【ロングレポート】『POP YOURS』| 3万人が体感した日本のヒップホップの多様な現在地点
スペースシャワーネットワークが主催したフェスティバル『POP YOURS』が5月27、28日に幕張メッセ国際展示場9~11ホールで開催された。コロナ禍で初開催した昨年は全席指定で、声出しNGなど多数の規制があったが、今回はオールスタンディングでアルコール販売も解禁。チケットは前売りで早々に完売した。
取材・文 : 宮崎敬太
DAY 1
『POP YOURS』はnasthugのオープニングDJから幕を開けた。舞台を覆うように、背面とDJブースにに超巨大LEDが設置された。
最初のアクトは梅田サイファー。大所帯があちこち動き回るクルーはやはり見ていて楽しい。R-指定は「こんだけバカデカい会場にすごいメンツが集まってるけど、(出演者は)みんな自分たちが田舎の小さいクラブでやってきたことを忘れてないから」と話した。
Elle Teresaが登場すると女性たちから「エルちゃん、カワイイッ!」という声援がそこかしこから挙がる。「みんな踊れますか〜?」と“GOKU VIBES”をプレイするともちろん大合唱。ゴージャスできらびやかなライティングに照らされたElleは、ランウェイのように花道を闊歩する。Yvngboi Pが駆けつけた“GAL”やLunv Loyalとの“Famous”では特に大きな歓声が沸き起こった。
Skaaiは最初からアカペラでその歌唱力を存分に聞かせ、場内の視線を一身に集めたところで代表曲“BEANIE”を歌った。そういえば、トレードマークのビーニーではなく、ハンチングをかぶっていたことも印象的だった。その後、Skaaiは「しーっ!」と観客を制して、「みんなこれ知ってる?」と新曲“SCENE!”のベースラインを聴かせる。場内の期待に応えるようにBonberoが参加。午前中とは思えない熱気にSkaaiも汗だくになっていた。
新人アーティストが登場する「NEW COMER SHOT LIVE」にラインナップされたのはChoppa Capone、Ashley、Yvng Patra、STARKIDSの4アーティスト。みな大舞台に気後れすることなく、堂々としたパフォーマンスで場内のテンションを上げていった。
昨年は「NEW COMER SHOT LIVE」に出演したMFSは「やっほー、みんな元気?」と話しかけ、「去年のステージは駆け抜けたから、今年はみんなを焼き付けたい」とサングラスを外すシーンもあった。彼女の持ち味はバックビート気味のグルーヴ。レゲエ、ヒップホップ、R&B、アフロビートなどさまざまなタイプのビートを乗りこなしていく。総勢12名のダンサーを呼び込んで自身のダンスも織り交ぜたパフォーマンスは圧巻だった。
Yo-Seaの出番では今度は幕張に沖縄の爽やかな風が吹いた。C.O.S.A.をゲストに迎えた“Pretenders”と未発表曲の“Inori”、Gottzが客演した“Sunset”は、人気ラッパーの登場もあり大きな盛り上がりを見せた。Yo-Seaは「去年は家で『POP YOURS』を見てかっこいいと思ってたけど、今年はみんなのおかげでステージに立つことができました」と感謝し、最後の“22 Vision”は大合唱となった。
"BUSSIN”からスタートしたSEEDAは登場するや否やセンターステージから観客のいるフロアへ。突然のことに観客も大興奮。バックDJのDJ TY-KOHが「Where’s Seeda?」と言うとSEEDAのいるエリアが観客たちの携帯のライトで明るくなった。舞台に戻ったSEEDAはMannyを呼び、SCARSの“Come Back”で2021年に急逝したStickyを追悼した。またLunv Loyalとの“高所恐怖症”、名曲“花と雨”などを歌った。
