BIM、in-d、VaVa、JUBEEのMC4名、そしてDJ/プロデューサーのdoooo、ビデオディレクターのHeiyuuからなるクルー、CreativeDrugStore(以下、CDS)による、結成11周年にして初となる1stアルバム『Wisteria』がついに発表された。全14曲、42分強の本作、そしてこれまで発表された6曲のMVを見るにつけ、よくもまあこれだけ突き抜けた個性の6人が違和感なくおなじ空間に存在できるものだと思う。各々のカラーを打ち消すことなく、かつ持ち味を損なわずに作品を成立させられるということへの数学的確率について思いを馳せてしまうほどだ。だが、彼らがこの1枚の作品を結実させるまでには、紆余曲折のひとことでは片付けられないほどの衝突や葛藤があったという。個々がソロアーティストとして活動するなか、6人が生んだ連帯はどのようなものだったのだろうか。メンバーのBIM、in-d、VaVa、JUBEEに出席してもらい、その軌跡を検証する。
取材・構成 : 高橋圭太
撮影 : Renzo Masuda
- CDSの結成から11年、ついにアルバム『Wiseteria』が完成しました。まずは結成から現在までいろんなことがあったわけで、この11年間を振り返って、各々どういう変化があったかって話から訊いていこうと思ってて。
BIM - 変化はめちゃくちゃあるよね。
JUBEE - オレはCDSには途中から入って。ソロで音楽はじめて、BIMに声かけてもらっていっしょにやることになったんですけど、最初から自分はグループ志望で、なんならTHE OTOGIBANASHI'S(以下、OTG’S)に入りたかったんですよ。当時はひとりでやることに対してそんな自信もなかったし、でもCDSに入ってちょっとしてからみんなとの共同生活のなかで揉めたりとかもありつつで、“ひとりでがんばらないとな”みたいなモードに切り替わって、そこからソロ作品も出していって、現在の活動につながっていくという感じ。そのあいだにみんなもソロが活発になって、やっと11年目にしてみんなの歩幅が合ってきたというか。CDSも最初期はこんな感じになるだなんてまったく思ってなかったっすもんね。OTG’Sのほうがメインとして活動していくもんだと思って。
VaVa - たしかにCDSを結成してから3〜4年は、あくまでOTG’Sが主体っていう考え方だったかもしれない。そこからみんながソロを基本の活動になっていって……そう思うとけっこう長かったですね、ここまで。で、一昨年くらいからかな、CDSも活動が10年以上経ってるし“みんなでやってみるか”ってモードになった。
in-d - 変化って意味ではもう全部変わってるぐらい……“根本は変わってない”って言いたくなっちゃうっすけど、個人的には全部変わってるっすね。自分は活動初期なんて本当になにも考えてないぐらいで、ただ誘われていっしょにやってたくらいの気持ちだったんすよね。そう思ったら音楽との向き合い方や考え方もまるっきり変わったなって。いや、初期は初期で楽しかった思い出もめっちゃあるんですけど、いまのほうがめちゃくちゃ健康的だし、能動的に動けてるし、みんなでやってるっていう感覚がすごくあって。
VaVa - OTG’SのときとかMCでも全然しゃべんなかったしね。めっちゃ変わったと思うね。
in-d - “なんでもいいよ”とか、そういうことばっか言ってたんで。だいぶトガってたね(笑)。
- BIMさんはいかがですか?
BIM - オレの目線からいうと、自分自身はあんま変わってないと思ってて。コミュニケーションの取り方……意見の汲み方だったり、自分の意見を押し通しすぎちゃダメってこととか、そういう技術は前より上がったと思うけど、思ってること自体はあんま変わっていないんですよね。学生時代からパッと思い浮かんだアイデアをすぐ提案するタイプなんですよ。特に音楽で食っていくって決めてからは、思いついたらすぐ言ってかないとダメだなってより思うようになったかもしれない。もちろん勝ち負けじゃないんですけど、シーンのスピード感のなかで振り落とされないように。OTG’Sをはじめたころの1〜2年は、Fla$hBackSやGOKU GREENくん、dodoくんとかいろんな同世代のラッパーが出てきた時期というのもあって、つねに“どうにかしなければいけない”っていう思いがありましたね。その反面、いわゆる日本語ラップ的なシーンに正直興味が薄れていった時期でもあって、もっと別ジャンルの……例えばbonjour recordsとかにめっちゃ通ったり、MISTERGENTLEMANのオオスミさんや吉井さんが紹介している音楽を聴いていて、USの音楽よりUKの音楽のほうに興味を引かれていたかもしれない。で、そういった興味をアウトプットとして発表しても、ヒップホップのなかではあまり受け入れてもらえなかったっていう意識はありました。“自分のやりたいこと、いばらの道だなぁ”って思ってた時期に出したのがOTG’Sの2ndアルバム『BUSINESS CLASS』。もしかしたらひっくり返せるかもと思ったけど、自分自身がワクワクしなくて、そっからOTG’Sに対しての熱がなくなっちゃったって感じっすね。それ以降はもっと好きなことやんなきゃと思ったし、これまで以上に意見を言うようになった。意見を言って、ほかの意見があったときでも自分がなんでこう思ってるのかを強く言うわけですよ。で、自分は相手がそれで納得してたと思ってたけど、全然そうじゃなくて、オレが強く言うことで相手が意見を引っ込めちゃっただけなんだなってことは、やっぱり大人になって気づきましたね。それ以外にもメンバーの関係性とかもあったりしたし……さっきタクミ(in-d)の話もあったけど、OTG’Sのときはきらいだったから。タクミのこと。“マジでコイツなんなんだ”って。だってミックス作業のときも“大学のテストがあるから行けない”ってスタジオ来ないんですよ? オレもおなじ大学だからテストあったっての(笑)!
