【インタビュー】大沢伸一|MONDO GROSSOは誰のものでもなく存在している

1991年に京都で大沢伸一をリーダーに結成されたバンドMONDO GROSSO。93年にメジャーデビューを果たしヨーロッパツアーも行うなど国内外で高い評価を得ていたが、96年にバンドとしては解散し大沢伸一が様々なアーティストをフィーチャリングするソロプロジェクトに変化した。それ以降はより柔軟かつ常にMONDO GROSSOらしさを探求しながら、"LIFE feat. bird"や"Everything Needs Love feat. BoA"などのヒット曲を長年に渡り生み出し続けてきた。

そしてMONDO GROSSO結成30周年を迎えた今年、大沢伸一自身の選曲によるオールタイムベストアルバムが本日リリースされた。ベストアルバムは、過去曲をそのまま収録するのではなく、本人によりリエディット、新ミックス、再ミックスされたバージョンが収録されており、常に今と向き合ってきた大沢らしいあり方が投影されているものになっている。FNMNLではベスト盤やMONDO GROSSOの30年間について大沢自身に話を訊いた。

取材:小鉄昇一郎

- ベスト盤『MONDO GROSSO OFFICIAL BESTのリリース、おめでとうございます。入門編というか、MONDO GROSSOを初めて聴いてみようと思う人にも勧められる内容・選曲ですよね。

大沢伸一(以下、大沢) - そうですね、ただ、今回のベストアルバムに限らないんですけど、僕はあまり聴く人のことを想定しないんです。ある商品を作るとして、どういうベンチ(目標)でどういう層に向けて、という発想と(音楽を作ることは)違うと思ってて。

 - アーティストもマーケティング的な思考を持とう、という昨今よく見られる姿勢とは違うんですね。

大沢 - 違いますね。もちろん、どんな人が僕の音楽を聴いているのかは気になるんですけど、時間を割いてそこを研究しても、作品に対して良いフィードバックはそんなにないと思うんで、あまりやらないですね。

- 一方で、MONDO GROSSOの音楽は、例えばアシッド・ジャズであったり、2ステップであったり、各時代のダンス・ミュージックのトレンド、流行りの新ジャンルを取り入れて来た訳ですが、そこもマーケティング的な発想ではない、ということでしょうか。

大沢 - 自分の肌感覚──その時その時の自分が好きなものをやる、っていう感覚でしかないですね。2000年にリリースしたアルバム『MG4』の時も、2ステップとよく言われましたが、取り入れたというより、シンプルにその時自分が好きなフォーマットを使った、という感じです。また、単に「これが流行ってるからやってみよう」じゃなく「僕がこれをやるならこうする」というのは常に考えてやってるつもりです。

- トレンドや新ジャンルに対して、一定の距離感を持って、大喜利のお題のような感じで捉えてると。

大沢 - まさにそうですね。大喜利大好きです(笑)

- この30年で、大沢さんはMONDO GROSSO以外にも、Shinichi Osawa名義でのアルバムも出していますし、SINGAPORE SWING、RHYME SOなどのユニット、AMPSというバンドでの活動なんかもありますよね。その上で、MONDO GROSSOのコンセプト、大沢さん自身が考えるMONDO GROSSOらしさというのはありますか?

大沢 - うーん、それが本当に、こっちが教えて欲しいくらいなんですよ(笑)音楽に限らずですが、何かを始める時って、偶発的に、探究心や情熱に突き動かされて始まるっていう事が多いと思うんです。でも、一度動き始めると、止まらずに動き続けること自体が目的化していって、今やっている事の本質って何なんだろう?と考えるような余裕って無くなると思うんです。MONDO GROSSOにしても、ジャズ・ファンクのバンドとしてスタートして、アシッド・ジャズのブームがあり、R&Bのブームがあり、でも定住することなく、また違う場所に移動して……だから、大きな「旅」をしているプロジェクトだ、とは言えるかも知れませんが、本質的に何なのかはまだわからない、と言う感じです。