guca owlは圧巻の一言。1曲目の“ROBIN”から大合唱が巻き起こる。それを見たguca owlも「こんなデカい場所にヒップホップ好きな人が集まってるってすごいことだよ」と感嘆の声をもらした。“6TH CORNER”、“今夜はハダシデ”、“Gotham city”、“FEAR”、“DIFFICULT”と代表曲でセットリストが構成されたこともあり、最初から最後まで大合唱だったのが非常に印象的だった。
Watsonの勢いもguca owlに負けず劣らず。まったくスタイルは違うが二人は新世代を牽引するラッパーだ。場内のテンションが上がったことがわかった。そしてサイドMCのSMILEYとLUCYとともにラップをはじめるとエネルギーがうねりにかわっていく。「俺がラッパーやる前、なんて呼ばれてたか知ってる?」と“DOROBO”は大合唱。“reoccurring dream”やralph“Get Back”の自分のパートを含め、guca owlと同じく終始大合唱だった。またWatsonのパフォーマンスが終わると、Bonbero、LANA、MFSが出てきて『POP YOURS』のオリジナルソングで大きな話題になってる“Makuhari”をライブ初披露した。
ド派手なヤングガンの後は、LEDビジョンを全面オレンジに点灯して、マイクスタンドの前に立ったIOのシルエットが浮かび上がった。前半はメロウな楽曲が中心。中盤の“Your Breeze”にYo-Seaが呼び込まれ、「俺とYo-Seaが揃ったらやっとかなきゃいけない曲があるよね」と突入した“Sunset”にはGottzも参加した。さらにKANDYTOWN“Last Week”にはMUDも加わる。最後はこれからリリースされるという新曲“Honto”。フィーチャリングはなんとWatson。インパクト大なお披露目でライブを終えた。
長いブランクから昨年大傑作アルバム『ALONE』を発表したOMSB。ライブはその1曲目に収録された“祈り | Welcome Back”からスタート。活動の転機になったと言っても過言ではないこの曲の後は、代表曲“黒帯 - Black Belt Remix”をまじえ“Nowhere”、“波の歌”を歌唱した。ハイライトは“大衆”。ライブ後にTwitterで「正直20分の中に6分近い大衆ぶち込むの結構迷ったけどやってよかった」と語っていたが、ソウルのこもったリリックをしっかりと大観衆に聞かせた。歌が終わった後には自然と大きな拍手が巻き起こっていた。
DJ RYOWは名古屋の仲間を中心にさまざまなアーティストを招く。SOCKS、次はCYBER RUIとMaRI、さらにC.O.S.A。また時代が変わっても継承すべき希代の名ラッパー・TOKONA-Xの“WHO ARE U?”や“知らざあ言って聞かせやSHOW”といったクラシックもプレイしていた。
Red Eyeのパフォーマンスには、ヒップホップの根源的な役割を垣間見た気がした。例えば“Pocket”で歌われる壮絶な少年時代も、曲にすることでアートになり、発表することでリーガルな経済活動に参加する。それは社会にアクセスしたということ。ヒップホップは社会の周縁部でもがく人たちも平等に参加できるゲームであり、それが同時に救済にもなるのだ。Red Eyeが“CBD”を歌っていると、ステージになんとD.Oが登場した。二人は幕張メッセで“悪党の詩(REMIX)”を歌った。
昨年も出演したOZworldは、同じアーティストとは思えないほど成長した姿で『POP YOURS』に戻ってきた。ラップやヴォーカル表現の安定は言わずもがな、さらに立ち姿、観客との距離感、自分の見せ方など、パフォーマーとしてのあらゆるスキルをバージョンアップしたように感じられた。大歓声の中で歌われた“NINOKUNI”では、多くの観客が笑顔で合唱していた。
立ち姿に色気を漂わせるMonyHorseがラップするとビートのグルーヴが倍増する。しかもリリックをしっかりと聞かせる。どでかい舞台をたった一人で支配する姿がなんともラッパーらしく感じられた。“雨ニモマケズ風ニマカセル”にはRedEyeをフィーチャーした。さらに“Tokyo Kids”には世田谷区出身のIOがステージに。北区出身のMonyHorseとそれぞれ視点で「東京」を描写した。
