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【インタビュー】5lack 『report』| やるべき事は自分で決める

5lackが今月6曲入りの新作『report』をリリースした。日比谷野音公演終了後にリリースした前作『Try & Error』以来、半年ぶりの本作は6曲入りのアルバムで前作『Try & Error』とは兄弟作品となっているという。唯一のゲストにはLEXをフィーチャーし話題となっている本作のリリースのタイミングで、約10年ぶりとなるインタビューが実現。『report』の制作を中心に、シーンの変化や福岡での生活、そしてライブまで率直に語ってくれた。

取材・構成 : 渡辺志保

撮影 : Ryosuke Hoshina

- 取材を受けること自体、お久しぶりだと伺いました。

5lack - 若い時は、うまく今の気持ちを100%伝えることが難しいなと感じて、インタビューは受けないという状況もあったんですけど、今はリフレッシュというか、自分のアティチュードとか聴く人の世代も変わっていっている。そんな中で心機一転して何となく落ち着いてきたなっていうタイミングでもあるし、そこも踏まえて、全体的に楽曲を問わず色んなことを話せればと思ったんです。

- ありがとうございます。

5lack - 時代的にもヒップホップ的にも、何度目かの巨大なバブルだなと感じていて。話していく中で、それぞれのつながりとか自分が経験してきた世代感とかそういうことを知りたい人にも説明がつけばと。

- 私も、今回5lackさんへの取材依頼をいただいて「まじか!」と浮き足立ってしまったんですけど、個人的には「今、5lackさんはどういうモードなんだろう」と気になっていたんです。2021年から続くシリーズ『〜白い円盤series〜』のリリースがあったり、2021年には現時点での最新アルバム『Title』もあったり、最近では日比谷公園大音楽堂での単独公演(2023年9月)を行ったり。ここ数年を切り取っても色んな局面があったと思うんですけど、今5lackさんご自身はどういうモチベーションでラップしているんだろう、と。

5lack - 簡単に言えば、青春というか若い頃の「昇っていくぞ」というマインドとは違う、ということですかね。僕が出てきた当時は、今みたいにパッと出てパッと有名にはなれなくて、もうそのシーン自体を作っていかないといけない、という状況だった。(アーティストを)志した人たちがもうちょっとフォローしてもらえる環境になったらいいなと思っていましたし、そうした逆境に逆らってきたところもある。今の自分は、年齢的にも落ち着いてますます冷静になっているんです。それに、今の世界のヒップホップを見て、それに対して徐々に自分の好きなものとは違う部分も出てきたんで。

- それは、たとえばヒップホップという畑の中に自分が好きではないものがポツポツと生えてきたというような感覚ですかね?

5lack - 自分がヒップホップを好きになったきっかけとしてD'AngeloやJ Dillaの音楽があるんですけど、たとえばそういう音楽を聴いていると、今、自分をフォローしてくれている若い子達は”何ですか、このジャンルは”と感じちゃうのかな?って思ったりとか。

- 元々は東京都板橋区のご出身ですが、10年ほどお住まいは福岡に移されていますよね。どう見えていますか?東京を中心とした日本語ラップの熱狂みたいなものは。

5lack - 自分が聴き始めた頃が、第一次日本語ラップのバブルだとしたらーー。

- それは1990年代後半あたり?

5lack - はい。言ったらジブさん(Zeebra)しかり、Dragon Ashがテレビに出てきた時代ですかね。あの頃の日本のヒップホップって、末路的には“ヒップホップの格好をしているけどレゲエかヒップホップかも分からないシンガー”みたいな人が出てきたり、ジャンルに対しての扱いに責任のないアーティストが増えすぎたりしてたと思うんですね。それと、『B-BOY PARK』が盛り上がっていた時代ですかね。その辺りを自分は第一次のバブルとしていて、その後に(ヒップホップが)やりづらくなっていく状況も見てきたし、ロックの方が明らかに流行っている時代もあった。今の(ヒップホップの)流行りはそこと通ずる部分もあるなと思っています。あまりネガティヴなことは言いたくないですけど、同じ末路を辿っていくように見えなくもない。

- 今の日本におけるヒップホップ・バブルがこのまま倍々ゲームみたいに増えて大きくなるのか、5lackさんも仰ったように、一回またガシャーンとなくなって淘汰されるのか、どっちなんだろうと私も思ってしまいますね。

5lack - やっぱり、マイノリティーだった頃にヒップホップを志した人たちは、けっこう現状に対して思うことが似ている部分はあるんじゃないですかね。でも、ネガティヴなことをいう大人になりたくない気持ちもあるし。自分たちが若い頃にもそういう人もいたし、そういう大人たちを反面教師にしている部分もあるんですけど。(笑)

- 本当ですね。そしてちょうど今日、6曲入りの新作『report』をリリースされました(※取材日は4月3日)。リリースおめでとうございます。

5lack - ありがとうございます。

- この『report』というタイトルはどこから?

