【Rappers Update Vol.5】guca owl (前編)

「guca owl」と書いて「グカール」と読む。もともとはowl kid(オウル・キッド)という名前で活動していたが、guca(ジー・ユー・カ)=自由化という意味を込めた文字を頭に付け、夜の世界に生きていたフクロウは大空へと羽ばたいた。FNMNLの読者には何を今更、だろう。日本のラップ・ミュージックを追いかけているひとならば、6月に発表されたEP『past & highway』が2021年を代表する作品のひとつであることに異論はないはずだ。しかしguca owlの名前は今後、昼の世界でも広く知られるようになるに違いない。彼の曲は日々更新されるラップ・ミュージックの今を体現しながら、普遍的な歌としても響くのだから。ロング・インタヴュー、前編。まずはguca owlがguca owlになるもっと以前の、少年時代の話から始めたい。

取材・構成 : 磯部涼

撮影 : 横山純

- 1998年生まれ。地元は東大阪市ですよね。

guca owl - はい。正確に言うと、東大阪市の花園です。今も住んでいて、自分たちのスタジオもそこにあります。

- WILD SIDEというレーベル/クルーに所属していて、歌詞にも仲間の話がよく出てきますが、彼らは地元のひとたちだったりするんでしょうか?

guca owl - 皆んな東大阪のヤツらです。花園がほとんどで、隣町もいるんですけど、ほぼ固まってます。

- 花園の土地柄を他所のひとに紹介するとしたら?

guca owl -(『past & highway』収録曲)"High Wall"のビデオの撮影でも使った、花園ラグビー場っていうデカいラグビー場があるところって世間的には認識されてると思います。でも、地元の人間としてはやっぱり工場の町ですね。小さい工場がたくさんある。あとは高齢者が多い。

- 若いひとたちは大阪市の中心に出てしまう?

guca owl - 東大阪でも"今夜はハダシデ"のビデオを撮った布施っていうところだったらちょっと栄えてて、若者の町って感じなんですけど、花園は本当に大阪の端っこで。金を持ってるのも工場長とか建築系の社長とかくらい。

- guca owlさんの家はどうだったんでしょうか。

guca owl - うちは一般的というか、一軒家でしたし、別にメシが食えないみたいなこともなかったですし。親父は自分が高1くらいのときに離婚してどっか行ったんですけど、でもその年齢なんで特に影響もなく。まぁ周りもみんな母子家庭でしたし、変わっているわけでもなく。兄弟は3人で、全員男。弟は今も一緒にラップをやっていて。何か不自由があったかって言われると、親父が嫌いだったくらいで(笑)。

- 歌詞には「大人」も度々登場しますよね。そちらは仲間とは逆に敵対する存在として描かれます。そのイメージとしてまず思い浮かぶのはお父さんだったり?

guca owl - 最初は親父だったと思います。何かと親父を反面教師にして生きてきたので。あとはオレ、17歳の時に高校を辞めて、そこからすぐ(建築)現場の仕事をしたんですけど、そこのひととか。ずっとそういうこと(大人との敵対)が続いてきたので、染み付いてるんだと思います。

- 花園の印象としては高齢の方が多いということでしたが、不良文化はどんな感じだったのでしょうか。

guca owl - どうですかね。でも、少なくはないんじゃないですか。東大阪の中でも地域によってグレ方がちょっと違って、自分らのところはバイクとかですね。暴走系の子らが多かった。カネ系というかカツアゲしにいくみたいな遊びをしている地域のヤツらもいるんですけど、花園は悪さをするって言っても、中学生の時だったら暴走とか喧嘩とかぐらい。オレ自身は別に不良じゃなくて、中学3年から1年間くらいだけ、そういう友達とツルんだことがあった。それでそっちの世界を垣間見たというか、「これは捕まるか事故って死ぬかで終わる」みたいになって、高校1年で抜けました。もともとはサッカー部の友達がいたんですよ。でも部活を引退して不良側に行って、なんやかんやで1年ぐらい居て、「これは違うな」「オレがいる場所ではないな」と。そのタイミングでサッカーの友達と再会して、「あ、こっちがオレの友達なんだ」という感じになって、そっちのグループと縁を切った。最後は結構ゴチャったんですけど。で、その後の仲間が今の仲間って感じですね。

