【座談会】PSYCHIC FEVERが表現する日本のラップミュージックの新しい形
PSYCHIC FEVERは、アーバンミュージックカルチャーを日本のお茶の間に根付かせた音楽事務所・LDHが新たに送り出した7人組のラップ・ヴォーカルグループ。7月に1stアルバム『P.C.F』を発表し、8/24(水)には“Choose One (Remix) feat. ELIONE, Billy Laurent, REO”を配信した。本楽曲にはオリジナルの作詞を担当したELIONEとBilly Laurentに加え、先輩のREO(GENERATIONS from EXILE TRIBE 佐野玲於)が参加している。今回はPSYCHIC FEVERからJIMMYとWEESA、そしてELIONEとBilly Laurentに“Choose One (Remix)”を中心にさまざまな話を訊いた。
取材・構成: 宮崎敬太
撮影: 横山純
“Choose One”はそれぞれの人生の選択を後押しする曲
- “Choose One (Remix) feat. ELIONE, Billy Laurent, REO”はどんな経緯で生まれたんですか?
ELIONE - 僕とBillyはPSYCHIC FEVERに作詞で参加してるんですね。普段から制作チームとは密に連絡を取り合ってるんですが、その中で「この曲(“Choose One”)すごくいいから、ラッパーが参加したリミックス版を作るのもいいよね」みたいな話になったんです。そこで「じゃあ試しに俺らヴァース書きましょうか?」と提案して、デモを作ってチームに聞いてもらったら気に入ってくれて。同じタイミングでREO(GENERATIONS from EXILE TRIBE 佐野玲於)に会った時、このリミックスの話をしたら「俺もやりたい」となったので参加してもらった感じですね。
JIMMY(ラップ担当)- 僕らも嬉しかったです。(ELI)ONEさんとBillyくんは「Hotline」(昨年7月に発表したプレデビュー曲)の頃から制作に関わってくれているし、REOくんは僕とWEESAにとっては同郷の先輩で。PSYCHIC的にはいろんな意味でルーツとなる人たちが、1stアルバムのリード曲のリミックスに参加してくれたっていう。
WEESA(ボーカル担当)- リミックスのおかげで“Choose One”という楽曲により深さと広がりが出たと思いますし。
- というと?
JIMMY - “Choose One”のテーマは人生の選択です。みんなそれぞれの立場のいろんな場面での選択を経てここまで生きてきてる。それがリミックスで新たに3人が入ってくれたことで、みなさんが人生の中で何を選んできたかがわかって、楽曲としてより深みが出たかなって。
ELIONE - そうだね。オリジナルの歌詞も僕らが書いたんですが、僕らは聴き手はもちろん、PSYCHICのみんなの(人生の)選択を後押しできる曲を書きたかったんですよ。実はこの曲を作ってた頃、PSYCHICのみんなはまだデビューできるかわかんなかったんですね。それでも一生懸命に練習したり、新曲を作ったり、YouTubeで活動したりしてたので、俺らからのメッセージでもあったんですよ。「みんなの選択は間違ってないよ。必ずデビューしようぜ!」っていう。
Billy Laurent - はい。7人がガッと集結して目標に進んでいくイメージ。僕はみんなと年齢も近いから自分のことのように書いてました。
JIMMY - そうそう。オリジナルの「自分の選択に自信を持ってそれぞれの人生を頑張って生きよう」というメッセージが、このリミックスでさらに浮き彫りになったというか。
ELIONE - そうだね。俺なんかは年齢もキャリアもみんなより上だから、三者三様の実体験を歌うことでオリジナルのリアリティも増すかなって。
Billy - 僕は今回8小節というタイトなVerseでどうぶちかまそうかと、悩みました(笑)。自分が音楽という道を選んだ強い思いを表現したかったので。僕らは普段、結構和気あいあいと制作してるんですが、今回はかなり真面目に取り組みましたね。
WEESA - ONEさん、Billyくん、先輩のREOくんと、それぞれ活動のフィールドが違うから、僕らだけではリーチできないとこまで“Choose One”が広がって、メッセージが届いてくれたら嬉しいなって気持ちがありましたね。
仕事で知らない人の歌詞を書くというより仲間の歌詞を書いてる感じ
- オリジナルの“Choose One”は1stアルバムのリード曲でした。
JIMMY - 僕らはデビューとコロナ禍がぶち当たってしまって、この2年間はオンラインを中心に活動せざるを得なかったんです。YouTubeやTikTokを通じて、頑張ってきたけど本当はいっぱいライブしたかった。そういう面で悩むこともあったけど、結果PSYCHIC FEVERとして“Choose One”という曲を世の中に出せた。改めて自分たちは仲間と先輩たちに囲まれた素晴らしい環境にいるんだなって思えましたね。この曲があったことでチームがよりタイトになれました。
WEESA - 最近ようやくみなさんの前でパフォーマンスをできる機会が増えてきました。難しい期間を過ごしたこともあって、歌にも自分たちの思いが自然と乗っちゃう。全員がひとつになって夢や目標を叶えていくみたいなイメージというか。それが今すごいライブに出てると思います。
JIMMY - この曲は歌ってて一番楽しい。振り付けをしてくれた方も昔から一緒にやってきた仲間で。いろんな意味でここまでの集大成。ライブではここでテンションがやばくなっちゃう。みんな爆笑しながら踊ってるよね(笑)。
WEESA - 楽しすぎるんです(笑)。
- “Choose One”を初めて観客の前で歌った時はどんな気持ちでしたか?
