【インタビュー】LIBRO『なおらい』|素直に会える日が来るまで

LIBROが約3年ぶりのアルバム『なおらい』をリリースした。一本のミックステープのように聴くことができる本作は、前作『SOUND SPIRIT』発表後、ほどなくして制作が始まった。だがコロナウイルスの感染拡大から露わになった世界的な分断と断絶を目の当たりにして、制作と並行してその様子をゆっくり観察することにしたという。その上で自分が言えることは何か。本作にはそんな思いが散りばめられている。

シリアスだが同時にユーモアがありポップで踊れる音楽。時にヒップホップの言い方で、時にサイエンスな切り口で、時にタイムファンタジーで。2021年の日本に響く、傑作アルバムが完成した。

取材・構成 : 宮崎敬太

撮影 : 笹木晃

取材協力 : ULTRA SHIBUYA

来年はみんなで集まってお祭りや打ち上げをわいわいやりたいね

- 前作『SOUND SPIRIT』が2018年12月26日リリースなので、約3年ぶりのアルバムになります。

LIBRO - この作品は『SOUND SPIRIT』を出したあと、2019年くらいから既に少しずつ作り始めていたんです。自分的には年1枚くらいのペースでアルバムを出せたらいいなと思ってたから。だけど去年(2020年)は世の中的にいろんなことがあって。作ってる時は、コロナがすぐ収束するのか、ずっと続くのか、まったく読めなかった。そしたら既に書き始めていた曲の内容が世の中の流れと合わなくなってきちゃって。それで一旦世の中を観察することにしました。でも観察し続けてたら、逆にいつリリースしていいかタイミングがわからなくなっちゃって(笑)。でもある段階から「これはもうずっと続くな」と思って本格的に作り始めた感じですね。

- 今回の作品は、フラストレーション、分断、閉塞感に包まれた2021年の日本に必要なポジティブさがある作品だと思いました。

LIBRO - ありがとうございます。アルバムは1曲目の“ハーベストタイム”から作り始めました。曲自体はすごく昔からあって、それを大幅に加筆修正しています。ハーベストタイムとは収穫祭のこと。今は閉塞感でギューっとなってるけど「早くみんなで良い収穫祭を迎えたいね」って曲ですね。それぞれみんなやってることは違うけど「万事うまくいきますように」っていうお祈りみたいな。アルバム全体をそういう雰囲気にしたかった。で、日本で一番大切なお祭りと言ったら、僕はお米の収穫祭だと思う。そこからアルバムのタイトルにもなった“なおらい(直会)”というキーワードに辿り着きました。

- 不思議な響きの日本語ですが、“なおらい(直会)”とはどういう意味なんですか?

LIBRO - お祭りが終わったあとの打ち上げのことです。漢字では直会と書きます。僕は日本史が大好きで、日々いろいろ研究してる中で発見しました。もっと言うと収穫祭、つまり神事のあと、お供えしたものをみんなで飲み食いする会なんですね。スピリチュアルな儀式から現実に戻るという意味合いもある。そこで飲まれるお酒はだいたい日本酒。つまりお米ですよね。僕が好きな日本史の先生は直会を「素直になる会」と解釈してて。飲み会や打ち上げの場で日本酒を飲んでみんなが素直になる会って。これは良い言葉だなと思って、今回のアルバムのタイトルにすることにしました。あと僕自身がお酒が大好きなので(笑)。

- それに今はなかなか直接会えないから、余計にぴったりですよね。

LIBRO - そうそう。あと僕はお祭りに対する憧れがあって。自分がグイグイ参加するタイプじゃないんだけど。今は夏祭りも花火大会もないから寂しいんですよね。

- アルバムの最後に“ハーベストタイム Remix”を入れたのはなぜですか?

LIBRO - 今回は制作期間が長かったから、途中で1曲目の“ハーベストタイム”のあまりビートが入ってないイントロっぽいノリがしっくりこない時期があったんですよ。それで勢いのある強いやつも作ったんです。

- リリックの内容は同じなのに、全然違う曲のように感じました。

LIBRO - 収穫祭って毎年同じじゃないと思うんですよ。自然が相手だから来年はどうなってるかわからない。1曲目みたいに静かな感じの時もあれば、11曲目みたいな勢いが必要な年もある。それは人間の気持ちも一緒かなと思ってこういう構成しました。来年はみんなで集まってお祭りや打ち上げをわいわいやりたいねって。

本当は感情なんていつでも余裕で切り替えられる

- DJミックス音源のようにアルバム全曲が繋がっているのにはどんな意図が?

