【ライブレポート】Kvi Baba 1st One Man Live Tour 2024『Too Bad Day But Luv Myself』 | 6年目にして充実の初ワンマン

Kvi Baba、初のワンマンライブ。本人もこの日「遅いよね?!」とMCで言っていた通り、待ちに待ったタイミングだろう。これまで、全国のクラブでフロアを沸かせたり、KEIJUのライブにゲストで出演したり、『POP YOURS』の大舞台で堂々たるパフォーマンスを見せていたりはしたが、ワンマンとなると初めて。2019年にデビューしてから丸5年以上の月日が経ち、その間、Kvi Babaの存在感はみるみる大きくなっていった。今回のワンマンもチケットは抽選となり、会場となったZepp Shinjukuはぎゅうぎゅうで割れんばかりの歓声が響き渡る。通常のヒップホップのライブと比較し、女性が多いのも特長。カップルや親子の姿も多く目につき、幅広いリスナーに愛されていることが分かる。

さて、ライブはほぼ時間通りにスタート。 “Fool in the Moon”が始まり、スクリーンに大きな月が映し出される。この日はバンドセットが組まれており、ギターはNozomiYamaguchi、キーボードは石田まり、ドラムはYoshiya Matsuuraといったメンバー。早速、Kvi Babaは美声を聴かせ、会場の空気をぐっとつかんだ。2曲目は“Fuck U & Love U”で、観客は大合唱。冒頭からこんなにもハッピーな空気で満たされるライブというのも、なかなかない。次の“Ms.U”ではidomとSALUが登場、さらにフロアが沸く。メロディアスなフックが印象的な曲だけに、皆が声をあわせて歌う様子が印象的だ。MCでKvi Babaは「SALUくんと実は今日同じステージに立つの初めてなんです。僕のキャリア作ってくれた1人であるSALUくんなのに、実は初なんです」と笑顔で語り、“A Bright”へ。「もうなんともない いつかの未来へ」と歌う初期の人気曲だが、そこから5年経ち、この舞台で二人が共演する未来が来たというのが感慨深い。

その後も、適度な長さのMCを挟みつつ、テンポよく次々に曲を披露していく。5年経ったぶんプレイできる楽曲はたくさん用意されており、“No Clouds”や“Tired But Fine”といったナンバーで変化をつけ観客を魅了。ギターのエモーショナルなフレーズが身体に沁みる選曲だ。Kvi Babaは、いわゆる“エモラップ”と形容される音楽性が基軸にあると思うが、だからこそ切ないギターの旋律は重要だ。この日は、音源以上にインパクトある形でギターが演奏されつつも、ボーカルとぶつかり合うほどは目立ち過ぎず、非常に良い塩梅で鳴らされていた。だからこそ、皆ナイーブな世界観に浸りつつ、じっくり聴き入ることができたように思う。

「活動6年目なんだけど、ここまで来るのけっこう長かったよ」「最初から好きだった人いる?」と尋ねると、フロアからは多くの手が挙がる。「じゃあ昔の曲やるからね」と告げ、“Planete in Problem”へ。ちゃんと観客が歌えているのがすごい。その後は、これぞKvi Babaといったエモ・ソングが続く。まずは“ヤワじゃない”、そして“Fight Song”。前者では「僕はタフじゃない だけどヤワじゃない」、後者では「IT’S A FIGHT SONG 生れて今初めて書く LOVE SONG 僕が僕宛てに書く」と真っ直ぐで嘘偽りのないリリックが、力を込めて歌われる。スクリーンの映像も相まって、会場にはポジティブな空気が充満。日常の自分への応援歌というと昔からJ-POPではたくさんの曲が歌われてきたが、Kvi Babaの歌う応援歌は、それらとは決定的に違うというのが伝わってくる。彼は大衆に届ける前にまず自分に向けた歌として歌っているし、応援するという結果に至るまでの悩み考えるプロセスをも、ありありと曲にする。実際、客席からは涙を拭う姿も見られ、そのリアリティに胸を打たれている人が多くいるようだった。ビートの強いこのような曲で、オーディエンスに内省を与えることができるのがKvi Babaの強みだ。

その後“Tear Wave”を挟み、なんとここで幼少期の映像が。カラオケで歌う初々しい姿に、「可愛い~!」という声が飛び交っていた。家族との貴重なやりとりが映し出されたのち、“二つ目の家族”へとなだれこむ展開に。続いて「失う用意しとかないといけないって言ってるのに、もうすでに何人か失ってるんだよね」「でも戻ってきて欲しいと思わなくなった。だからこの曲どういう気持ちで歌えばいいか分からなくなったけど……お母さんに歌おうかな。365日経った今でも君が好きだよ」と語り披露された曲は、“Baby Come Back”。こうやって母親への愛もてらいなく口にするところがKvi Babaらしい。ラップと歌を行き来するような難易度の高いナンバーだが、抜群のスキルで難なく乗りこなしていた。

