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『ヒップホップコリア』の著者が語る韓国ヒップホップへの愛と情熱

8月に日本では初となる韓国ヒップホップのガイド本『ヒップホップコリア』が出版された。韓国のヒップホップは現在日本でもKeith Apeの大ブレイクや人気ラッパーの登竜門的なサバイバルオーディション番組『Show Me The Money』などにより、日本語ラップ好きからK-Popファンの間と、多方面から認知度が高まっている。『ヒップホップコリア』は総勢65組のアーティストのプロフィールと代表曲のレビューを中心に、重要アーティストへのインタビューや韓国ヒップホップの歴史なども掲載、韓国ヒップホップへの入門にはもちろん、マニアでもこれまで知らなかった事実が多く明かされている。『ヒップホップコリア』の著者である鳥居咲子は、これまでにも自身でDok2&The QuiettやHi-Lite Recordsのレーベルショーケースなどを1人で開催してきた。現在は韓国ヒップホップの情報サイトBLOOMINT MUSICも運営する、鳥居に『ヒップホップコリア』についてや、どのように韓国ヒップホップを知り、自身でも携わるようになったのかを聞いた。

取材 : 構成 和田哲郎

- 『ヒップホップコリア』を出版するきっかけは?

鳥居咲子 - きっかけは出版社の方からご連絡をいただいたことなんですけど、編集者の方が音楽本を結構出してる方で、辺境音楽マニアって肩書きもついてるんですよね。でも1人だとそんなに追えないので、世界各地の音楽に詳しい人を探しては本を書いてもらっていたみたいなんです。私はこれまで何回か韓国のヒップホップアーティストのライブを主催したんですけど、最初は全然お客さんが集まらなくて大変で、それこそお客さんを集めるために、出来ることを何でもやってたんですよ。そのうちの1つの活動としてTwitterでひたすら音楽ライターに声をかけるっていうのがあって、プロフィールに音楽ライターって書いてある人にとにかく「こういうライブがあるのでよかったら来てください」って誘ってたんですね。

その中の1人が今回の編集者さんで、たまたまDok2(韓国ヒップホップシーンのトップラッパー。The Quiettと共にIllionaire Recordsを主宰)とかのことをツイートしていて、この人だったらいけるかもと思って、声をかけたのが始まりでした。その後から交流が始まって、私のblogとかもずっとチェックしてくださってて、それであるとき連絡をいただいて本を書きませんかって誘われたんですよね。ずっとblogを書いてて、情報を整理して書くっていうのは好きだったので、いつか本という形にできたらいいなあって前から漠然とは思っていて、ちょうどいい機会だしやってみようかなって書くことにした感じです。

- どうやって内容を決めていったんですか?

鳥居咲子 - 編集者の方からは主要ラッパーのプロフィールや曲のレビューを軸にやりたいという提案があったんですね。その上でインタビューやちょっとしたコラムも書けたらって話になり、自分がおこなってきたライブについてのエッセイとか、韓国のヒップホップの歴史をまとめたり、Dok2とThe Quiettの所持品自慢のコーナーなど、お互い案を出して決めてメールで詰めて、書いていきました。情報はアーティストたちに直接聞いたり、韓国で数年前に韓国のヒップホップをまとめたちょっとした本が出てたんですよ。それを読んだり、あとは韓国のいろんなサイトとか、情報が不確かだったりするんですけどウィキペディアを見ては、アーティストに裏をとったりとかですね。

- そもそも鳥居さんが初めて韓国のものにハマったのってなんだったんですか?

鳥居咲子 - 1番最初にさかのぼると、日本で『冬のソナタ』がすごい流行ってたからたまたま見たんですよね。そしたら日本と景色が似てるんだけど、どこか違う韓国の風景に、すごい興味をもって単に観光で行ってみたいなってなったんですね。その数年後の2006年に初めて韓国に行ったんですよ。念願の韓国に遂にに行ってすごいハマったんですよね、でもそのときは単に食べ物や、化粧品とかが好きで。ちょうど会社にソウルオリンピックのときから韓国にハマっていた人がいて、その人に色々情報を聞いて毎年1回行くようになったんです。

