【インタビュー】MARIA 『Deep Float』|強くはないけど、やるしかない

昨年9月にソロでの最新作『Deep Float』をリリースしたMARIA。すべてのディレクションを自身で担当した前作『Pieces』から3年振りとなる新作は、1stソロアルバム『DETOX』以来となるSUMMITとのリレーションシップにより生み出された6曲入りのEPだ。現行USラップの意匠を取り入れつつもバラエティー豊かな楽曲群のなか、埋もれない個性と言葉、そして歌を綴った彼女は、いかにしてこの作品を完成させたのか。そして本作に込めたメッセージの源泉を訊くべく、インタビューを行った。

※本インタビューは2021年1月7日に発出された2度目の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言以前に収録されたものです。

取材・構成:高橋圭太

撮影:寺沢美遊

- まずはここ最近のMARIAさんの日常から訊いていきたくて。

MARIA - 最近もよくクラブに遊びに行ってるかな。行かなくなったのは横須賀ぐらい。基地で働いてるひとたちがコロナで出てこれなくなったから、クラブが全部クローズしちゃって。だから全然おもしろくなくなっちゃって。

 - 遊びに行く頻度がいちばんピークだった時期は?

MARIA - それがさぁ、変わんないんだよね。いまがピークっていうか、ずっとピーク。ただ、25歳から28歳ぐらいまでの3年間はちょっと落ち着いてたけど、それ以外は16歳からずっと変わってない(笑)。

 - 落ち着いた時期っていうのは、理由があったんですか?

MARIA - 家とかでしっぽり飲んで、パーティーはもういいかなって思ってた時期で。でも、そこにコロンビア人の友達がひさびさに連絡くれて。その子は超パリピなんだけど、「最近なんで遊びに行かないの?」みたいな感じで誘ってきて。それで落ち着いた生活にも飽きてきたからちょっと遊びに行こうかなって気持ちになっちゃった。そこでまた火がついちゃった感じ。最初はわたしとそのコロンビア人、その子の友達って感じで遊んでたんだけど、それくらいにパリピやめてたわたしの友達たちもまた遊びだすようになって。いつも10人くらいで行動してるね。

 - クラブに行くときはいつも大人数で?

MARIA - 基本は大所帯だったんだけど、これがまた女の事情で、彼氏ができたり、フェードアウトしちゃったりもするじゃん。派閥ができたりもするしさ。わたしはそういう派閥ができてもどこにも属さないの。「わたしはおまえの味方もしないし、コイツらの否定もしない」みたいな立場だから。それでバラバラになったりするんだけど、わたしはそのバラバラになったヤツら全員と遊んでるね。「おまえさぁ、親友だったら、わたしがアイツのことイヤだって知ってるのに、なんでアイツといるの?」とか言われたこともあったんだけど、わたしは「そんな小学生みたいなこと言う? 問題あったのはアンタじゃない?」みたいな感じだから。そんな感じで毎週末いろんな友達と遊んでる。

 - そういったパーティー・ハードな日常は、どのように音楽にフィードバックするんでしょう。

MARIA - やっぱりベーシックに戻れる。クラブとかで聴く音楽って、単純にノれる音楽じゃん。体が自然に動く、みたいな。音楽を長くやってると煮詰まったり、リリックもやたら上手いこと言おうとしてみちゃったり。

 - テクニカルな方向に向かっちゃう、というか。

MARIA - そうそう。思考的にも仙人みたいになりはじめたり。それをフワッとした感じで伝えられたらいいんだけど、それが価値観の押し付けみたいになった音楽ってつまらないとわたしは思うから。そういう意味でクラブは初心に戻らせてくれる場所かな。新しいことを摂取するっていうより、初心に戻るって感じ。

 - 音楽的な部分、特にビート選びなどにも影響はありますか?

MARIA - あるかもしれない。でも、普段はランダムにジャンルを選んでYouTubeで最新のDJのミックスとか聴いて、ヤバいと思ったやつをピックアップして、そこを起点にディグってたりしてて。クラブとかで聴く音楽に関しては「やっぱりこういうのをクラブで聴きたくなるよね」ってところから発想することもあるけど、どちらかというとひとりで音楽を聴いて「こういうビートがいいかも」って思うことのほうが多いかも。

 - クラブで聴く音楽と家で聴く音楽ではチャンネルがちがうんですかね。ちなみに最近はどんなアーティストをよく聴いてますか?