5lack - タイトルは迷ったんです。一つ前の作品が『Try & Error』(2023年)といって、試行錯誤というか、失敗から成功を導いていく消去法みたいな感じで、色々試してるよ、というタイトルだったんです。なので、その途中経過報告みたいな。

- いわゆる、日本語ラップブームみたいなものに対する赤裸々な感情というか目線がそのまま歌われている楽曲もありますよね。"​​gambling"や"boast"はそれがすごく顕著じゃないですか。もちろん、それまでも5lackさんの作品にもちょっと痛いとこ突いてくるなっていうリリックはたくさんありましたが。

5lack - 皮肉野郎みたいな(笑)。関係ない部分の抗争とかは全くどうでもいいんですけど、スタイルとか音に対する指摘の仕合いっていうのは、真面目な話だから躊躇なく言っていく、というのがそれこそヒップホップの一部だと思うし、自分が楽しみにしているところの一つでもあるんです。

- ある程度、歳を重ねてきたからこそ言える、みたいなところはありますか?

5lack - いや、でもけっこう20代前半からそういうことをハッキリ言ってきたので。それが自分の成功と言っていいのかわからないですけど、そうした部分もあると思います。

- 『Try & Error』が昨年野音のライブの翌日にリリースされて、今回2024年の4月に『report』が発表された。タイトルの話にもつながりますが、この2作は5lackさんの中で繋がっているストーリーなんですか?

5lack - 自分のエンジニアとか作業とか音質、ビートやスタイルについても”兄弟的”というか。(2作が)繋がって一つのアルバムになっても良かったぐらいですね。『Try & Error』を出した段階で、『report』の曲も1、2曲出来ていたんです。

- 「563」や「C.E.O」など、『Try & Error』で聴かれたフレーズがそのまま今作にも入っているなと思いながら聴いておりました。

5lack - そうそう。まあ言葉遊びと適度なゆるさというか、脈略のないダジャレみたいなラップとかも混ぜ込んでいたり、もともと「これがラップだ」って思っている基盤から比べると、けっこう柔軟に新しいフロウとかも見出せている気がします。

- "​​there"はとても歌心のある仕上がりになっていますよね。もちろん前から5lackさんはそういうフロウや歌唱法にも意欲的に挑戦されていたと思いますけど、今回特にフロウのバリエーションは意識されていましたか?

5lack - 家で1人でマイクに向かって録るんですけど、周りに誰もいないじゃないですか。だから、けっこう恥ずかしがらずに色んなフロウを試せるんですよね。あと最近よく言ってるんですけど、リリックを書かないで録るんです。マイクの横で書いてから録るんじゃなくて、もう、すぐに録る。だから(リリックを)書くっていう作業はもうなくしたんです。

- それは、あえて?ご自身で意識して無くしたんですか? 

5lack - そうです。スピーディーだし、変えてからの方が自由だし即興性も増したから思いもよらぬフロウが出てきたりして。

- ビートの作り方は変わらずですか? 

5lack - サンプリングは日に日に減っていますね。自分で弾いてメロディー考えて、ということが多いです。逆に最近はサンプリングを改めて復活させることもあるんですけど、もともとの自分のスタイルなんで。

- 今回"boast"のビートが往年のGファンクっぽいというか、ヴォーカルにもNate Doggみたいな雰囲気があって。

5lack - 色々、あの当時のウェッサイな感じが(笑)

- 個人的にすごく好きです。

5lack - この時代感の楽曲に”ボースティング”っていうのも、今の言葉って感じがしません?。例えば、そのまま90年代のブーンバップをやるんじゃなくて、昔のビートの様式や言葉選びに今の良さを取り入れて、いいところは進化させていく、みたいなことは意識していますね。

- 『Try & Error』に収録されている"Change Up (feat. ISSUGI & BACHLOGIC)"ももろに”あの時代”の感じが出ていて、私みたいな世代は「たまらない」と思いつつ、若いリスナーはどう感じるのかな?と。

5lack - どう思うんですかね。もはや、現代のヒップホップってメロコアとかパンクというか、ミクスチャー的な部分もあるじゃないですか。

- それはサウンド的に?