その頃はカルチャーには全然興味なくて、ただ行ってサムギョプサルを食べて、シートマスクを買うぞみたいな感じで楽しんでて。5年間くらい韓国に年に1回は行くんだけど、音楽には相変わらず何も興味がないままでした。韓国に行くとアイドルの子たちが歌ってる曲とかは耳に入ってはきて、食わず嫌いなんですけどジャンルとしてちょっと違うなって判断してました。KARAとか少女時代とか上手いなとは思いましたけど、それだけでしたね。

音楽自体は小さいときからずっと好きで、聴いていたのはアメリカとイギリスの音楽ばかりで。J-Popは小学校とか中学校の頃にヒットチャートの曲を聴くくらいで、高校生からはもう洋楽しか聴かなくなって、そのときはまだインターネットもなくて情報源もあまりないから、年に1度のグラミー賞を楽しみに生きているような感じで。それをビデオに録って何回も見ながらCDを集めていって。

その後イギリスにポピュラー音楽を学ぶために音楽留学したんですよ。演奏、作詞作曲、アレンジメント、音楽理論とか、音楽ビジネスを学ぶコースでしたね。イギリスにいると自然と周りにイギリスかアメリカの音楽しかない環境になるんですね。私は元々ヒップホップとか全然好きじゃなくて、ジャズとかロック、ポップスが好きだったんです。1番影響を受けたミュージシャンはCarole Kingで他に好きなアーティストもFiona AppleとSheryl  Crowなど、しっかり王道のポップミュージックを作れる人なんですよ。

- 日本に帰ってきてからはアーティストとして活動しようとしていたんですか?

鳥居咲子 - ちょっとインディペンデントの事務所に入って活動をしようとしてたんですね。イギリスで活動しているときは楽曲のコード進行がかっこいいとか、そういうところで評価されるんですけど、日本で音楽業界の人に曲を聴かせていくと売れるとか売れないとか、中高生に歌詞が受けるかとかしか言われなくて、どんどん気持ちが萎えて情熱がなくなっちゃったんですよね。

それで将来が不安なのもあって、落ち着いた安定した生活がしたくなっちゃったんですね。音楽は単に大好きな趣味にしよう、2度と音楽業界には関わりたくないと思うくらい嫌になっちゃったんですよ。就職して会社員になったら、会社員がすごい楽しくて自分に合ってて、私は好きなアーティストのライブに行きまくって、一生このまま生きていくんだって思ってたんですよね。

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- 韓国の音楽にハマるきっかけはなんだったんですか?

鳥居咲子 - 韓国の音楽にハマったのは2011年で、お正月に『IRIS』ってドラマをやってて、それにBIGBANGのT.O.Pが出てたんですね。そのあと韓流の雑誌を読んでたら、T.O.Pのインタビューが載っていたんですよ。『IRIS』に出てた人だ、アイドルのラッパーだったんだって知って、そのときにアイドルでラッパーってどうなの?って思ってインタビューを読んだんですよ。

そしたらすごい音楽的なところをちゃんと語ってて、あれちょっと面白いなって思ったんですよね。それでYoutubeでT.O.Pのソロの"Turn It Up"って曲を聴いたら、すごいかっこよくてびっくりしたんですよね。音もかっこいいし、ラップも何を言ってるかはわからないけどいい、ビジュアル的にも彼自身がかっこいいというのもあるし、映像自体が白黒でダンサーのコンセプトとか、思ってたのと違う洗練されたかっこよさがあって。びっくりしてGD&T.O.Pがちょうどアルバムがでた頃だったんで、買ったらまた衝撃的で、それでBIGBANGを聞くようになったって感じですね。

 

- それまでの鳥居さんのなかで洗練されたものっていうのはイギリスとかアメリカの音楽だったわけですよね。

鳥居咲子 - そうですね、正直アジアに自分の納得出来る音楽があるとは思ってなかったっていうか(笑)聴きもしないで何を言うって感じなんですけど、一生のうちに聴ける音楽の数も限られてるじゃないですか、私は気に入った曲をずっとリピートしちゃうタイプなので、だからあんまり趣味を手広くしたい方でもないんですよ。だからイギリスとアメリカや北欧に聴きたい音楽はたくさんあるし、アジアの音楽は一生聞くことないなって思ってたんですよ。それが覆されて衝撃でしたね。それまでアイドルに注目もしたことなかったんですよ。

