【イベントレポート】オンラインイベント『NAMES』| 「いつか変わる」その日のために。困難を良き経験と捉える

FNMNLと東京・渋谷のライブハウスWWWによるオンラインイベント『NAMES』が5/30に行われた。このイベントはオンラインで事前にチケットを購入し、e+による有料ライブ配信サービスStreaming+で視聴するというもの。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を予防しつつ、アーティストやライブハウス、クラブが今できることは何かという観点から実施された。ライターとフォトグラファーも配信されている画面を観ながらのレポートとなった。

取材・構成 : 宮崎敬太

写真 : 寺沢美遊

『NAMES』にラインナップされたのは若手からベテランまで、ライヴパフォーマンスに定評がある9組。収録現場であるWWW Xは通常の舞台に加えて、誰もいない客席フロアもステージとして活用した。今後このような企画が行われる際、このアイデアがステージ演出の幅を格段に広くすると感じた。実際、トップバッターのFuji Taitoは広大なスペースを所狭しと動き回り、とてもダイナミックなパフォーマンスを見せていた。機材不調のため、トラックがほとんどまともに流れないというトラブルに見舞われたが、逆境に対しても果敢に立ち向かった。"曇天晴れた"は2回も歌い直し、最後はアカペラで歌った。そんな彼のポジティヴな力強さは本当に感動的だった。

Fuji Taito

続くLEXは生配信とは思えないほど、非常に完成度の高いライブ映像だった。今回のイベントには収録用のカメラが多数入り、照明やスモーク、レーザーなどの演出もふんだんに駆使されていた。LEXのパフォーマンスがそれらとしっかり連動していたのが非常に印象的だった。ステージの構成も、1曲目の"Sexy"でマイクスタンドを使ってメロウなラップを聴かせたかと思えば、2曲目の"MDMA"では客演のHEZRONとともにトランスでハードなラップをかます。緩急織り交ぜて、1曲1分強の楽曲を次々と披露し、わずか20分とは思えないほど濃密に組み上げられたライブを見せてくれた。

LEX

PETZはいきなり新曲"Enemies"からライブをスタートさせる。この曲は自粛期間中に制作したという。ハープの美しい音色が印象的だが、リリックは新型コロナウイルス感染症との壮絶な戦いと葛藤が描かれている。このリリックにフィールする人も多かったのではないだろうか。続いて、昨年発表した新作『COSMOS』から"All Night Long"、"CHROME HEARTS"、"Never Stop"を披露する。すると、DJブースには遊びに来たというJNKMNの姿も。みな現場でライブをしたくてうずうずしているような雰囲気だった。さらに「未来は明るい」と信じて作ったという新曲"Red"をプレイ。ラストはJin Doggとの人気曲"Blue"で締めた。

PETZ

今回最も異彩を放っていたのは間違いなく釈迦坊主だった。登場するやいなや、サイケデリックなトラップ"Supernova"を熱唱。WWW Xのステージとフロアを所狭しと歩き回り、画面の先にいる観客を挑発した。"Not Human?"のイントロでも「今日は配信ライブだから、落ち着いて汗をかかないライブをしようと思ってたんだけど……。やっぱ爆音って気持ちいいわ」と話し、どんどんテンションを高めていく。その熱は遠隔でも確実に視聴者に伝わっていた。歌い終わると、釈迦坊主は現在の複雑な状況についてこんなふうに話し出す。「今(世の中が)家出ちゃダメ、みたいなムードだけど。……死ぬよね。寂しすぎて。マジで。俺とか幸いシェアハウスをしてるから、周りに友達はいて成り立ってるけど、毎日1人のやつとかさ。大丈夫かなって。だけどインターネットがあるから。みんなはここにいないけど、(画面の先には)いるってことだから。インターネットがあれば俺らは1人じゃないっぽい。俺は今日、本当に強く言いたかったのは“1人じゃないよ”ってこと」。そしてOKBOY & Dogwoodsも登場して"Himiko"へ。気づけばステージではさまざまな人間が踊り狂っていた。その様子は釈迦坊主が主催するイベント『TOKIO SHAMAN』のカオスだったし、自粛期間の孤独を忘れさせてくれる光景でもあった。

釈迦坊主

続くゆるふわギャングは非常にソリッドなパフォーマンスで、イベントの中盤戦を引き締めた。ステージおける2人の存在感は日に日に強くなっている。ドラッグの酩酊感を想起させる照明やサウンドの中で、ゆるふわの立ち振る舞いはきらびやかに輝いていた。MCは一切なく、緊張感あるパフォーマンスでグイグイと引っ張っていく。"HunnyHunt"、"Speed"、"Dippin' Shake"といった人気曲に加えて、この日はリリースされたばかりの新曲"Ah"もプレイ。サビでNENEがカメラにマイクを向けていたのが非常に印象的な光景だった。

