変態紳士クラブのレゲエディージェー・VIGORMANが1stソロアルバム『SOLIPSISM』を完成させた。アルバム全体を統括したのは同じく変態のメンバーであるプロデューサーのGeG。BACHLOGIC、KM、774といったトラックメイカーが参加した本作は、ダンスホールレゲエ、ヒップホップ、R&Bが交差するジャンルレスなダンスアルバムに仕上がった。盟友・WILYWNKA、BASI(韻シスト)、RUDEBWOY FACE、PERSIAという強力な客演陣とともに制作されたこのアルバムについてVIGORMANに話を訊いた。
取材・構成:宮崎敬太
撮影 : 西村満
1stアルバムだから好きなようにやった
- ダンスホールレゲエ、ヒップホップ、R&Bが交差したジャンルレスな作品に仕上がりましたね。
VIGORMAN - 俺自身がもともとジャンルを気にせず音楽を聴くタイプだから、意識的にいろんなサウンドを入れました。最初はGeGとEPを作ってたんですよ。でもGeGが「もうちょっと頑張ってアルバム作っちゃいなよ」と言ってくれて。俺自身やりたいこともあったので、好き勝手やったらこういう感じの作品になりました。EP用に作ってた曲も2〜3曲入ってます。
- まさに「SOLIPSISM(=独我論)」な作品というわけですね。
VIGORMAN - うん。突き抜けた作品にしたかったんですよ。例えば1曲目の“Killin' It”はヒップホップが好きな人にはレゲエやR&Bのテイストが入ったメロウなヒップホップに聴こえるだろうし、R&B好きの人もそう感じると思う。でも実はこれがジャマイカの最先端のダンスホールレゲエのスタイルなんです。抜け感のある軽快なビートとメロウなサウンド。大阪のシーンはレゲエとヒップホップの垣根がないというのもあるんですが、俺自身もレゲエディージェーのステレオタイプにとらわれない作品を作りたいという思いが強くありました。
- GeGさんは本作にどのように関わっているんですか?
VIGORMAN - アルバム全体のプロデューサーですね。全体を統括して見てくれてます。いろんなタイプのサウンドはあるのに、アルバムとしての統一感があるのはGeGの存在が大きいです。かなりいい感じに仕上げてくれた。
- BACHLOGICさんが参加しているのは驚きました。
VIGORMAN - もう本当に光栄です。実は俺、BLさんのヘッズだったんですよ。最初に知ったのはBRON-Kさんのアルバム。ずっと好きでいつか一緒にやりたいと思ってたけど、まさかこんな早く実現するとは思わなかった。
「こいつ、面白いこと言ってるな」って感じてもらえる作品ができたと思う。
- 先日GeGさんに取材した際、VIGORMANさんはスタジオに来てトラックを聴いて、短時間で一気に歌詞を書くという話をうかがいました。そういう書き方のせいか、今回のアルバムにはVIGORMANさんが今考えてること、感じていることがダイレクトに歌詞に反映されているように思いました。
VIGORMAN - そうですね。等身大のリリックを書くことをものすごく意識しました。わかってもないことを知ったかぶって書いても、同世代には響かない。歌が上手い人は世の中にごまんといるから、俺は聴いた人に「こいつのリリック面白いな」って感じてもらいたくて。等身大なのに深みがあって聴くたびに新しい発見がある歌詞。レゲエは思ってることをなんでも言える音楽だから。
- 言い回しが巧みなので、GeGさんの話を聞くまでは、しっかり考えて歌詞を書いていると思ってたんです。
VIGORMAN - 時と場合によりけりなんですが、最近は集中して一気に歌詞を書くことが多いですね。“Killin’ It”、“SOLIPSISM”、“2Face”なんかはそういう感じで書きました。昔は面白い言い回しを書きためてたんですが、それをつなげて1曲にするとちぐはぐな内容になることが多くて。ライミングに振り回されて内容がないというか。あと今回は“Vintage from Teenage feat. 変態紳士クラブ”で、タカ(WILYWNKA)とエモーショナルな感情を綴った曲をやれたのもすごく良かった。
関西は今も昔もずっとピース。愉快な仲間たちとずっと遊んでる
- ちなみにWILYWNKAさんとはいつ頃からの付き合いなんですか?