in-d - いやぁ、ほんとクソだったなぁ……。
VaVa - で、そういうときの相談役がオレなんですよ。だから自分もおのずと大学に行けなくなっていって、卒業に7年間かかった(笑)。
BIM - だからそのころはいまの未来はまったく想像してなかった。絶対無理だと思ってたし。だからタクミが"6℃"とか出したときとか、めっちゃ不思議な感覚でしたね。絶対やる気ないと思ってたコイツの曲に自分が参加するっていう。で、そのままソロを出し続けてるっていうね。そこの変化が、もしかしたらこの11年間でいちばんの変化かも。
- 10年を経てやっと個々のモチベーションの足並みが揃いだしたと。
BIM - 自分はアメフトやってたりしてたから、やっぱ“グループたるもの、日本一を目指す”っていう目標になりがちなんですよね。勝つためにどうするか、みたいな。自分は音楽でもそれをやっちゃってたんだと思うんです。でも結局そうじゃなくって、みんなが自由に活動することで大きい目標を共有できるようになった。30歳になって、やっと発言しないってことが必ずしも意見がないというわけじゃないんだなって気づかせてもらった。VaVaくんもこの1年くらいですごい変わったと思うし。
VaVa - たしかにめっちゃ変わったと思う。昔はめっちゃトゲトゲしてたかもしれない。もちろんいまもあるとは思うんですけどね。
BIM - いっしょにステージに立ってても、ほかのメンバーが目立つことに対してすごいイヤな顔してた時期もあったと感じてて。でも、いまはそのステージがよくなるようにっていう考え方になってるんだろうなって客観的に思います。この1年くらいで、VaVaくんというひとがさらに素敵になった感じがある。
VaVa - やっぱり当初はそういうトゲトゲしたマインドだったので、今回の『Wisteria』も制作できるかなっていう不安はめっちゃありましたね。制作のために合宿やるっていうのが決まったんですけど、自分はちゃんとできるのかなっていうのを増田さん(SUMMITのA&R)に相談したんですよ。“不安でしょうがないです”って。
- それは自分がチームプレイをできるか、という不安?
VaVa - そうです。オレのマインド次第なんですけどね。実際、過去にうまくいかなかったこともあるし、またそうなるのはいやだなぁって。でも実際やってみたら全然できたし、最終的にはみんなといるのが楽しいかもって思えた。
JUBEE - それでいうと、最近MV撮影のためにLAに一週間みんなで行って、そのあと年始からパリにも行って、昔のような共同生活みたいなのを連続でやったんですよ。VaVaくんも自分で言ってたんですけど、昔のトゲが取れた感じはありましたね。
BIM - 年上のこと分析するのもあれですけど……VaVaくんって変じゃないですか、めっちゃ。だからオレらがツッコむわけだけど、前だったら“フフフ”って笑いながらも、本当はウザがってたと思う。それをいまは自分で理解してるんだと思う。自分が変なヤツだって。
JUBEE - めっちゃわかる! パリでも“オレ、やっぱ変なヤツなんだな”って言ってたよね。理解してた。
BIM - いまはこっちが強めにイジってもムカつかれてないなってわかるようになりましたね。
- VaVaさんも共同作業を経るうちに成長できた部分があるんでしょうね。話を聞いてると、この11年で各々がいちばん成長したのはコミュニケーション面だったという。
VaVa - 自分からコミュニケーションを積極的に取るタイプじゃかったですしね。いまもそこまで得意なほうではないですけど、昔よりはそのあたりが改善された気がします。
- ちなみにこれは各々訊きたいんですけど、この11年間でクルーにまつわるいちばん印象的な出来事ってなんですか?