でもBIGBANGのミュージックビデオとかみるとエンターテインメント要素が詰まってて楽しいじゃないですか。私は音楽にエンタメ要素とか求めたことがなくて、音楽性しか求めてなかったんで、ミュージックビデオを見て楽しいっていうのがすごい新鮮で。ちょうど震災の時期で、家が計画停電のエリア内で、何もできないからiPodに入れたBIGBANGの曲を聴いて過ごしたっていうのもあって、そこからドップリハマりましたね。音楽的にはBIGBANGよりGD&T.O.Pの方が好きで、それまでは本当に全然ヒップホップは好きじゃなかったのに、T.O.Pの曲を聴いたときに韓国語のラップの音の響きが面白いなって思ったんですよね。だから韓国語のラップを聴かなかったらラップ自体にも興味がないままだと思いますね。

- そこからどうやって韓国のヒップホップシーンを知っていったんですか?

鳥居咲子 - その後はBIGBANGから始まって、同じ事務所の2NE1を聴いて、PSYも聴いてYGのファミリーコンサートにも行ってって感じでした。同時にSupreme Teamを韓流好きの友達から教えてもらって、ハマって聴いてたんですけどSupreme Teamは曲は知ってるけど、顔は全然わからなかったんですね。でもBIGBANGはエンタメ要素があって、バラエティー番組とかも出てるから5人それぞれに人として興味を持つ感じになって、どうしてもそうすると、BIGBANGの方が比重が高くなるんですよね。それでBIGBANG専門のblogも始めて。blogは好きになった途端に、この思いを書きたいと思って始めて、誰も読まないだろうと思ってたんですけど、そのときにblogを本名でやるのが抵抗があったんでヴィヴィアンってあだ名もつけて。名前はどうしようかなと思ったときに、ふっと目についたヴィヴィアン・ウェストウッドのカバンからとって。本当に何も考えてなくて後になってなんでこんなゴージャスな名前にしたんだって。ヴィヴィアンさんって呼ばれるたびに本当に恥ずかしいんですよね(笑)。

それでちょっとずつ書いていったら読者も増えてTwitterのBIGBANGアカウントのフォロワーもピークのときで8000人位いました。それだけBIGBANGのファンダムが大きいというか、その中で音楽的なことを書いていたblogがそんなに多くなかったんで。サンプリングのことを書いたりとか、他の洋楽と比較しながら書いたりとかもしてたんで、多分そこが新しかったのかなって思いますね。そうこうしてたら、その年にTABLO(Epik Highの中心メンバー)がYGに入ってきたんですよ。とりあえずBIGBANGと同じ事務所に入ってきたから聞くじゃないですか。アルバムがすごい良くて、フィーチャリングされているラッパーとかにも興味を持って。それでSupreme Teamのアルバムのトラックリストも、良く見たらTABLOいたみたいな感じで、どんどんフィーチャリングされている人を聴いていったら、そこでまた見覚えある名前を見つけたりして、やってるうちに沼ですよ、ふふふ(笑)

- ちなみに韓国語は旅行とかに行ってる時点からすでにできていたんですか?

鳥居咲子 - 全くできないです、挨拶くらいしかできなくて。BIGBANGにハマってからも、BIGBANGの情報って日本語でも出てるんで、それで十分に楽しめてて。アンダーグラウンドのヒップホップを聴くようになってからですね。アンダーグラウンドヒップホップの情報は日本語だとどこにも情報がないから、Google翻訳に頼るしかなくて、それで1年くらい徐々に学習していって、限界を感じてマンツーマンレッスンを受け始めたのが2013年ですかね。初めてのレッスンに行ったときに、1冊目の教科書終わってますねって言われて。それくらい必死さが半端じゃないんで、歌詞の意味わかりたい、インタビューの意味わかりたいって思いがすごくて。その前にイタリア語とかを頑張って勉強してたんですけど、全然伸びなかったんですよ。でもやっぱり目的があると覚えられるもんだなと。