- 特に今回リアレンジ&新たな日本語歌詞ボーカルの録音とで2バージョン収録されている、“Everything Needs Love(feat.BoA)”は、2002年リリースのオリジナル・ヴァージョンも含め、まさにMONDO GROSSOの歩みが感じられますよね。“Everything……”のオリジナルは、ストリングスやピアノが豪華な響きで入ってくる、ディスコっぽいアレンジでしたが、今回の新トラックはまた印象が違いますね。ドラムマシンやシンセベースがより前面に出ているような……。

大沢 - 2021年にこの曲を表現するならどうしよう、と思った時に、高音や中音がギラギラしているよりかは、ちょっと重心を下に移したアレンジでもいいのかなと。それでもなるべく、元の曲の雰囲気は活かすようにしました。先ほど、聴く人のことはあまり考えないとは言いましたが、そうは言いつつも、一度リリースした曲を上書きする、という事に関しては僕もちょっと慎重になりますね。リミックスなら何やってもいいと思うんですけど、アップデートってなると難しいですから。

- Disc 2の方は、他にもゲスト・ヴォーカルの曲が多いですよね。“光(feat.UA)”、“Shinin’(feat.kj)”と言った2000年代の曲もそうですし、それからやはり記憶に新しい、満島ひかりさんを迎えての“ラビリンス”、他にも齋藤飛鳥さん、アイナ・ジ・エンドさん等々……この人選には何かこだわりがあったのでしょうか?

大沢 - いや、人選には僕はあまりタッチしてなくて、ほとんどがスタッフからの提案ですね。MONDO GROSSOに関しては、自分の頭の中でプロット、ストーリー、音楽的な方向性を全て組み立てて表現するっていうフェーズは、僕の中ではもう終わっちゃってるんです。活動を初めて何十年と経って、MONDO GROSSOが僕のものでもない、かと言ってリスナーのものでもなく、誰のものでもなく存在している。だとすると、僕が僕だけのクリエイションで「次の作品はこうしよう」と決めていくのには、無理がある。そこで、スタッフをはじめ、音楽を作らない人の意見をどんどん取り入れて活動を再開したのが『何度でも生まれ変わる』というアルバムなんです。なので、僕が思いついたかどうかとか、MONDO GROSSOの音楽に親和性がある人かどうかとかはあまり重要ではなくて、どれだけ面白い化学反応がありそうか?という点を人選の基準にしています。

- スタッフ、チームの皆さんの意見をかなり重視しているんですね。

大沢 - そうですね。彼らは音を作らないが故に、自由に言ってくれるんですよね。もちろん「いや、それは音楽的にムリだよ」って僕が反論する時もあるんですけど、僕が出さないようなアイディアを出してくれることも多いんで……それは曲に限らず、ミュージック・ビデオとかでもそうなんですけど。

- そう言えば、“ラビリンス”のPVでの、満島さんのあのボーダーのシャツにざっくりしたサスペンダーのパンツっていうコーディネイト、あれは『迷宮物語』という大友克洋さんなどが関わった昔のアニメ作品に、あのスタイリングによく似たキャラクターが出てくるんですけど、あれって大沢さんなりオマージュなんですかですか?

大沢 - 『迷宮物語』っていうアニメがあるんですか?いや、それは知らないですね。スタイリストさんのアイディアかな?(画像検索して)ああ、似てますね。これは僕は全然知らなかったですねー。

- 大沢さんの知らない所で、そういう裏方やスタッフさんのアイディアが盛り込まれてるのは面白いですね。

大沢 - そうですね、スタイリストさんか、監督かわかりませんが。(編注 この後本MVのスタイリストにレーベルサイドから確認したところ全くの偶然であることが判明した)

- ゲスト・ヴォーカルの話に戻りますが“One Temperature”に参加しているBig-Oことオオスミさんが、今年1月に亡くなられましたよね。オオスミさんとの出会い、それから思い出などについて、是非聞かせていただければ……。

