【ライブレポート】FNCY × Daichi Yamamoto | 「他では見たことない」最高の組み合わせ

FNCYとDaichi Yamamotoのツーマンライブ『TSUTAYA O-EAST presents FNCY x Daichi Yamamoto』が11/25(水)に東京・TSUTAYA O-EASTで開催された。この日の夕方、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、東京都が飲食店などに営業時間の短縮を要請。会場のO-EASTは、通常時はフロアをスタンディングとして解放しているが、今回は感染防止のため座席を用意。さらにライブの模様はストリーミングでも有料配信も行われた。

取材・文 : 宮崎敬太

写真 : 横山純

Daichi Yamamoto

開演前のBGMはKMの未発表リミックス。KEIJUやECDの人気曲を、さまざまなダンスミュージックを吸収した彼ならではの新しい解釈で提示する。徐々に場内が温まった頃、Phennel KolianderがDJブースにスタンバイして、BGMをフェードアウト。トークボクサーのKzyboostも登場する。このツーマンのために用意されたVaVaのジングルをプレイする。VaVaが「みんな立って身体を揺らそうぜ」と言うと着席していた観客も立ち上がり、この日の楽しみ方を各々理解したようだった。

「お待ちかねです、Daichi Yamamoto」と紹介されると、アフリカンドラムから重いビートが鳴り響き、Kzyboostの透明感のあるトークボックスが絡む。そこから1曲目"Splash"へ。Daichi Yamamotoが悠然とステージに姿を現す。KMがプロデュースしたこの曲は、8月にリリースしたEP『Elephant In My Room』に収録されている。1stアルバム『Andless』では繊細な感性にフォーカスが当たったが、Daichiはレゲエと深い結びつきがあるUKのベースミュージックに強く影響を受けている。ロンドンのドリルをイメージさせる"One Way"では1ヴァース目をアカペラでラップする。続いてUKガラージの人気曲"Let It Be"。バウンスするビートとディスコティックなピアノに、この日はKzyboostのトークボックスも加わる。多様なダンスミュージックをミックスしてポップな1曲にまとめあげたこの音楽はDaichiらしい。

Daichi YamamotoとPhennel Koliander

Kzyboost

次に流れたのは8月のEPでも異彩を放っていた"Ajisai"だ。楽曲ではサンプリングされていたコーラスをKzyboostがトークボックスで歌う。ライブならではの生々しいエモーションが表現される。Daichiも思わず「最高です」と感想を漏らす。続く"Netsukikyu"はKzyboostを大々的にフィーチャーしたリミックスバージョン。腰に来る重たいベースにメロウネスが加わり、Daichi流ウエッサイのバイブスでフロアを揺らした。ここでスペシャルゲストとしてSTUTSがメンバーに加わる。曲はSTUTSの"Breeze"。爽やかなギターやキーボードがリードするこの曲も、"Netsukikyu"からの流れで聴くとなんだかLAなノリに感じるから面白い。曲が終わりSTUTSが「お邪魔してます」と挨拶すると、Daichiは「せっかくSTUTSさんも来てくれてて、FNCYもいるということなんで……」と前置きする。すると鎮座DOPENESSが登場して"Mirrors"へ。この曲はSTUTSが9月に発表したミニアルバム『Contrast』からの楽曲で、Daichiも参加した。鎮座のカンフル剤のようなパフォーマンスに、Daichiも会場のテンションもどんどん上がる。ステージの中央でお互いの顔を見あって笑顔になるシーンはとても印象的だった。

STUTSもステージに登場

鎮座DOPENESS

STUTSと鎮座がステージを後にするとDaichiは「(Phennel KolianderとKzyboostの)3人でやるライブは今年最後だと思うのでこっちもめちゃくちゃテンション高い感じになってます」と上気した様子で語る。そんなテンションを少しだけ抑えて"Blueberry"、"Escape"を歌う。ラップとヴォーカルを巧みにミックスするDaichiのフロウを聴かせた。2曲を終えると「今日(11月25日)新曲をリリースしたんですけど聴いてくれました? こんなコロナの時にすごいいっぱい人集まってもらって本当にありがとうございます。この(新)曲もそういうことというか、今年の締め的な曲として自分でも作って。外じゃなくて内にある楽園をってテーマで作りました」と話した。そこから新曲"Paradise"へ。ギル・スコットヘロンの"The Revolution Will Not Be Televised"をモチーフにしたというこの曲には、「テレビやメディアに映らないRevolution革命は頭の中」というリリックもある。外出ができないからこそ、自宅で自分の革命をクリエイトしようという、メッセージをゆったりとした四つ打ちのグルーヴで届けた。

ラストは代表曲である"Brown Paper Bag"と"上海バンド"。フックでは観客に向けて「小さい声で」と自制を促しつつ、しっかりと盛り上げるパフォーマンスを見せた。バックDJを務めたPhennel Kolianderがサウンドの演出面でDaichiをサポートし、完成度の高いステージ作りに大きく貢献していたことも触れておきたい。この日のライブでは、アーティストとしても、パフォーマーとしてもどんどん成長しているDaichi Yamamotoを感じることができた。

FNCY

十分な換気ののち、ZEN-LA-ROCKがDJブースに入り、オープニングSEをプレイする。レトロなシンセ音にどこか機械的な印象を与える男性の声で「FNCYがあなたを悠久の時へと誘う音の時空旅行。FNCYライブストリーム」とライブのスタートが宣言される。声の主はstillichimiyaのMr.麿だった。そこから7月に配信されたシングルの表題曲"みんなの夏"のイントロが鳴る。「みんなの夏を終わらせないぜ」と鎮座DOPENESSとG.RINAがMVでもおなじみのつなぎを着て登場する。ヒップホップからハウス、ディスコ、R&B、ポップスなどなどあらゆる音楽を自在ミックスするマエストロ・grooveman Spotのビートが会場をパッと明るくする。