2011年にBIGBANGにハマって、その年の終わりにTABLOがYGに入って、2012年になるとどんどん掘り下げてって感じになって。まず最初はわかりやすいところからで、Amoeba Culture(韓国ヒップホップシーンのトップレーベル、Dynamic DuoやPrimary、Crushも所属)からですよね。Dynamic Duoとか、そのうちPrimaryが名作と言われるアルバムを出したんで、それに参加した人をどんどん掘り下げていって、翌年韓国語を習い始めてAmoeba Cultureの韓国のコンサートにも行きって感じでハマっていって、その年に初めて不汗黨 (ブランダン 韓国ヒップホップ第一世代と言われる重要MCなどが集まったクルー)のライブをやることになるんですよね。

 

だから展開がいきなり早いんですよね(笑)やろうと思ったら動いちゃうんで。イギリスで音楽ビジネスも勉強していましたし、自分のライブを日本でやったこともあったんですよ。でも主催側として、イベントを開催したこともなかったし、音楽業界も離れて10年くらい経っていたんで。ライブをやるきっかけは、たまたま不汗黨のメンバーの知り合いという人と知り合って、連絡は本人たちとつくから、準備だけやればいいんでしょと思ったんですね。会社にリサーチ部署があるんですけど、そこの人に東京のライブハウスを職権乱用して調べてもらって(笑)それで1件、1件見当をつけて。

最初は私の認識も甘くて、とりあえず200人くらいすぐ来る気がすると思って、250人キャパのところを借り、フライヤーも自分で作って新大久保から渋谷まで自分で配ったんですよね。さっきも言ったTwitterでいろんな人に声をかけまくり、韓国ヒップホップとかblogのキーワードに入ってる人にもメッセージを送ったりしたんですけど、チケットが全然売れなかったんです。ただ私は韓国のヒップホップのライブが日本であったらいいなと思ったんですけど、絶対そんなのはないから自分でやるしかないと思ったんですよね。本当に深く考えないで始めたんで、こんなにチケットが売れないって思わなくて、どうしようって。途中から準備でキツくて胃も壊して病院も通って。飛行機代も10何人分だしているし、ライブハウス借りるのにも何十万だし、わーみたいな(笑)とりあえず会社の同僚にチケットを買ってもらって来てもらい、あと親戚ですよ。従姉妹とか叔母、それに叔母の友達とか。あとは自分の普通の友達ですね。

- でもそのときはフォロワーもたくさんいたBIGBANGのアカウントがあったわけじゃないですか。

鳥居咲子 - そうなんですよ、そこでもすごく宣伝したんですよ。BIGBANGに関連付けて宣伝したりしたんですけど、ビックリするくらい無反応で(笑)。直接メッセージでお願いしたりして、数人は遊びにきてくれました。結局当日は120人集まったんですけど、120人のうち30~40人が私の同僚とか親戚、友達とかで、普通にチケット買ってくれたのは70~80人くらいでしたね。200人くらい来ると思ってやっているので、大赤字ですよね。もっと赤字になるかなと思ってたんですけど、最終的に赤字は20~30万くらい。会社フルタイムで働きながらだし、休みはいろんなところを周ったり機材をレンタルしたり、ものすごい労力を費やしているのにと思ったら、へこたれそうになったんですけど、へこたれなかったんですよね。次頑張ろうと思って。

次はもうちょっとお客さんが来る人を呼びたい、でもそんな人を私が個人で呼んでも来てくれるはずもないし、どうしようかなって。そしたらDok2とThe Quiettが急に来日してクラブでライブをしたんですよね。突然発表があってしかも日曜日の夜中だったんですけど、中々観れる機会もないから有休とって行ったんですよ。ライブが終わって、お店を出たら目の前に本人たちがいて、韓国語の先生と一緒に行ってたんで、通訳してもらって、「去年不汗黨のライブをやったんですけど、私と一緒に単独ライブをやりませんか」って突然頼んだんですよ。そしたらとりあえず「ああ、お願いします」って一応返事をされて。そのとき名刺もなかったんで、財布に入っていたレシートの裏に連絡先を書いて、Quiettさんに連絡してくださいねって渡して、その時は別れたんですね。でも連絡なんて来るはずもないから、どうやろうかって思ってたんですよね。そしたら翌日に偶然知り合いの方がQuiettさんと会ってたみたいなんですよね。それでその方が私のサキコって友達もあなたたちのライブに行ったみたいなんだよねって話したらしくて、そしたらQuiettが私が渡した連絡先書いたレシートを出して名前が一致して。それでその方から連絡が来て、私はQuiettさんに連絡するように念をおしておいてくださいって頼んだら実際に連絡がきたんですよ。それで改めてやりませんかって頼んだんですよね。