大沢 - オオスミくんとは長年、近い所にいながら接点はなかったんです。青山のLe Baronというナイトクラブがあったんですけど(2006年オープン、2015年に閉店)そこは当初は会員制で、音楽業界人、ファッション・芸能関係者なんかが夜な夜な集うような場所でして、オオスミくんとはそこでよく一緒になって、挨拶するようになったんです。だから、90年代の渋谷系とか、J-HIPHOPの流れより、後の時代になって交流が始まった感じですね。

- なるほど。

大沢 - それから、オオスミくんが吉井さんとMISTERGENTLEMANを始めてから数年、彼らのファッション・ショーでOFF THE LOCKERとしてDJをやったり、共通の知り合いも増えてきて、付き合いが徐々に始まってきて。それでMONDO GROSSOで『何度でも新しく生まれる』をリリースした時、オオスミくんと吉井さんが凄くアルバムを気に入ってくれて、ある雑誌で対談相手として僕を指名してくれたんです。そこでいろいろな事を話して、すごい意気投合して、距離が近くなって。僕も彼らがやってることに凄い共感を覚えたし、オオスミくんと吉井さんに、ファッションの観点から音楽を切り取るレーベルを立ち上げませんか?と話を持ち込んだんです。吉井さんもそうですけど、僕はとにかく、音楽を作らない人の音楽観、というものが凄い好きで。

- 先ほどの、スタッフからの意見の話にも繋がりますね。

大沢 - 一度音楽を作り出してしまうと、自分が作った音楽に執着してしまうケースが多いと僕は思ってて。そうじゃなくて、自分では音楽を作らず、音楽の「周り」にいる人の方が、音楽を純粋に、ピュアに探究できるんじゃないかと思うんです。吉井さんの音楽に対する審美眼も素晴らしいので「こういうことやりましょうよ、僕なんでもサポートしますんで」と持ちかけて、吉井さんも「それは面白い、僕も何か考えます」ってなって、WAVEの商標を取ってきたんですね。

(注:WAVEは、80~90年代にかけてのサブカルチャーの重要な発信地として注目されていたレコード屋。2000年代に入り、母体であるセゾングループ解体後は店舗も消滅していたが、2018年にMISTERGENTLEMANが商標権を取得し、新たなカルチャー・プロジェクトとして再始動した)

そこで『何度でも新しく生まれる』の続編的アルバムを出すので、その中で何か一曲やりましょう!という話から“One Temperature”はスタートしたんですね。その後も、本当は他にもいろいろ音楽をリリースしていこう、という話だったんですけど、その矢先にこういう状況(コロナ)になり、オオスミくんも亡くなり……。

- なんとも、残念ですよね。ところで、オオスミさんはラッパーですから含まれないと思うんですけど、「音楽を作らない人だからこそピュアに音楽が好きでいられる」というのは面白い見方ですよね。

大沢 - でも往々にしてそうじゃないですか?音楽を作り出して、それが世の中に認められ始めると、自分の作る音楽の世界にドップリとハマってしまって、他の人が作った音楽をあまり聴かなくなるっていう人って多いと思うんです。そうなると、その人にとっての音楽の旅っていうのが、自分で新しいものを作る、以外になくなっちゃう。僕もそういう状況になりそうだった事が何回もあるんですが、そうはなりたくなくて。常にそこのチェックは自分の中にあって、DJをやっていなかったら僕はもっと、そっちの方向、自分の作る音楽の世界の中だけに閉じこもる人になっていたかも知れませんね。DJをやるっていうのはまず、他の人の音源を聴く、っていうことなんで。

- DJにはサービス業的な側面もあるし、対外的なコミュニケーションが求められるから、という意味でしょうか?

