!!!(チック・チック・チック)インタビュー | 恐れを振り払い踊れ
ハードコア・パンクの系譜にありながら、ディスコやファンクといったダンスミュージックの要素を巧みに取り入れたサウンドを作り上げている!!!(チック・チック・チック)。アルバムごとに独自のサウンドを模索し、その音楽性のアップデートを繰り返してきた。そんな彼らの最新作が、2017/5/19(金)に世界同時リリースされる。タイトルは『Shake The Shudder』だ。
タイトルに込められたメッセージは、「恐れを振り払え」。ハウスミュージックを全面に押し出し、チック史上最もダンサブルな作品となった今作について、ヴォーカルのNic Offer (ニック・オファー)に話を聞いた。そこには、絶え間ない好奇心の探究と、変化を恐れずに突き進むバンドとしての姿勢があった。
取材: 和田哲郎 構成 : Yuuki Yamane
- 5月にリリースされるニュー・アルバム『Shake The Shudder』を聞きました。これまで以上にピュアなダンスミュージック、特にハウス色の強い作品になっていて、すごく新鮮でした。
Nic Offer - アルバムを作るときは、毎回「クラブミュージックっぽいものを作ろう」っていう目標を掲げているんだ。平均的なクラブミュージックというよりは、チックらしいクラブミュージックって意味なんだけど。確かに今回はハウス色が強く出ているかもしれないな。
- 何か特別に制作方法を変えたとか?
Nic Offer - いろいろな技術やトリックを試しているけど、例えばAbleton Liveなんかは、専門の人にスタジオに来てもらって使い方を教えてもらったり、YouTubeを見ながら勉強したりして、このアルバムでも使ったよ。今回特に覚えたのがピッチの上げ下げで、ボーカルやギターのピッチを変えたりしているところかな。
- ヒップホップだとボーカルにエディットをかけるのはわりと普通ですが、そういったサウンドを取り入れようと思った理由は?
Nic Offer - その音に魅力を感じたからとしか言いようがないね。テキサスのスクリューされたヒップホップを聞いたときに「すげぇ!」と思って、すぐに自分たちでも真似してみたんだ。
- 以前インタビューで「常に新しい音楽を聞き続けている」「新しい音楽が分からなくなるのが怖い」と言っていましたね。その怖さはまだ感じていない?
Nic Offer - まだ大丈夫。何とかね。最近はKamaiyahとか、NAOとか、他にもたくさん聴いている。
- 新しいサウンドに惹かれるのは、若手ならではの自由度の高さに魅力を感じるから?
Nic Offer - 新しさや自由度に惹かれるという部分もあるけど、ポップな曲のありきたりなコーラスにだって魅力を感じることはあるから、新しいかどうかというよりも、好きなものは好きだし良いものは良いっていう感じだね。
友人にソングライターがいるんだけど、彼はいつまでたってもアルバムを完成できないでいるんだ。なぜなら前代未聞のものを作りたいから。あれじゃないこれじゃないと言い続けて、結局リリースできないんだよ。俺としては、発表する作品が毎回大発明・大発見である必要はないと思っていて、そこに自分たちならではのユニークさがあればそれでいいと考えている。
- オリジナリティーとポップスの関係性は、案外難しいですよね。もともとのオリジネイターがいて、その手法をポップスのアーティストが取り入れることで一気にメジャー化するケースもある。
Nic Offer - とても面白い考え方だね。たしかドイツのEinstürzende Neubauten(アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン)の音をサンプリングしていたのが、イギリスのDepeche Modeなんだけど、どっちも同じサンプルやキーボードを使って音楽を作ったのに、Depeche Modeのほうがより多くの人に愛されたよね。それを見てNeubautenは「もともと俺らがやっていたことなのに!」って怒ったらしいけど、万人に受ける作品を作りあげたところがDepeche Modeのすごいところなわけで。当時15歳だった俺にもDepeche Modeの音楽は理解できたし、逆にNeubautenはイマイチ分からなかった。これこそオリジナリティーとポップスの関係性をよく表していると思うよ。
- 今回のアルバムの曲解説を見ると、Moodymannの名前が多く出てきます。彼はとても職人気質のアーティストという印象がありますが、彼のどういう部分に魅力を感じている?
Nic Offer - チックはもともとパンクバンドだったんだけど、ディスコやファンクのような音楽をバンドでやりたいって、ずっと思っていたんだ。よりファンキーなものを求めているうちにハウスにたどり着いたんだけど、なんせドラムマシンの使い方が分からなかったから、とりあえずバンドの生音、つまり自分たちのジャムをサンプリングしてループを作っていたんだ。
Moodymannのレコードを聞いたのはまさにそんな時だったんだけど、彼はディスコやファンクのループを使ってハウスを作っていて、俺らのアプローチと、とても似ていると思った。むしろ、やろうとしていたことを彼が先にやってしまっていて、ちょっとショックだったりもしたんだけど、強い影響を受けたのは間違いないね。
- 以前ジュリアーニ元ニューヨーク市長に、抗議する曲"Me and Giuliani Down by the School Yard"を作っていましたが、彼は市長を辞めた後、トランプ政権の中心人物として戻ってきました。トランプ政権下にある今のアメリカについてどう思っている?