 

同じタイミングでHi-LIte(Hi-Lite RecordsはPaloaltoが主宰する韓国アンダーグラウンドシーンの重要レーベル、Huckleberry PやReddyが所属)のライブがやりたかったんで、Hi-Liteの公開されているアドレスに日本でライブをしませんかってメールを送ってたんです。返事なんて来るわけないだろうなって感覚で送ったんですけど、そしたらぜひみたいな返事がきたんですよ。え?!ってビックリして、ちょうどその時韓国で行きたいライブがあったんで、Hi-Lite側にじゃあ会ってくれませんかって頼んだら事務所に来てくださいってなったんですね。そのときQuiettさんとも偶然会えることになって、両者と一気に話ができたんですね。

当時はあまり韓国語ができなくて1人でパニック状態で、フィーリングでしゃべったって感じでしたね。Quiettのときはマンツーマンだったし、なんとかしなきゃってことで奇跡的に乗り越えたんですけど、Hi-Liteには英語で喋れる通訳の人を用意してくださいって頼んでたんですね。そしたら通訳としてラッパーのB-Freeが現れて、さらにびっくりしましたね。その後に主宰のPaloaltoが現れたんですよ。スタッフと通訳としか会わないつもりだったのに好きなアーティストがきたんで、すごい緊張してせっかく作った企画書も渡しそびれたんですけど、無事終えることができて。

 

それで日本に帰ってきてからHi-Liteが夏、Dok2とQuiettを秋に同時進行で準備を進めて。その時はDok2とQuiettが『Show Me The Money』に出ていなかったんで、200人規模のところで進めていたんですけど、準備中に『Show Me The Money』に出て人気が爆発しちゃって、チケットが即完売になっちゃったんですよね。なので利益も出て、ギャラもちゃんと渡せて、良かったなっていう。Hi-Liteはちょっと苦戦してチケット売れなくて赤字を叩き出してたんですけど、これはキツいぞって思ってたんですよね。でもそんな頃に菊地成孔さんと知り合うんですよね。きっかけはTwitterのフォロワーさんが昨日菊地さんがラジオで私の話をしてたって教えてくれて。そんな馬鹿な話はないだろうと思ってPodcastを聞いたんですよね。そしたら本当に私のことで、菊地さんが連絡を取りたいんだけど、連絡先が載ってないんですよって言っていて。だからとりあえずTBSラジオにメールを書いたんですよね。そしたら菊地さんからすぐにメールがきて、番組に出てくださいって言われてちょうどHi-Liteのライブ1週間前に『菊地成孔の粋な夜電波』に出演できたんですよね。そしたら放送後にチケットが30枚くらい売れて、赤字は解消できたんですよ。だからやっとそこで軌道に乗れたんですよね。

1人でやってるから、コストはかからないし自分が寝る時間さえ削ればいいので、準備中は基本寝ないですよね。土日はライブの準備に1日費やすから、友達にも会えないし、ひたすら私はこうやってセカセカ動きながら生きて死んでいくのか、これは私が望んでいた生活じゃないと段々思って、2015年は会社に相談して働く時間を減らしてもらったんですよね。私も会社でベテランだったんで、割ということを聞いてもらえてそれでなんとか時間を確保できるようになったんですけど、2015年はライブを3本やることになって結局忙しかったんですよね。Dok2とQuiettとHi-Liteをまたやって、それにSpeaking Trumpet(NuckやD.Theoなどベテランラッパーが2007年に結成したクルー)の3つでどれも結構な規模で。それでもう無理ってなって、会社を辞めたんですよね。もちろん会社が収入源なんで、収入源がなくなっちゃうんですけど、こんな生活やってても全部が中途半端だし数年貯金を削りながらでも、思い切りやりたいことだけをやって、数年後また考えようと思ったんですよ。それでライブをやりつつ、サイトも運営してネットショップもやってって形でやろうとした、そのタイミングで本を書きませんかって話をもらったんですよね。それで半年間ずっと本を書いてましたね。