このあたりまで来ると、観客も彼のスタイルをキャッチしたのかますますリアクションも熱を帯び、どんどんステージと客席の垣根がなくなっていく。「こんなこと言うのは恥ずかしいけど、僕は愛が欲しいよ。愛されたいし、愛したい」と言うMCに、フロアも大歓声。“愛槌”は会場の皆が合唱し、ボルテージが高まっていく。“Ma Life”を経て、いよいよ“Too Bad Day But…”へ。「ここまで来るのに色々大変なことがあった」と身の内を語ったあと、「でも、9割悪くても皆の笑顔あったら立てるからさ!」と話したところで、「お~っ!」とどよめきが起き、皆がスマホのカメラを掲げる。初めにKvi Babaひとりで披露したのちに、AKLOとKEIJUが登場! 悲鳴に次ぐ悲鳴で、Zepp Shinjukuがこの日最大の盛り上がりに包まれる。もはや三人の声より大きいのではないかと思うほどの、熱量高いパワーでシンガロングされる名リリックの数々。さすが、2020年代のヒップホップを代表するアンセムだ。この三人が揃っただけに、次はもちろん“Luv Myself”へ。フロアは踊り、揺れ、幸福感で包み込まれる。

KEIJUだけが残り、皆が「もしかして」とざわめきはじめたところで、「8/7に新曲出ます!」と発表が。キレのあるバウンシーなトラックに軽快なラップが乗る曲で、Kvi Babaがラップしたのち続いてG-k.i.dがサプライズ登場。驚きと喜びの声で沸いた。最後KEIJUがメロウなフロウで決めたこの曲のタイトルは、“Friends, Family & God”とのこと。初披露で大きな盛り上がりとなったこの新曲は、リリース後には更に爆発的なヒットとなっている。オーディエンスも汗だくになる中、なんと一大発表が。1/29にZepp Diver Cityで、さらにその後に日本武道館でのライブ開催! ということは、Kvi Babaは今回の東京・大阪公演を経て人生4回目のワンマンライブが武道館になるわけだ。デビューから6年目で初のワンマンを行なってからのいきなりのスピードに驚かざるを得ないが、この日のパフォーマンスと盛り上がりを見るに、早すぎるという気はしない。終始、初めてとは思えない余裕のあるプレイに驚かされっぱなしだったから。MCもスムーズで、もちろんラップと歌のスキルも十分。バンドセットをバックにこれだけライブ運びが巧いとなると、武道館への舞台も期待が募る。そんな高揚感に満たされながら、最後は“TOMBI”でフィニッシュした。アンコールはなし、全19曲の潔いステージだった。

何より一番の発見は、楽曲がそうであるように、Kvi Babaのライブが愛に満ちあふれていたということ。ヒップホップアーティストというとヒリヒリするようなカッコよさやダンサブルに盛り上がるようなステージが多い中で、彼のような心あたたまるライブ運びはなかなかお目にかかれない。それは、自身の弱さや痛みも受け入れた上で、それでもポジティブに前を向いていこうという複雑なマインドを、彼が真摯に伝えようとしているがゆえだろう。単なるJ-POPとは違う応援歌であり、ハラハラドキドキするラッパーとも異なる彼だけの表現で、Kvi Babaは今後も私たちに唯一無二の歌を届けてくれるに違いない――そう確信した夜だった。(文 : つやちゃん 撮影 : Kento Mori)

Info

Kvi Baba 1st One Man Live Tour 2024『Too Bad Day But Luv Myself』

1.  Fool in the Moon

2.  Fuck U & Love U

3.  Ms. U feat. idom & SALU

4.  A Bright feat. SALU

5.  No Clouds

6.  Tired But Fine

7.  Planted in Problem

8.  ヤワじゃない

9.  Fight Song

10.  Tear Wave

11.  二つ目の家族

12.  Baby Come Back

13.  愛槌

14.  Ma Life

15.  Too Bad Day But...

16.  Too Bad Day But... (Remix) feat. AKLO & KEIJU

17.  Luv Myself feat. AKLO & KEIJU

18.  Friends, Family & God feat. G-k.i.d & KEIJU

19.  TOMBI

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