Nic Offer - トランプはニューヨークで支持されていないよ。家族はニューヨークにいるけど、彼自身は大統領になってからワシントンD.C.から帰ってきていないし、もしも帰ってきたらデモが起こるだろうね。正直、今まではそういうデモに参加していなかったけど、最近は行くようにしているんだ。ワシントンD.C.やニューヨークで女性の権利を主張するWomen's Marchがあったときも行ったよ。
実際に参加してみて、いろんな人とのコネクションや自分の力強さを感じることができたし、トランプ政権がなくなるまであと4年間はそういった活動をしないといけないかな、って感じている。仮に4年後に彼がいなくなっても、アメリカの中西部にはトランプ寄りの人や保守的な人がたくさんいるし、どうせ次はトランプと同じくらいダメなペンス副大統領が大統領になるだけだから、この戦いは4年後以降も続くだろうね。
よく友達と話すんだ。「今みたいな状況はこれまで体験したことがないよな」って。ジョージ・W・ブッシュが大統領になったときも本当にクソだったけど、あれ以上だよ。これまでアメリカはヘイトや人種差別を排除して、もっと前に進んでいると思っていたのに、トランプになって実はそうじゃないって分かってしまった。それが本当にショックだ。
- ダンスミュージック、特にハウスミュージックは、ヘイトに対して反対というか多様性を強く打ち出している音楽です。このタイミングで!!!がこうした作品をリリースするのは、偶然かもしれないけど非常に意味があるのでは?
Nic Offer - アルバムを出すときは、この世界をより美しくて素晴らしいものにしようという願いを込めているから、そういう影響が少しでもあるとうれしいね。
- ちなみに、ニューヨークでまったく人気のないトランプが大統領になったことに対して、アメリカのどんなところに問題があると感じている?
Nic Offer - ……田舎者が多すぎるんだよ(笑)。よく言われているけど、カリフォルニアやニューヨークの投票数を除くと、どうしてもトランプが勝ってしまうんだ。田舎の人たちはみんな彼を支持しているから。
カリフォルニアやニューヨークには、インテリ層や変化を望む人たち、それに移民もたくさんいるから、例えば電車で隣りにイスラム教徒が座っていたとしても特に何とも思わないんだけど、ネブラスカみたいな田舎には白人のキリスト教徒しかいないから、テレビでイスラム教徒を見たら全員テロリストだと思い込んでしまうんだ。今回の選挙では、結局そういう田舎の人たちがトランプにだまされたんだよ。弱い人や貧しい人の味方だと言いながら、自分は純金のトイレでクソしている。そんな奴が貧しい人の味方なわけないだろ(笑)。
そういう、田舎の人たちとリベラルな人たちの思考の格差みたいなものを理解しなければ、今後アメリカの発展はないだろうね。でも、その解決法がまだ見つかっていないから混乱しているんだと思う。今俺たちに望めるのは、トランプが大失敗を犯して大統領の座を追われることだけだよ。
- そういった中で、今後どのようなモチベーションで活動をしていきたいと考えている?
Nic Offer - この状況下にバンドとして何ができるのかはまだ分からないな。感じたことを表現していく中で、時には政治的なメッセージが含まれることもあるだろうけど、別に世の中全員の考え方を変えるために音楽をやっているわけではないから、毎回政治的である必要もないと思っている。そもそもチックを聴いているような人たちとは、すでに分かりあえているはずだと信じているしね。
変えるべきはトランプを支持するような人たちの意識なんだけど、たぶん俺らの音楽はオルタナティブ過ぎてそこに響かないと思う。彼らに響くとすれば、Taylor Swiftのような、カントリーシンガーの方がよほど影響力はあるだろうね。カントリーソングを聞くのは、保守的だったりトランプサポーターだったりするから。
個人としてデモに行くことだったり、政治的なことを言いたいときはそういった作品をリリースすることで、メッセージを広げていけたらいいと思う。
Info
abel: Warp Records / Beat Records
artist: !!! ー チック・チック・チック
title: Shake The Shudder ー シェイク・ザ・シャダー
cat no.: BRC-545 / BRC-545T
release date: 2017/04/19 FRI ON SALE
国内盤CD:¥2,200+税
国内盤2CD+Tシャツセット:¥5,500+税
国内盤特典:ボーナス・トラック追加収録 / 解説書・歌詞対訳封入
【ご予約はこちら】
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beatkart:http://shop.beatink.com/shopdetail/000000002157
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!!!(チック・チック・チック)SONICMANIA 2017出演決定
2017.8.18 FRI
http://www.sonicmania.jp/2017/