【ミニインタビュー】H.E.R. | 「私の中の私」を歌う

14歳の若さでメジャーレーベルRCAと契約を結び、Alicia KeysやUsher、Janet Jacksonなどの大物シンガーたちにも絶賛されてきたH.E.R.。神秘的な歌声と唯一無二の世界観、メディア露出の少なさからミステリアスな存在感を発揮してきた彼女は、2017年にリリースした1stアルバム『H.E.R.』は、第61回グラミー賞の最優秀アルバム賞にもノミネートされるなどの大ブレイクを果たした。

今回ライターの渡辺志保が電話インタビューで、ミステリアスなシンガーのルーツや制作へのモチベーションについて話を聞いた。

取材 : 渡辺志保

- グラミー賞5部門へのノミネート、本当におめでとうございます!いつ、どのようにしてノミネートのニュースを知ったのですか?

H.E.R. - どうもありがとう。ニュースが報じられた時はちょうどツアーの最中だったんだけど、朝、マネージャーから電話がかかってきて「これから、みんなで部屋に集まって欲しい。ツアーをキャンセルしないといけない事態になった。とにかく緊急だ」と言われて、「いったい、何なの?」って感じだったの。何が起こっているのか訳が分からなくて。しかも、みんなすごく疲れていたしね。そうしたら「グラミーにノミネートされた、5部門だ」と言われて。ニュースを聞いて泣いてる人もいたし、私も叫んじゃった。すごく素晴らしい瞬間だったわ。

- R&Bカテゴリーだけではなく、アルバム・オブ・ザ・イヤーというメジャー・カテゴリーにもノミネートされています。それについてはどうですか?

H.E.R. - なかなかクレイジーよね。私のアルバムは実質EPな訳だし、よく考えたらヤバいし、恵まれているなと思う。それに、とってもクールなことだと思うわ。

- また、本カテゴリーにはあなたの他に、Cardi BやJanelle Monáe、Kacey Musgravesといった、才能豊かな女性アーティストたちの作品も多くノミネートされています。音楽業界において、女性アーティストを取り巻く環境に変化の兆しがあると思いますか?

H.E.R. - そう思う。まるで、私たちが業界をコントロールして、自分たちの手中に収めているように感じている。

- あなたのバックグラウンドについても教えて下さい。お父さんがミュージシャンだったそうですが、どんな幼少期を過ごしていましたか?

H.E.R. - パパがカヴァー・バンドのメンバーで、よく家でリハーサルをしてた。だから、私が産まれる前ーママのお腹にいた時から、常に音楽に囲まれているような環境だった。家にはドラムがあって、キーボードもあって、いつも家の中でカラオケしているような感じだったわ。逆に、家の中には音楽しかないって感じだったし、音楽を通じて家族の絆もできていた。だから、小さい頃から歌うのが本当に自然だったの。楽器も自然と弾けるようになったし。

- まるで父親がいいお手本のような環境だった?

H.E.R. - まさにそうね。特に音楽活動を強制されたわけでもないし、私も物心ついたときから人前で歌うことが好きだったの。彼のおかげで、ミュージシャンを志したの。

- 最初のEPのシリーズ(H.E.R. Volume 1,2 and B Sides)を作った際に苦労した点はありますか?

H.E.R. - 楽曲をリリースするということに対して、フラストレーションや不安な気持ちはあったわ。私は、とても正直な気持ちで楽曲を作っていたの。自分のやり方で、自分のストーリーを落とし込んでいた。だから、曲を通して表現する際に、自分探しというか、アーティストとしてのアイデンティティはどうなっちゃうのかな、って感じていたの。当時は18、19歳だったから「曲を通して、私は何を表現すべきで、そこにはどんな意味を込めるべきかしら?」ということに悩んでいた。でも、制作の過程でやっとその答えを見つけたって感じ。リスナーには、私のありのままを感じて受け入れてもらえればいいんだ、って。私の顔とか名前は別として。そう思ったら、制作に対してスッキリした気持ちで取り組むことができたし、どうやって(EPを)組み立てていくべきかも分かったの。こうすれば、きっとみんなにも気に入ってもらえる作品になるわ、って。今や、それ以上の手応えを感じているわ。EPを出してからの間、本当にいろんなことが起きたし。しかも、すべてオーガニック(有機的な)な形で起こったのよ。だから、あの時の自分の決断は間違ってなかったんだな、と証明できたと思うし、なるべくしてなった、正しい判断をしたんだわ、って思っているわ。

- 近々、コラボレートしてみたいアーティストはいますか?