1日目のクライマックスはここから。PUNPEE&BIMはステージではなく客席から現れて、“夢追人”でKREVA、“Jammin ’97”でZeebraというリビングレジェンドをそれぞれ呼び込んだ。PUNPEEは「こういうフェスのいいところは普段会えない人に楽屋で会えることだよね。去年はトイレでLEXくんと会って挨拶して、今日は廊下でguca owlくんに握手してもらった」と話した。それを受けて、BIMは「今日ここに観客としてラッパーやDJとして来てる人たちがいたら、来年は楽屋で会いましょう。俺らも来年も出られるように頑張ります」と話した。
そのLEXはアーティストとしてのスケール感がとてつもなく大きくなったように感じた。かつての日本でヒップホップはメインストリームとは言えなかったが、LEXを見ていると彼こそが今の若い世代にとってのポップスターなのだと確信できた。年齢も性別も関係なく、みんなが心を奪われる。2023年の尾崎豊のようだった。この時代に響く言葉を、最新かつ王道の音で歌う。いそうでいなかった。LEXに熱い歓声を送る観客を見て、PUNPEE & BIMのライブでZeebraがラップした「“俺らの”カルチャーが世界を席巻」がリフレインした。それがいままさに目の前で起こっていると感じた。
BAD HOPのライブは驚きだらけだった。まず出音のクオリティが凄まじい。ヒップホップで大事な低音は爆音でばっちり響いて、同時に繊細なメロディも聞き取れる。これは会場でないと体験できない。1曲目“FRIENDS”でいきなりLEXとJP THE WAVYが客演し、“2018”、“Chop Stick”などアゲなナンバーを連発する。さらに当初ヘッドライナーとしてラインナップされていたが「いろいろあって」キャンセルになった¥ellow Bucksもサプライズで登場した。このアイデアはYZERRから¥ellow Bucksに「かまそうぜ」と提案されたのだという。“Yessir”と“I’m Back”を文字通り「かまして」ステージをあとにした。その後、“Suicide”や“Rusty Knife”、“Hood Gospel”などBAD HOPのルーツをテーマにした楽曲を歌った。ラストの“Kawasaki Drift”は大合唱ならぬ大絶唱だった。そして終演後にはまさかの解散発表。凄まじいライブの直後だっただけに、観客も皆心底驚いていた。
DAY 2
興奮冷めやらぬ2日目のオープニングDJはDJ DISK。トップバッターのeydenは「起きってかー!」と目の覚めるパフォーマンスを見せる。会場の海浜幕張と比較的近い袖ヶ浦出身とあってか、早い時間帯にも関わらず会場はパンパン。レーザーを多用した演出で、“MAKE IT UP”、“STACK”、“PAPER SHIT”、“HOUSE PARTY”など新旧の人気曲を畳み掛けるようにプレイした。
二番手のBonberoはさらに近い八千代出身。ヤングガンたちの凱旋公演だ。“Karenai”、“Swervin”、“Bandit”など見ていると、ラップを聞かせる技術が非常に高く感じた。この大舞台で、しかもハイテンポなドリルでは、テンションが上がりすぎてしまいそうなものだが、堂々と落ち着いていた。そして「前から一緒にラップをやってる友達がいる」と盟友・Tade Dustを呼び込んで“Life goes on”、さらにWeek Dudusも参加し“FXXKED UP”を亡きGucci Princeに捧げた。
新しいメンバーも加わったTokyo Young Vision。「まだ朝だけど一緒に盛り上がってくれる人はどれだけいますか〜?」と呼びかけると大歓声が返ってきた。“Buttobi”、“Attyuma”といったおなじみの楽曲から、リリースされたばかりの新曲“Make It Bounce”をプレイ。ラストは新メンバーと制作したという“TOKIOKI”を歌い、これからの活動を期待させる内容だった。