大沢 - いえ、僕の場合はあまりサービスをしないDJだと思います。FPMの田中くんなんかは、サービス精神もあって、出来るだけたくさんの人をハッピーにさせるスキル、包容力、愛のある選曲術を持ってる。僕の場合は、エゴがそれを上回っちゃってて(オーディエンスに)意地悪になっちゃう。意地悪であり、僕なりの最大限の愛情でもあるんですけど。僕のDJのパーティにお金を払って来てくれる人には、それがどんなパーティであれ、僕が今一番好きだと思う曲を聴く権利があると思うんです。例えば地方で、まだ成熟しきっていないオーディエンスを前に、2年前に僕がハマっていた曲をかけるっていうのは、誠意のある行為じゃないと思うんです。ただ、そこで(まだ理解の得にくい、今のモードの曲をかけ続けて)フロアーが凍り付いて、僕の評価が下がったとしても、それは僕の責任ですよね。オーディエンスが原因じゃないです。

- FPMの田中さんと言えばオリンピックの式典でのDJが話題になっていましたが、もしも大沢さんがオリンピックでDJをやってたら……とんでもないことになりそうですよね(笑)

大沢 - いやー、事故が起きそうですよね(笑)まあでも人間なんで、そう言いつつも、常に揺れてる部分はあるんですよね。こんなに意固地になってどうすんの?って、ちょっと日和りそうになる時もあります。とは言え、自分の好きな曲、かけたい曲は譲れないし。結局、そこに自分がどれくらいエネルギーを込めれるかで、曲の伝わり方って変わると思うんで。だからやっぱり、自分の責任だなと思います。

- FNMNLは現行のラップ、ヒップホップを取り上げることが多いメディアですが、注目しているラッパーやプロデューサーなんかはいますか?

大沢 - 歌も唄うんで純粋にラッパーではないんですけど、ロンドンのJohn Glacierというアーティストとか、あとは普通にJPEGMAFIAなんかも聴きますが……でも、ヒップホップっていうものはもう、DNAとして至る所にあるじゃないですか。だから、何がヒップホップか、っていうカテゴライズがいよいよ意味が成さなくなってきてる時代なんじゃないかと思います。もう、ヒップホップっていうものは、フォーマットじゃないんですよね。もっと原点回帰して欲しいと願うベテランのラッパーもいれば、でも若い人たちにとってはそれは魅力的じゃなかったり、オールドスクールなものはローファイ・ヒップホップのように非常に耳心地のいい形で再解釈されてたり……僕はオールドスクールなものも、ビートの概念がどこにあるかわからないようなエクスペリメンタルなもの好きですが。

- それこそMONDO GROSSOの“偽りのシンパシー(feat.アイナ・ジ・エンド)”なんかは、トラップとハウスを行き来するような、MONDO GROSSOとしてのトラップに対する距離感、解釈みたいなものを感じさせますね。

大沢 - そうですね、あれは三種類くらいのテンポの考え方が一曲の中に入っているんですけど。一番遅いテンポ、その倍、更に倍、みたいな。ハーフ・テンポで躍らせるっていうことをリスナーに意識させたのはやっぱり、トラップ以降ですよね。トラップが出てきた頃よりもむしろ、今の方が僕はトラップ好きですね。今の方が進化している気がします。

- 確かに、USのラッパーでもトラップのノリのままヒップハウス的な、四つ打ちでラップする人なんかが増えましたよね。ちなみにローファイ・ヒップホップもチェックされているんですか?

大沢 - 騒ぎ出されてた頃はあんまり好きじゃなかったけど、今は普通に聴きますよ。僕、皆より遅いんですよ(笑)まあローファイ・ヒップホップよりはローファイ・ディスコ、ローファイ・ハウスみたいなものの方が聴いてますけど、そういうのも定義って曖昧ですよね。プレイリストを作る時に、単にそういう名前を付けてるだけ、みたいな。ローファイなんちゃらっていう「大喜利」ですよね。ローファイ・ポップスとかが出てくるかも知れないし。そういうものを自分で作っていくのも面白そうですね。

- Hyperpopなんていうのは最近、よく聞きますよね。

大沢 - それはどういうのですか?