MARIA - ここ最近でいちばんハマってるのはJuicy JとNLE Choppaの“Load It Up”かな。Juicy JとNLE Choppa、ふたりとも好きだから。あとはA$AP Fergが好きだね。攻めた曲もできるけどレイドバックした攻め方もできるラッパーというか。リリックがオラオラしててザ・男みたいな。そういう渋い感じが好き。RedmanとかBusta Rhymesも好きだけど、全部そういうタイプのアーティストだね。

 - では日本国内だとMARIAさんの好きなラッパーは?

MARIA - 日本のラッパーだと外せないのはMACCHOさん。やっぱりちょっとドスが効いた感じが好きなんだな。でも、いまのヒップホップ・シーンでドス効いてるラッパーってなかなかいないかなって。TOCONA-Xみたいなスタイルもいないじゃん。

 - そういった好きなラッパーの条件って、自分のなりたいアーティスト像とはイコールだったりするんでしょうか?

MARIA - イコールではないね。

 - では自分がこうなりたいっていう理想像は?

MARIA - うーん。わたしがもともとSIMI LABに入ったときは、まだピチピチだったってこともあって(笑)、もうすこしエンターテイメント的にやりたかった部分があって。Lady Gagaとかがヒットしてたタイミングだったし、もっとエンターテイメント的に盛り上げたいって気持ちが強かった。でもわたし自身はニューヨークの90年代のラップやウェッサイも好きだしっていう。思いっきり上げていきたい自分と、アングラっぽい感じでやっていきたい自分がいて、正直それで「自分のどんなスタンスでいけばいいんだろう」って思うこともあったんだけど。そういうときにWiz Khalifaを聴いたら、いいこと言ってたんだよね。“Work Hard, Play Hard”とかの初期の曲はアゲな曲調なのに「なにかを手に入れるためにオレは働く」みたいなメッセージだったり、“Roll Up”でも「おまえの男はおまえをちゃんと扱ってないの? じゃあオレがすぐRoll Upするよ」みたいなリリックを書いてて。アゲることもできるけど、ひとの痛みもわかるリリックっていうのかな。だから、そういう意味ではWiz Khalifaがいちばん理想に近いかも。で、もしわたしがもっと歌を歌えたらTy Dolla $ignになりたかったね。

 - でも歌えるじゃないですか。

MARIA - 歌えない、歌えない(笑)。歌うときはほんと必死。必死で歌ってんだから。

 - Ty Dolla $ignはどんなところが好きなんでしょう。

MARIA - 彼の歌を聴いてるとわかるけど、グルーヴって言葉で片付けるにはもったいないぐらい、カリフォルニアって土地が持ってる化学反応を全部理解したうえで歌ってるっていうか。めちゃくちゃファンクネスを感じる。ああいうファンクネスを出せるのって、わたしはTy DollaとChildish Gambinoぐらいなんじゃないかなって思う。あんなに歌えたら気持ちいいだろうなぁ。だって楽器みたいに歌うじゃん。

 - しかもTy Dolla $ignはいわゆるメジャーのど真ん中にいて、それをやってるというすごみがありますよね。そういった話の延長で今回の作品『Deep Float』の話を伺いたいんですが、MARIAさんが本作で掲げた目標みたいなものはあったんでしょうか?

