『ムーンライト』や『レディバード』、『ミッドサマー』などの作品群を発表し高い評価を受ける映画プロダクションA24による新作『WAVES/ウェイブス』が、7月10日(金)より日本公開される。それぞれ心に痛みを抱える南フロリダの高校生たちの物語にFrank OceanやKanye West、Kendrick Lamarなどの楽曲が花を添える、唯一無二のプレイリストムービーとなっている本作。今回FNMNLでは、『WAVES/ウェイブス』の監督であるトレイ・エドワード・シュルツにメールで話を訊くことが出来た。
監督自身の音楽に対する深い愛とパーソナルな経験を投影した本作。このインタビューを読んでから『WAVES/ウェイブス』を観れば、物語がより胸を打つものとなるはずだ。
取材・構成:山本輝洋
- 『WAVES/ウェイブス』の舞台はフロリダとなっていますが、サウンドトラックに収録されたAnimal Collectiveの“FloriDada”やFrank Oceanの“Florida”などフロリダを象徴するような楽曲も重要な役割を果たしますよね。ご自身もフロリダに住まれているようですが、あなたにとってフロリダはどのような場所なのでしょうか?
トレイ・エドワード・シュルツ - フロリダはいろんな魅力があるよ!ユニークだし、少し変わっているし、美しいし、怖さもある。こんな州は他にないと思う。接戦州(共和党と民主党の候補者の間で揺れる州)だからいろんな人がいるし、小世界がたくさん存在するんだ。『WAVES/ウェイブス』を撮影した場所は北フロリダや他のエリアとは全く違う。自然が最高に美しいんだ。フロリダ南部なんだけど、全然違う雰囲気の場所もある。本当に刺激的な州だから、暮らしていて楽しいよ。
- タイラー、そしてエミリーの兄妹にとってはAnimal Collectiveの楽曲が大切なものとなっていますが、監督ご自身が資料で話していた「南フロリダの高校生はAnimal Collectiveを聴いているだろうかと質問されたことがある。聴いていないと言うのは安易すぎる。タイラーとエミリーは聴いていただろう」という言葉が印象的でした。監督ご自身が高校生の頃新しくて変わった音楽をいつも探していた経験に基づいているそうですが、あなたが高校生の時に特にお気に入りだった音楽はどのようなものでしたか?
トレイ・エドワード・シュルツ - IncubusやDave Matthews Bandや311などは、今ではあまり聴かないけど大好きだったね。Kanye WestやRadioheadも昔からよく聴いていて、彼らは今でもお気に入りさ。
映画に関して言うと、ポール・トーマス・アンダーソン、クエンティン・タランティーノ、ダーレン・アロノフスキー、スタンリー・キューブリックのファンだ。僕の人生を最も大きく変えた映画は、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』。レスリングで肩を痛め、人生の方向性を見失っていた年に公開されたんだ。肩の故障による精神的ダメージはとてつもなく、僕の人生を一変させてしまった。少しうつにもなりつつあった。そんな時に『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を見て、衝撃を受けたんだ。映画が大好きだったことを思い出し、映画こそが僕にとっての情熱、大切なものだと気付いたのさ。当時、ひどいビデオメディアの授業を受けていたんだけど、カメラをいじるのが楽しくて、それも合わさって、映画に再びのめり込んでいったんだ。
- 『WAVES/ウェイブス』はご自身のパーソナルな体験に基づいた作品だと思いますが、本作のキャラクターそれぞれのどのような部分に自分の性格や体験を反映したのでしょうか?
