と思っているということは、少なくとも僕の友達周辺は同じようなことを感じているはずなんですよ。そういった感覚は、恐らく東京都内に300人か400人いるかなっていうくらいの規模しかないですけど。自分はいつも、そこにめがけて素直に作っています。っていうか、友達や関係者喜ばすために作ってるとこはあります(笑)。

Lil' Leise But Gold - 彼が昔から変わらないのは、基本的に自分が聴きたい曲を作ってるんですよね。あとはフロアのシステムスピーカーで自分の曲を思いっきり鳴らしたいという気持ちが根本にある。見えないリスナーをリアルに想像することって難しいじゃないですか。それよりもフロアでかけた時のことであればイメージしやすいし、意外と直感的にジャッジしていると思います。

左 : Lil'Leise But Gold 右 : KM

- 前作とは異なる方向性のビートを導入するにあたり、あらかじめ完成イメージというのはどの程度あったのでしょうか。

Lil' Leise But Gold - いや、手探りでしたね。一気に8曲全部作ったわけじゃなく、一曲一曲をその都度創作欲求にまかせてMAXのボルテージで進めていったので、トータルでは全然考えられてなかったです。

- でも、作品全体としてのムードは一貫していますね。毒々しくて、ロマンティックで。

Lil' Leise But Gold - ダンスフロアって、私にとっては楽しいけど危険だし安心な場所ではないんですよ。誘惑とか欲望もあって、ヒリヒリした感じというか。そういったことを共通で色んなアプローチを通してリリックにしていったからかもしれない。元々言葉を使って遊ぶのが好きなんですけど、周りの人には「その喩え独特だから分からない」って言われ続けてきた。だから、今こうやって皆さんが曲を聴いて自分にあてはめて色んな考察や共感をしてくださるというのはすごく嬉しいです。

KM - フロアでの実体験を彼女は直接的な表現ではなく抽象的な比喩表現を絡めながら書いてますよね。あぁこれあの時代のあの雰囲気だよね、というのが分かる。でもそれを直接書くと普通になっちゃうじゃないですか。生々しさを抽象的に書くことで色んな人に想像をゆだねられるところがあって、彼女のリリックの魅力はそういったアブストラクトな部分にあると思う。普段から表現がすごいんですよ。日常生活で「今日寒いね」と言うところを、普通に「冷たい星空飛んでるみたいじゃない?」とか言ってくる(笑)。自分からしたらちょっと恥ずかしかったりするんですけど、ある時に「でもこれは才能かもしれないな」と思って。

- 素敵ですね。

LIi' Leise But Gold - 彼はすごくリアリストなんですよ。

KM - だから、忙しい時にそれをやられると「ちょっと黙ってて」とはなる(笑)。

Lil' Leise But Gold - とは言え、プロデューサー視点ではもうちょっとリリックはシンプルにしないと伝わらないんじゃないかと思っていたらしいんです。これまでもリリック提供の仕事では私も「そういうもんかな」と思って変えていたんですけど、でも今回は自分の作品だし変えたくないって言って頑固に進めた。そうしたら、共感してくれるリスナーが多くて。

KM - “I love you”や“冷たい星空飛ぶ嗚呼今だけは永遠だ”といった曲は、フックのセンテンスが長いじゃないですか。だからこそ、皆ちゃんと歌詞聴いてくれてるんだなってびっくりしましたね。僕はDJとして音楽をジャッジする時、クラブでパッと聴いた時にどんな曲かすぐ分からないといけないという価値観なんです。まずはたくさんの人に聴いてもらうことが大事で、その後に深さを出す方が良いという考え。それもあって、“BPMF”や“One”はフックが長かったのを削ぎ落としたんですよ。パッと聴いた時にまずライトに「カッコいいね」と感じてもらいたかった。雰囲気重視で、パーティでかかった時に単純にカッコいいと思えるように作っている。だからアルバムの中でもエディットは2種類の方向で分けているんです。Lil' Leiseに任せると全部が深く深くなっちゃうので、バランスをとっています。でも、意外とみなさん深いところまで聴いて反応をくれるんだなっていうのは発見でした。

- 確かに、KMさんのビートはパッと聴いた時に表面は耳に残るフックがありつつ、重ねられたレイヤー全てに緻密な細工が施されていますよね。ロックやハイパーポップの音を通ってきた背景があるからこそバックにそういった色んなサウンドの痕跡を感じるし、深みになっている。でも、それはLil' Leiseさんのリリックや歌も同様だと思います。シルキーな声になめらかなフロウなので入り口は広い。とは言えそれだけじゃなくて、アブストラクトなところもあるからこそ深度も非常にディープ。