MARIA - 毎回そうなんだけど、なにを出すにも「完成はしたけど、わたしはこれを胸を張って世に出していいのか」みたいなところに対して、手探りな部分があったのね。前作の『Pieces』もそうだった。曲を作る側としては、こっちで曲作って、それをエンジニアさんに投げてミックスをお願いして「キレイになった、ワーイ」で終わればいいんだけど、こだわりがあるがゆえに作り直すことって多くなるわけ。それを重ねていくうちに「これ、妥協したほうがいいのかな?」みたいな気持ちが生まれたりするんだよね。でも、今回は妥協を一切許さないっていう気持ちで挑んでて。わたしのなかでクリアしたかったのは、邦楽を聴くひとと洋楽を聴くひとってけっこうはっきりわかれてると思ってて、その両方にいいねって思ってもらえたらいいなと。わたしのまわりは洋楽しか聴かないひとが多いから、みんなにアルバム聴かせたのね。で、さっき話したコロンビア人にも聴かせて。で、彼女はウソつけないわけ。『Pieces』を聴かせても「ふーん、なんかシリアスじゃね?」みたいなリアクションだったんだけど、『Deep Float』聴かせたら「え、マジでいいよ。日本語だけどめっちゃ雰囲気ある。“ Far Away”とかめっちゃいい」って言ってくれて。わたしとしてはそれがひとつの目標だったかもしれない。

 - A&RであるSUMMITの増田さんにもお話を伺いたいんですが、今回の作品を作るにあたって、最初の働きかけは増田さんからという話を聞いていて。

SUMMIT 増田 - そうですね。でも最初っから「パッケージをどういうふうにしよう」みたいなのはなかったんですね。2018年の7月ぐらいに「最近作った曲なんだけどよかったら聴いてみて」って“Like That”って曲を聴かせてくれて。それがすごくカッコええなと思って、単曲でもいいからそれを出したいなと。これはイケイケの曲って感じでもないし、彼女のそういう優しくて丸い側面が自分は好きだったし、それを出せるならSUMMITでリリースしたいって話をしたんです。

MARIA - Twitter経由でGRADIS NICEさんの“Set Me Free”のビートを増田さんが見つけて、わたしに「これ、どう思う?」って送ってくれて。めっちゃよかったから増田さんに連絡してもらって、すぐ曲を書いて。でも、なんだかんだであの曲は時間かかったんだよね。何度も作り直して、レコーディングの途中にまたアイデアを思いついたりして。それで最後にできたのが、いまのいちばんいい状態だったっていう。

増田 - サビに関してはVaVaさんにもアイデアをもらって。

 - すこし話は戻りますが、前作『Pieces』はMARIAさん自身でリリースをしてみて、そこで得た成果と、今回SUMMITからリリースしてみての成果、その両方がどんなものだったか訊いてみたくて。まず前作の成果は?

MARIA - 成果って言われるとむずかしいけど、わたしのなかでずっとあこがれだったMACCHOさんやFIRE BALLのSTICKOさんといっしょにやれたことは大きかったかな。横浜のことをずっと歌いたいと思ってたし。それにだれになにかを言われるわけでもなく、自分のジャッジが全部反映されるっていうのも重要だった。「孤独はひとを成長させる」って言うじゃん。全部自分で決めなきゃいけないから、作ってるときは毎日病んでて。「『Pieces』出したらもう曲なんか作らねぇ!」とかまで思ってたもんね。

 - では、それを踏まえた上で今回SUMMITからリリースしたことで得られたものはなんでしょう。

MARIA - SUMMITって自分のなかではヒップホップとポップな音楽をうまく接合してるレーベルというか、その架け橋みたいな感じ。だからこそ広がってると思うのね。やっぱりわたしはUSのヒップホップがずっと好きだし、それ以外にもアフロビーツやラテンミュージックも好きだから、そういったものからの影響をどう日本のシーンに持ってくるかっていうのはチャレンジな部分ではあって。しかも前作を出してから期間が空いてたし、そういう意味ではSUMMITとやることで自分ひとりでは広げられないところまで伝えてくれるなと思った。だから『Pieces』発売からちょっと空いて増田さんから「またやろう」って言ってくれたのは本当にうれしかった。もしまた何曲か作るなら絶対にいてほしい存在だったから。やっぱりひとりだけで作るのとは違って、議論をできる相手がいることで作品の質が高まったっていうのは確実にあったんじゃないかなって。

 - 増田さんはSUMMITからMARIAさんの新作を出すにあたって、前作からの差別化という意味ではどんなところを意識しましたか?

