USヒップホップシーンの重要人物が語る現在の音楽のあり方
Lyor Cohenという名前を聞いてピンとくる人はアメリカのヒップホップをよく聴いてる人でも、そうは多くないだろう。彼は現在300 Entertainmentというレーベルを運営していて、所属アーティストはYoung ThugやFetty Wapなどの人気ラッパーから人気バンドPanamaまで多くの才能を抱えている。
CohenはIsland Def Jam設立の立役者として、Jay ZやRun-DMC,、DMX,、Kanye Westなどを手がけていた。しかし2012年にWarner Music Groupの重役という地位を捨てインディーレーベルとして300 Entertainmentを設立した。300について経済誌のForbesは「メジャーレーベルの厄介なシステム抜きで、インディペンデントのアーティストをネクストレベルに到達させる21世紀型のレコードレーベル」と評している。
確かに現在のアメリカのヒップホップシーンではアーティストが全てをコントロールするために、アーティスト自身がレーベルを作ったりするケースも多いし、メジャーレーベルともめるアーティストも最近のFrank Oceanをはじめ数多くあげることができる。
そういった状況のアメリカのヒップホップシーンで裏方として存在感を示しているのはCohenと300くらいだといってもいいだろう。そんなCohenの最新インタビューがComplexに掲載されている。
インタビューの中でCohenはレーベル運営をする中で重要なこととして、リスクをとることをあげている。「私はリスクを冒せる人間になりたい。例えば私たちがミーティングをしたとして、君がなにも言わなかったとしたら、サンドバッグになっているのと一緒だ。もしくは君がなにもアイディアを持っていないとしたら、それはリスクを冒していないのと一緒だ。1個のヤバいアイディアを出すのには、1000個のクソみたいなアイディアが必要なんだ」とCohenは述べる。
リスクを冒すということは「ヘイターになる」ことではなくて「誰かを愛せる人」になることだともCohenは語る。「ヘイターは誰かに間違った方向に進んでほしいんじゃなくて、正しい方向に進んでほしいと思っているというが、私は自分の会社にはヘイターと反対の人間を必要としている。私は愛せる人を探している、それは9人のアーティストで失敗したとしても、1人のいるだけで私たちを楽しませてくれるようなアーティストを見つけることができる人のことだ。そのためには毎日のように頭痛に悩まされる日々を過ごさなきゃいけないけどね」とCohenはレーベルという仕事の難しさも述べた。
さらにミステリアスなYoung Thugの私生活について、Cohenがもっとパーソナルな時間を過ごすべきだとThugにアドバイスをしたということについては、「謎があるというのはとてもいいことだよ、恥知らずなプロモーションを私は信用していない」と述べ、レーベルがアーティストの個性を演出することについても「それはレーベルの仕事じゃない。私たちの役割はアーティストの成長を誠実に助けることで、アーティストのことをちゃんと世間に伝えることだ。私はレーベルはクリエイティブな人々が壁を越えるために必要な安息所だとみている」とレーベルの役割についての認識を示す。
Cohenのように多くの優秀なアーティストを自分のレーベルに所属させるためにはどうしたらいいかと問われると、「メールをするんじゃなくて、ちゃんと会って姿を見せることが大事だ。特にインターネットの時代だからこそ、ちゃんと人と会うというのは大きな意味をもつ。音楽ビジネスが失ったことの1つは自分の姿を見失ったことと、(アーティストとの)関係性だ」と語った。
また300がこれまでにApple MusicやTidalでの独占配信をやってこないことについてCohenは、「私は独占を信じていない」と断じ「独占配信は音楽業界にダメージを与えると思っている。私は音楽がどこにでもある方を信じている。私はストリーミングサービスが独占配信を行っているから、競争に勝つべきとは思わないが、彼らが消費者に最もいい体験を与えているなら、勝つべきだと思う。様々なストリーミングサービスが月額$10で契約できるが、どこも独占配信をやっていたらユーザーは契約したくなくなるだろう。私はそんなやり方が嫌いだ」と現在のストリーミングビジネスのあり方についても疑問を呈した。
Lyor Cohenのインタビュー全文はComplexで読むことができる。