KM - 音楽シーンにいる方々は、そういう風に聴いてくださるじゃないですか。他にも、“BPMF”がハウスで“One”がアフロミュージックで……と、ビートのルーツ的なところまで含めて解釈してくれる人もいる。でも自分が今回驚いたのは、普段リリックを中心に音楽を聴いているようなリスナーの方々も今作にはすごく共感してくれている。そういう方たちって僕は実生活ではお会いしたことがないので、いまいち実感がなかった(笑)

- 実際の数的には、そういったリスナーの方が多いですよね。

KM - きっと僕が少数派なんです。

- 両方のリスナー層に共感が高いというのが嬉しい。

KM - Lil' Leiseのリリックが、そうやって色んな人に向けて刺さったというのは今回すごく大きな発見でした。

Lil' Leise But Gold - 数字は判断材料としてとても便利なんだけど、やっぱりメッセージくださったりシェアがあったりと反応が返ってきているのが嬉しいですね。あと、アルバムトータルで聴いていますという方が多くて。8曲全部のストーリーを繋げるのに曲順も工夫したから、本当に良かった。

- あれだけ多種多様なビートが混在している作品を通して聴けるのは、やはり一貫したストーリー性がありトーンが揃っているからでしょうね。ビートの面で、通して聴かせるために工夫されたことはありますか?

KM - 実は、一曲目の“Dance With Me”と最後の“Kenso Genso”って同じビートから歌ってるんですよ。BPMもキーも一緒なんです。厳密に言うと、“Dance With Me”のイントロはBPMが違って、ビートが入ってくると“Dance With Me”は倍でとるところを“Kenso Genso”はハーフでとっている。アルバムをループして聴くとキーが繋がる。あと、ドラマ性をどうやって作るかもかなり意識しました。例えば“One”に「今何してるの」というフレーズがあるじゃないですか。自分はあの発音と、そもそも「今何してるの」というワードが強いなと感じてそこをぜひ活かしたいと思い、2バース目に「今何してるの」っていう一部分をぶつぶつ切って不自然な雰囲気を作りリフレインさせたんです。ぶつぶつ切れることでフロアでの酩酊状態を表現したつもり。あと、後半も特に不自然なところでビートが切れるじゃないですか。それも、クラブの途切れた記憶や不思議な空間の印象を表していたりします。

- なるほど。

KM - 他にも、“I love you”では「ひとりぼっちのモンスター」っていう部分をループさせて段々声のトーンが変わっていくような仕掛けをしていて、BPMも変えている。落ちていくような感覚を表したかったんですよね。“冷たい星空飛ぶ嗚呼今だけは永遠だ”は、一番盛り上がる「ああ今だけは永遠だ」のところで普通はドラムフィルを入れて盛り上げたいところだけど、あえて無音の空間を作っています。逆にそれをやることでカッコいいかなって。

- あそこはカッコいい処理ですよね。Lil' Leiseさんはこのトラックが来てびっくりしたんじゃないですか?

Lil' Leise But Gold - いや、びっくりですよ。「これってファイル壊れてないよね……?」って控えめに確認しました(笑)。このままいくかどうかでちょっと議論になりましたね。

KM - ここは絶対譲らなかった。

- ダンスミュージックのビートって、言ってしまえばサンプルはもうネット上にたくさん転がっているわけじゃないですか。今はそこに対していかにストーリーを与えていくかが重要で、例えばBeyoncéは『Renaissance』で黒人カルチャーやクィアカルチャーをリスペクトした上でああいった骨太の物語を乗せてこってりした作品に仕立て上げたし、国内ではTohjiが『t-mix』で独自のレンズを使って個人的なY2Kトランス史を再解釈するような試みをしている。『喧騒幻想』も、非常にしっかりしたストーリーが流れているという点で同様だと思うんです。