増田 - 自分は『Pieces』に収録されてる“A.W.A.R.E.”って曲がめちゃくちゃ好きで。2013年に1stアルバム『Detox』をやらせてもらったときも、そういった優しい感じの曲は出てたんですが、どうしても目立つのはハードな曲なんですよ。2015年ぐらいにMARIAさんと曲のことを話してるときも、どうしてもおたがいの曲の好みが合わなくって。でも無理してリリースしたいとも思ってないし、MARIAさんにも無理はさせたくないので、最終的には彼女自身でリリースしたほうがいいんじゃないかって話になった。でもそれ以降もSUMMIT作品にも絡んでもらったり、自分のなかでMARIAと合う部分が絶対あるんじゃないかとは思ってたんです。その部分をいい感じに広げられたらなと。もちろんMARIAさんが自分でリリースする作品に関しては自分でジャッジすればいいし、SUMMITで出すなら自分が思うMARIAさんのがいいと思うところを前面に出せればいいなと思ってますね。

 - その観点でいうと本作で増田さんがディレクションをするにあたって時間をかけた曲は?

MARIA - “Far Away”じゃない?

増田 - “Far Away”は時間かかりましたね。“Far Away”と“Set Me Free”だと思います。

 - “Far Away”はトークボックスの客演にLUVRAWさん、プロデューサーにKMさんが参加されてますね。

増田 - LUVRAWさん、KMさんともたくさんやり取りしましたね。ミックスの段階でもいろんな試行錯誤をして、ミックスを担当してもらったD.O.I.さんのスタジオでも、この曲の最終チェックも結局朝までかかったりして。

MARIA - パズルみたいだったよね。ほんと付き合ってくれたみなさんには感謝しかないですね。

 - “Far Away”はリリックも素晴らしいですね。クラブでの男女の歌なんだけど、その情景描写が生々しくもロマンチックで。

MARIA - さっきクラブで遊ぶことが影響してるかって話をしたけど、この曲もそうなんだよね。クラブにイケメンがいて、そのひとがヘネシークランベリー飲んでて「かわいいなぁ」って思って(笑)。そういう楽しいエピソードが曲に反映されてる。“Salud”もそうで、たとえば金持ってるヤツって、女は金になびくと思ってるじゃん。わたしはそういうの全然興味ないからガンガン使わせるわけ。ガンガン使わせても、「いっしょに帰ろうよ」って言われたら「帰るわけないじゃん。結婚してるんで」みたいな感じなわけ(笑)。逆に金がないヤツでも「オレ、お金いらないんでヴァースやらしてください」とか言うんだけど、そういうヤツには「それ、自分を安売りしてるよ。やめな」とか言ったり。だってわたしはこっちがお金出してでも、いっしょに曲やりたいと思わないひととはやりたくないし。で、最終的に「わたしはブランドものつけないけど、自分自身がブランドだからよろしく」って言ってる曲。

 - では今回のアルバムで自身でいちばん好きなラインを挙げるとするなら?

MARIA - なんだろうなぁ。あ、“Like That”の「verse蹴るだけの女だとあなどる事なかれ/cause I'm flex than anybody when you get deep inside me/you'll feel how I'm spiritually」は好きかな。スムーズだし、なおかつメッセージも強いでしょ。「when you get deep inside me」って、わたしがただ感覚的に生きてるヤツだと思ってるかもだけど、もっとフォーカスしたらスピリチュアルなものが見えるかもよ、みたいなことなんだけど。それも実は2Pacの引用で「オレの音楽と本当に向き合ったときにはじめてスピリチュアルになる」って言ってて、昔それに救われたところがあったから。そういう意味では“Like That”のリリックはけっこう好きかも。自分のフラットなメッセージに近いから。

 - “Like That”には客演にFrankie氏が参加していますね。彼の出自と参加した経緯を教えてください。

MARIA - 彼はヒューストンのラッパーで、もともとはTwitterで友達になったの。だいぶ前に向こうからわたしをフォローしてきて「おまえの曲ヤバいね! しゃべろうぜ」みたいになって。普段からそういう絡みはちょいちょいあるんだけど、実際にFrankieの曲を聴いてみてめっちゃいいなってなったから連絡取り合ってて。で、けっこうコンスタントに「このビートどう?」みたいな近況報告をよくしてくれてたなかで「この曲にちょっとヴァース乗せてみない?」って言われたのが“Like That”。