5lack - テンポとか、髪の毛もカラフルだしファッションも関係していると思うんですけど。そういうところで今のヒップホップって…何なんですかね。昔のパンクも成長していくにつれて一つの音楽ジャンルから“生き様”みたいなことを指すようになったじゃないですか。ヒップホップも何かその、音の種類じゃなくて…

- ライフスタイルとか。もっと包括的な意味になっていますよね。

5lack - そうですね。なので、そういう今の子たちが2000年代頃っぽい音を聴いても、逆に聴きごたえを感じてもらえるんじゃないかという思いもあるし、そうじゃなかったとしても「こういうのがヤバいんだぜ」っていう思いはレペゼンしたいなと思ってますね。

- 『report』は”苦言を呈す”というか、”5lackが何か言いたいことあるらしいぜ”って雰囲気を感じながら聴き進めていき、最後の曲には次世代のアイコンでもあるLEX君が参加している。”オチ”じゃないですけど、こうした結末を用意していたのか、と感じました。

5lack - LEXとは、それこそジャンルがかけ離れている部分はあるような気がするんですけど、やっぱりミュージシャンとしての技量というか、才能があるのは分かる。そういう人に対して、若い世代の人たちが歩きづらい道にはしてやりたくないな、というか、俺がサポートできることはしたい、という思いがあるんですよね。考え方然り、自分も若い頃にやりづらい部分はあったので、そういう面に対して自力で何とかサポートしたいなという気持ちはあります。とはいえ彼にもフックアップしてもらっちゃってるんですけどね(笑)

- かつて5lackさんが感じたやりづらい部分はどういうところだったんですか? システム的な面や環境的な面など、いろいろあったかと思うのですが。

5lack - 今はYouTubeとかもあるし、自分でできるからいいよね。才能があれば誰にも邪魔できない。俺が活動を始めた頃はそうしたサービスがなくて、途中からMySpace(※註:SNSの先駆けでもあり、プロフィールページには自作の音楽をポストするアーティストが多くいた)が出始めて。じゃあ、そこからどうやって上がるの?っていう時に、才能じゃない部分も必要だったじゃないですか。で、才能があるヤツが上がれないで、違う部分に長けているヤツがカルチャーを牛耳って才能にフタをする、みたいなことができた。自分が切り拓いたと言いたいわけじゃないですけど、当時、全然道がない道に進んでいったという感覚はあるんです。だから、そこに当時の俺をサポートしてくれる大人がもっといたら、すげえ嬉しかった。でもまあ、いなかったから今の自分があるんで、それはそれで満足していますけどね。

- もし5lackさんが20歳くらいだったとして、今、「ラップを始めてみようかな」と思ったとしたら、現在の5lackとは違う感じになっていたと思いいます?

5lack - うーん。そう思うと…良いだけではないかもしれないですね。ディテールというか、深みとか哀愁とかの細かい部分。人間ってそういうところだと思うんですよ。悲しみを知らない人が歌っても伝えられない部分があると思うし、自分はそういう遠回りみたいなことができて良かったとは思うんですけど。でも、あの時のことをもう一回やれって言われたら、それはもう嫌ですね(笑)。

- LEX君との"5xL"は、いつ頃どうやって制作がスタートしたのでしょうか?

5lack - 時期は分からないですけど、お互いのことはすでに知っていて。ふとビートを作っていて「そろそろやらないかい?」って直接DMしたんです。そしたら「もちろん」って、ソッコーでしたね。驚いたのが、「ビートできたよ」ってこちらから送った2時間後ぐらいに(LEXが)録ったデータが返ってきたんです。まだ、自分のヴァースは入っていなかった状態だったのに。

- ビートそのものに触発されて、すぐに録ったんですね。

5lack - それで、(LEXがすでに)1バース目に録っちゃってったし、このままでいいやってことで、曲を完成させました。

- 返ってきたLEX君のフロウやヴァースを聴いて、どう思いましたか?

5lack - いやあ、すごかったですね。説明がつかないような、才能というか技術的な話で、あまり細かく話すとバレちゃうんですけど(笑)簡単に言ったら”間”。歌っていない部分の間の使い方がめちゃくちゃうまいんですよ。もしかしたら本人は”ここで間を空けよう”とかも思ってないかもしれないですけど。そうした部分からは結構な経験値を感じるんですけど、年齢を聞いたら“ハタチ”っていうから。「まじで?」みたいな感じで。こちらが勉強になる部分もありましたね。

- かつて5lackさんがPSGとしてデビューした時や、『My Space』をリリースしたときも、みんな「マジ?こんな若いのに」と驚いていたと思いますけどね。

5lack - はい。だから、彼の歳を聞いて”なんでもしてみなさい”みたいな感情でした。そのぐらいの可能性を感じるし、音楽をずっと聴きたいなと思うアーティストの1人ですね。

- タイトルの"5xL"は何と読むんですか?