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- いま日本でも韓国のヒップホップの広がり方が変わってきてるじゃないですか

鳥居咲子 - それは『Show Me The Money』の影響ですね。それ以外考えられない。それ以前から徐々に韓国のヒップホップの人気も上がってきてたんですよね。一部のラッパーがアイドルの事務所と契約したり、アイドルとのコラボも増えていって、防弾少年団とかアイドルヒップホップクルーも出てきたり。そこに『Show Me The Money 3』のブレイクで、ドーンときた感じですね。

続けて4と5でK-Popファン層を一気に取り込んだので、売り方も本当に変わってきましたよね。お金が入ってくるようになってCJ E&M(韓国の大手総合エンターテインメント会社、音楽専門チャンネルのMnetなどを運営)とかが関与してきて、ミュージックビデオ1つ1つの制作にもお金をかけますよね。私がみてきた韓国のヒップホップのミュージックビデオの衣装って、ラッパーの普段着でメイクなんて絶対しなかったんですけど、スタイリストがついてメイクもちゃんとやってって変わってきたし、ライブもこれまでは手作り感があったんですけど、段々スタッフ的な人が関与してくるようになってきたりしましたね。

 

- いまだとラッパーではないですけど、CrushやDeanはアイドルじゃないのにアイドル的な扱いを受けていたりしますよね。

鳥居咲子 - Crushなんかは特にデビューしたときはアイドルっぽい売り出し方をされたんですけど、それはあまりうまくいかなくて、Amoeba Cultureに入った頃はもっとアーティストって感じで入ってたんですけど、人気の歌番組に出たりしたんでそれで一気にポピュラーな存在になりましたよね。Amoeba CultureはSupreme Teamもそうだし、アイドル的に売ろうとするんですよね。この前Crushのショーケースが韓国であったんですけど、行った人の話だとかなりアイドルのファンミーティングみたいだったって聞きましたね。

 

- そういうアイドル的なアーティストとラッパーとの壁って大きかったりするんですか?

鳥居咲子 - そこはラッパーの間でもかなり意見が分かれていて、アイドルを認められないってラッパーは多いんですけど、それを発言すると炎上しちゃうんで言えないみたいですね。オフレコではみんなわりかし言うんだけど、インタビューとかだとあんまり言わないっていう傾向が。やっぱりとてつもない炎上の仕方をするんで。ただアイドルラッパーの中にも本当にうまいラッパーはいて、Block BのZicoとかはラッパーの間でも本当にうまいって言われているし。

- 鳥居さんが好きなアイドルラッパーはいますか?

鳥居咲子 - 私はいないですね(笑)GD&T.O.Pは私の入り口になった人たちなんですけど、いろんなラップを聞くようになると物足りなさはあったりしますし、ただあの2人の魅力ってラップスキルとかじゃなくてスター性とか見せ方ですよね。表情とか動きが普通のラッパーにはないスター性があるんで、そこは格別だなって思いますね。Zicoもうまいとは思うんですけど、あれくらいならアンダーグラウンドシーンにはゴロゴロいるので、特別うまいなとは個人的には思わないですよね。

- 日本だとアイドルがやるラップとラッパーがやるラッパーは明確に違うと思うんですが、韓国はスタイルの差はないと思うんですよね。

鳥居咲子 - Zicoとかはそういう点では差がないですよね。グループによってはよりアイドル的なラップしかしないグループもあるんですけどメジャーとアンダーグラウンドでシーンが分かれていないっていうのはありますね。2000年代前半とかまではすごく分かれてたんですよ。メジャーで最初にヒップホップが始まって、その後にアンダーグラウンドであれとは違うヒップホップをということでスタートしたんですね。なのでメジャーはTV向けのことをやって、アンダーグラウンドのアーティストはひたすらクラブ向けでって感じだったんですけど、徐々に交流が始まって、最終的に『Show Me The Money』で全部混ざったんですよね。この前『Show Me The Money』で優勝したBewhYなんかは自分で全部ビートも作るしCDの制作や配給も自分でやるけど、チャート上位をとってみたいなことが起こるっていうのは日本じゃ考えにくいですよね。

 

- 他に韓国のヒップホップでここに注目したら面白いという点はありますか?