 - では実際には会ったことはないんですね。

MARIA - 会ったことないね。日本にも来たことないみたい。27歳くらいじゃなかったかな。まだちゃんとした作品は出したことなくて、ラッパーのゴーストライターしてることのほうが多いって言ってた。ミステリアスだよね。

 - 続けて“Full Moon”に客演しているRINOHさんについても参加の経緯を教えてください。

MARIA - RINOHくんはFresh Dude Crewってクルーなんだけど、わたしはHIBRID ENTERTAINMENTから出してた“Ride with”って曲のPVで知って。超レイドバックだしめっちゃ歌心あるし、WREPでやってたラジオ番組でもかなりプレイしたんだよね。で、Fresh Dude Crewが東京来たタイミングで話して仲良くなった。彼はすごくフレンドリーで謙虚だし、ソロ名義でリリースしたEPもめっちゃよかったの。そのなかに“Lemonade”って曲があって、すごくよかったから感想を送ったらいくつかビートを送ってくれたんだけど、そのなかに“Full Moon”のビートがあって「これでちょっとやってみようよ」って。

 - なるほど。“Full Moon”もそうだし、メロディアスな楽曲が並ぶなか、よりダンサブルな“You Look Fun”のような曲も収録されているのが本作のおもしろいバランスなのかなとも思っていて。

MARIA - “You Look Fun”を入れたのにも理由があって。SIMI LABからキャリアがはじまってそこそこ長いことやってきて。たくさんお客さんがいるところだったり、フェスとかにも出演してきた経験上、もちろんヒップホップはいいんだけど、ヒップホップのことをわからないひともちゃんとアゲたいって気持ちがあって。そういうひとも踊らせられる、シンプルにノリやすい曲を作りたかった。かつ、ちょっとエッジの効いたワードチョイスができればなって。デカい会場とかで“You Look Fun”やったら、みんなが頭振れる系の曲じゃない? この曲はAzealia Banksにインスピレーションを受けたんだよね。四つ打ち系で、でもエッジが効いてて。で、そういう曲をやりたいと思ったときに、思い浮かんだのがCherry Brown(Lil' Yukichi)。

 - ヒップホップのおいしい部分を残しながらクロスオーバーした楽曲が作れるのは、やっぱりLil' Yukichiさんですよね。

MARIA - そうなの。付き合いも長いし、Cherryはわたしの気持ちをいちばんわかってくれるプロデューサーだと思う。わたしも気軽に「ここはこうじゃない」って言えるし。だからありがたいなって。

 - 付き合いはだいぶ長いですよね。はじめてLil' Yukichiさんに会ったのは何年前?

MARIA - 12年ぐらい前。最初は六本木で出会ったんじゃないかな。「オレ、Cherry Brownって名前でラップしてて」って言われて、わたしもまだ若くて尖ってたから「ふーん」みたいな(笑)。でも、家に帰って“I'm 沢尻エリカ”聴いたら「めっちゃバウンスしてる! Cherry Brownヤバいじゃん!」って思って。そこからの付き合い。ほんとに彼は最高。

 - リリックに関しても伺いたいんですが、MARIAさんが書く歌詞は自身をエンパワーメントする歌詞が多いと思っていて。特に“Set Me Free”は本作のなかでもいちばん自己肯定を促すメッセージが強いと思うんですが、このリリックにいたったいきさつを教えてください。