二日目の「NEW COMER SHOT LIVE」はヴァラエティに富んだラインナップで、Peterparker69がジャンルにとらわれない自由な音楽性なら、$MOKE OGは伝統的でストリクトリーなブーンバップ、MaRIは“BUM BUM”で挑発的なパフォーマンスを見せ、SugLawdFamiliarはルーツレゲエのバイブスを吹き込んだラップを聴かせた。
LANAは「1年前の『POP YOURS』はみんなの側にいた」と話していたが、その言葉が信じられないくらい、ステージ上での細かい所作、立ち振る舞い、振り付けにいたるまでが完成されていた。しかしおそらく彼女はもっと高い場所を見ているのだろう。ダンサー6名を従え、“PULL UP”などを歌うと、フロアのそこかしこから「かわいー!」と女性ファンたちの声援が飛んでいた。
川崎出身のCandeeは「昨日、BAD HOPが解散を発表したね。川崎にはKOWICHIさんやSCARSさんもいる」と地元をレペゼンし、「次は誰だ? 俺に任せとけ」と気持ちの良いボースティングで会場を盛り上げた。彼の特徴は性愛を歌うこと。日本には少ないがピンプ的猥雑さはヒップホップカルチャーを構成する要素である。“Wet”、“Candemic”、“Fuji”などをCandeeなりの比喩や言い回しでラップした。と同時に幼少期の過酷なルーツも歌った“TEIHEN”が合唱になった。LANAを招いた“TURN IT UP”、タイのラッパー・JV.JARVISとの“Panang”も歌った。
ステージにパーカーのフードをかぶった大人数が現れスタートした、CreativeDrugStoreのステージ。一人ずつフードを脱ぐ。メンバーはBIM、VaVa、in-d、JUBEE、dooooの5人。残りのメンバーが去ると、BIMは“Bonita”、VaVaは“現実Feelin’ on my mind”、JUBEEは“Mess”とそれぞれのソロ曲に、未発表曲を織り交ぜたセットリストを披露した。BIMは「それぞれ10年くらい活動してるけど、CreativeDrugStoreとしては新人だし、初めての曲もあるから盛り上がるか不安だった」と心境を語り、合わせて年内にはCDS名義での作品をリリースすると明言した。
Ryugo IshidaとNENEという稀有な才能を持った2人が融合したゆるふわギャング。作品を発表するたびに自由でオルタナティブになっていく。今回もヒップホップ、ハウス、サイケ、ロックなどをラップミュージックに落とし込んだサウンドで、1万人を超える観客をロックしたのは圧巻だった。センスとスキルという意味では、日本のヒップホップシーンに欠かすことのできない鎮座DOPENESSを“MADRAS NIGHT PART2”でフィーチャー。“Escape To The Paradise”では大合唱となった。
一転してピースで楽しいジャパニーズマゲニーズに。孫GONGは「こんな大勢の前でありがとうございます。僕たちは『POP YOURS』ではなく『HIPHOP YOURS』でお願いします。僕らは大麻取締法がなくなるまで戦い続けるグループです」など軽妙なトークを交えながら、どんどん観客を自分たちの世界に引き込んでいく。“realstoner”を歌い終えたあと、JAGGLAが「みんなケンカしないで、ゴミを拾って、あと捕まんないで」と話し、そこからの“最後の1本”では大合唱となった。
『フリースタイルダンジョン』に続いて、現在の日本のヒップホップシーンに大きな影響を与えているのがAbemaのオーディション番組『ラップスタア誕生』。『POP YOURS』のステージに立ってきたアーティストの数々を輩出している。そんな同番組で5月26日に新しい王者となったShowyVICTORが早速『POP YOURS』に登場。「これからのヒップホップの新しい顔が来たぜ」とノリにノッた状態で2曲パフォーマンスした。