KM - Tohjiが個人的なバックグラウンドを純粋にパックして『t-mix』という形で提供しているのと同じように、自分も個人的なバックグラウンドを投影してます。それは、海外がこう動いたから自分はこうしようとかじゃない。今の世の中で人気のプレイリストに入っていない雰囲気を求めて作っていくと結局こういった作風になる。もちろん曲を広げるために、トレンドに寄り添う時もあるけれど。“Kenso Genso”とかは2000年代のR&B的な要素もあるし、“冷たい星空飛ぶ嗚呼今だけは永遠だ”はハイパーポップっぽい音割れや急に音がゼロになるような面白さを詰め込んでて、それは自分たちの音楽のDNAに刻まれている色んな体験が元になっています。でも、それってLil' Leise But Goldのアルバムじゃないと出せないんですよ。外でここまで詰めてやってしまったらそのアーティストの色を殺しかねない。自分とLil' Leiseは遊んでた場所も聴いてきた音楽も同じだから、そこを突き詰められるんですよね。共通で持っているバックグラウンドがめちゃくちゃ広いんですよ。「ここはダブっぽい感じで」と急にオーダーしても、彼女はそのディレクションに対応できる。

Lil' Leise But Gold - タイプビートとKMのビートの違いというのは、言ってしまえば「変」なところだと思うんです。なんか変わってるなという響きがあって、それを紐解いていくと色んな音楽のバックグラウンドが現れてくる。私はそこには及ばないですけど、ビートの説明を受けたりディレクションをもらったりしたらなんとなく通じるし、理解はできる。そうやってやりとりしていく中でオリジナルの音楽になっていくと思うんです。

- 空気感でも音でも、思い出が共通言語としてお二人の中にあるというのは非常に大きいですね。皆、そこの意思疎通に苦労するじゃないですか。何とか言葉にして伝えたり音や写真といったリファレンスを見せたりしながらコミュニケーションするところを、抽象的な感覚のまま意思疎通し合える強みがあるんですね。

KM - リリックで書いている「ブース越しに乾杯しないで」とか、実際に昔自分たちが話していたようなことだしね。

Lil' Leise But Gold - “BPMF”のあのラインは、DJの方から「ほんとにそうです!」って言われてて(笑)。PCにテキーラが……みたいなああいうシチュエーションってよくありますよね。

- リリックにおいても、独自のLil' Leiseワールドが散りばめられています。ワードチョイスが非常に面白い。

Lil' Leise But Gold - ちょっとだけ種明かしをすると、例えば“Kenso Genso”の「ラッキーfall fall down」というリリックは「棚からぼた餅」をちょっと言い換えてみたり、そういった遊びもしています。

KM - Lil' Leiseは、音の響きをすごく重視しているんですよ。日本語はやっぱりめちゃくちゃ難しくて、意味が全部分かっちゃうとカッコよくなかったりもする。だから、LEXは崩す。Lil' Leiseも崩しつつ、でも意味も伝えたい。そこで「棚からぼた餅」を「ラッキーfall fall down」と造語っぽく言いかえたりする。僕がやったら普通に「棚からぁ/ぼたもちぃ」っていうラップになっちゃうから(笑)。その作業は、Lil' Leiseはすごく上手だと思います。人の曲を聴いてても、このリリックはこの小説から来ているのでは?とか推察してるもんね。

Lil' Leise But Gold - 歌詞の考察や深読みは好きですね。ラッパーのリリックとか読んでも、こんな派手なこと歌ってるのにここはたぶんこの小説からの引用だ、凄い!って思ってファンになる。

- カッコよく聴こえるかどうかと意味が伝わるかどうかってギリギリの際どいせめぎ合いであって、近年色んな歌い手がその絶妙なところをどこに落とすか試行錯誤している印象です。

KM - 今作に限らず、外の仕事においてもそういった試行錯誤は面白いですよ。例えば、(提供曲である)honokaちゃんの“celebrate”では突然「元気?」とか日本語のガヤを入れてみたりしたんです。全部英語にしてもつまらないので。

Lil' Leise But Gol - 最初は「元気?」をパトワ語にした「ワーグワン」とか入れてみようと思って書いてたんだけど、KMが「でも俺ワーグワンとか言われても分からないし」ってなって。「だったらそのまま日本語で『元気?』って言うのも可愛いんじゃない?意外に誰も元気ってそのまま使ってなくない?」という議論があって、そのまま使うことになった。

- 極めて微妙なニュアンスの戦いですよね。そういった意味で、現代詩歌の最先端の実験でもあるというか。日本語と英語のチャンポンの詞なんて、元をたどれば90年代の小室哲哉さんの時代からたくさん作られているわけじゃないですか。ただ、当時は単に組み合わせていたところを、その後色んな実験を二周三周した上で、近年は音としてどう聴こえるかという側面と意味としていかに通じるかという側面を加味した非常に複雑なフェーズへと入ってきているように感じます。

Lil' Leise But Gold - 例えば“One”の「Bombay&Sapphire」というワードが出てくる英語詞の部分は、ラウンジで流れている曲をイメージして書いているんですよ。本筋のシチュエーションとは別に、裏でこういう曲が流れていますということなので英語詞でいいかなと思って。“Dance with me”でも後半ハウス色が強くなる部分があって、そこも本筋と切り離したイメージで書いていますね。

- 複層的であり映像的な書き方ですよね。読んでいた小説など、そういった書き方をするようになったルーツとして何か思いあたるものはありますか?