ゆるふわギャング

VaVaは人気ゲーム『ファイナルファンタジーVII』に巨大な剣を背負って登場。さらにTシャツにも人気ゲーム『デスストランディング』のロゴが。自粛期間中もゲームばかりしていたと笑いながら話していた。そんな変わらない親しみやすさで、"現実 Feelin' on my mind"、"Virtual Luv"などキラーチューンを連発していく。彼のMCも印象的だった。「今イヤホンで聴いてる人も、例えば親の横で見てる人も、独り暮らしの人も、みんな聴いてる場所がクラブだから。俺も(みんなの)顔を見たいけど、まあいつか見れるし。今の状況もいつか変わるんで、いつかのためにVaVaはがんばりたいと思います」。そして最後は初披露となる新曲"Digital Club"。多くの人は早くこの曲を生で観たい、聴きたいと思ったはず。期待に違わぬ優しいライヴだった。

VaVa

次のアーティストはSTUTS。普段のライブでは手元をリアルタイムでしっかり観ることができないので、実はこうした機会はレアだったりする。配信ライブには良し悪しいろいろあるが、アーティストのパフォーマンスを落ち着いてしっかり見られることは明らかに利点。STUTSのように複雑なビートを鳴らすMPCプレイヤーが、具体的にどんなことをしてるのか、またどんな機材を使ってるのかなどを見るのも楽しいはずだ。今回はKID FRESINOと制作したPETROLZのカバー"Amber"、BIM&RYO-Zが参加した"マジックアワー"、代表曲"夜を使いはたして"などをプレイした。

STUTS

STUTSはそのままステージに残り、次のアクトであるJJJが登場。1曲目は"PRISM"。JJJ、STUTS、Friday Night Plansの三者で制作した、都会的なミッドチューンだ。近年のJJJはライブにおいてもすさまじい存在感を放っている。言葉のひとつひとつに力があり、その口から生み出されるグルーヴも心地よい。今回は"BABE"、"loops"、"SOUL"など新旧織り交ぜた楽曲を披露していた。ラストはSTUTSと制作した"Changes"。バウンスするビートの上で、ポジティヴで情熱的だがクールなリリックを届け、トリの田我流にマイクを繋げた。

JJJ

長丁場だったイベントもついにクライマックスへ。田我流は昨年発表した大傑作アルバム『Ride On Time』から"Hustle"でライブをスタートさせる。田我流も今回の新型コロナウイルス感染症の影響で、全国ツアーの中断を余儀なくされている。1曲歌い終えると、「(ライブが)久しぶりすぎて、マイクを握るとニヤけてしまう」と笑った。2曲目は"Broiler"。日本の暗部をテーマにしたこの曲の「茶番 出来レース 嘘 悪 ここじゃ当たり前 だから何? FUCK IT 生きるのに必死 貧乏はできない投資 急増するサイコパス 自殺 過労死 膨れ上がる怒り憎しみ また1人闇に落ちてなるHaters」というヴァースは、あまりにも予見的だった。

田我流

だが田我流の素晴らしいのは常にユーモアを忘れないこと。絶望的な悲しみも、張り裂けそうな怒りも、フロアバンガー"Ride On Time"で解消してくれる。MCでは「俺は井伏鱒二という作家が大好きなんですよ。その人の小説に、戦場でも釣りをする兵士が出てくるんです。昨日も、明日も、殺し合いをしてるのに、その兵士は夜な夜な釣りに行くっていう。俺はこの一節が大好きです。実際、生きているといろんなことが起こる。まるでゲームの難しいステージに来ちゃったみたいに。でも俺は、そんな中でも面白いことを見つけること、自分のスタンスを貫く努力をすることが人生の趣旨だと思う。いろいろストレスに感じることがあっても、それを自分の経験として捉えて、のちの人生に活かしていければ良いなって。自分にとってプラスになるように解釈するというか」と話してくれた。そして"夢の続き"から、ラストの"センチメンタルジャーニー"へ。みんなが当たり前のように外出して、気楽に旅に出られるようになるのはまだ先かもしれないけど、必ずそんな日がまた来ると思えるような気持ちになれた。

 

有料の配信ライブにはまだまだ課題はある。自宅で気楽に見られる反面、今回のような長丁場のイベントだと現場でないから集中し難いという部分ある。さらにライブの一番の醍醐味は好きなアーティストを実際にその目で観て、同じ空間で歌を聴けること。有料であるなら、その醍醐味に代わる唯一無二の体験を届けなくてはいけない。今回出演したのはいずれも実力者たち。彼ら、彼女らだからこそ、遠隔でも感動を伝えられた。また自粛期間明け直後というタイミングも、視聴者に唯一無二の体験を提供する一助になった。

とはいえ、そこもトライアンドエラーで少しずつ変えていけばいい。今ライブハウスやクラブをはじめ、音楽を取り巻く状況はどこも厳しい状況にある。だが音楽が大好きだからこそ、この困難も“いつか変わる”その日のために、良い経験に変えていきたい。そんな気持ちになるイベントだった。

Info

タイトル:NAMES
日程:5月30日(土)
時間:18:00〜 ※Streaming+(e+による有料ライブ配信サービス)にて生配信
LIVE:田我流 / Fuji Taito / JJJ / LEX / PETZ from YENTOWN / shaka bose 釈迦坊主 / STUTS / VaVa / ゆるふわギャング (A to Z)

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