鳥居咲子 - 韓国のヒップホップってすごい多様性があるんですよね。ジャジーなシーンもあれば、サウスっぽいシーンもあるし、Loptimistってプロデューサーなんかはラテンやジプシー音楽を取り入れているんですけど、割とポップスと同化しているものも多かったり、EDMとクロスオーバーしてたりとか、音楽的なバラエティーが広いので、ひとくくりに韓国のヒップホップじゃなくて、それぞれの聞き方が楽しめるんですよね。アメリカに比べたらシーンがすごい小さいのに、凝縮されていて多様性があるので、ちょっと聞いただけで判断しないで、いろいろ聞けば必ず自分好みのやつが見つかるんじゃないかなって思います。

歌詞も多様性があって、本のなかでもコラムを書いたんですけど、社会派だったり恋愛物、パーソナルなもの、ストーリーテリング、言葉遊びとかラッパーによって歌詞のスタイルにも特徴があったりして。あと韓国語の音自体も楽しめると思うんで、意味がわからなくても韓国語が紡ぎ出す激しい音だったり、この本のなかでも菊地さんがコラムで書いてたんですけど、韓国語って濃音っていって、パッとかッが入る音があるんですよ。菊地さんがその濃音が入ることによってラップがレイドバックするっていうのを書いていて、それはすごい面白いなと思いました。音の多様性もあるし、スタイルもいろいろあるので、本当に掘り始めると沼なんですよ。

- 本当にラッパーの数が多いですよね。

鳥居咲子 - 人口に比較するとラッパーの数が異常に多いと思います。人口は日本の半分なんですけど、『Show Me The Money』のオーディションに7000~8000人来るんですよ。ラップ人口がすごくて『Show Me The Money』に出てるラッパーは極々一部なんで、『Show Me The Money』きっかけに韓国ヒップホップに出会った人も、いろいろ広げていくといいんじゃないかなって思いますね。逆に韓国のヒップホップはどこが面白いと思いますか?

- 僕は受容のされ方が面白いなと思っていて、日本のアイドルが好きでそこからヒップホップにいきましたっていう人は中々いないと思うんですけど、そこの人の流れ方が面白いなと。K-Pop好きになるとラッパーとかにハマる確率がグッと上がると思うんですよね。

鳥居咲子 - 全然その確率は高いですよね、アイドルヒップホップじゃない、普通のアイドルグループにもラップ担当はいますからね。あと韓国だとラップはクオリティーを追求するっていうのが普通で、日本だとちょっとクオリティー的に甘いものがラップの固定観念として社会的に認知されてるじゃないですか。全然日本のヒップホップを知らない一般の人ってラップに対してまだ抵抗感あると思うんですよね。そうなってくると食わず嫌いになって中々浸透しない。でも最近は良くなってきてると思うんですけど。韓国はラッパー全体のクオリティーが上がっていって、そうなってくるとラップかっこいいじゃんって自然に思いやすくて、ラップに対する抵抗感がないんですよね。

- 鳥居さんが初めて日本でライブを主催したときは周りにファンなんんていないって状況だったわけじゃないですか。

鳥居咲子 - たった3年の間で信じられないくらい状況が変わりましたよね。それこそZion. Tなんて今じゃ大スターですけど、Zion. Tのことを当時blogに書いても無反応だし、その話をする相手もネット上にもいない感じだったんですけど、それがK-Popファンでも知らない人はいないって感じになっているので、こんなに変わっちゃうんだなってくらい変わりましたね。最初の方はどうやって広めたらいいのかなって思って、Twitterで「韓国 ヒップホップ」とかで検索するんですけど誰も呟いてなかったんですよ。いまそれで検索すると1日中ツイートが流れ続けてるし、年齢層も全然若いんですよね。こういう本を出しますってツイートしても、全然知らない人たちが食いついてくれるのが信じられない状況ですよね。8000人のフォロワーにどんだけ宣伝しても無反応だったわけだから(笑)本当に全ては『Show Me The Money』ですね。

- 今後鳥居さんはビジネス的に大きくしていきたいとかはあるんですか?