トレイ・エドワード・シュルツ - 主人公のタイラーは僕とケルヴィンを融合させたような人物だ。僕たち2人は、とてつもないプレッシャーの中で育ってきた。両親の期待が大きく、重い責任を担っていたんだ。僕に関して言うと、高校時代にレスリングをしていて、タイラーのように肩を痛めたんだ。さらに両親の仕事を手伝い、勉強も決して手を抜けなかった。周囲からは大人として扱われるし一杯一杯だったのさ。身動きが取れず、かわす方法もないから、何でもストレートに受け止めてしまっていた。失敗は許されないと、常にストレスを抱えていたのを覚えているよ。ケルヴィンにとっては、それが音楽だった。ニューオーリンズで生まれ育ったケルヴィンは、素晴らしいミュージシャンと歌手を両親に持っている。だから彼も音楽の道を進むのが当然の流れだった。両親の期待も相当で、神童のように育てられたらしい。
- タイラーを演じたケルヴィン・ハリソン・ジュニアさんは強さと脆さをあわせ持った役柄を完璧に表現していたように感じました。オリジナルの楽曲を作るなど音楽の才能も持っているようですが、彼との撮影はいかがでしたか?印象深いエピソードなどがあれば教えてください。
トレイ・エドワード・シュルツ - 最初にキャスティングしたのはケルヴィンだ。『イット・カムズ・アット・ナイト』で初めて出会って、一緒に仕事をして、互いのことが気に入ったから、絶対にまた組もうと言っていたのさ。ケルヴィンはとにかく才能にあふれているし、人間としても素晴らしい。前作を通して親友になったから、どうにかしてまた彼と映画を作りたかった。『WAVES/ウェイブス』はケルヴィンとの共同作業の賜物だと言える。脚本を書いている段階から参加し、彼自身の経験をインプットしてくれた。彼がいなければ『WAVES/ウェイブス』は全く違う映画になっていただろうね。本作のアイディアをケルヴィンに話した時、彼はタイラーの役にすぐ共感したらしい。それからはテキストメッセージを送ったり、電話をしたりして、互いの過去のこと、両親や恋人との関係のこと、当時感じていたプレッシャーなどについて語り合った。そのやりとりを僕たちは「セラピーセッション」と呼んでいたんだけどね。だから脚本を書きながら、ケルヴィンの黒人としての視点を取り入れるのは、ごく自然の流れだった。ケルヴィンは脚本の第一稿を読んだ数少ない人物の一人だ。撮影に入る8か月前だった。それ以降もケルヴィンからのコメントを参考にして改訂を重ねていった。それは他のキャストが加わってからも同じだ。僕は、「みんなの意見は聞いているよ。一緒に作っていこう」というスタンスだった。みんなの話に耳を傾け、それを作品に反映していったんだ。だからキャスト全員にとって、半自伝的な内容に仕上がったと思う。全体の8割は、各々が生きてきた人生なんだ。
- 本作ではFrank Oceanの楽曲が特に印象的な使われ方をしていますが、特に『Endless』からの楽曲が使用されていることに驚きました。あの作品にはどのような思い入れがありますか?
トレイ・エドワード・シュルツ - 『ENDLESS』は元々大好きで、『BLONDE』とほぼ同じタイミングでリリースされたから2枚の記憶が重なっているんだ。でも当初、『ENDLESS』はアルバムとして出ていなかったから、『BLONDE』ほどは聴いていなかった。その後、アルバムを入手してからはどっぷりハマったね。『WAVES/ウェイブス』で『BLONDE』よりも『ENDLESS』の曲を多く用いたのは、ごく自然な流れだった。『ENDLESS』の方がストーリーに合っていたのさ。『イット・カムズ・アット・ナイト』を作っていた時も『ENDLESS』と『BLONDE』をよく聴いていた。雨の中を運転しながら、週末に小池で泳ぎながら流していたよ。“Mitsubishi Sony”は僕にとって、フロリダで過ごした楽しい夜を象徴しているんだ。
- 予告編ではFrank Oceanの“God Speed”が使用されていました。脚本ではエミリーと父親のロナルドの対話のシーンで使用される予定だったとのことですが、本編で使用しなかった理由などはありますか?また、あの曲はあなたにとってどんな曲ですか?