5lack - ファイブエックスエル。”5lack × LEX“でもあるし、”別にもう十分じゃん、端から見て十分だよお前ら”みたいな状況なのにまだ物足りないその欲望のデカさが「5xL」みたいな感じもあります。曲的にも満たされていても孤独みたいな部分は伝えたかったかな。

- 今後も、こうした世代を跨いだコラボレーションは挑戦していく?

5lack - やっぱり、技量者っていうのはずっと探していて、人気者に会うと二言目には”最近いい子いる?”と聞いてますね。LEXもそういうふうに知った気がするし。

- 最初に伺った通り、今、5lackさんがどういうモードでラップしているのか、という話に戻っちゃうんですけど、たとえば昨年日比谷の野音でワンマンライブをして、そこにお父様もお兄様(PUNPEE)もいらっしゃって。あのライブは5lackさんの中でもターニングポイントになりしましたか?

5lack - ライブがあまり好きではなくて。憎んでいるわけじゃなくて、何しろ大変なので。やっぱり怖い部分もあるし。でも、ライブを好きじゃないからこそ毎回やるたびに達成感がある。あと“俺、こんなにみんなにちゃんと聴いてもらってるんだ”って改めて想いますよね。やっぱり家で作ってると、どうしても始めた時の状況とかイメージとかが強いままに“認めてくれないヤツらを黙らせてやる”っていうスイッチが入っちゃうんですよ。でも、ライブの場で(リスナーとの)距離感を確かめられると、ホットな気持ちになりますよね。しかも、(野音のワンマンでは)そこに親や家族を招き入れられて、そういうこともすごく重要な要素だと思ってます。

- 本当ですね。5lackさんはずっとインディペンデントで活動しているじゃないですか。外から見ていると、信頼しあっているチームで動いているように見えるし、コンスタントに作品をずっとリリースしている。恵まれているというか、同世代で同じようなキャリアを積んでいるラッパーは少ないのではとも感じます。ご自身が培ってきたキャリアに関して、振り返って感じることや、こうしたペースで続けられてきた秘訣は何だと思いますか?

5lack - まず、俺はワンマン(ライブ)をやったのが相当、自分のキャリアの後期なんですよ。そこから、味を占めて(ライブ活動を)巨大化できたんですけど、それとは別に、1人の人間として人との繋がりも含め巨大化しすぎてはいけないな、と。それは、人として。普通の一般庶民の1人であることを忘れることは、すごく毒というか。自分のサイズ感を、常にギュッとするようにはしています。だから、謙虚であるということですよね。もともと一緒にやってきた友達がダメなヤツで失敗したとしても、そこでもっといい友達に入れ替えるんじゃなくて。”自分のパートナーとして、もっといい人がいるんじゃないか”ではなく、”その人と長くやっていくことによって、どうなるのかを見たい“ということなんですよね。結局、ここまで長くやるともう離れることは寂しいし、という気持ちもあるし。それと、常に外に出て大きい仕事して疲れていても、自分には地元があって、小さい時からの友達がいることで全部どうでもよくなって安らいで、助けられる瞬間もあるんで。やっぱそういうことですね。
自分の場合、ヒップホップを続けられている秘訣って、自分自身がボースティングしている通りの自分になりたいとか、自分が巨大になるためにヒップホップを使っている、とかではなくて、”日本のヒップホップがイケているために、まだ俺に需要がある”、”俺がいたほうがまだ健康的だ”みたいなとこだと思います。そこに貢献したいっていうか。これは90年代あたりのヒップホップの精神だと思うんですけど。それが結局どういうことかというと、ヒップホップが良くなることというのは、ジャズやロックとかの他のジャンルみたいに、もっと年老いて成熟したジャンルになっていけることだと思うんです。もっと渋い老人になって、ヒップホップのレコード聴いてもアリな音楽にまで成長していけることだと思うんですよ。アメリカではJay ZとかNasがそうした域に達し始めているし、そうなった方が、ヒップホップ・ミュージシャンの経済的な面でも絶対健康的になると思います。
あと、最近はもっと素直に”自分が好きでやってるんだ”という気持ちになっている気もするので、そうした変化が表現の柔軟さにも繋がっていますね。今は、時代に囚われずオリジナルであるために、素直に音楽を恐れずやっても許されるぐらいはやってきたかなって自分では思っています。