VIGORMAN - 初めて会ったのは中学卒業した後くらいかな。地元が近くて。タカは俺の一個上で、先輩の友達だったんです。その先輩と一緒に遊んだのが最初ですね。俺はまだ歌を始めてなかったけど、タカはもうラップしてたと思う。だから音楽仲間というより、いまだに気の合う友達って感じ。ぶっちゃけ一緒に曲作りするとも思ってなかった。しかもお互いシーンも違うから。
- WILYWNKAさん、Young Cocoさん、VIGORMANさんの三人で仲良しだったという話もGeGさんから伺いました。そういう環境でなぜヒップホップではなくレゲエをやることになったんですか?
VIGORMAN - サーフィンやってる父の影響ですね。父はむっちゃBob Marleyが好きで、「そんな推す?」ってくらい勧めてきたんですよ(笑)。それでしぶしぶ聴いてみたら一気にハマっちゃったんです。でも俺自身はもともとMetallicaやSlipknotも大好きで、さらに仲良いタカがイケてるラッパーもたくさん教えてくれた。だから俺にはジャンルの概念がなくて、J-POPでもロックでもカッコ良ければなんでもいいです。どのジャンルにもイケてる曲はあるしダサい曲もある。もしジャンルで音楽聴いてるならそれは損してると思うので、このアルバムではリスナーのそんな壁も壊したかった。「いまめっちゃヒップホップ」という時期もあれば、「レゲエしか聴かん」という時期もある、みたいな。
- GeGさんとはいつ頃出会ったんですか?
VIGORMAN - 16歳の頃かな。ANADA REBELでは何回も歌いましたね。あと2016年に出した“KK”もプロデュースしてもらってます。ちなみにこの曲は774さんとGeGさんの共作で、77エモン名義なんですよ。で、今回の“The Verse”も二人の共同制作。実は変態の『ZIP ROCK STAR』を出した後、いろんな人からもっとダンスホールレゲエの曲をやってほしいと言われて。でも今回のアルバムは書きたいトピックに合わせてトラックを選んでる部分もあって、そしたらダンスホールっぽい曲がほとんどなかったんです。だから1曲だけ振り切ったゴリゴリのダンスホールをやることにしました。客演は俺がめちゃくちゃ尊敬してるRUDEBWOY FACEさんとPERSIAさん。で、次の曲は俺が初めて書いたラブソングの“Diamond”でガラッとイメージを変える。そういう流れをやってみたかったんです。
- “2Face”、“UP 2 ME”では環境の変化に伴うネガティブな心境について歌っていますね。
VIGORMAN - あ、そういうことじゃないです。俺の周りは今も昔もずっとめっちゃピースですよ。“2Face”はクラブあるあるっすね。仲良くない奴に、急に友達ぶられたことへの違和感がテーマになってます。俺ら、基本的に遊んでるメンツが昔からずっと一緒なんですよ。GeGのアルバムに入ってる“Merry Go Round feat. BASI, 唾奇, VIGORMAN & WILYWNKA”はまさにそのことを歌ってて。いつもの連中で集まって、軽くご飯を食べに行くつもりが流れで酒飲みに行って、その後に誰かの家に行ってダラダラして、気づくと4日経ってるとか(笑)。そういうのを延々と繰り返してるんです。
- そうなんですね。僕は変態紳士クラブがブレイクして、その“有名税”でいろいろなトラブルが起きたことを歌っているのかと思ってしまいました。
VIGORMAN - トラブルなんて全然ないっす(笑)。“UP 2 ME”に関して言うと、アルバムに反面教師というか、教訓になるようなトピックを入れたかったんですよ。それでお金のことを書きました。変態に関してはギャラもきっちり三等分だし、そんなことじゃ絶対に揉めないですね。ちょっとクサいかもしれないけど、関係性はお金じゃ買えないから。狭く深くという感じではあるけど、別に排他的じゃないし。関西に来れば、俺の愉快な仲間たちはいつでも紹介するよって感じですね。
BASIさんはいつも等身大で歌ってるからカッコいい
- 今回のアルバムには、関西を中心に90年代から活動しているBASI(韻シスト)さんも参加していますね。
VIGORMAN - もちろん昔から知っててすごいリスペクトしてるけど、仲良くさせてもらうようになったのは本当に最近ですね。BASIさんは20歳くらい年上で、下手したら父と同じ世代です。
- “頭悪い天才 feat. BASI”はどのように制作したんですか?
