2019年上半期ベストアルバム 40 Selected by FNMNL編集部

2019年上半期を終え、今年も様々なアルバムがリリースされた。その中から、FNMNL編集部によってベストアルバムとして厳選した40枚をコメントと共に紹介していく。登場順序は作品名のA~Z順となっている。

1. Rico Nasty, Kenny Beats - Anger Management
今年を代表するプロデューサーといえばKenny Beats。EDM出身らしい楽曲の構成力と、フロア映えバッチリの硬質なトラックは、間違いなく2019年を象徴するサウンド。そしてそのKenny Beatsのエネルギッシュなトラックに一番合うラッパーはRico Nasty。その2人のタッグ作が悪いはずもなく、圧倒的にフレッシュなバンガー揃いで本当に最高でした。(和田)

2. Kevin Abstract - ARIZONA BABY
ついに今夏のSummer Sonicで初来日を果たすBrockhamptonのフロントマンKevin Abstractの通算3作目となるソロアルバム。自己発見とアメリカ社会をテーマとした今作も、前作に引き続きジャンルレスなサウンドとKevinの内省的な歌詞が際立つ作品となっている。(早坂)

3. Leon Fanourakis - CHIMAIRA
今やシーンを代表する若手ラッパーの1人となったLeon Fanourakisが満を持してリリースした1st アルバム。アルバム全編を通してハードなビートが鳴り響くため、少々代わり映えしない印象を抱くかもしれないが、Leonの多彩なフロウに加えAnarchyやHigher BrothersのPsy P、Meloなど豪華フィーチャリングアーティストのラップにより上手く飽きさせない作りになっている。逆に、少し変わったテイストの楽曲をいれず、一貫して全て重いベースのトラップというスタイルでここまで作り上げたのは評価に値する。そこに関して言えば、Leonのラップのスキルはもちろんのこと、盟友YamieZimmerやChaki Zuluのビートがあったからこそ、ここまで完成度の高いアルバムになったと言えるだろう。(早坂)

4. GoldLink - Diaspora
2年ぶりのリリースとなった待望の新作アルバム『Diaspora』。Tyler, the creatorやjay prince、Wizkidなどが参加した今作は、”U Say”や”Yard”などトライバル調なダンスミュージック、ダンスホールといったトラックを入れつつも、“Rumble”や”Maniac”といったハードな側面も見せる、ジャンルレスなスタイルが印象に残った作品だ。(高田)

5. Megan Thee Stallion - Fever
XXLの恒例企画Freshmanにも選出されたMegan Thee Stallionによる1年ぶりのニューアルバム。パワフルな印象をより強調させ、力強いバースで聴き手を圧倒させる、彼女の存在が際立ったアルバムとなっている。中でも客演にDaBabyを迎えた”Cash Shit feat. DaBaby”は、互いにFreshmanにも選出されている新鋭ラッパーであり、いい相性を前面に押し出している。(高田)

6. Flume - Hi This Is Flume
Flumeの中でも最も攻撃的なサウンドのアルバム。特にHigh Beams(feat. slowthai)での無機質な高音にのせたslowthaiのラップや、Voices (feat. SOPHIE & Kučka)やUpgradeで現れるブツブツと切れる暴力的なビートには要注意。(島田)

7. Skepta - Ignorance Is Bliss
ついにリリースされた、イギリスのグライムシーンを代表するラッパーの1人であるSkeptaのニューアルバム。今作では、前作の『Konnichiwa』からグライムらしい無機質な要素を残しつつも、USのトラップの要素も加えたような楽曲が多く、アメリカでの知名度も高いSkeptaの戦略を感じるとともに、全体としてうまくアップデートされている印象だ。曲の上では相変わらず彼らしい歯切れの良いラップが披露されているが、リリックに注目してみると自身が子供を授かったことなどもあってか、かなり内省的な歌詞もあり、その変化に注目して聴いてみても面白いかもしれない。(早坂)

8. Tyler, the creater - IGOR

9. LEX - LEX DAY GAMES 4
16歳の新鋭ラッパーLEXのデビュー作。アルバム全曲合わせて19分と比較的短い作品となっているが、メロウなものからハードなものまで様々なカラーの曲を盛り込んでおり全編を通して彼のたぐいまれなる才能を感じさせる作品だ。全てタイプビートを利用した楽曲だが、まだ16歳とは思えない彼自身の多様なフロウやリリックセンスも相まって、1曲1曲の完成度が非常に高くなっている。(早坂)