LIBRO - 基本的にはどの曲も1曲ずつ作っているんです。ある程度曲が出揃った段階で、1曲目から10曲目までグラデーションのように移り変わっていく様子を表現したいと思って、そこから曲を並べて、繋ぎ方を考えていきました。最近は曲単体で聴かれることが多いけど、アルバムを通して聴いた時にジワッと味わいが出る作りになったらいいなという意図もありました。

- なるほど。2曲目の“シグナル(光の当て方次第影の形)”はアイデアのひらめきについて歌っていますね。気分転換の歌というか。

LIBRO - あってると言えばあってます(笑)。この曲は去年世界各地でデモが盛んだった時期に作ってて。最初は訴えたいことがあってデモをしてたのに、いつのまにか略奪や暴動に発展してた。それを見てすごく悲しい気持ちになったんです。本来の目的から外れて感情に煽られた人たちがガタガタ動いてる。こんなの絶対に日本で起きてほしくない。じゃあ自分だったらどうするかな、というのを歌にしました。

- それは具体的にどういうことでしょうか?

LIBRO - 例えば、めちゃくちゃ白熱した夫婦喧嘩の最中に、出なければいけない電話がかかってくると、人間はパッと感情を切り替えられる。本当はそういうことが余裕でできる。にも関わらず、喧嘩を続けるのは、感情の赴くまま(喧嘩を)続けたいという欲求も同時にあるから。むしろ後者のほうが簡単。世の中にはそういう心理を知ってて煽ってる人が確実にいる。だから略奪を見た時、悲しい気持ちになりました。思う壺じゃんって。だから自分自身はこうやって曲にすることで切り替えて、晴れやかな気持ちになれるシグナルに気づいていたいなと。

- 先行曲“シナプス”は句潤さんとMU-TONさんが参加していますね。僕は“シグナル”の流れから脳内の自由な表現について歌ったのかなと解釈していました。

LIBRO - 句潤くんとMU-TONくんはバトルの現場で見ることが多くて。僕はビートを提供してたりもするから結構よく見に行くんですよ。2人が直接戦ってるのも何度も見てて。バトルにはいろんなスタイルの人がいるけど、2人の歌っぽいフロウがずーっと気になってて、いつか一緒にやってみたいなと思ってたんです。

- 実際に共演した感想はいかがでしたか?

LIBRO - アルバムの中では一番勢いで作れましたね。バトルしてる時の、脳内でピカピカっと生まれたひらめきを2人とも頭の中でどう結びつけてるのか、ってことに興味があったのでそのまま曲にしてます。最後の2人の掛け合いはその場で作ってくれて、自分(LIBRO)のバースからリリックを拾ってそこからの広げ具合が自由でスケールがでかくて流石でした。あと僕自身はバトルなんて絶対にできないけど、曲というか、音楽の中では2人と共感できる乗せ方があると思ったんですよ。また一緒に音楽作りたいですね。

鎮座DOPENESSは本物のミュージシャン

- “DJは縁結びの神さま”は「収穫祭」「直会」「思考の連結」といったここまでのキーワードをヒップホップ的に落とし込んだ曲ですね。

LIBRO - そうですね。それを踏まえつつ、僕がものすごくお世話になっているDJ TOZAONEくんに向けて書いた曲でもあります。僕のライブでバックDJをしてもらってた時期もあって。誰も知らないレコードから超レアで豪華なレコードまでいろんな音楽をいっぱい僕に聴かせてくれました。それに数年前、僕が精神的に一番参ってる時に「俺んちのレコード全部使っていいから音楽やれよ!」と、制作を再開するきっかけも作ってくれた恩人の1人です。現在闘病中の彼に、直接的に「がんばれ」とか言うんじゃなく、彼からもらった感動を自分なりの表現で曲にしたかった。