鳥居咲子 - ないんですよね。好きなことを好きなように続けていきたいなっていう感じなので、ライブは引き続き自分がやりたいライブをやるんですけど、規模感の大きいアーティストをやりたいっていうのは思っていなくて、そういうアーティストはどこかの会社がやってもらいたいです。自分自身がビジネスとして、人を集めてやろうっていう気もなくて、自分の動ける範囲でやっていきたいですね。

個人的な考えで、規模を大きくするとロクなことにならないと思っていて、いろんな人の邪念も入ってくるし、自分の望まない方向にいったりもするし。まあ私自身がすごくアンダーグラウンド志向っていう(笑)自分のやりたいことをマイナスは作らないように地道に着実にやっていきたいって感じですね。『Show Me The Money』のブームもどこかで限界がくると思うので、そのあとも長くシーンに興味を持ってくれる人が増えるよう、こつこつとサイトを更新して、ライブをやっていきたいですね。どんな仕事をしていても、ただ音楽だけで食べていくっていうのは困難だと思うので、生活が辛くなったらまた仕事しながら、マイペースにちょっとしたライブを続けていきたいって思ってますね。

ライブは10/1にまたHi-Liteをやります。OkasianとB-Freeはいなくなっちゃったんですけど、新しく入ったG2とSway Dも来て、スペシャルゲストでHi-LiteをやめたEVOが来ます。私はPaloaltoとEVOのアルバムが誰にでも聴きやすい感じですごく好きで、でもEVOはいなくなってしまったんですけど。今回ゲストとか呼びましょうかってなったときに、EVOなんてどうですかねってなったときにHi-Lite側も同じことを思っていたみたいで、本人に聞いてみようってなって、OKが出てHi-Liteも久しぶりにEVOとできるってことですごい楽しみにしているみたいですね。

ぜひ遊びにきてほしいです。Hi-Liteはアンダーグラウンドでも支持されてるけど、オーバーグラウンドにもフィールできてっていう韓国の今を象徴するレーベルですよね。そろそろこれまでにやっていないアーティストのライブもやりたいんで、いま構想中ですね。これまで来日してなくて誰も呼んでくれないアーティストをやりたいですね。韓国のヒップホップの面白さを自分のペースで伝えていきたいですね。

<Live Info>

Hi-Lite Records: Hi-Life in Tokyo 2016

<出演アーティスト>
Paloalto / Huckleberry P / Reddy / G2 / Sway D / DJ Djanga

Special Guest: Evo

<日時>
2016年10月1日(土)
開場 17:00 | 開演 18:00 | 終演 20:00
<会場>
新宿RUIDO K4
<チケット価格>
前売券:5,500円
当日券:6,000円
VIPチケット(先着50名):7,500円
※ドリンク代600円別
※VIPチケットをお持ちの方は、ライブ終了後に出演アーティスト全員によるサイン会に参加することができます。サインしてもらう色紙、CD、帽子、Tシャツ等はご自分でご用意ください(当日もCDとグッズを販売する予定です)

 

詳細はこちら http://bloomint-music.com/2016/08/05/live-hilite-records-hilife-in-tokyo-2016/

鳥居咲子 :

韓国ヒップホップ情報サイトBLOOMINT MUSICの運営者。幼少期よりピアノと音楽理論を学び、学生時代はロンドンに音楽留学をした。2013年より韓国ヒップホップの来日ライブを手掛けるようになり、以降は韓国ヒップホップに関連した様々な活動をフリーで展開。ブログ『ヴィヴィアンの音楽ヲタブロ。』なども運営。著書に『ヒップホップコリア』。

Twitter : https://twitter.com/sakikovivi

 

 

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