昨年リリースのアルバム『Astroworld』で時代を代表するスターへと上り詰めたTravis Scott。そんな彼の軌跡を描いたドキュメンタリー『トラヴィス・スコット:Look Mom I Can Fly』がNetflixで配信されている。
ドキュメンタリーは『Astroworld』の制作、リリース後のツアー、娘Stormiちゃんの誕生、そして物議を醸したスーパーボウルハーフタイムショーへの出演やグラミー賞など昨年のTravisの動きに密着したもの。また、彼の家族が撮影した幼少期の映像や様々なエピソードも同時に語られる。
『Astroworld』はTame ImpalaのKevin ParkerやJames Blake、Frank Oceanなど様々なアーティストたちと共に作られたアルバムだが、『Look Mom I Can Fly』ではその制作の様子を実際に観ることが出来る。Kevin Parkerが「マリファナの煙が充満し、人生最大の音量で音楽が流れていた」と語る“Skeltons”のレコーディングや、“Sicko Mode”などに見られるエポックメイキングなビートスイッチの手法を思いつく瞬間など、アルバム全体に込められた異常な熱量が観ているこちらにも伝わってくる映像に仕上がっている。
ドキュメンタリーの最大の見所は、ファンの若者や地元ヒューストンに対するTravisの貢献である。ライブの度に暴動のような盛り上がりを見せ、時にケガ人さえ発生させるファンたちは、Travisについて口々に「人生を変えられた」「命を救われた」と語る。その理由は、彼がファン一人一人に細かく目を配り、「お前に出来ないことはない」と勇気付けるようなパフォーマンスを続けていることにある。
また、ヒューストンで惜しまれながらも閉園しアルバムにインスピレーションを与えることになった遊園地「Astroworld」をTravisがフェスという形で復活させた際にも、地元の人々が大きな喜びと感動を得る様子が見て取れる。フッドや自らが属するコミュニティを代表する存在としての役割をラッパーが担う、というヒップホップの伝統的なあり方をTravisが継承していることが分かる。
Travisの家族や通っていた高校の教師たちは皆、彼の将来の成功を確信していたとカメラに向かって語る。幼少期に撮影された実際の映像の画質と、トレンドでもあるVHS風の画質で撮影した現在の映像を並べる特徴的な編集も、昔の彼の延長線上に現在の彼があるということを描く意図が伝わる。
終盤、昨年度のグラミー最優秀ラップアルバム賞に『Astroworld』がノミネートされながらも、その座をCardi Bに奪われてしまったTravisにヒューストン市長が「望みがかなわなくてもあきらめるなと、みんなに言うんだ。今こそ、その話をする時だ。観客にはがんばったのに失敗した人がたくさんいる。励ましてやれ。“これからだ”と。私が言ってもそれほど伝わらない。君が言うんだ。君の声なら届く」と語りかける。
その後のライブ中、ヒューストン市長と共に遊園地の再建の計画を語るTravis、そして在りし日の「Astroworld」で遊ぶ幼いTravisの映像でドキュメンタリーは締めくくられる。地元ヒューストンと自身の幼少期にオマージュを捧げたアルバムでフッドを代表するスターとなる、という成功までの道筋を『Look Mom I Can Fly』は描いているのだろう。
ファンにとっては多くの見所に満ちた『トラヴィス・スコット:Look Mom I Can Fly』はこちらから観ることが出来る。
Info
Netflixオリジナル映画『トラヴィス・スコット: Look Mom I Can Fly』
独占配信中