トレイ・エドワード・シュルツ - “Godspeed”は美しく、僕も大好きなFrank Oceanの曲だ。許しについて歌っているように感じる。Frankは別れを告げた恋人を許し、相手の幸せを願っているんだと思う。2人はそれぞれ別の道を歩むけど、いつまでも愛情で繋がっているんだ。脚本では、それを親子愛に置き換えて、父親と娘の重要なシーンのあとに入れた。エミリーは父親の目の前で、見る見る成長を遂げていくんだ。親子が抱き合う姿を後ろからワイドショットを映し、ぐっときた直後、運転するエミリーの横顔を父親が眺める場面で『Godspeed』を流すつもりだった。個人的にすごく気に入っていたんだ。でも脚本では、バスタブとロードトリップの間に別の場面を入れていて、尺を縮めるためにそこをカットしたら、“Godspeed”がうまく機能しなかったのさ。ロードトリップに切り替わるところでクライマックスを迎えるべきなのに、トーンダウンしてしまったんだ。だから、“Godspeed”よりも好きな“Seigfried”を使うことにした。結局、“Godspeed”は本編では使用しなかったんだけど、映画の精神が表れているから、どうにかして本編に入れられないか最後まで粘ったんだ。エミリーが自転車に乗っているシーンでも試してみたけど、どうも違った。だから、予告で使えてうれしかったね。
- オリジナルのサウンドトラックはトレント・レズナーとアッティカス・ロスが手掛けてますが、二人を起用したきっかけはどのようなものでしょうか?また、オリジナルスコアの中で特にお気に入りの曲があれば教えてください。
トレイ・エドワード・シュルツ - トレントとアッティカスは最も好きな作曲家だから、2人が参加してくれたのは本当に幸運だった。仕事熱心だし、振り幅も大きい2人さ。秀でている点を挙げるのは難しいね。彼らのスコアは素晴らしいものばかりだ。毎回、映画とその世界観を隈なく掘り下げ、特徴をとらえているのが素晴らしい。彼らのサウンドは唯一無二だしね。『WAVES/ウェイブス』のために作ってくれたオリジナル・スコアは、全体を繋ぎ合わせる接着剤だと言える。壮大なストーリーだから、繋ぎとめる何かが必要なんだ。同じスコアを繰り返して用いる時も、タイミングが見事で思わず感情的になってしまう。前半のタイラーの部分と、後半のエミリーの部分をリンクさせている箇所とかね。トレントとアッティカスの音楽は、本当に兄妹を繋げていると思うんだ。また彼らは、タイラーとエミリーの感情をより鮮やかに描写するために、映画の中のサウンドを拾って、巧みにスコアに織り込んでいる。彼らの音楽のない『WAVES/ウェイブス』は想像できないね。
- 次回作の構想などはありますか?もしあれば、それはどのような作品になる予定でしょうか。
トレイ・エドワード・シュルツ - 『WAVES/ウェイブス』で出しきってしまったので、まだリサーチ段階で決まっていないんだ。
- ありがとうございました。
FNMNLではプレイリストムービーの『WAVES/ウェイブス』の魅力を伝えるコラムも掲載中だ。
Info
『WAVES/ウェイブス』
7月10日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督・脚本:トレイ・エドワード・シュルツ(『イット・カムズ・アット・ナイト』)
出演:ケルヴィン・ハリソン・Jr、テイラー・ラッセル、スターリング・K・ブラウン、レネー・エリス・ゴールズベリー、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミー
音楽:トレント・レズナー&アッティカス・ロス (『ソーシャル・ネットワーク』、『ゴーン・ガール』)
原題:WAVES /2019 年/アメリカ/英語/ビスタサイズ/135 分/PG12
配給:ファントム・フィルム
https://www.phantom-film.com/waves-movie/
©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved
劇中曲トラックリスト
Animal Collective
♪FloriDada ♪Bluish ♪Loch Raven (Live)
Tame Impala
♪Be Above It ♪Be Above It (LIVE) ♪Be Above It (Erol Alkan Rework)
Frank Ocean
♪Mitsubishi Sony ♪Rushes ♪Sideways ♪Florida ♪Rushes (Bass Guitar Layer) ♪Seigfried
Dinah Washington
♪What a Difference a Day Makes
Kelvin Harrison Jr.
♪La Linda Luna
A$AP Rocky
♪Lvl
Kendrick Lamar
♪Backseat Freestyle
The Shoes
♪America
H.E.R.
♪Focus
Tyler, The Creator
♪IFHY (feat.Pharrell)
Fuck Buttons
♪Surf Solar
Amy Winehouse
♪Love is a Losing Game
Kanye West
♪I Am a God
THEY.
♪U-Rite ♪U-Rite (Louis Futon Remix)
Kid Cudi
♪Ghost!
Colin Stetson
♪The Stars In His Head (Dark Lights Remix)
Glenn Miller
♪Moonlight Serenade
Chance The Rapper
♪How Great (feat. Jay Electronica and My Cousin Nicole)
SZA
♪Pretty Little Birds (feat. Isaiah Rashad)
Radiohead
♪True Love Waits
Alabama Shakes
♪Sound & Color