【コラム】 Styles from the Scene Vol. 1 |『僕らのままで』

映画の印象的なラストや、ドラマのハイライト、またはミュージックビデオなdでも作品の中の人物のファッションに魅了されたことがある人は少なくないはずだ。この連載ではそんな記憶に残る様々なシーンを基に、インディペンデントファッションマガジン『STUDY』の編集長である長畑宏明が新しいスタイリングを提案するというもの。アイテムのチョイスはオンラインセレクトショップのSSENSEから行われている。

日本でもじわじわと人気になりつつあるルカ・グァダニーノ監督のHBOドラマ『僕らのままで』。ティーンたちを温かく見守るルカ監督の眼差しと、フレドリック・ウェンツェル(『ザ・スクエア 思いやりの聖域』)らによるリアリティ溢れる映像、Dev Hynesが選曲を手がけた劇中歌。本作において褒め称えるべきポイントはいくつでも(本当にいくらでも)挙げられるが、中でも、主人公・フレイザーのファッションは画面に重要な「彩り」を与えている。RAF SIMONS、COMME des GARÇONS、Bernhard Willhelm、デムナ・ヴァザリアによるBALENCIAGA……エピソード3の冒頭で「安くて おしゃれだけどすぐに飽きる洋服は嫌い。僕は意味のあるものが欲しいんだ」と親友のケイトリンに言い放つフレイザーは、華のあるハイファッションを現実的なスタイルに落とし込む達人だ。

そのスタイリング力はエピソード1の冒頭で早くも発揮される。ニューヨークからイタリアに移住してきたばかりの彼は、オレンジのフーディにレオパード柄のショーツ、赤のスニーカーという出で立ち。ニューヨーク出身らしいハイエンドな質感を残しつつ、北イタリアの自然とも馴染んでいる。そこで彼は「うう、暑いな〜!」といって空港でおもむろにオレンジのフーディを脱ぎはじめ、Brian Calvinによる女性の肖像が描かれたRAF SIMONSのTシャツ姿になるのだが、フーディを脱いだあとのバランスまで文句の付けどころがなくて痺れる。うん、君は世界一おしゃれなティーンだ。

というわけで今回は、『僕らのままで』からインスピレーションを得て、フレイザー本人の好みを念頭に置きつつ、日本と北イタリアの空をつなぐ意識でスタイリングを組んでみた。色合いに関して、一般的な日本人が好む黒を意識的に排除してはいるものの、全体的に優しいトーンで揃えつつ、洋服の形状もオーセンティックなものに絞っている。想定する着用シーンはあくまで日常。誰のためでもない、自分のために。

ルック①(写真左)解説

1つ目のルック(左)は、配色が珍しいクレイジーパターンのビッグサイズ半袖シャツに、中は長袖Tシャツをはさんで、膝上ショーツとハイカットのコンバースで軽やかにまとめた。ノンバイナリーなフレイザーなら、ジェレミー・スコットが手がけるMOSCHINOというブランド選びにも共振してくれるはず。ジェレミーはハイファッション業界の中で異端という扱いを受けがちな存在だが、マクドナルドなど「非ファッション的な」モチーフを大胆に採用する手法は、ミケーレやデムナが覇権をにぎる現在のシーンに大きな影響を与えたといっても過言ではない。つまり、彼はけっして異端などではなく、ただ「早い」のだ。フレイザーもまた、聡明でセンスが良すぎるがゆえにまわりから浮いている。そんな両者がファッションを通じて邂逅するさまを、私はつい妄想してしまう。

※クレジット

シャツ:

Moschino Multicolor Colorblock Geometric Logo Short Sleeve Shirt

ロングTシャツ:

Noah White New Order Edition 'Bizarre Love Triangle' Long Sleeve T-Shirt

ショーツ:

Phipps Brown Cotton Twill Dad Shorts

スニーカー:

Comme des Garçons Play White Converse Edition Polka Dot Heart Chuck 70 High Sneakers

※ルック②(写真右)解説

2つ目のルック(右)は、キース・ヘリングとÉtudesのコラボジャケットを主役に、ピンク色の空に雲が浮かんでいるようなラウンジパンツとつっかけ仕様の白スニーカーを合わせた。アクセントには、赤いビーニーと茶色のTシャツを。ついシンプルなものと合わせて中和しようと考えがちなアーティストコラボのアイテムだが、そうすると逆に悪目立ちしてしまうので、別ベクトルでデザインの強いものをあてた方が全体のバランスが成立しやすい。また、各アイテムの色味は、同系色のグラデーションの中からあえて適当に選んでいる。完璧に色を拾いすぎないくらいが日常着としては自然。フレイザーの格好だって、何より「パッと着た感じ」が再現されているところが美しいのだ。

※クレジット

トップス:

Études Off-White Keith Haring Foundation Edition Excursion Jacket

Tシャツ:

Marc Jacobs Brown Heaven by Marc Jacobs Distorted T-Shirt

パンツ:

Phlemuns Pink Track Lounge Pants

スニーカー:

Sunnei White Leather Lace-Up Dreamy Sabot Sneakers

ビーニー:

Carhartt Work In Progress Red Watch Beanie

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