続くralphも「ラップスタア誕生」出身。MIGHTY CROWNのシャウトが入ったイントロから代表曲“Back Seat”、さらにJUMADIBAを呼び込んだ“Kick Up”、“Get Back”へと繋がっていった。リミックスに参加したWatsonは携帯のメッセージから“みんな歌ってくれる?”と観客を合唱させた。次の曲はRalphが参加したHideyoshiの“Jitsuryoku”。もう1人の客演のLeon Fanourakisも参加した。グライムやドリルという日本ではマイナーだったビートを乗りこなしてトップラッパーの仲間入りしたralph。“実力主義”を地でいく、すさまじい説得力を放っていた。
現在、地元の名古屋はもちろん、さまざまなシーンのラッパーから支持され、客演にも呼ばれているC.O.S.A.。“My Field”、“Drowing Emotion”、“Su Su Su”とラップの一言一言が心に突き刺さるような感覚がした。そんな彼がMCで話したことが非常に印象的だった。
「俺は12歳から、もう23年ラップやってるんだけど、日に日に大きくなる日本のヒップホップを見て、すごいわくわくしてます。毎日新しいアーティストが出て来て、毎日新しいアンセムが生まれて。みんなと同じように日本のヒップホップを毎日聴くのが楽しみで。こういうフェスのいいところって推し以外の、名前は知ってたけど曲は聴いたことなかったアーティストを見られることだと思う。もしそういう出会いがあった人は、また明日からそのラッパーをサポートしてくれると嬉しいです」と話した。
まさに芯をついていると感じた。ヒップホップとは最低限のルールの中でそれぞれが勝手に遊ぶカルチャーなのだ。日々更新されるヒップホップとどう付き合うかも自由。『POP YOURS』は日本の多様なヒップホップの現在進行形の一部を切り取ってショウアップしている。
そんなMCの後、C.O.S.A.が「俺のこともサポートしてくれると嬉しいです」と付け加えて照れ笑いすると、場内から大きな拍手が起きた。そして最後はralphを招いての“POP KILLERS”。歌い終えると2人は7月1日にツーマンを開催することを発表した。
ステージが真っ赤に染まるとJin Doggの姿が浮かび上がる。Jin Doggが凄まじいバイブスを発散すると男性からも、女性からもかなり大きな歓声が上がった。畳み掛ける前半を終えると「調子どうよ? 馬鹿野郎ども」と挑発する。そしてTAKABOと“ON MY MAMA”を歌い、さらに「思い出してほしいやつがいる」と話すとビジョンにREAL-Tの映像が大写しになった。Jin Doggは客席に降りた。観客は“街風”を大合唱して、その中をJin Doggが堂々と闊歩する姿はあまりに劇的でかっこよかった。
『POP YOURS』もそろそろ終盤戦となり人気と実力を兼ね備えたアーティストが出てくる。まずはJP THE WAVY。「今日はダンスしながらやっていきたいと思います」とダンサーの仲間たちとともに踊りながらラップする。そのパワーとスキルには心底驚かされた。本人は努力など微塵も感じさせず、当たり前のようにこなしていたが、冷静になって考えるととんでもないことだ。また“What's Proppin”にはLANA、“GUMMY YUMMY”にはCandeeにもフィーチャーされたJARVISが姿を見せた。華のあるJP THE WAVYらしいカラフルな時間となった。
KEIJUはサックス奏者のMELRAWをフィーチャーして、よりダイナミックにアレンジされた“Tears”を歌った。馴染みの仲間・MUDとの“Hold You Down”や、Gottzを加えた“Prove”では大きな歓声が巻き起こる。特に感動的だったのは、KANDYTOWNのメンバー・故YUSHIへ捧ぐ“Remy Up”だ。IOが巨大なシャンパンのボトルを片手に現れ、2人でラッパ飲みしたあと、YUSHIへのリスペクトを込めるかのようにステージにレミーを流した。その時、ビジョンにはKANDYTOWNのロゴが大きく映された。