- 100 gecsっていうデュオとか、日本だとhirihiriっていうトラックメイカーとかがいるんですけど、極端に割れた音像、過剰なオートチューンで……

大沢 - (検索して)これですか?ハッハッハ、これはなんかもう、イッちゃってますね(笑)

- ひと昔前なら、家具としてのスピーカーっていうものがショボくても一台くらいは各家庭あったと思うんですけど、もうスピーカーが家にないのが前提の世代と言いますか、スマートフォンのシャカシャカした音で聴いてこそ映える曲、みたいなセンスを感じるんですよね。

大沢 - へえ、面白いですね。まあ確かに、世界的にかどうかわからないけど、日本のポップスなんかでも、本当にスマホのスピーカーで聴くような、中域に全部が詰まった曲がどんどん増えてますね。これ良いスピーカーでちゃんと聴いたら耳痛いんじゃない?て思う音楽が多いですよね。コンビニとかで流れてると音像がちょうどいい、みたいな構造になってますもん。

- 大沢さんの音楽的なルーツは、70年代末から80年代半ばにかけての、ニューウェイブ~ポストパンクにありますよね。PiL、Talking Heads、The Pop Grouop、No New York一派などのバンドに代表される、パンク・ロックによってロックの固定観念が打ち壊された後の、自由な気風の中で登場した音楽ですよね。日本だとYMO、プラスチックス、それから大沢さんが少年期を過ごした関西だと、EP-4という京都発の伝説的なバンドですとか……大沢さん流のニューウェイブ論みたいなものがあれば是非お伺いしたいです。

大沢 - もちろん影響は受けていますが、今のSNS時代から考えると、ニューウェイブというものはかなり限定的なムーブメントだったと思います。ニューウェイブっていうものが持ってるエネルギーに対して、広がりっていうのはそんなに無かったと思います。ニューウェイブって音楽であり、ファッションであり、ライフスタイルでもあったんですけど、多くの人にとってはファッションとして捉えられていた気がしますね。

- なるほど。

大沢 - EP-4の5.21(83年に行なわれたライブ)の京都会館も僕行って、人は入ってましたけど、盛り上がってるかと言うと……盛り上がらないのがニューウェイブらしさだったりもするので(笑)異様な空気ですよね。拍手もなく、ドラッギーな感じもなく、皆、真っ黒なロングコートで揺れてる、みたいな……。それが僕の中での80年代──ニューウェイブの空気感みたいな感じもしますね。

- クラブ・カルチャー以前の、その中でも特にアンダーグラウンドなシーンだと思うんですけど、その感じは今、なかなか想像できないですね。

大沢 - ニューウェイブのその空気感ごと現代に再現するのは、かなり難しいでしょうね。本当にこれが好きならこれを突き詰めないといけないでしょ、という空気がアーティストにもオーディエンスにもあったので。スマホの時代に、その緊張感は難しい。今だとむしろ、現代アートのようなものに近いかも知れない。

- 単なる音楽ジャンルと言うよりは「運動」のようですね。

大沢 - あと、当時の京都は、まだまだ物理的に東京から遠かったんですよ。想像で物事を進めないといけない部分が大きかったんですね。純粋培養というか……EP-4は当時、本当に謎の存在で、EP-4のメンバーが経営するカフェがあって、昼間から真っ暗で、僕はウィルキンソンの辛いジンジャーエールをそこで初めてを飲んだんですけど、まあ、むせますよね(笑)とにかく日常感みたいなものが無い雰囲気でした。

- なかなか現在だと、アーティストがプライバシーを見せず、ミステリアスなイメージを保つのは難しいですね。

大沢 - ええ、これは現在の自分にも当てはまるんですけど、もうそういう時代でもない、とも思いますしね。自分の日常を晒しても、失われないような「本気度」、演じてない部分が問われるんじゃないかと思います。大沢さん、喋ってみると関西弁なんですね、でもやっぱりこの人尖ってるよな……とか。自分のアーティストとしての存在に嘘がないようにはしていきたいですね。