VIGORMAN - 俺とBASIさんとGeGの三人でスタジオに入って1日で完成させました。俺は一緒にスタジオに入って作りたいタイプなんですよ。とはいえ、みんなそれぞれスケジュールがあるからデータでやりとりすることも多い。けど今回はBASIさんから「一緒にスタジオ入ろうよ」って言ってくれて。本当に優しい人です。
- BASIさんは変態紳士クラブの東名阪ツアーのこともリリックに入れていましたね。
VIGORMAN - 「平成令和跨いだクアトロも」ってラインはマジで感動しました。さっき俺は等身大でいたいと言ったけど、BASIさんはいつも等身大で歌ってるからカッコいいんですよ。今回参加してもらったのも、俺には絶対に書けない、歌えないことを歌ってるから。30超えた大人が「ギャルとパーティ」みたいな曲ばっか歌ってたら「どうなの?」って感じるし。
- では、2017年にリリースした"大人が言う"を再録したのはなぜですか?
VIGORMAN - このアイデアはGeGが提案してくれました。"大人が言う"はもともと16歳くらいの頃書いた曲なんです。今回は歌詞もあえて変えずにそのまま歌い直してます。でも22歳の俺が歌ってもしっくりくる内容になってると思う。GeGには「精神的に成長してないから」とか言って笑われましたけど(笑)。
- ということはピアノはGeGさんが弾いてるんですか?
VIGORMAN - いや、showmoreというバンドのあっちゃん(井上惇志)ですね。サックスはSoulflexのKenTくん。二人とも変態のバックバンドのメンバーなんですよ。デッカいスタジオであっちゃんが弾くピアノに合わせて歌いました。声はほぼ生で、サックスは後入れ。そのへんもGeGがディレクションしてくれました。
- なるほど。今回のアルバムはVIGORMANさんとGeGさんのアイデアが融合してできた作品なんですね。
VIGORMAN - そうですね。もちろん俺が完全に思い通りに作るアルバムもいいのかもしれないけど、それだと俺だけが好きなアルバムになっちゃいそうで。そういう意味でもGeGがプロデュースしてくれるのはデカいんですよ。『SOLIPSISM』は俺とGeGの二つの脳みそで作ったアルバムですね。だからこそ、幅広い内容にできたと思う。
- 個人的にはVIGORMANさんの歌の説得力にも驚かされました。
VIGORMAN - マジすか。それは嬉しいな。GeGには「まだまだ鍛錬が必要。」って言われてたんで(笑)。冗談はさておき、もしも俺の歌に説得力を感じてくれたら、それはたぶん、さっきも言った等身大にこだわったからだと思います。無理してないから歌詞も歌も表現もリアリティのあるものになったのかも。10年後の自分が聴いても納得できる内容にしたかった。そこを一番意識しましたね。
Info
VIGORMAN
1st Full Album『SOLIPSISM』
2019.08.30 OUT!!
[Track List]
01. Killin' It (Prod.GeG)
02. SOLIPSISM (Prod.BACHLOGIC)
03. 2Face (Prod.GeG)
04. The Verse Feat.RUDEBWOY FACE & PERSIA
(Prod.774 From DIGITAL NINJA)
05. Diamond (Prod.GeG)
06. A Few (Prod.GeG)
07. 大人が言う-Unplugged Remix- (Prod.GeG)
08. 頭悪い天才 feat.BASI (Prod.GeG)
09. Up 2 Me (Prod.KM)
10. Vintage from Teenage feat.変態紳士クラブ (Prod.GeG)
11. Slow Down (Prod.GeG)
12. I Remember (Prod.BACHLOGIC)
13. Last Shit (Prod.BACHLOGIC)
Art Work by GUCCIMAZE
Total Produced by GeG