10. Santi - Mandy & The Jungle
今作がデビューアルバムとなるナイジェリアのシンガーソングライターのSanti。軽やかなビートにトロピカルな雰囲気漂うフレッシュなサウンドが多く収録されており、全体的にメロウなトラックが多いのが印象的だ。見事に素晴らしいデビューとなったSantiの今後も目が離せない。(高田)

11. Chemical Brothers - No Geography
今年のFUJI ROCK FESTIVALにも出演したChemical Bothersによるニューアルバム。一曲一曲が初期の「Exit Planet Dust」を彷彿させるような作品となっており、勢いのあるブレイクビーツを炸裂。また”Eve of Destruction”のボーカルには、ゆるふわギャングのNENEが参加しているなど、意外な面も見られた。(高田)

12. Loyle Carner - Not Waving,But Drowning
サウスロンドン生まれのラッパー、Loyle Carnerによるセカンドアルバム。彼の繊細でありながら淡々と繰り出されるライミングがメロウなビートと合わさる事で、絶妙なノスタルジーを与えている。ロンドンを牽引する同世代のTom Misch、Jorja Smithもゲストとして参加している。(小出)

13. slowthai - Nothing Great About Britain
ルックスの悪ガキ感もたまらないslowthaiの1stアルバム。ビートのバリエーションも、そのルックスにふさわしいソリッドでダーティーなものばかり。"Inglorious"における動のslowthaiと静のSkeptaのフロウの対比もバッチリだが、個人的にはMura Masaが手がけた"Doorman"がベスト。このスタイルで1作品作ってくれないでしょうか。(和田)

14. 田我流 - Ride on time
7年ぶりのソロアルバムとなった新作は、モダンなサウンドを巧みに取り入れながらも、家庭を持つなど自身にあった変化や、その中にある苦悩などを田我流らしい力強い言葉に落とし込んだ会心作。制作期間中に出会った人々をプロデュースや客演で招くという、ある意味で危険な賭けも必然的なラインナップにみえるというのも、さすがだ。時代に乗らされた作品ではなく、しっかりと自身の方向に波を引き寄せている。(和田)

15. Young Nudy, Pierre Bounce - Sli'merre
これまでもPlayboi Cartiとの名タッグなどで存在感をみせつけてきたPi'erre Bourneが、今年選んだパートナーは21 Savageの従兄弟であるラッパーのYoung Nudy。これまではダークなビートチョイスが印象的だったYoung Nudyに対しPi'erre Bourne印といえる軽い浮遊感を伴ったトラックが、バッチリはまり新境地のフロウを引き出している。アルバム・コンセプトという概念が死につつあるアメリカのラップシーンにおいて、サウンド面において上半期コンセプチュアルだった作品といえるだろう。(和田)

16. VaVa – VVORLD
多くのリスナー待望となったVaVaの2ndアルバム『VVORLD』。一曲目からラストにかけて彼が作り出す世界の中を旅するようなコンセプチュアルな構成もさることながら、一貫してパーソナルな独白をキャッチーで誰もが共感出来るように聴かせるバランスは彼ならでは。『MOTHER』サンプリングの“現実 Feelin’ on my mind”は今やアンセムとなっているが、VaVaという存在がナードなヒップホップヘッズたちに与える希望は大きいはずだ。(山本)

17. Solange - When I Get Home
「原点への探求」をテーマとし、自身の故郷ヒューストンに思いを馳せた作品。Pharrel Williams、Earl Sweatshirt、Playboi Cartiなど大物達をゲストとして招きながら、直感的かつ流動性を強く感じるアルバムに仕上がっている。リリースとほぼ同時に公開されたショートフィルムからは、これからの新しい音楽の在り方を模索しているように思える。(小出)

