Netflix『ヒップホップ・エボリューション』シーズン4で学ぶサウスヒップホップの歴史

アメリカ各地のヒップホップの歴史を創成期から現在に至るまで、重要人物たちのインタビューや貴重な映像資料を交えつつ紹介するNetflixの人気ドキュメンタリーシリーズ『ヒップホップ・エボリューション』。先日、そのシーズン4の配信が開始された。

シーズン4は「バウンス」、「南部発の実験的サウンド」、「スーパープロデューサー」、「ストリートに咲く夢」の全4話。第一話「バウンス」ではニューオーリンズ独自のサウンドであるバウンスの歴史を紹介している。

バウンスが誕生するきっかけは、Cash Money Recordsの創設者であるMannie FreshがChicの“Good Times”をきっかけに808のサウンドを好むようになり、DJプレイにドラムマシンを取り入れて人気を博したこと。その後彼がニューオーリンズジャズの伝統的な三連符のリズムを808に置き換えた楽曲“Buck Jump Time”をプロデュースしたことで、ニューオーリンズ独自のヒップホップシーンが形成されることとなった。

同時期に彼がNYのShow Boysの楽曲“DRAG RAP”(彼らは“TRIGGER MAN”と呼んでいた)のドラムパターンを気に入り頻繁にDJプレイしていたことで、トゥワークと密接に絡んだ「バウンス」というジャンルが生まれる。その後、バウンスの享楽的なサウンドのアンチテーゼを打ち出し、ゲットーでのリアルな事情をラップするMaster PがNo Limit Recordsを結成。地元のラッパーを招き入れ数多くの楽曲を発表し、“Make ‘em Say Ugh”など記録的なヒットを幾度も達成したことでサウスのヒップホップをアメリカ全土に知らしめることに成功した。やがてMannie FreshらがMaster Pの勢いに負けじとCash Money Recordsを設立。Juvenile、BG、Turk、そして若きLil Wayneの4人によるHot Boysをプロデュースし、高い人気を得ることに成功した。それから程なくしてJuvenileがアイコニックな楽曲“Back That Azz Up”を発表したことで、後に世界を席巻することとなるクランクへの土壌が用意されることとなる。

続く第2話「南部発の実験的サウンド」では、ヒューストンとメンフィスにおける独自のヒップホップシーンを紹介。ヒューストンのDJ Screwが画期的手法であるチョップド&スクリュードを発明し、彼を中心に独特なミックステープ文化が形成される様子を細やかに描いている。特筆すべきは、リーンの流行と合わせて語られるチョップド&スクリュードが本来はドラッグと関係なく、純粋に音楽的な面白さを追求した結果発明されたものである、との言及がなされていることだろう。もちろんピッチダウンされた音楽の酩酊感とリーンとの親和性は言うまでも無いが、それらの音楽を好むファンたちにとっては意外な発言に違いない。

第2話の後半はメンフィスのラップシーンがテーマ。気候や高い犯罪率といった要因によって暗く陰鬱な雰囲気を持つメンフィスでは、ヒップホップシーンの興隆は他の地域にやや遅れをとってものの、DJ Spanish FlyやDJ ZirkといったDJたちの手によって独自のミックステープ文化が盛り上がった。Spanish FlyのテープにGangsta PatやAl Kaponeらを始めとするラッパーたちが参加することでシーンに火がつき、そこからメンフィスのダークなラップを象徴するThree 6 Mafiaがデビュー。彼らのホラーコア的なサウンドが後世の多くのラッパーに影響を与えることとなる。エピソードの最後では舞台をアトランタに移し、Lil Jonらがクラブで盛り上がることのみを追求したクランクで高い人気を得る様子が描かれる。

第3話「スーパープロデューサー」ではニュージャックスイングを発明したニューヨーク出身のプロデューサーTeddy Riley、彼の元でキャリアをスタートしたヴァージニア出身のThe Neptunes、同じくヴァージニア出身でPharrell Williamsの幼馴染であったTimbalandとMissy Elliott、デトロイトのJ Dilla、そしてシカゴ出身のKanye Westといった、それぞれヒップホップのサウンドに革命をもたらしたプロデューサーたちの足跡を紹介。そして第4話「ストリートに咲く夢」ではドラッグディールや暴力などイリーガルな場所からラッパーやアーティストとして成功を掴み取った人々を紹介している。

また現在、『ヒップホップ・エボリューション』がドラマ界のアカデミー賞と呼ばれるエミー賞のドキュメンタリー部門を受賞したことに合わせ、同ドキュメンタリーのホストでありShad、ディレクターのDarby Wheeler、構成を担当するRodrigo Bascuñánの3人のインタビュー動画がComplexから公開されている。これまでに作られたヒップホップについてのドキュメンタリーと『ヒップホップ・エボリューション』との違いについて、彼らは「一番はタイミングかな。歴史を遡ると、10年ごとに誰かが何か大きなプロジェクトを成し遂げているだろ。それが十分に揃っていると、そのとき何が起こっていたかを沢山の視点から見ることが出来るんだ。(中略)ヒップホップは実際に生きている人々が作って、ストーリーを伝えているものだ。みんながこの作品を観たときに共鳴して、“これは自分たちのストーリーなんだ”って思ってもらえることが重要なんだよ」と語っている。豊富な資料や情報はもちろん、ヒップホップの歴史の中で人々がどのように繋がって何を作り上げたかを細かく真摯に描くことで、観ている側もその歴史の一部にいることを実感出来るような作り方が『ヒップホップ・エボリューション』の人気の理由なのだろう。

『ヒップホップ・エボリューション』シーズン4は現在Netflixにて配信中。製作陣のインタビューもこちらから観ることが出来る。

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