JJJはリリースしたばかりの最新アルバム『maktub』の収録曲を中心にセットリストを構成した。壮大なスケール感の“Mihara”、韓国のシンガーSOGUMMをフィーチャーした“July”、KMによるUKガラージを乗りこなす“Scav”など、飛び抜けたセンスとラップスキルで会場を圧倒した。ゲストは“Something”にCampanella、“366247”にISSUGI、“STRAND”にKEIJU、“心”にSTUTSとOMSBが参加した。JJJの声には特別なパワーがある。音源も素晴らしいが、ぜひともライブを見てもらいたいラッパーのひとりだ。
これは昨年のレポートにも書いた気がするが、『POP YOURS』はSTUTSのライブを見るのに最適な場所のひとつである。STUTSがなぜMPCにこだわるのか。それは生ドラムでは絶対に到達できない音圧を演奏できるからだ。柔軟な音楽性とポップセンスも彼の特徴ではあるが、その根本にあるのはラウドなドラムである。『POP YOURS』が用意した音響設備はSTUTSの世界観を完全に表現できる。そんなSTUTSのステージには彼のあたたかい人となりを証明するかのようにさまざまなゲストが顔を出した。"Presence"にはBIMとNENE、"Pretenders"にはC.O.S.A.とYo-Sea、"Expressions"には鎮座DOPENESS、Campanella、NENE、Ryugo Ishidaなどなど。そして"Changes"を歌ったJJJは帰り際にSTUTSに「愛してる」と告げた。すると、STUTSはすかさず「こちらこそ」と返し、それを見た観客たちに笑顔が広がった。さらになんと朝に急遽出演オファーを受けたというPUNPEEも駆けつけ"夜を使いはたして"を歌う。STUTSは「僕は単純に自分もヒップホップヘッズなので、こんなにヒップホップを好きなお客さんが集まった会場でライブできるのが嬉しい」と話し、「ラップスタア誕生」でつながったKaneeeとの新曲“Canvas”を披露した。
Tohjiもとんでもないライブを披露した。STUTSが横に揺れるグルーヴならTohjiは縦に飛び跳ねるノリ。「Higher」からはgummyboyも参加してMall Boyzでパフォーマンス。彼らのライブの魅力は、その場にいると一緒に参加したくなってしまうエネルギーだ。ユーモアあふれるTohjiと、gummyboyの掛け合いを見てると、いつのまにかMall Boyzの世界に巻き込まれてしまう。
特に面白かったのは新曲“mango run”の振り付けを観客に教えるシーン。かなり複雑なダンスで、一回見ただけではほとんどの人が踊れないが、その場にいるとなんだか参加してみたくなる。実際にいろんな人がなんとか自己流で“mango run”の振り付けを踊っていた。お祭りのようだった。
Tohjiは「俺、ツテとかないからもともと友達の前でしかライブしてなかったんです。15人とか。そしたらある時、1人だけ見たことない大人が来て。その人に『Tohjiくん、ぜひイベントやってほしいんですけど』と誘われたんです。それでWWW βという150人くらいのキャパの会場で、初めて友達以外の人の前でライブしたんですよ。こんなにいっぱい知らない人が来るのがすげーと思って。その声をかけてくれた人がいなかったら今の自分はないと思う。その人から去年電話をもらったの。『日本でヒップホップの大きいフェスをやりたいから力を貸してください』って。その時はライブ(は)ダルいと思ってたけど、その人に誘われたからやったんです。それが今『POP YOURS』になってるんです」と話した。
大ラスはAwich。この二日間『POP YOURS』は日本のカルチャーの震源地となっていた。みなそれぞれベストといっても過言ではないライブを見せた。Awichはそれらをすべて引き受けてステージに立った。Tohjiが「なんだかやってみたくなる」なら、Awichは「わからせる」イメージ。1曲目の“QUEENDOM”からリリックの一語一語が飛んでくる。