18. Billie Eilish - WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?
Billie Eilishを名実ともにスターへと押し上げた1stアルバム。サブベースを強調したトラップ以降のサウンドをポップミュージックに取り入れる手法が一般的なものとなる中、今作のミックスのバランスは一つのスタンダードを確立した感もある。その発言やユニークなキャラクターなども含め、2010年代のカルチャーの中で同時多発的に注目されたトピックやコンセプトがBillie Eilish一人の登場によって一気に集約され(ポップのフィールドで)顕在化した、という点でも彼女は重要な存在だ。今作を語る言葉には「ベッドルームで作られた音楽が世界へ」のようなクリシェも散見されるが、そういった分かりやすい「新しさ」より、むしろ2019年における「当たり前」を改めて世界に示したことこそがBillie Eilishの功績ではないだろうか。(山本)

19. Denzel Curry – ZUU
ゴスでダークな前作『TA13OO』とは一転、ギャングスタラップ的なアプローチを採ったDenzel Curryの新作『ZUU』。本来90年代のサウスやGファンクへの強い思い入れを持つ彼のラッパーとしての身体性や高いラップスキルを存分に味わうことが出来るアルバムだ。Tay Keithプロデュースの“AUTOMATIC”やRick Rossをフィーチャーした“BIRDZ”、そしてラストを飾る“ P.A.T.”は爆発的なバンガーチューンとなっている。そして特にキャリア初期から彼を知るファンにとっては、古巣であるRaider Klan、そしてそのリーダーSpaceGhostPurrpへオマージュを捧げたインタールード“BLACKLAND 66.6”は涙無くして聴けないはず。(山本)

20. Lil Nas X – 7
今年の上半期、良くも悪くも最も話題をさらったのは間違いなくLil Nas Xの“Old Town Road”だろう。ジャンルという枠組みに囚われないこの楽曲は、新たな時代の到来を感じさせた。そんな楽曲を収録したのが彼のデビューEPである『7』だ。正直、完成度の面から見るとイマイチな印象だが“Panini”のような流行を追った曲もあれば、つづく“F9mily (You & Me)”は入りから完全にロックで彼はもはや歌っている。“Old Town Road”で彼が見せたジャンルレスな姿勢がこの作品にも反映されていると言えるだろう。しかし、ここまで振り幅があると逆にコンセプチュアルな作品を作るのは難しくなっていきそうだが、その辺のバランスを上手く調整するのがLil Nas Xの今後のポイントかもしれない。(早坂)

21. Steve Lacy – Apollo XXI

22. James Blake – Assume Form
昨年、自身が”sad boy”と評される事に対して男性が感情を吐露する事に対する不健全な意見だ、と批判したJames Blake。このステイトメントからも感じられるように、本作では彼自身の成熟と強い自信に溢れている。これまで培ってきたメランコラリックな表現方法を土台に、Travis Scott、Andre 3000など大物アーティストを招き、これまで見られなかったような大胆な楽曲にも果敢に挑戦している。(小出)

23. Nav – Bad Habits

24. Freddie Gibbs & madlib - Bandana

25. Devin Morrison - Bussin'

26. ScHoolboy Q – CrasH Talk
シーン随一の変わり者ScHoolboy Qが(リリースが被ったBTSに文句を言うほどの)気合いを込め、満を持してリリースしたアルバム。盟友Mac Millerの死によってリリースが延期されるなどネガティブな話題もあったが、アルバム自体は高い評価を得た前作『Blank Face』と比べ肩の力が抜けたのかコンパクトな作品に仕上がっている。フィーチャリングのKid Cudiの色が前面に出た “Dangerous”も印象的だが、Travis ScottやLil Baby、21 Savageら新世代のスターたちを迎えた楽曲たちも風通しの良い感覚に満ちている。何より一曲目“Gang Gang”の始まり方がカッコいい。(山本)

27. Dos Monos – Dos City
HIPHOPという形を借りた新ジャンル。不協和音が多いのに何故か聴き入ってしまい、一気にDos Monosワールドに引き込まれるセンセーショナルな一枚。(島田)

28. Octavian – Endorphin
『Endorphin』はOctavianのキャリアの中でも、様々なジャンルを行き来する彼のスタイルが特に強調された作品だった。OctavianはUSへの接近が顕著な現行UKラップシーンの中でも特に国やジャンルの垣根を超えたアーティストだが、今作でもゴスペルや歌もの、四つ打ちなど多様な楽曲たちを一つの色をもって纏め上げている。特にSBTRKT“Right Thing to Do”をカバーした“Walking Alone”はモダンなダンスホールやロックがない交ぜとなったユニークなトラックで、他のアーティストには無いOctavianの独特な感覚が顕著に表れている。(山本)

