ブルックリンの荒廃した街を再生させた壁画プロジェクト、そしてジェントリフィケーションを題材としたドキュメンタリー『No Free Walls』
ニューヨーク・ブルックリンの変わりゆくランドスケープとアートプロジェクトを題材としたショートドキュメンタリー『No Free Walls』が公開された。
あらすじ
ブルックリン舞台としたBushwick Collectiveと呼ばれる壁画アートプロジェクト、その創設者でありキュレーターの Joseph Ficalora、そしてブルックリンの変化をドキュメントしている。全編英語であるが、一見の価値があるドキュメンタリーになっているので、あらすじを紹介したい。
イタリア移民の子孫のFicaloraは、ブルックリンの、かつてドラッグや暴力で荒廃していた地とBushwickで育った。Ficaloraが10歳の時に、彼の父親は刺され、命を落とし、そして大人になってから母親をガンで失くした。彼は落ち込む間もなく、ストリート・アートで両親の栄誉を称える事を決意。
2011年、Ficaloraは壁画アーティストを雇い、近所の倉庫の壁にアートワークを作ることを頼んだ。そのチームはThe Bushwick Collectiveと呼ばれ、彼らのアートは多くのファンたちだけでなく、広告代理店、報道機関や不動産屋をひきつけた。
BUSHWICKはあらゆるクリエイティブ系の人たちがブッシュウィックに移り住み、西隣の超ヒップなウィリアムズバーグの洗練された空気がここにもだいぶ浸透してきた。バー、ワイン倉庫、画廊も続々進出、ブッシュウィックのロフトを改造して入居する大胆な新住民がこの動きを加速している。めまぐるしく自己改造を続けるブッシュウィックではあるが、リモデルした外装の下にはまだどこか泥臭いハートビートが昔のまま残っている。
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壁画プロジェクトもスタートから5年が経ち、Bushwickはニューヨークで一番熱い場所になったことは間違いない。しかし、その反面、ニューヨークの中でも急速に「ジェントリフィケーション」が行われている悪名高い場所にもなってしまった。
ジェントリフィケーションとは治安が悪く、誰が住みたがらないような場所が、おしゃれで、住みやすい場所に変化する社会現象のことを意味する。ジェントリフィケーションは、Bushwickのように、アートや芸術運動などがきっかけになって起る。「ここは次のクールな場所だ」と不動産会社や投資家が目をつけ、道路や壁、店など街全体が整備され、街が様変わりする。
一見して、良いことのようにも聞こえるが、急速に地価が上がり、店の立ち退きや、従来その場所に住んでいた人が住めなくなる問題も同時に起る。
また、ジェントリフィケーションの問題は経済格差や人種差別とも密接につながっていると言われている。貧しい有色人種が集まって暮らしていた貧乏なエリアが、小金持ちの白人によって「Whitewash」されてしまうのだ。経済的な問題でもあり、文化的な問題でもある。
これは、ニューヨークだけの問題ではなく、ロンドンのブリクストンというエリアでもジェントリフィケーションは大きな問題となっている。
ドキュメンタリーのタイトル「No Free Walls」とは、おしゃれな街になってしまったBushwickにはもう「自由に描ける壁」がなくなってしまったことを意味している。
そのような変化の中で、そのアートコミュニティはクリエイティヴィティを保ちながら、続けていけることが出来るのか?それともジェントリフィケーションの波に飲まれ、商業的でダサいものになってしまうのか?をドキュメントしている。
アメリカのメディアComplex News Documentariesは『No Free Walls』はアートと都市、そして経済や社会の関係を問う。