- 約10年前に福岡に移住したことも、良い方向に作用しているなと感じることはありますか。

5lack - そうですね。より庶民的な生活ができるし、ご飯を作って夜は早く寝てっていう毎日を送っている。そのリズムだけを崩さないように生きて、ちょっとの時間で音楽ができて、という感じ。夕方からは仕事もしないし。その中で、”自分の考え方はいろんな意見に左右されて変わるわけじゃない”とか”正解はないし、他人が言ったことをやって失敗しても、そいつは責任とってくれない”と思えるようになってきたんです。人と会わないから、音楽も私生活もどんどんそういう風に変わってきています。やるべき事は自分で決めるという事です。

- 年齢を重ねるにつれ、ご自身がラップしたいテーマや主題、視点というものは変化していますか?ここ数年はその変化っぷりが加速しているのかな、とも感じて。

5lack - ありますね。気になる小言も気にならなくなってくるし、必要なことと必要じゃないネガティヴな事柄の見分けがついてくる。”これは考えても時間の無駄だな”、とか。ビート作りもラップにおいて、特にラップは要素を増やして粗を誤魔化すんじゃなくて、どんどん削ぎ落として、シンプルにしてから出す勇気みたいなものは意識しています。

- 『report』が出たばかりですが、今後また、すぐにでもアルバムを作るモードになりそう?

5lack - トラックは作り始めましたね。”次はこういうことを言おう”とか、”俺はこういう存在になる”みたいな意識があるわけじゃなくて、音を作っていくと流れが止まらないんです。今、めっちゃ”湧き期”ですね。

- 今後、スピンオフ的なグループやユニットとしての活動も考えています?

5lack - それは特に…意識的にはないですね。みんな、フィーチャリングもすごい多いし、ワンマンやライブでもたくさん客演アーティストが来るけど、俺の中ではそれって、あくまでもオプションだったり記念的な“会”なんですよ。それが重要なこともあるんですけど、基本は個人として、自分の表現が自分の中で完結することのほうが大事というか。なので、(他アーティストの)セッションというのは、普段の制作とはまた別の社交の場なんです。

- リスナーの数も増えていくなかで、”自分の音楽が、全く自分が想像していないようなところまで広がっているな”とか、”知らない間に自分が意図していないような形で解釈をされているな”、”俺の曲なのに自分の手を離れちゃったな”ということを感じることはありますか?

5lack - 曲そのものに対して感じることはないんですけど、それに、小さいことは言いたくないんですけど、強いていうなら自分の存在ですかね。俺が作ったラップのスタイルを受け継いだ若いアーティストのリスナーは、もう俺のことは知らずにそのアーティストやカルチャーに触れているんですよね。だけど逆に、そうやって今から俺のことを知ってくれるリスナーも出てきているので、単純に人として嬉しい気持ちでもありますね。

- 軸になるものが違うんだな、と感じる時はありますね。世代が異なると、共有のバックグラウンドがないな、と感じることも多い。

5lack - YouTubeとか見ていても、徐々に「最近のヒップホップの音は自分にとっては違うかもしれない」と感じたり。最近、以前に増して自分がこの音楽に魅了された頃の音源や情報とか改めてディグしてるんですけど、それもあってか見比べてしまって余計にそう感じるのかもしれません。

- たまに現状を憂うことはあっても、実際に若いアーティストと話すと「未来は明るいのかな」と感じることもあるし、さまざまなサービスが普及して、それぞれが心地よい状態で音楽活動を続けられる下地作りは整っているのだから、個人的には、各々が適した形でシーンが巡っていけばいいなと感じます。

5lack -「昔、自分がワクワクした感覚ってこういうことじゃない」と思うこともある。でもそれを否定するんじゃなくて、今のシーンの中で俺の音楽を受け取ってもらえることも嬉しいし、新しいリスナーたちが俺の音楽にたどり着いた時のことを考えると、この先もいい音楽を作り続けて彼らを待ち構えていれたら良いかなと思います。今は特に、ちゃんといい音楽をやっていれば、生活していける時代なんじゃないかとも思いますし。

Info

5lack - 『report』

Track List:

 1. taidou

 2. gambling

 3. there

 4. boast

 5. tugo

 6. 5xL Feat. LEX

All Produced & Mixed by 5lack

Mastered By Isao Kumano

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