Lil' Leise But Gold - 子どもの頃から漫画やゲームが禁止の家で育ったんですよ。だから、娯楽というとほとんどが字だけの本でした。その中でもファンタジーとかミステリー、サスペンスが好きでたくさん読んできて、王道ですけど『ネバ―エンディングストーリー』や『指輪物語』などの長編は大好きで。父も本好きで、その影響で内田康夫さんの浅見光彦シリーズ作品や、他にも江戸川乱歩シリーズとかはけっこう読んでいましたね。最近は原田マハさんや恩田陸さんが好きで読んでいます。

KM - Lil' Leiseはちょっとグロテスクなものも好きなんですよ。「絵画のナゾを解く」みたいなのとか、寺山修司の舞台写真集とか家にけっこうありますね。自分は怖いから苦手なんですけど……。

Lil' Leise But Gold - リビングに本棚があるんですけど、気づいたら誰かに背表紙を裏返しにされている本があって。見たら、江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』だった(笑)。あと、岩井志麻子さんが大好きなんです。『ぼっけえ、きょうてえ』から始まり、『現代百物語』はシリーズで大人買いするくらい読んでいて。綺麗だけどダークで、人の欲望が垣間見えるところが好きですね。

- 確かに、ダークな感性はLil' Leiseさんの作品からすごく感じられますね。

Lil' Leise But Gold - ハッピーな状況だけど寂しさや虚しさもあるような感覚は、例えば“One”は第一印象はパーティ感なんですけど、無理してヒールを履いてるけど足が痛いのがバレないようにしていたり、あんなに純粋そうな子だったのにいつの間にかちょっと変わってしまったりとか、そういう状況の裏にある、光と影のような対比を描いています。ダークでリアルな様子を。

- 制作環境のことも伺いたいのですが、今も作業はご自宅でされているんですか?

Lil' Leise But Gold - そうです。KMはドア一枚隔ててずっと作業していて。

- プライベートと仕事の境目がなくなりますね。

KM - 加藤ミリヤさんの曲を作っていると、Lil' Leiseが勝手に後ろから鼻歌をつけてきたりするんですよ。歌いながら一人でイメージを作っている時に勝手に歌をつけてくるので、それでたまに「やめて〜」ってなったりする。

Lil' Leise But Gold - 良かれと思ってコーラス入れてるんですけどね(笑)。

- でも今、特にラッパーはインスタのDMでビートを送り合って一度も顔を合わせないまま曲作りをする方も多いじゃないですか。生活をともにしながら制作するというのは、そういった流れとは真逆ですよね。

Lil' Leise But Gold - 確かに、誰よりもクルーっぽいことをしていますね。

KM - ファミリーとか言う前にマジなファミリーなので。

- お二人は制作をはじめた後で一緒に暮らすようになったのではなく、一緒に暮らしはじめた後で制作を開始されました。それによって、関係性に変化はあったんでしょうか。

KM - Lil' Leiseの立場が変わりましたね。まず一緒に暮らしはじめた時のことを話すと、やっぱり経済面では自分が大黒柱だからという意識が強くて、とにかく自分が売れないといけないとずっと思っていたんです。実際問題、女性はDJにしろダンサーにしろ、母親としての役割が出てくるとなかなか時間もとれなくなってくるし活動することが難しくなってくる。それで、Lil' Leiseも子どもが生まれてからは現場から遠ざかることになりました。すると、僕が制作で忙しかったり現場に行ったりする時も「ライブいいなぁ」という声が聴こえてくる。でもそれってどうしようもないな、どうすればいいんだろうって思ってた。ある時、僕がまたバタバタ制作してる時にふとリビングに行ったら、Lil' Leiseが映画を観ていて、その時に「リリック書いてみればいいんじゃない?」と何気なく言ったんですよ。

- 今思えば、それが大きな転換点だったと。

KM - それまでは自分のことしか考えられてなかったから。だって、自分がまず売れないと家族が食っていけない。だから、彼女が家庭に入るのは仕方ないと思っていたんです。口ではみんな男女平等って言うし、僕も自分のことを当たり前に男女平等主義だと思っています。でも、実際のところいざそういう状況になったら全然平等になんかできなかった。正直なところ、自分にとっては今作のアルバム制作にかかる時間を外に向けた方がお金にはなるんです。でも、それをLil' Leiseのクリエイティブに使うという当たり前さが大事で、それに以前は気づけてなかった。