“Bad Bitch 美学”にはNENE、LANA、MaRIに加えて、なんとAIをフィーチャー。ヒップホップのおもしろさのひとつに、いろんな考えのいろんな人がいろんなところでいろんなことをしてるということがある。これはC.O.S.A.のMCにもつながることだが、複雑な螺旋をそのまま受け入れるとヒップホップがさらにおもしろくなり、違う景色が見えてくる。
Awichは「去年の『POP YOURS』でアリーナツアーをやると宣言したので、この場で発表させてください。今年11月5日に横浜のKアリーナで単独ライブやります!その名も『Queendom -THE UNION-』!K-Arena Yokohamaっていう横浜にできた、めっちゃデカい新しいアリーナでございます」と発表した。
さらに「昨日はBAD HOPがこの素晴らしいステージで解散を発表しました。……やだ。マジ解散しないでくれ。そう思ったよ。でもあいつらはいつもお互いのことをめちゃくしゃ真剣に考えてるの。日本のシーン全体のこともいっつも本当に真剣に考えてくれてる」と続け、「そんな彼らにインスパイアされていろんなビジョンを持ってます。去年は武道館を成功させました。今年のアリーナも成功させる。来年にはどんどん世界に活動の場を広げていきます。そして私は絶対にグラミー賞を獲ります。そんなビジョンをみんなに見せたくてスペシャルなセットを用意しました」と“GILA GILA”のスペシャルバージョンを披露した。「BAD HOPの解散、ほんとに悲しいぜ!だけどまたお前らに会えるまで楽しみに待ってるからなー!」と絶叫し、YZERRのパートをAwichアレンジでカバーした。そこに解散への思いやBAD HOPへのリスペクトを込めて2023年の『POP YOURS』は幕を閉じた。
日本におけるヒップホップは1980年代に上陸して、暗中模索の1990年代を経て、2000年代に一過性のブームとなった。そこからさまざまな人たちが再び日本なりのヒップホップ像を作っていった。その過程にフリースタイルバトルがあり、ハスラーラップがあり、文化系ヒップホップなどのスタイルが生まれた。「フリースタイルダンジョン」、「ラップスタア誕生」の存在も大きい。R-指定、C.O.S.A.、STUTSも話していたが、『POP YOURS』はそんな歴史を踏まえての、巨大ヒップホップフェスなのだ。ヒップホップアーティストだけをラインナップして、二日間でのべ3万人を動員し、YouTubeでは同時配信が110万回再生された。そんな状況だからこそ、多くの演者が自然と「ヒップホップと夢」を語ってしまったように思う。人気と実力を兼ね備えた若いアーティストが多数出演していたことも明るい。彼ら彼女らを観て、日本でもマイク一本で人生を変えられるんだと感じた二日間だった。
Info
POP YOURS 2023
名称 : POP YOURS 2023
日程 : 2023年5月27日(土)・5月28日(日)
場所 : 幕張メッセ国際展示場9~11ホール (〒261-8550 千葉市美浜区中瀬2-1)
出演者
DAY1:5月27日(土)
BAD HOP
DJ RYOW & FRIENDS
Elle Teresa
guca owl
IO
LEX
MFS
MonyHorse
OMSB
OZworld
PUNPEE & BIM
Red Eye
SEEDA
Skaai
梅田サイファー
Watson
Yo-Sea
[NEW COMER SHOT LIVE]
Ashley
Choppa Capone
STARKIDS
Yvng Patra
(AtoZ)
DAY2:5月28日(日)
Awich
Bonbero
Candee
C.O.S.A.
CreativeDrugStore
eyden
ジャパニーズマゲニーズ
JJJ
Jin Dogg
JP THE WAVY
KEIJU
LANA
ralph
STUTS
Tohji
Tokyo Young Vision
ゆるふわギャング
[NEW COMER SHOT LIVE]
MaRI
Perterparker69
$MOKE OG
SugLawd Familiar
(AtoZ)