29. Beast Coast - Escape From New York
ニューヨークを拠点に活動するクルーPro EraのメンバーであるJoey Bada$$、CJ Fly、Kirk Knight、Nyck Caution、そしてFlatbush Zombiesの3人、さらにThe Underachieversの2人からなるスーパーグループBeast Coastのデビューアルバム。(早坂)

30. Vampire Weekend – Father of the Bride
前作『Modern Vampires Of The City』から6年の制作期間を経てリリースされた今作。まずはじめに強く印象を受けるのが、楽曲が持つ色彩の豊かさだろう。一曲目の“Hold You Down”ではHAIMからDaniel Haimが参加し、賛美歌のような美しい曲調にまとめ上げられている。息子を授かったEzraが描く、ピースフルな世界がここにある。(小出)

31. Future - Future Hndrxx Prsents The Wizrd
Zaytovenとの『Beast Mode 2』、Juice WRLDとの『WRLD ON DRUGS』に続くFutureのソロアルバムとなる今作は、“F&N”でのこれまでにないビートスイッチの斬新な手法や“Unicorn Purp”でのYoung Thug & Gunnaのアブストラクトなスタイルなど新機軸となる要素を取り入れながらも従来の彼の魅力を損なわない、まさに面目躍如といったアルバムであった。その後の『Save Me』で披露したメロウな側面も今後の可能性を感じさせるものではあったが、やはりヘッズたちが本当に見たいのは『The WIZRD』のバンガーなFutureではないだろうか。(山本)

32. Little Simz - GREY Area

33. dodo – importance
その異質な存在感をもって、2019年上半期において最も注目されたラッパーの一人となったdodo。全7曲という小ぶりなアルバムでありながら、自身の内省が緻密に編み込まれたラインには、一度聴いただけでは受け取れない程の重みを感じる。Youtube上で彼が配信しているラジオ「ラジオーストラリア」も必聴だ。(小出)

34. Leven Kari – Low Tide

35. toro y moi – Outer peace

36. 2 Chainz – Rap or Go to the League
『Pretty Girls〜』から2年ぶりとなる2 Chainzの最新作。9th Wonderプロデュースの“Threat 2 Society”、ブラスをフィーチャーした“Money In The Way”など良曲が並ぶ中でも、出色は間違いなくChance The Rapper、そしてKodak Black(!)をフィーチャーした“I’m Not Crazy, Life Is”だ。パーカッションの音が心地よいメロウなトラックの上で切々と語られるストラグル、そしてフックで静かに歌われる「They say that I'm crazy now / They said I was crazy then」という言葉に2 Chainzがこれまで歩んできた道のりの重みが現れている。特にKodak Blackの現在を頭に置いてこの曲を聴くと、更に味わい深いものとなる。アルバムを通して2 Chainzのいぶし銀な魅力、そしてブーンバップからトラップまで様々なビートを乗りこなす高いスキルが現れた快作だった。(山本)

37. Ari Lenox – Shea Butter Baby

38. Shlohmo – The End
個人的にはエモラップに対するShlohmoなりの回答と考えると、とてもしっくりした作品。エモラップが刹那的な快楽と、それに伴う痛みを並置させるような音楽だとしたら、このアルバムは快楽は先延ばしにされ、鈍い痛みだけが延々と続くようなもの。補足ですがShlohmoも所属するコレクティブWedidのシンガーDeb Neverのシングル群もとてもよかった。(和田)

39. SANTAWORLDVIEW – What just happened?
横浜の若手ラッパーSANTAWORLDVIEWによる1st EP。全曲ビートメイカーのYamieZimmerがプロデュースしており、彼のミニマルかつバウンシー、そして中毒性のあるビートの上にSANTAのスキルフルかつ遊び心のあるラップが乗ることで非常に聞き心地の良い作品となっている。5曲目の“WhatfuckJapane”では題名の通り、現在の日本に対する攻撃的なリリックが光る。(早坂)

40. Kehlani – While We wait

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