WEESA - めっちゃ感動しました。SNSを通じて活動報告はしてたけど「実際どうかな?」って感覚もあって。だけど久しぶりにステージに立ってみるとただただ楽しかったです。
JIMMY - 同時に自信もあったんですよ。だってオフラインで活動できない分、めちゃくちゃ練習してきましたから。制作に関してもレコーディングの前にヴォーカルとラッパー陣で家にこもっていろいろ調整したり、慎重に試行錯誤しながら作ったので、「やっとパフォーマンスできる」って気持ちがあって。だから今反応をもらえてるのがすごく嬉しいんです。
- ELIONEさんとBilly Laurentさんは、どのように作詞やラップを制作していったんですか?
ELIONE - 最初に制作チームからメンバーのアンケートをもらったんです。みんなの夢とかいろんなことを書いてあって。その段階ではまだ直接会ってなかったんですね。僕とBillyはスタジオでアンケートを見つつ、例えばJIMMYのパートならJIMMYの写真を見ながら「この子はこういうことを言うだろう」と想像して書いてましたね。
JIMMY - そうだったんですね!(笑) 実際にお会いしたのはレコーディングのタイミングからでしたもんね。
ELIONE - そうそう。でも制作チームから結構細かくみんなのことを聞いてたから結構自然に書けたよ。
- ラッパーとして他人のラップを書くことについてはどう思いますか?
ELIONE - 賛否があるのはわかるけど、僕は全然ネガティヴに捉えてません。僕はMACCHOさんの「どの口が何を言うかが肝心」(“BEATS & RHYME”)というラインが大好きなんですよ。僕はPSYCHICの一人一人をセンスのいいアーティストだと思ってる。彼らの思いを具現化する手伝いをしてるイメージですね。僕自身も表現という面で逆に勉強になってますし。
Billy - ですね。仕事で知らない人の歌詞を書くというより仲間の歌詞を書いてる感じ。
ELIONE - そういう意味で、PSYCHIC FEVERはスタッフも含めてチーム一丸となってるのが強い。
JIMMY - 僕らはマジで自分たちがやりたいことをやらせてもらってる実感がありますね。
トラックがあってラップや歌詞を作るのと同じように振り付けを作る
- PSYCHIC FEVERはパフォーマンスにダンスも組み込まれていますが、ELIONEさんとBilly Laurentさんはラップとリリックを作る際に息継ぎの場所などでダンスの意識したりするんですか?
ELIONE - そこまでしないですね。でも例えば“Choose One”で「We're looking for the One One One One One」というラインを作ったら、きっとこういう感じで踊るよね、みたいなことは話してるんですね。BillyはTikTokで曲がバズったりもしてるし。でもマーケティングっぽい感じで意識してるわけじゃなくて、楽しみながら作ってる感じ。ダンスの面でラップ側が意識するのは、音に対して歌詞にもちゃんとリズムが入るようにすることかな。文字数とか。
JIMMY - 僕らはみんなで音楽を作ってるので、デモを聞くと作り手の皆さんの気持ちや狙いを理解するように取り組みます。それを経てどう表現すれば良いのかを。フィーリングを感じる力というか。トラックがあってラップや歌詞を作るのと同じように、振り付けを作る。アウトプットが違うだけ。でもみんなで1曲を作ってる。僕はもう10年以上ダンスをしてるんですが、ラップをするようになってからは、余計にそう感じるようになりましたね。
ELIONE - 見えない以心伝心はあるっぽいです(笑)。歌詞書いて、曲レックして。そのあとどういう感じになったか、あとで映像を見せてもらうんですね。そうするとBillyとデモ作ってる時に話してた感じになってることが結構あって。面白いですよ。
WEESA - JIMMYくんは振り付けも作ってくれるんですけど、僕はJIMMYくんの振りが大好き。大振りでパフォーマンスしてて気持ちいい。良い音楽に良いダンスがあると自分自身がライブにどんどんハマっていくんです。
- JIMMYさんとWEESAさんはいつEXPGに入ったんですか?