ライブ巧者が集ったトリオだけにパフォーマンスは抜群の安定感。FNCYに限らずヒップホップのライブでは定番ともいえるハンズアップした両手をビートに合わせて左右に振る「Hip Hop Hooray」パフォーマンスなども織り交ぜ、観客を一気に自分たちのペースに引き込んでいく。曲が終わると鎮座が「この曲聴くとコロナの夏を思い出すよね……」とみんなの気持ちを代弁する。それを受けてZEN-LAが「でもそんな中で来ていただいたお客さんには感謝でございます」と挨拶をする。

夏の切ない思い出を振り返る"silky"から、5月に出た『TOKYO LUV EP』からの楽曲"New Days"へ。3人が代わる代わるバックDJを務められるのがこのチームの特徴。"silky"と"New Days"はBPMがかなり異なるが、鎮座は曲だしを工夫して同じノリで聴かせる。この曲のテーマは時の移り変わり。表現はFNCYらしい捻りが抜群。金木犀の香り漂う秋をイメージした切ないメロディーを推進力あるファットなドラムで届けた。

ここからはG.RINAのグルーヴが全開になったディープハウスゾーン。"Train"の強烈なベースラインに合わせてG.RINAの歌声が響き、ZEN-LAも「みんな楽しんでいいんですよ!」と煽る。深い四つ打ちに合わせて鎮座とZEN-LAがスピットし、グルーヴを増強していく。さらにビートは途切れず、スペイシーで硬質な"REP ME"へとつながる。FNCYは3人の個性が単純に加算しているだけでなく、無限に乗算しているようだ。互いに良いところを引き出し合っている。グルーヴが頂点にハマったところで鎮座が「セイ!ホー!」と叫ぶ。するとG.RINAが「いいんですよー。(感染を)気にしてる人もいると思うから。心の中でホーと言ってくれれば。マスクしたままも苦しいですよね。みんないろんな考えがあるから、思いやりを持って楽しんでもらえたらいいなと思います」とフォロー。会場からは大きな拍手が巻き起こった。

曲が終わるとG.RINAのコメントを受けて鎮座は「今年はマスクがニューファッションになってきたよね。いろんな変化を見たもんな。2020年で衝撃的だったのは、電車でガスマスクしてる人見たことですね」と話す。そこからこだわりをテーマにした"FNCY CLOTHES"に。この曲は1ヴァース目が鎮座、2ヴァース目にZEN-LAがラップして、ブリッジにG.RINAのメロディが入り、怒涛のフックへと展開する。曲がブリッジのパートに突入すると、ZEN-LAが観客を徐々にしゃがむように促す。そして転調して「すべてさらけ出し/感じるマジック/膨れ上がるイマジン/止める必要ない/FREEDOM」と歌うフックでみんながジャンプする。みんながどこかで我慢しているこの状況だからこそ、リリックとパフォーマンスが、会場とオンラインの観客の心を解放するような瞬間だった。

次の曲は、コロナ時代の恋愛について歌ったしっとりとしたラブソング"CONTACT"。心地よいミッドテンポの"DRVN'"では3人が揃ってハンドルを回すパフォーマンスで盛り上げる。ZEN-LAの「渋谷乗ってますか?」という合いの手も、テンションを落とさない絶妙なタイミングだった。終わりに工藤静香の「嵐の素顔」の振り付けを3人がステージ中央で披露した。G.RINAは「なんのことかわかる人は昭和の人ですね」と笑った。その流れから昭和の歌謡曲のバイブスを2020年仕様にアップデートした"TOKYO LUV"、そして最後の"AOI夜"にたどり着いた。FNCYはベテランならでは実力と、相性とバランスの良さ、膨大な音楽体験に裏打ちされた説得力のある楽曲で、圧巻のステージを見せた。

3人がステージを後にし、十分に満たされた気持ちで会場を後にしようとすると、ZEN-LAが慌てた様子でステージに現れ「あ、あ、あのー、まだあるんです……。まさかみんながこんな早く帰ると思わなかった。もう一回(舞台袖に)帰るんで。アンコール的な……」と言うと、観客は足を止めて爆笑する。2020年的な一幕。そこから観客のアンコールの拍手を経て「若干恥ずかしいですけど」とZEN-LAが笑いながら再びステージに登場。FNCYにDaichi、Kzyboost、Phennel Kolianderも加わり、この日だけの"今夜はmedicine"を歌う。ZEN-LA、鎮座とマイクをつなぎ、ラストのヴァースはDaichi Yamamoto。さらにKzyboostのソロも。最後はフックの「overnight又とない/夜を保証するこの面子/他では見たことない/FNCY is what you want/今夜はmedicine」をステージ全員で合唱して、“他では見たことない”ツーマンに幕を下ろした。

Info

「TSUTAYA O-EAST presents FNCY x Daichi Yamamoto」セットリスト

・Daichi Yamamoto

01. Intro ~ kzyboost x PK02. Splash

03. One Way

04. Let It Be

05. Ajisai

06. Netsukikyu (remix)

07. Breeze feat. STUTS08. Mirrors feat. 鎮座DOPENESS、STUTS

09. Blueberry

10. Escape

11. Paradise

12. Brown Paper Bag

13. 上海バンド

・FNCY

01. みんなの夏

02. silky

03. New Days

04. Train

05. REP ME

06. FNCY CLOTHES

07. CONTACT

08. DRVN'

09. TOKYO LUV 

10. AOI夜

- アンコール -

11. 今夜はmedicine feat. Daichi Yamamoto

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