【オフィシャル レポート】Awich 「Awich Live 2020」| 聖夜にふさわしいパフォーマンス

本来、東名阪の3カ所で行われる予定だった「Awich Live 2020」。大阪と愛知公演は、新型コロナウィルスの影響により公演延期となってしまったが、12/25(金)、聖夜の恵比寿LIQUIDROOMにて東京公演が行われた。

MARZY

クリスマスということで、サンタクロースの格好をしたYENTOWNの盟友・MARZYがオープニングDJとして登場。フロアをがっつり温めた後、ピアノ・丈青、ベース・秋田ゴールドマン、ドラム・みどりん、マニュピレーター・社長というSOIL&“PIMP”SESSIONSの面々、そしてギター・小川翔という名うてのバンドメンバーを率いてAwichが登場。

1曲目は“Awake”。憂いを帯びたピアノの旋律と低音の効いたグルーヴに乗せて歌われる、「Pandemic Plandemic/地球よ are you ready?/消えてくmoney 増えてく闇」「なぜ人は奪い、殺し、争い、/忘れてる、全てはOne/分けることができないこと/分ることで、分かち合う」というメッセージ。新型コロナウイルスの感染拡大によって、人々の意見は分断された。そして、Black Lives Matterによって、人種問題の根深さが際立つこととなった。コロナ前から世界が抱えていた問題と向き合いつつ、分断された人々に連帯を呼びかけるAwich。

JP THE WAVY

kZm

「まさか女が来るとは」というフレーズを冠した“Shook Shook”に続いては、YENTOWNのkZmが登場しての“NEBUTA”、JP THE WAVYが登場しての“Bloodshot”と、キレキレのラップの掛け合いとファットなビートにオーディエンスは大いに沸き、客演への期待も右肩上がりとなった後、Awichはこう話した。

「私は強い女って見られがちなんだけど、そんなに強くない。そういうところも見せていきたい。別に強くなくていいんだよ。その次に何をやるかが大切だと思っています」。温かい拍手が起こる。

「私と凄腕ドラムのみどりんさんの一騎打ち。準備できてるの?(笑)」と挑むようにみどりんに伝えてからの“Open It Up”。ラップとドラムのガチンコバトルに、丈青は立ち上がって楽しそうに踊り、社長もガンガンにアジテートする。

NENE

ドラムのカウントからブルージーなギターソロが轟き、“POISON”がスタート。途中で、ゆるふわギャングNENEが登場。このふたりならではのエロスが詰まったラップの掛け合いがたまらない。本質的な愛の交歓=エロスについてふたりが熱く語った後、NENEのソロアルバムに収録されている“名器”へ。ムーディーな赤いライトの中、ふたりが艶っぽく絡み合う。

「私は枠なんてぶっとばして一緒にいろんな角度から喋れる彼女(NENE)のような人間が大好きで。私もそういうふうに物事を見るように日々生きているんですけど、視野が広くなり始めたのも、いろんな経験があったから。一番大きかったのは私の最愛の娘の父である人を亡くした時で。彼が生きてる時に、『何かあったら僕のことを埋めないで散骨してほしい』と言われてたの。だから私たちは灰になった彼の身体を誰もいないビーチにいって海に流した。悲しみのどん底だったけど、その灰が風にまって空気になっていくところを見たり、太陽にキラキラしてるのを見たり、娘の髪や肌に、『心になれ!』ってこすりつけてさよならした時に、彼のエネルギーが私たちを取り巻くすべてのものに還元されていく気がしました。その時に作った曲があります」

白いライトに照らされ、鎮魂歌のような“Ashes”が歌われた。そのまま“Revenge”へ。「Do You wanna live forever/許せばいい。それだけ。/Now I know」人生最大の喪失を経験し、何年も苦悩し続けてきたAwichが出した答えは、“最大の復讐は、誰かを傷つけることでも憎むことでもなく許すこと”だった。曲に込められた決意が胸を打つ。

鎮座DOPENESS

DOGMA

不穏なビートとともにDOGMAと鎮座DOPENSSSが現れた“洗脳”では、三者三様のラップの饗宴にひと際フロアが湧く。本編ラストは恋愛における切なさと高まりを歌った狂おしいラブソング"Bad Bad"。

たくさんの拍手に迎えられたアンコール。「今日来てくれたからには聴いて帰っていただかなくてはならないあの曲がありますよね。こうして集まってくれた感謝の気持ちと来年は良い年になるようにって気持ちをこめて」。もちろん演奏されたのは、映画『サイレント・トーキョー』のエンディングソングであり、ベトナム戦争への反戦歌として知られるあの世界的名曲 “Happy X-mas(War Is Over)”のカバーだ。

沖縄という戦争の傷跡が深く残る土地に生まれ、ヒップホップに夢中になり、アメリカに渡って現地で出会った男性と結婚するが、暴力によって死別するという出来事を経験したAwich。ヒップホップを教えてくれたブラックミュージックへの感謝の意味もこめて、積極的にBLMを推し進めてきた。2020年、混乱を極めた年があと数日で終わろうとしている中、そんなバックグラウンドを持つAwichが静謐なピアノの調べに乗せて慈愛と平和を願う “Happy X-mas(War Is Over)”は、強い説得力をもって、深く響いた。

「一番のプレゼントは今あなたたちが存在すること、私たちが存在すること。私たちひとりひとりの存在が一番のプレゼントなんだよって願いを込めた曲です」とAwichが語り、正真正銘のラストソング“Present”へ。MARZYと一緒に楽しそうに手を叩きながら踊り、客席からもたくさんのクラップがあがる。高らかに「I LOVE YOU!」と叫んで、ステージを去ったAwich。困難な時代における聖夜にふさわしい、祈りと生命力と深い愛が貫かれたパフォーマンスだった。

文=小松香里

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