JIMMY - 僕は中1からですね。学校にダンス用の服とかを持って行って、授業が終わったら一番最初に学校を出てEXPGで夜まで練習してました。3〜4年。高校になってEXILEさんのツアーを一緒に回らせてもらってたんですが、あと数回休んだら留年だよっていう本当のギリギリまでダンスに打ち込んでましたね(笑)。
WEESA - 僕は小5から。EXPGに来てダンスや歌のレッスンを受けてました。音楽に打ち込みたかったので、僕は通信制の高校に行きました。
ELIONE - 2人とも“Choose One”してんなー(笑)。
日本語ラップはkiLLaを軸にディグした
- 制作チームのお二人から見て、JIMMYさんとWEESAさんはどんな人ですか?
ELIONE - 2人ともセンスと才能の塊ですよ。WEESAは歌の表現にシティっぽいセンスを感じてます。JIMMYとは制作現場以外でも会います。僕のスタジオに来たこともありますし。俺たちに近い存在だから、こちらの思いをJIMMYのパートに託す面もあります。まあシンプルに、2人ともかわいい弟って感じです。
Billy - 2人とも半端ないです(笑)。例えば、書いた歌詞に対して返ってくるもののレベルがとても高かったりとか。ポテンシャルがめちゃくちゃ高いです。いつも密かに自分ももっと頑張らなきゃなって気持ちになる。
WEESA - 実は僕らとBillyさんは今日が初めましてなんですよ。
Billy - うん。でも全然そんな感じしないよね(笑)。
JIMMY - うん(笑)。
Billy - さっきも言ったけど仲間って感じです。
JIMMY - Billyくんはデモを歌ってくれることが多いんですよ。僕たちはそれを聴いて曲のファーストインプレッションをもらうので、その意味ではPSYCHIC FEVERの軸を作った人でもあると思うんです。今日初めてお会いしたけどすぐ同じフィーリングで仲良くなれて。これからもっともっと一緒に作っていきたいですね。
- Billy Laurentさんのお話が出たので、お二人にとってELIONEさんとはどんな人ですか?
JIMMY - 僕らはLDHの中で育ってきて外を知らないので、最初はONEさんが怖い人だと思ってました(笑)。でも実際にお会いしたら想像以上に優しくて。あと刺激をくださる方ですね。結構前にスタジオに行った段階で「Fire Bird」を聴かせていただいてて、ずっとリリースを待ってたんですよ。だから今鬼リピ中です(笑)。
WEESA - 僕がONEさんを知ったのは中学1年の時。「フリースタイルダンジョン」にサングラスをかけて出てきたんですよ。歌い始めるまで外国の人だと思ってた(笑)。その頃、僕は変声期になってしまったので、歌よりもラップをたくさんやってて。ONEさんの綺麗な日本語のラップに衝撃を受けたのを覚えています。
ELIONE - そういうの嬉しいなあ。良い時代になったなって思いますよね。これが始まりというか。もっとでかくなる。自分たちのカルチャーが世界に通用するエンタメになっていく確信みたいなものはあります。
- ELIONEさんの“Choose One (REMIX)”のリリックにZEEBRAさんのネームドロップが出てきますよね。そのZEEBRAさんが最近PUNPEEさんとBIMさんの新作“Jammin’97”に客演して「俺たちのカルチャーが世界を席巻」と歌ってて。今お話を聞いててなんとなく繋がってるように感じました。
ELIONE - 原曲の"Choose One"の歌詞は、「EXILEみたいにTouch The Sky」っていう歌詞だったんですが、きっとPSYCHIC FEVERのメンバーにとってのHIROさんやEXILEのメンバーの方々と、僕にとってのZEEBRAさんは一緒だよなって思ったんですよ。全ての始まりっていうか。(*EXILEもZEEBRAさんも過去に、別の曲で同じタイトルの”Touch The Sky”という曲をリリースしている)僕からしたら、HIROさんもZEEBRAさんも、JAY-ZとかP.Diddyとかと、同じ様に見えているし、尊敬してます。まあでも、僕のラッパーとしての人生にとってZEEBRAさんはクソデカいですよ。たしか僕が中1〜2の頃にキングギドラの“UNSTOPPABLE”が出たんですよね。あと小学生の頃からミニバスをやってて、先輩たちとカラオケに行くと“MR.DYNAMITE”とか“真っ昼間”とか歌ってるとかっこいいって感じでした。
JIMMY - そこに重ねちゃうと、僕らはCreativeDrugStoreにもめちゃ影響を受けました。突然Tシャツ作ったりしてて。「なんだこの人たちは!」って感じだったんですよ。僕ら周りの同世代のダンサーたちはみんなめちゃくちゃ衝撃を受けてました。
WEESA - そうそう。BIMさんとかね。EXPGに通っていると海外のヒップホップやR&Bを耳にする機会は多いんですね。Wiz KhalifaとかLil Wayneとか。僕が「ダンジョン」でONEさんを知ったくらいの頃にJIMMYくんと一緒に練習してて。日本語のかっこいいラップを教えてもらったんです。
JIMMY - 僕らの中でめちゃくちゃ流行ってたのがkiLLa。
一同 - おぉ〜!