H.E.R. - もちろん!たくさんいるけど、J. Coleがナンバー・ワンね。大好き。後はMiguel。

- 今後の予定を教えて下さい。新作も準備している?

H.E.R. - オフィシャル・リリース作品として、アルバムは確実に出るわ。それにもっとツアーをしたいと思っているの。まだ行った事のない国にも行くかも。日本にもすごく行きたい!赤ちゃんの頃にフィリピンに行ったことがあるんだけど、アジアに行った経験自体、ほとんどなくて。

- シンガーソングライターとしてのゴールを教えて下さい。

H.E.R. - うーん、その質問はよく聞かれるんだけど、正直言って今もゴールを探しているところ。まだまだ自分の将来を模索している途中で。次に自分が向かうべき目標を見定めているところね。2年前は、グラミー賞にノミネートされることがゴールだった。でも、今はもう(ノミネートを)手に入れている。だから、自分の将来に関して、もっと大きい絵が描けるように思案しているところ。100パーセント確実ってわけではないけど、私はただ音楽が好きだから、もっとたくさん曲を作って、ライヴもして、今よりも多くの人に私の曲を聴いてもらえるようになることかな。そうすれば他の目標も見えてくるかも。

- 去年、最も聴いた楽曲、1曲を教えてください。

H.E.R. - 分からない!1曲だけ?本当に分からないな…。しいて言えば、Sheck Wesの"Live Sheck Wes"かも。2018年に、一番お気に入りだった曲。

- 去年、最も影響されたアーティストを教えて下さい。

H.E.R. - 間違いなく、Princeね。いつも彼の音楽を聴いていたし、一番影響されているアーティストだわ。彼のライブ・パフォーマンスもそうだし、アーティスト性も全て尊敬している。

- H.E.R.のペルソナについて教えてください。実際のあなた(Gabriella Wilson)とは違うパーソナリティを持つキャラクターでしょうか?

H.E.R. - そんなことはないの。もちろん、H.E.R.は私が作り出した匿名のキャラクターでもあるけど、中身は私そのものよ。私の別人格でもないし、シンガー活動のために改めて発明した人格ではない。あなただって、18歳の時の自分と21歳の時の自分は異なるでしょ?H.E.R.は、私が楽曲制作に対してもっと正直になれるように、匿名性を強調して作り上げたアーティスト。特定の誰かではなくて、みんなが共通して陥ってしまうような困難な状況や、人間関係をどううまくやっていくか、逃げ出したいときにどう対処すべきか…という状況を、“私の中の私”が歌で表現しているような感じかな。自分の中にはいろんなヴァージョンの“私”がいるけど、それは全部、一つの”私“。それを音楽で余すことなく表現したのがH.E.R.。

- 特に若い女性リスナーが共感できるようなリリックが多いと思います。リリックを書く時はどんなことに気をつけていますか?

H.E.R. - 特にはないけど、歌詞を書くときは「他の人にどう思われるかな」ってことはあまり考えていないの。最初は、「自分が書いた曲を誰かが気に入ってくれるといいな」と思って曲を書いていた。だから、リスナーに対して、自分の歌詞のどの部分がどう響いているかなんて考える余裕もなかったし、気づきもしなかった。だから、あえて他人の反応を意識しないで、自分の感情を自分の言葉で書くことが(いい歌詞を書く)秘訣なのかもしれない。

- 最後に、日本のファンの皆さんにメッセージをお願いします。

H.E.R. - 日本に行くのが待ちきれないわ!日本にも、私をサポートしてくれるファンがいるってことはソーシャル・メディアを通じて知っているの。ARIGATO!