- なるほど。

LIBRO - DJってすごいと思うんですよ。「昨晩のDJに助けられた」と歌う名曲もたくさんありますよね。実際自分にもそういう経験があるし。DJがあまたある音楽をセレクトしてつなげて一晩を演出することって人生に通じると思う。プレイリストの中には親のレコード棚で知った曲もあれば、その場で初めて知る曲もあるわけで。DJがやってることは縁結びだなと。

- 続く“4つの力(The Four Fundamental Forces)”は前曲の流れからヒップホップの4大要素のほうを思い浮かべちゃいました。

LIBRO - 普通そう思いますよね(笑)。でもこの曲で言ってる4つの力は、重力、磁力、引力、謎の求心力のこと。引き合う力。音楽でも人でもなんでもいいけど、好きになるものはなんで好きになるのか。それって4つの引っ張り合う力が働いてるんじゃないかっていう。言葉もそう。発しただけじゃずっと中に浮いたまま。誰かに伝わって初めて意味が出てくる。そういうくっつく力に興味があったので、今回曲にしてみました。

- それは“DJは縁結びの神さま”にもつながりますね。LIBROさんのリリックは古代日本の収穫祭からサイエンスまでバラエティに富んでて面白いです。そして次の“ヤッホー”はまた全然違うタイプの楽曲です。

LIBRO - 鎮さんとはずっと一緒に曲を作りたかったんです。挨拶はこれまで何度もしたことあったけど、制作は今回が初で。でもこれを機にすごく仲良くなれました。

- 制作はどのように進めたんですか?

LIBRO - まず僕が1ヴァース目を作って送って、鎮さんが書いてる間にトラックを展開させたりして、2人でジワジワと完成させていきました。制作以外にも一緒に遊んだりもして。ある時、スタジオに入ったらたまたまモニターからチャゲアスが流れてきたんですよ。そしたら鎮さんが一緒に歌い始めて。しかもそれがめっちゃうまくて超かっこいい(笑)。

- 僕もFNCYか何かのライブで鎮座DOPENESSさんが歌謡曲を熱唱してるのを聴いたことありますが、ラップのグルーヴ感がそのまま歌に落とし込まれてて、めちゃくちゃかっこよかったの覚えています。

LIBRO - そうそう(笑)。歌唱力が半端ないですよね。中盤の掛け合いはレコーディング当日に鎮さんが即興で作ったんですが、あの人は一緒にいる人を解放させる力を持ってると思う。「俺もやっちゃっていいのかな? ……やっちゃおう!」みたいな謎の勇気をもらえちゃうんですよね。しかも別に鎮さんからそういう応援されたわけでもなくて。同じ場にいるだけでそういう気持ちになってくる。触発されるというか。あの人は本物のミュージシャンだなと思いましたね。

LIBRO - どんな考え方でも、どんな人種でも、音楽を聴いてるその瞬間の感覚は融合できる

- “気が散るもの遠ざけてチル”や“小道を行けば”はメロディが個人的にすごく好きな曲です。LIBROさんは普段どのようにメロディを作っていくんですか?

LIBRO - 色々ビートを作ってて、「これいいな」と思う部分ができたらメロディを作り始めるんですよ。そこに鼻歌でメロディをつけていく感じかな。でも集中してないと全然出てこない。あと言葉ですね。単語。とっかかりだから、面白い響きとか、リズムとかなんでもいいんですよ。鼻歌にカチッとハマる単語が見つかると、韻を揃えたりして、前後がいろいろ決まってきて、そこから内容を作っていく。逆に言うと、そのハマる言葉が見つからないと全然進まないです(笑)。

- “小道を行けば”はMVも公開されましたね。

LIBRO - そうなんです。“気が散る〜”は瞑想の曲で、“小道〜”は散歩の曲。僕はいつも自宅で制作しているんですが、夕方になると気分転換に散歩するんですよ。神社でお参りして、近所をグルッと一周。たまに「この夕日は子供の頃に見た色味と一緒だな!」みたいなこともあって。そういう心の中でうわっとなる感覚をどうにかできないかなと思って書いた曲ですね。歌詞でそのまま「散歩」と言ってしまうとつまんないから、自分の人生に重ねてみました。僕は自分でも「(人生の選択肢で)小道を選んでるなー」と思うんですよ。でも僕は最短ルートで行きたいわけじゃない。好きな道を通っていきたい。想像力が発揮できる道を歩きたい。人通りの多さは関係なくないですか? みんなが行きたい道に行ければいいねって、そういう曲にしたかったんです。

- MVのコンセプトはそこから?