JIMMY - 僕らは当時まだ未成年だから夜のクラブには行ったことなくて。僕らはkiLLaがSoundCloudでDr. Dreの“Next Episode”のカバーしてた頃に、あのクルー感にめちゃくちゃ憧れてましたね。「東京」って感じがした。僕らはずっとダンスをしてたから、ラップも音の一部だったんですよ。でもkiLLaにハマってから、ラップをラップとして認識しました。そういう意味ではすごく影響受けてます。kiLLaを軸にANARCHYさんを知ったり、kZmさんを知ったり。でCreativeDrugStoreにつながっていく感じ。
- ELIONEさんとBilly Laurentさんはどのように出会ったんですか?
Billy - 僕は“Choose One (REMIX)”で歌ってる通り、中2でSALUさんの“Swim In My Pool”を聴いてヒップホップにハマったんですね。ELIONEさんのことはヒップホップに詳しい友達のお父さんが地元のイケてるラッパーとして教えてくれたんです。
ELIONE - なんかのイベントにゲストで出た時、ライブ終わったあとに高校生3人が「この後俺らにライブやらせてください!」って突撃してきたんですよ。そのうちの1人がBilly(笑)。
Billy - 恥ずかしいです(笑)。
EXILE魂を軸に最新のエンタテインメントを吸収して自分たちの表現を作りたい
- では最後にみなさんが今後PSYCHIC FEVERでどんなことをやっていきたいか教えてください。
WEESA - 現代の音楽やエンタテインメントを吸収して、LDHの良さというか、EXILE魂を軸に自分たちの表現を作っていきたいです。8月からはタイに武者修行に行きますし。
JIMMY - 僕にとって世界に出て行くことはものすごく重要で。僕はミックスであることがコンプレックスでもあった。でも世界の音楽は大好きで。そういう面でブラックへのリスペクトが根元にあるLDHに入れたことが僕にはすごく嬉しかったし、救われたところがあって。音楽は人種、性別、国も超えると思う。僕は日本の良さを身に沁みて知ってるので、そこを世界のいろんな人に伝えたい。
Billy - PSYCHIC FEVERは日本を背負って立つ存在になれるし、僕も彼らの意思をバンバン表現していきたいですね。
ELIONE - 日本とか海外とかも超越してネイティブに日本語も海外の言葉も操って、世界で戦える子たちだと思うんですよ。だからあまり気負わずこのままの感じでやってけば普通にそうなると思いますね。
- ちなみにタイではどんな活動を?
JIMMY - High Cloud Entertainmentというタイのヒップホップレーベルと協力して、一緒に曲を作ったり、フィーチャリングに参加したり。基本僕らはがむしゃらに学びに行く感じですね。向こうでは完全に無名ですから。
WEESA - タイにはコーチェラにも出られてたMILLIさんという同世代のラッパーもいて。いろんなものを吸収したいです。あと僕らのタイでの生活や音楽制作してる様子を撮影していただいて、リアリティショウも日本で見られると思うのでそちらも楽しみにしてほしいです。
Info
2022 年 8⽉ 24⽇(⽔)Release DIGITAL SINGLE
PSYCHIC FEVER from EXILE TRIBE
「Choose One (Remix) feat. ELIONE, Billy Laurent, REO」
(LDH Records)
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