- そこが分かれ道で、選んだ道が今の活動に繋がっていると。

guca owl - そうですね。別れたヤツらはヤツらで、そのままその道を進んでると思うので。

- ちなみに子供の頃、音楽はどんなものを聴いていたのでしょう?

guca owl - 音楽は好きでした。それは多分、母親の影響で。ブルーハーツとか長渕剛とかB'zとか……その辺を母親がよく聴いていて、オレは自分からロックを選んで聴いたことはないですけど、家でかかっていたからこれも染み付いているようなところはあると思います。一方、兄貴はめっちゃマイケル・ジャクソンが好きで。ファン・クラブに入って、バッジを持ってるぐらいの(笑)。そこから派生して、オレはオレでBruno Marsに凄いハマった時期があった。で、一緒にやっていた("Mirror"、2011年)っていうことでLil Wayneを聴いて、多分それで初めてラッパーを知って。

-『past & highway』の1曲目で、過去を振り返った"Old me"の歌詞に、「ガキも終わり 労働/泥々になった今日も/いつもの朝にいなくなるDaddy/学がないオレは選ぶ作業着/稼ぐ金 入れ墨も入れて/足場の上 耳にはLil Wayne」とあります。

guca owl - そう、ちょうど親父がいなくなって、建設現場で働き出したタイミングぐらいで(聴くものが)ヒップホップに切り替わったんです。中3の時は皆んながEDMにハマっている中、オレだけBruno Marsを聴いていて、流れでLil Wayneを好きになって。Lil Wayneはいっぱい客演してるんで色々なラッパー知って。その後で日本語ラップを聴きました。

- 周りにラップを聴いているひとはいなかった?

guca owl - いや、ラップは全くでしたね。EDM教えてくれる人はいっぱいいたけど(笑)。

- 2010年代前半だとちょうどEDMブームの頃ですよね。そんな中で何故、ラップに惹かれるようになったのでしょう?

guca owl - ある時、現場帰りの車の中で、ケータイでヒップホップについて調べたんです。そうしたら、とにかく自分の言いたいこと言う表現であるってところ、そもそもが声を持たない人に声を与える文化であるってところ、そして人種も年齢も関係ないってところにグッときて、「もうこれをやるしかない」って完全に決めたというか。

- 自分の状況にあてはまるようなところがあった?

guca owl - その頃、現場の仕事に行って、『こっちのやり方のほうがいいんじゃないですか?』と口を出しても、やっぱり17だから通らないわけです。『お前、若いのに何生意気言ってんだ』みたいな。ただ結局、オレのやり方の方が効率が良かったってことが何回もあって。そういうことが、『何で若いからって話を聞いてくれないんだろう?』『何で能力だけでオレを測ってくれないんだろう?』『何で年功序列なんだろう?』ってフラストレーションとして溜まっていった。自分の仲間も中卒で仕事してるやつが多かったんで、それを皆んなで愚痴ってたんですよね。でも、ヒップホップだったら表現に変えられる、自分がやりたいこと、言いたいことが言えるんだと思えた。

- 若くても才能さえあれば個人として認められる、いわゆるひとり親方になれるわけですね。

guca owl - だからとりあえずやるって決めて。ラッパーになるって決めて。そこから初めて『歌詞とかどうやって書くんだろう?』って考え出した。『ビートってどこにあるの?』みたいなところから。

- 17歳の少年が現場仕事帰りにケータイでヒップホップについて検索する、ってめちゃくちゃいい話ですね。

guca owl - まずは検索ワードで「ヒップホップ」って打ち込みましたよね(笑)。で、Wikipediaから入って、なるほど、ラップとグラフィティとダンスとDJって4つのエレメントがあるのかと。そして遡ると背景には公民権運動とか奴隷制度が……というふうにリンクを飛んで、飛んで、次第に深みにはまっていきましたね。

- では身近にヒップホップ・カルチャーがあったというよりは、むしろ自分で調べて、割と理念的なところから入っていった。

guca owl - そうですね。「どんなカルチャーなんだろう?」「どういう魂の人たちなんだろう?」みたいなところから調べて。で、仲間を集めて、「これをやろう!」みたいな。「絶対、これだ!」って。