Info

H.E.R|『H.E.R.』
2019 年 2 月 6 日(水)
¥2,400+税 / SICP-6020 / 歌詞対訳付き

01. ルージング|Losing
Written By H.E.R. / Darhyl Camper Jr / Hue "SoundzFire" Strother|Produced By Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / H.E.R.
02. アヴェニュー|Avenue
Written By H.E.R. / Tyler Acord / Lyricist Tiara Thomas|Produced By Lophiile
03. レット・ミー・イン|Let Me In
Written By H.E.R. / Knox Brown|Produced By Knox Brown
04. ライツ・オン|Lights On
Written By H.E.R. / Mike "Scribz" Riley / Daniel Traynor / Talay Riley|Produced By Mike "Scribz" Riley / GRADES / H.E.R.
05. セイ・イット・アゲイン|Say It Again
Written By H.E.R. / Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / Hue "SoundzFire" Strother|Produced By Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / H.E.R.
06. ファクツ|Facts
Written By H.E.R. / Darhyl Camper Jr / Hue "SoundzFire" Strother / J. Eliaye|Produced By Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / H.E.R.
07. フォーカス|Focus
Written By H.E.R. / Darhyl Camper Jr / Justin Love|Produced By Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / H.E.R.
08. ユー|U
Written By H.E.R. / David "Swagg R'Celious" Harris / Ambré Perkins|Produced By David "Swagg R'Celious" Harris For Progressive Musik Group LLC / H.E.R.
09. エブリー・カインド・オブ・ウェイ|Every Kind Of Way
Written By H.E.R. / Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / Hue "SoundzFire" Strother|Produced By Darhyl "Hey DJ" Camper Jr
10. ベスト・パート feat. ダニエル・シーザー|Best Part feat. Daniel Caesar
Written By H.E.R. / Ashton Simmonds / Matthew Burnett / Jordan Evans / Riley Bell|Produced By Daniel Caesar / H.E.R.
11. チェンジズ|Changes
Written By H.E.R. / David "Swagg R'Celious" Harris / Ambré Perkins / Gabriel Garzon Montano| Produced By David "Swagg R'Celious" Harris For Progressive Musik Group LLC / H.E.R.
12. ジャングル|Jungle
Written ByGabriel Garzón-Montano / Majid Al Maskati / Aubrey Graham / Anthony Jefferies / Ilsey Juber / Carlo Montagnese / Noah Shebib / Jordan Ullman|Produced By David "Swagg R'Celious" Harris For Progressive Musik Group LLC / H.E.R.
13. フリー|Free
Written By H.E.R. / Darhyl Camper Jr / Elijah Dias|Produced By Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / H.E.R.
14. ラザー・ビー|Rather Be
Written By H.E.R. / David "Swagg R'Celious" Harris / Alju Jackson / Keithen Foster|Produced By David "Swagg R'Celious" Harris For Progressive Musik Group LLC / H.E.R.
15. 2|2
Written By H.E.R. / Uzoechi Emenike / Ryan Campbell|Produced By MNEK / H.E.R.
16. ホープス・アップ|Hopes Up
Written By H.E.R. / David "Swagg R'Celious" Harris / Elijah Dias / Anthony Bryant|Produced By David "Swagg R'Celious" Harris For Progressive Musik Group LLC / AntB
17. スティル・ダウン|Still Down
Written By H.E.R. / Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / Hue "SoundzFire" Strother / Lolo Zouai|Produced By Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / H.E.R.
18. ウェイト・フォー・イット|Wait for It
Written By H.E.R. / Darhyl Camper Jr / Hue "SoundzFire" Strother / Marsha Ambrosius / Andre Harris / Natalie Stewart|Produced By Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / H.E.R.
19. ピグメント|Pigment
Written By H.E.R. / Maurice-Brandon Ferguson / Robert Glasper / Shafiq Husayn|Produced By Oreamy Beats / H.E.R.
20. ゴーン・アウェイ|Gone Away
Written By H.E.R. / Joshua Scruggs / Antea Shelton / Anesha Birchett / Christopher McClenney| Produced By Syk Sense / H.E.R.
21. アイ・ウォント|I Won't
Written By H.E.R. / Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / Hue "SoundzFire" Strother|Produced By Darhyl "Hey DJ" Camper Jr / H.E.R.

RELATED

【インタビュー】JAKOPS | XGと僕は狼

11月8日に、セカンドミニアルバム『AWE』をリリースしたXG。

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。