LIBRO - テーマはそのまま散歩なんですけど、監督と相談して、あまり郷愁みたいなほうに引っ張られすぎない感じにしました。ただ小道を行く上ではいろんな葛藤が出てくるはずで、だから自分はそれをリセットするために毎日散歩に行くんですね。そしてまた小道を行く。この曲を聴いて、ちょっと迷ってたり、不安を感じてたりする人が安心してくれたらいいなと思います。

- そしてタイトルトラックの“なおらい(直会)”です。

LIBRO - この曲はさっきも少し話したけど、“なおらい(直会)”はお酒のイメージ。直会する時は日本酒をみんなで分け合う。家族や仲間と土地のご飯を食べながら。みんな素直になって。収穫祭まではみんな頑張ってきたから、打ち上げの時にその苦労も分かち合う。今現状の日本がこんな有様だから、未来はそういう感じになってほしいなって気持ちがあるんですよ。

- 分け合うって重要だと思います。再配分というか。それはいわゆる富裕層だけの話じゃなくて、市井の僕らも常に自分の持ってるものをちょっとずつ分け合うことが、この深刻な分断の解消には大事だと最近感じてて。実際できることは少ないんですが、それでも。

LIBRO - わかります。世の中を見ると、分断を煽ってる人たちばかりのように思えるかもしれないけど、「違うから! 俺らが普通だから。全然大丈夫だよ」と言いたかったんですよ。悪い気持ちに飲まれちゃってる人には届かないだろうけど、せめてヒントになれたらいいなとは思う。(SNSばっかやってたら)体壊しますよって(笑)。内側から自分にダメージを与えてる気がするんですよね。

- そして“プレイリスト”は多様性について歌っています。

LIBRO - この曲も作ってる時は「出した時にコロナが終わってたら、良いのになあ」と思ってましたね。あの時は大変だったけどって懐かしめたら、と。まあ結局全然収束しなかったんですけど(笑)。みんなもう忘れてちゃってるかもしれないけど「前は楽しくやってたじゃん」と思うんですよ。

- 「ジャンルや先入観崩す」というリリックがすごく好きです。

LIBRO - 僕だってある部分ではものすごく偏った考え方を持ってる。だけど音楽の中には壁がないと思うんです。どんな考え方を持ってても、どんな人種でも、音楽を聴いてる時は関係ない。その瞬間の感覚は融合できる。それ以外はまったく分かり合えないような人とですら「この人もやっぱ同じ人間だった」と思い出せる。そういうことを定期的に思い出して確認してほしいんですよ。現実世界でぶつかり合ってても、音楽を聴いてる時は小休止。音楽の好みは思想と関係なところにあるとまでは言いきれないけど、音は(物理的に)ぶつかりあわない。重なるんです。そこが一番良いところで好きなところ。そういう意味で、まだ音楽を諦めたくない。伝えたい。分断には負けたくないです。

- 『なおらい』は2021年の日本に響く作品だと思います。

LIBRO - 自分みたいな感覚の人がこのアルバムを聴いてちょっと勇気を出してもらえたら嬉しいです。きっと昔の僕が今この状況に遭遇してたら感情の波に飲まれて喧々諤々やってたと思う。でも今は違う。だからこそ伝えられることがある。物質的に助けることができないけど、追い風を吹かせたい。それが自分が音楽をやってる理由だし、このアルバムを作ったモチベーションなんです。

Info

Artist : LIBRO (リブロ)

Title : なおらい (ナオライ)

Label : AMPED MUSIC

Release Date : 2021年09月08日(水)

Format : CD/DIGITAL

Price: 2,500YEN + TAX(CD)

URLs: https://ultravybe.lnk.to/naorai 

収録曲

1. ハーベストタイム

2. シグナル (光の当て方次第影の形) feat. 元晴

3. シナプス feat. 句潤, MU-TON

4. DJは縁結びの神さま

5. 4つの力 (The Four Fundamental Forces)

6. ヤッホー feat. 鎮座DOPENESS

7. 気が散るもの遠ざけてチル

8. 小道を行けば

9. なおらい

10. プレイリスト

11. ハーベストタイム Remix

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