- その仲間が先程話に出たサッカー繋がりの友人たちで、今のWILD SIDEのメンバー。

guca owl - そうです。中学が一緒のヤツと、高校が一緒で同じ1年で辞めたヤツと。そいつ(後者)は小学校の時、サッカーの対戦チームにいたんですけど。その3人でCROWNっていうラップ・グループを始めたのが最初です。で、隣町の後輩の2人でラップをやっていたヤツらと、オレの弟が入ってきて、BEST + WORST MOBB (B+WM)ってモブで動くようになって。そこからスタジオをつくったタイミングでWILDE SIDEに名前を変えた。

- ところで高校を1年で辞めた理由はなんだったのでしょうか?

guca owl - オレの意思ではなかったんですよね。自分は友達が好きで、部活でサッカーをするのも好きだったんで、学校には毎日行ってました。でも先生にはすこぶる嫌われる性格で。友達が先生と揉めたら、代わりに俺がやったことにして怒られるってのはありました。あと毎日学校に行くと言っても遅刻してましたし、授業中は寝てましたし。それである日、先生から「君は今日で学校終わりだから、荷物持って帰ってね」と言われて。「え?! そんな制度あんの?」みたいな。そのまま皆には何も説明せず、とりあえず必要以上にバイバイって言いながら、高校生活は終わったっすね(笑)。

- お父さんだったり先生だったり、現場仕事の上のひとだったり、やはり大人とは……。

guca owl - 本当にダメでしたね。というか、オレ、下の子に慕われるってこともないので、そういう関係が難しいのかもしれないですね。上の人でも仲良くなれるのは、タメ口で話せるくらい距離が近くなれるひと。中学の時も先輩から、オレだけ挨拶しないみたいな感じでよく怒られました。

- でもそれを言ったら、ラップってめちゃくちゃ上下関係じゃないですか。

guca owl - めっちゃ上下関係っす(笑)。まぁ、出来ないわけじゃないんでね。好き嫌いでいうと嫌いなだけで。

- 先程、ラップだったら個人として認められるという話がありましたが、一方で、日本のラップ・ミュージックに関していうと、「シーン」として見ると普通の社会よりも更に強いしがらみがあったりしますよね。

guca owl - 結構、それは感じましたね、ラップを始めた時。あと、身内ノリっていうか、同い歳くらいの人らが集まるイベントに呼ばれたときに、オレら以外はみんな知り合いだったんですよ。で、その中の誰かが作品を出したら皆でめっちゃ回すみたいな。そこに違和感を感じて。もちろん本当に良いものだったオレらも共有するけど、単に「同世代で頑張っていこう」「身内のものは広めよう」っていうノリには乗れない。だからこそ、自分たちでスタジオをつくろうと決めた。まず自分たちで本当に良いと思えるものを制作して、次に評価してくれたひとたちと繋がるっていう順番が大事。でも繋がることを第1の目的にしてしまうと本末転倒というか。話題にはなってるけど、蓋を開けてみたら「こんなの一周しか聴けない」みたいなアルバムをつくっても意味がないですよね。じゃあ、良いものをつくるために必要なものって何だろうと考えた時に、やっぱり自分たちのスタジオが必要だよねという話になって、場所を探して、改装して……というところから全てが始まったと思うんですよね。

(後編へ続く)

Info

タイトル:FNMNL Presents 3S vol.2

日程:2021年11月25日(木)

会場:WWW

出演:guca owl / JUMADIBA / NEI

時間:OPEN 19:15 / START 20:00

前売:¥2,400(税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)

問合:WWW 03-5458-7688
チケット:一般発売 / 10月28日(木)19:00~ 

e+https://eplus.jp/fnmnl-presents-3s/

※本公演は「ライブハウス・ライブホールにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」に基づいた対策を講じ、開催いたします。チケットのご購入、ご来場の際は「新型コロナウイルス感染拡大予防対策の実施について」を必ずご確認いただき、ご同意の上でチケットのご購入とご来場をお願いいたします。

また、ご来場予定のお客様は、必ず事前アンケートへのご回答をお願いいたします。
下記URLより、公演の当日にご回答ください。来場時は公演のチケットと来場者名簿登録時の自動返信メールを併せてご提示ください。https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfNnqKvE1IlJcP3eYS0iRs-___awAHx7EHckXob55UvjnWCAQ/viewform

公演詳細: https://www-shibuya.jp/schedule/013854.php

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