- ニューウェイブ、ポストパンクの影響を受けた世代で他に、例えばIllicit Tsuboiさん、田島貴男さん(Original Love)、大友良英さん、DOMMUNEの宇川直宏さんなんかがいると思うんですけど、皆さんニューウェイブの初期衝動みたいなものを今も持ちつつ、それを回顧的ではなく現代的な形で追求していると思うんです。大沢さんの作風にも、僕はずっとそれを感じておりまして……。

大沢 - ありがとうございます。

- それこそ、大沢さんも活躍した2000年代のエレクトロ・ブームは、前提としてニューウェイブのリバイバルがあって、!!!やDFA Recordsなどロック・シーンも巻き込んだムーブメントでしたよね。ファッション方面でも盛り上がって、大きなうねりのようなものがあったと思うんです。それが近年、なかなかクラブ・カルチャーからそういう動きが感じられない、見いだせない気がするんですが、大沢さんはどう思われますか?

大沢 - 2000年代半ばのエレクトロのムーブメントは、EDM前夜ですよね。ロック、ファッション、クラブっていうものが一番近かった時代で、そういう時代って歴史的にあまり無かったと思うんです。90年代の、クラブに行く事自体がカルチャーになり得た時代から、エレクトロのブームを経て、2000年代後半以降はどんどん普通のことになっていって……今後、そういうムーブメントがあるとしたら、もしかしたらそれはクラブではないんじゃないかという気もするんです。クラブに誰もが行くっていう時代が復活することは、ちょっと僕には想像しにくくて。特に、このコロナの状況も踏まえると、違う受け皿が必要な気がします。それは例えば、ビーチ沿いでやるフェスなのか、キャンプすることなのか、人数を限定したものなのか、オンラインなのか……まだわからないですけど。僕の原体験として、クラブがいい意味で危険な香りがあった時代──尖った人が集う、来る方にも自分の感度を研ぎ澄ます必要がある空間になって欲しいという希望もありますが、一方で、これ(スマートフォン)で全部の音楽が聴ける時代、そこで養われる感性に対して、はたして過去の時代がそれよりも豊かだったかと言えるかというと難しいですし。VRじゃないけど、そういう環境で音楽に没入してきた今の人が、音楽を楽しめるような空間を作っていく必要があるんじゃないかと思います。

- 現在の状況を否定するのではなく、まずそこを踏まえた上で考えていかなければならない訳ですね。

大沢 - また、例えば音楽ストリーミングの世界が過去最大収益みたいなことが報じられる一方で、ものすごく良いクリエイションをやっている人が経済的に苦境に立たされたり、非常にインバランスな状況になっている。本来、クオリティの高い音楽っていうものは、ある程度誰にでも共有できるものだと思うんです。ただ、そういうものがきちんと伝わるようなメディアであったり、システムであったり、ハコやカルチャーっていうものが必要だと思うんです。僕がそれを予測する立場ではないにせよ、確実にそれは誰かがやるだろうし、期待していますよね。

- では、大沢さん個人としての、今後の活動の予定や展望も教えていただきたいです。

大沢 - 実はMONDO GROSSOとして新しいアルバムを、今回のベストと並行してずっと作っていまして、来年にはリリースの予定です。Shinichi Osawa名義の制作も行なっていて……コロナ禍で制作のエネルギーが溜まりまくってて、どの名義でどう出すかあまり考えずにどんどん作ってるんです。それをとにかくブラッシュアップして、全力で取り組んでいきたいですね。

- ありがとうございました。

Info

MONDO GROSSO OFFICIAL BEST
2021.11.3 Release
【2CD+Blu-ray】 ¥4,700(税抜)RZCB-87056/B <初回限定紙ジャケット仕様>
【2CD】 ¥3,200(税抜)RZCB-87058 <初回限定紙ジャケット仕様>
CDhttps://asab.lnk.to/mgofficialbest2021cd