MARIA - 曲のなかで「I know you tired/それでもあたりまえだって」ってあるじゃん? 大人になって、仕事で疲れてる友達とかを見て「大変じゃない? もっとちがう生き方もあるんじゃない?」って言っても「こうするのがあたりまえだから」って言われることが多くて。もちろんそのひとだってがんばってるんだけど、本当の自分も見失わないでほしいというか、「生きることってそれがすべてじゃなくない?」って気持ちがある。あと、ハーフで生まれて日本で生きていくのって大変で、いまとなってはハーフがうらやましいって感覚ってあるけど、もちろんいいことばっかじゃないんだよね。それを妬んでイヤなこと言ってくるひともいるし、子供のころはシンプルに「おまえ外人じゃん」って言われたり。小学生のときの話なんだけど、クラスのヤツに「先生、コイツ外人の臭いするんですけど」とか言われて、そしたら先生もひどくて「そうですか。じゃあ窓開けてください」とか言ってんの。みんなの前では絶対泣かないと思ってたけど、そのあとトイレでめっちゃ泣いて。そういうくやしかった過去があって、だから逆に舐められちゃいけないと思って、中学校くらいからオラついたりもしたんだけど。でも、そうやって自分を強く見せることで自分を守ってただけだったんだなって。そういうときに心を許せる友達や恋人、本当の自分を認めてくれるひとたちに出会ったときに、ほんと楽になった。まわりの雑音とかどうでもいいって思えたし、これが本当の意味での自由だなって思って。みんなが認めてくれたおかげでわたしは自由に言いたいことが言えてると思ったから、窮屈な思いをしてるひとがいるんだったら、そういう縛られてるものから解き放たれてもらいたいんだよね。

 - MARIAさん自身は自分で自分のことを強い女性だと思えますか?

MARIA - 自分を強い女性だとは思わないけど、結局しょうがないのよ。やるしかないわけ。強くはないけど、やるしかないってマインドが自分を強くしてくれてるんだと思う。自分を肯定できないときってだれしもあるし、わたしもあるんだけど、そういうときって自分が悪いことが多いんじゃないかなって。落ち込んでるときって、自分がサボってるときだから。自分がやることやってないから落ち込むんなら、「じゃあ、やればいいじゃん」ってところに行き着く。わたしが指摘されて落ち込むのは、その通りだって思っちゃう自分がいるからで、それなら「じゃあやろ。やるしかねえ」みたいにしていくしかないんだよね。サボらずにやることやってれば、他人からなに言われても落ち込まないから。

 - いまの話を踏まえて、MARIAさんが今後やるべきだと思うことはなんでしょう?

MARIA - 筋トレ(笑)。“Far Away”のPVを撮るにあたって、けっこう脱ぐなと思って。かといってほかのだれかが代わりに出るわけにもいかないし、妥協するのもイヤだったからはじめたんだけど。PVの撮影以降、平日に2キロやせて週末に2キロ太るっていうルーティン(笑)。でも、それをずっとキープしてやってる。ひとは見た目じゃないけど、目立つ顔してるからさ、「MARIAさんの顔が好きです」って言ってくれる女の子とかもたまにいるわけ。で、声かけてくれたときに、だらしないとこは見せられないじゃん。そして実際に起きたことなんだけど、実物の私に会ってみて、会ったあとにSNSのフォローが外れてること(笑)。でも、そういう人たちからしたら、わたしがそれなりでいること自体がなにかの励みになってるんじゃないかなって勝手に思ってる。だからとりあえずは筋トレ。曲に関しては、やりたいと思ってるビートがいくつかあるから、もうすぐに制作したいなって気持ち。次の作品もすぐ出したいなって。個人的に『Deep Float』はやりたいことをやらせてもらったって感じがあって。で、次にやりたいこともたくさんある。ほかのみんながどういうつもりで音楽やってるのか知らないけど、わたしは自分が作った音楽を後々になって聴いたときに「いいもの作ったな」って思うためなんだよ。前だったら作品へのリアクションも大事って言ってたかもだけど、いまは自分で「やってよかったな」って噛みしめられる作品さえ作れればいいなって思う。

Info

2020.09.30 Release

MARIA "Deep Float"

https://www.summit2011.net/maria/deep-float/

1. Like That feat. Frankie (Prod. by Scientific) *先行配信中

2. Full Moon feat. RINOH (Prod. by YenYen) *先行配信中

3. Set Me Free (Prod. by Gradis Nice)

4. Salud (Prod. by Rascal)

5. You Look Fun (Prod. by Lil'Yukichi)

6. Far Away feat. LUVRAW (Prod. by KM) *9/23(水)先行配信開始

All Recorded by KOYANMUSIC at スタヂオ別館

All Mixed by D.O.I. for Daimonion Recordings

Mastered by Kevin Peterson

Photo & Design by ycm

A&R : Takeya “takeyan” Masuda (SUMMIT, Inc.) ℗© 2020 SUMMIT, Inc.

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