Lil' Leise But Gold - 子供が産まれる前は、仕事も遊びも思いっきり、自分の判断で思うようにできるじゃないですか。でも、子どもが生まれるとやっぱり数年は外に行けなくなる。あれだけ自分の居場所だと思っていたところが遠くなってしまうし、友達とも時間帯が合わなくなるし、仕事復帰は絶望っていう。そういう自分に対して「自分のことばかり考えて、どうして母親のマインドになりきれないんだろう」、子供を愛していて、毎日抱きしめて幸せなはずなのに、社会と繋がっていない不安で孤独を感じていました。そういうことを訴えるけど、彼も「でもしょうがなくない?俺も遊びでDJしに行ってるわけじゃないんだし」としか言えないじゃないですか。逆に、じゃあ当時私が外に行って同じくらい稼げるかと言われたらそんなことはないし。

KM - だから、大抵はそこで「しょうがなくない?」と言って終わっちゃう。確かにしょうがない。しょうがないんですけど、でもそこで「俺が外に出た方が稼げるじゃん」って行って出ていくのは男女平等じゃないことに気づいたんです。大事なのは、機会を作るということなんですよね。女性は出産すると社会と本当につながりづらくなる。でもSNSを見るとみんな楽しそうに充実しているように見えて、自信がなくなっていく。

Lil' Leise But Gold - 出産後のカオスの中で、自分がなにが出来るのかって悩んでいた時期に、「曲を作ることは出来るから」と彼に言って貰えたのはすごく大きかった。

- 機会が生まれたということですよね。

Lil' Leise But Gold - そう。いきなり派手なことをやるとなると大変に思えるけど、まずは背中を押してもらえたことが良かった。「そんなに鬱憤がたまって自己嫌悪になっているのであれば、リリック書いてみなよ。曲作るよ」と言ってもらえたことで救われて。

KM - もちろん、最初は再生数なんて全くなかったですよ。でもそれが少しずつ少しずつ広がっていって、こうやってアルバムまで出せたのはすごいと思う。まさかそこまでいけるとは思ってなかったから。お父さんもお母さんも若い頃にDJやダンサー、シンガーの方ってたくさんいると思うんですけども、サラリーマンや子育てで、カオスの渦中でも、自分のペースで少しづつクリエイティブなことを重ねていくっていうのは、人生を良い方向に向けると思います。人によってはそれはYouTubeチャンネルの開設なのかもしれないし、実はすでにやっていることなのかもしれないし。色んなルートがあるかもしれないけど、うちの場合は「リリック書いてみなよ」という一言だった。

Lil' Leise But Gold - 最初は、「サンクラに上げた曲にgoodがついた!」とか一喜一憂していて(笑)。でも私は、サンクラのいいね一つで、社会と繋がっていることを感じられたんです。そのくらい母親というのは社会から断絶されていると思います。

KM - だから、お母さんになってもクリエイティブってできるんだよね。あきらめない方が良いと思う。

- 一足飛びに大きいことをしようとすると難しく感じてしまうけれど、何かできることから少しずつ社会に向けて繋がっていけたら、次第に大きなものになっていくかもしれないですよね。お二人がロールモデルになることで、勇気づけられる方は多いと思います。自分もなんだか元気が出ました。今日は本当にありがとうございました。

Info

Artist: Lil' Leise But Gold, KM
Title: 喧騒幻想

Release Date: 12/14
Label: Mary Joy Recordings
配信リンク: https://lilleisebutgold.lnk.to/kensougensou 

Tracklist

01.Dance With Me
02.One
03.BPMF
04.Summertime Blue
05.I love you
06.Remind You
07.冷たい星空飛ぶ嗚呼今だけは永遠だ
08.Kenso Genso

All track produced by KM

タイトル:DANCELIXIR
日程:2023年2月25日(土)
会場:WWWβ
出演:Lil’ Leise But Gold / KM / shakke / TJO / YAYA子 / TAK
時間:OPEN 0:00
前売:¥2,300 (税込 / オールスタンディング / ドリンク代別)
問合:WWW 03-5458-7685

チケット:販売中 LivePocket【https://t.livepocket.jp/e/29phg

公演ページ:https://www-shibuya.jp/schedule/016234.php

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