【ライブレポート】折坂悠太 『<<<うつつ>>>』| 現代のオルタナティヴを探る

6月3日・4日、折坂悠太の単独公演『<<<うつつ>>>』が大阪BIG CATと東京USEN STUDIO COASTで開催され、東京公演はスペースシャワーがプロデュースするLIVEWIREにて生配信された。折坂にとってはおよそ1年半ぶりとなる有観客の単独公演。その間、折坂はテレビドラマの主題歌ともなった“朝顔”を引っ提げていくつかの音楽番組に出演したほか、CMにも楽曲が使用されるなど、この1年半で着実に活動範囲を広げてきた。

その一方で、近年の折坂はニューアルバムに収録されるであろう新曲を軸にしたライヴを続けている。先日折坂にインタヴューした際、“朝顔”ではJ-POPの様式をあえて意識したと話していたが、ライヴで少しずつ全貌を明かしつつある新曲群では、時にポップミュージックの枠組みから大きくはみ出しながら、自身の歌世界を再構築しようとしている。そうした意欲に溢れた新曲に初めて触れたとき、「今の折坂がめざしているものとは何なのだろう?」といういくらかの戸惑いさえ覚えたものだった。

本公演を観たあとに自分のなかで浮かび上がってきたのは、今の折坂は「現代のオルタナティヴ」なるものを掴み取ろうとしているのかもしれない、ということだった。それは音楽スタイルとしての「オルタナティヴ」の探究でもあるのだろうし、(NiziUや三浦大知と同じ音楽番組に出演しながらも)ひとりの音楽家として現在の日本において「オルタナティヴ」であり続けようという、ある種の決意表明でもあるのかもしれない。現在の折坂悠太はそのようにいくつかの意味で新たなフェイズへと突入しつつあるのだ。

なお、今回の2公演は京都在住のミュージシャンで構成される「重奏」編成でのパフォーマンスとなった。yatchi(ピアノ)、senoo ricky(ドラムス)、宮田あずみ(ベース)、山内弘太(ギター)に加え、ハラナツコ(サックス)、波多野敦子(ヴァイオリン)、宮坂遼太郎(パーカッション)がサポートプレイヤーとして参加。映像演出としてVIDEOTAPEMUSICが、カレーのパフォーマンスとして咖喱山水が加わった布陣である(なお、筆者は4日に開催された東京USEN STUDIO COASTの公演を配信で視聴した)。

photo by Yukitaka Amemiya

オープニングを飾るのは、VIDEOTAPEMUSICのディレクションによる映像である。何気ない日常風景が繋ぎ合わされるなか、メンバーのインプロヴィゼーションが重なり合っていく。「重奏」編成と以前の「合奏」編成の大きな違いは、インプロヴィゼーションが重要な要素となっている点にある。近年の折坂はルーパーやエフェクターも使用した即興演奏を含むライヴ配信をInstagramで行っており、そうした近年の試みがオープニングから示されたわけだ。

インプロヴィゼーションはやがて映画『泣く子はいねぇが』 の主題歌である“春”へと流れ込んでいく。シンプルなコード進行のなかで、呪術的ともいえる歌の風景が広がる。口上とポエトリーリーディングの中間のような歌唱が強い印象を残す新曲“心”の後半からはジャムセッションへ突入。さらにはライヴの定番曲である“芍薬”へとなだれ込む。このあたりのスリルはジャムバンド的ともいえる。

「おばんでございます。アミューズ所属32歳、折坂と申します」――いつものように折目正しい折坂のMCに、ようやく会場の空気が緩む。緊張と緩和は折坂のライヴの醍醐味でもあるが、一気呵成に押し進めるここまでの流れは圧倒的なものがあり、モニターを前にした配信ライヴであっても会場の空気の変化が伝わってくる。

続く“荼毘”も新曲。捉えどころのないメロディーがふわふわと漂う、現在の折坂らしい曲だ。ボサノヴァ的ともいえるかもしれないが、呪文のようなフレーズが唐突に盛り込まれたり、山内によるノイジーなギターが差し込まれたりと、極めて歪な楽曲である。“朝顔”がJ-POP的な様式をあえて踏襲した楽曲だとすると、“心”やこの“荼毘”といった新曲は、先にも触れたようにその様式から大きくはみ出すもの。“春”にしても歌自体はポップスというよりも祝詞や神唄に近い。折坂は今、そうした極端なまでの振り幅のなかに自身の歌のあり方を見い出そうとしているのだろう。

しっとりと“朝顔”“針の穴”“トーチ”を聴かせたあとは、ふたたびVIDEOTAPEMUSICの映像が映し出される。咖喱山水がリアルタイムでカレーを作る映像が重なり合い、さらには山内と波多野のインプロヴィゼーション、折坂のポエトリーが乗る。折坂の歌とインプロヴィゼーションが密接に結びつくことで、ひとつの舞台劇のように大きな流れが生み出されていく。

ルーパーを活用しながら折坂ひとりで奏でられる“轍”は、どことなく民謡的でもあるし、南米のフォルクローレ的でもある。「もう我慢しない」というフレーズの繰り返しに、コロナ禍ならではの切実なものを感じたのは僕だけではないはずだ。続く“道”は初期からの代表曲だが、ここではオリジナルとまったく違うアレンジで披露。浮遊感あるコード展開と抑制の効いたアレンジに、2021年ヴァージョンの歌の風景が広がる。

ここからは新曲が続く。あまりにも独特なアフロビート“鯱”、“トーチ”あたりにも通じる真摯なバラード“炎”、ノスタルジックな昭和歌謡調の“星屑”と、いずれもその表情は大きく異なる。現代のオルタナティヴを探る折坂は、現代日本における大衆音楽のあり方も模索しているのかもしれない――この3曲を聴いていて、そんな思いも沸き上がってきた。ただし、折坂の歌においてオルタナティヴであることと大衆音楽的であることは相反しない。その両面が溶け合い、ひとつになっている。そこに唯一無二の魅力があるのだ。

本編のラストはVIDEOTAPEMUSICの映像を背景に歌われる“さびしさ”。アンコールでは“よるべ”“坂道”というお馴染みの楽曲が披露され、最後はカレーを食べる折坂のアップで終了。演奏時間でいえば約90分ほどの長さだが、かなり濃密な演奏だったため、時間以上の充実感があった。開催にあたってSNSには折坂の「コロナ以前にもまして、ライヴが楽しい。今ここを生きる事だとわかったから。そして、これからも続けたい。すごく楽しいから」というコメントがアップされたが、確かにこの日の折坂は、ステージに立つ喜びを爆発させているようにも見えた。

折坂はこれまでひとりのシンガー・ソングライターとして高い評価を得てきたが、現在は重奏のメンバーを中心とする音楽集団によって新たな音空間を創出しようとしている。そこにはひょっとしたらコミュニティーミュージックに関する折坂なりの意識が反映されているのかもしれないが、そうした意識はいずれ届けられるであろうニューアルバムで明確にされるはずだ。(大石始)

この日の模様は6月13日(日)までアーカイブ配信中。チケットは同日21時までLIVEWIRE WEBサイトにて販売されている。

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