楽曲配信https://asab.lnk.to/mgofficialbest2021digi

Disc-1[CD]

ANGER (Rhymin’ for original) (MGOB RMSTRD)

VIBE・P・M (MASTERS AT WORK REMIX) (MGOB EDIT & RMSTRD)

SOUFFLES H (Live Version) (MGOB EDIT & RMSTRD) *初CD化

TREE, AIR, AND RAIN ON THE EARTH (NIGHT FIRE CARNIVAL) (MGOB EDIT & RMSTRD)

INVISIBLE MAN (ORIGINAL BROWN) (MGOB EDIT & RMSTRD)

FAMILY (Hiroshi Fujiwara Remix) (MGOB EDIT & RMSTRD)

Give me a reason (MGOB EDIT & RMSTRD)

Closer (MGOB RMSTRD)

LIFE feat. bird (MGOB EDIT & RMSTRD)

BUTTERFLY (MGOB EDIT & RMSTRD)

NOW YOU KNOW BETTER (MGOB RMSTRD)
Disc-2[CD]

BLZ (MGOB EDIT & RMSTRD)

Everything Needs Love feat. BoA (RE-NEW) *新バージョン                   

SHININ’ feat. Kj (MG + THE FLYING BED REMIX) *新リミックス

光 feat. UA (MGOB NEW MIX) *再ミックス

ラビリンス [Vocal:満島ひかり] (MGOB NEW MIX) *再ミックス

TIME [Vocal:bird] (MGOB RMSTRD)

惑星タントラ [Vocal:齋藤飛鳥(乃木坂46) (MGOB NEW MIX) *再ミックス

春はトワに目覚める(Ver.1)[Vocal:UA] (MGOB RMSTRD) *初CD化

偽りのシンパシー [Vocal:アイナ・ジ・エンド(BiSH)] (MGOB RMSTRD)

One Temperature [Vocal:Big-O] (Big-O Extra Rises)

KEMURI [Vocal:RHYME](CHILLIN’ DUB) *新リミックス

Everything Needs Love feat. BoA (RE-NEW JP) *新録バージョン

Disc-3[Blu-ray]

ANGER (Rhymin’ for original) *初ディスク化

SOUFFLES H *初ディスク化

Laughter in the rain *初ディスク化

LIFE feat. bird

BUTTERFLY

NOW YOU KNOW BETTER 

BLZ

Everything Needs Love feat. BoA

SHININ’ feat. Kj  

光 feat. UA  

ラビリンス [Vocal :満島ひかり]

TIME [Vocal:bird]

惑星タントラ [Vocal:齋藤飛鳥(乃木坂46)]

春はトワに目覚める(Ver.1)[Vocal:UA] 

偽りのシンパシー [Vocal:アイナ・ジ・エンド(BiSH)]

One Temperature [Vocal:Big-O] *初ディスク化

Everything Needs Love feat. BoA (RE-NEW JP) *新録日本語バージョンのMV

RELATED

【インタビュー】5lack 『report』| やるべき事は自分で決める

5lackが今月6曲入りの新作『report』をリリースした。

【インタビュー】BES 『WILL OF STEEL』| 初期衝動を忘れずに

SCARSやSWANKY SWIPEのメンバーとしても知られ、常にアクティヴにヒップホップと向き合い、コンスタントに作品をリリースしてきたレジェンドラッパー、BES。

【インタビュー】CreativeDrugStore 『Wisteria』| 11年目の前哨戦

BIM、in-d、VaVa、JUBEEのMC4名、そしてDJ/プロデューサーのdoooo、ビデオディレクターのHeiyuuからなるクルー、CreativeDrugStore(以下、CDS)による、結成11周年にして初となる1stアルバム『Wisteria』がついに発表された。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。