JUBEE - 自分はみんなで住んでた家から出たときですかねぇ。当時、OTG’Sの上海でのライブがあるってタイミングで。もちろんオレも"大脱出"の客演で参加するので、みんなといっしょにスタジオでリハしていて。でも、みんなは例えば30分のライブで当然30分歌うわけです。でもオレは1曲だけだからリハスタの端っこで自分の出番を待って、"大脱出"歌ったらまた端っこ戻って座ってる、みたいな感じで。その感じがなんかいやだな、みたいに思っちゃって。だから上海に行ったときも楽しくなくなっちゃって、ひとりでやろうかなってことをそのあいだずっと考えてたんです。だから上海から帰ってきてみんなに集まってもらって話したんですよ、“ちょっとオレもう家出るわ”って。緊張しましたね。でもその場では別に引き止められることもなく、意外と“がんばってね”みたいな感じになって。で、そこからしばらくはみんなともあんま連絡も取らずソロで動き出した。いま思えばあのあたりが自分にとってのターニングポイントだったのかなって。
- なるほど。共同生活を最初に抜けたのはVaVaさんですよね。
VaVa - そうっすね。その話はいろんなインタビューで話してるけど、自分もその時期がいちばん転換期だったかもしれない。あそこでみんなと離れてなかったらソロでラップしてなかったかもしれないし。
- VaVaさんが家を出るってなったときって、みんなでの話し合いの場ってあったんですか?
BIM - いや、話してないっす。いきなり出ていった。STUTSくんの"夜を使い果たして"のMV(監督をHeiyuuとBIMが担当)を撮った日だったと思うんですけど、それまでも個人的なことでVaVaくんとあんまりいい空気感じゃなかった時期で。まぁ自分も子どもだったなとは思うんだけど……
VaVa - いや、自分も子どもだったなと思うよ。MVの撮影終わって、すき家で牛丼買って家で食べてたときにまずBIMがキレたんだよね。きっかけは本当に些細なことだと思うんだけど、それまでで自分も溜まってたものがあるから爆発しちゃって。で、その日は寝て、起きてからスマホとPCだけ持って家を出たんですよね。“CDS抜けます”ってLINEだけして、そっから3ヶ月くらいはだれとも連絡取らず。増田さんが心配して連絡をくれて、増田さんとだけ連絡は取ってたって感じですね。
in-d - で“1回話そう”ってなって青山ツインタワーの地下のイタリアンで3ヶ月ぶりに会ったんだよ。
VaVa - そうだそうだ。あれ、めちゃくちゃ気まずかった! 待ち合わせ場所にもうすでに3人が先にいて。で、とりあえず急に出ていったことは謝って。でもまだ自分はCDS辞めようって気持ちだったから、その1ヶ月後とかに喫茶店で今後どうするかって話し合いをして。で、CDS辞めるって話をしたらBIMが“籍だけは置いておけば”って言って。“あ、そのパターンあり?”と思って、なにも考えずに“じゃあ置いておくわ”ってなった。
BIM - オレもちょうどその時期、もうやめるって決めてたんですよ、音楽を。でもVaVaくんと仲直り的な感じになったから、そこから伸ばし伸ばしやっていたら、そのうちソロ活動をやっていくようになって。
VaVa - 仲直りしてすぐくらいの時期に“Bonita”のビートをBIMに送ったのを覚えてる。で、曲ができてロンドンでMV撮影するときに、あんなに仲悪かったのに、それを経ていまはいっしょにロンドンいるっていうのが、なんかすげえ“人生”だなぁって感じがしたっすね。それでいったらBIMとin-dもだいぶ関係悪い時期あったもんね。『BUSINESS CLASS』の時期に表参道のアップルストアでライブやったとき、あのときの楽屋ではじめてふたりだけで話したんだっけ?
in-d - でもあんましゃべってないよ。すぐ楽屋出たし、帰りの電車も“このままだとユウト(BIM)とふたりになる”ってなって別の車両乗ったし。
一同 - (笑)。
VaVa - in-dはいまはめっちゃしっかりしてると思うけど、昔はめっちゃヤバかったんで(笑)。
BIM - たしかにヤバかった。さっきも話したけどきらいだったもん。
- ご本人の口からそのあたりのお話を訊きましょうか。
in-d - 単純にトガってたんでしょうね。みんなでいっしょにいても居心地悪かったし、BIMの知り合いとか先輩を紹介されて、うしろで“OTG’Sやってるin-dです”みたいなのもキャラ作ってるみたいで楽しくねぇな、みたいな。それだったら普通に地元の友達とかと遊んでたほうが楽しいやって思ってて。その時期にいちばん最初のCDSのイベントを恵比寿BATICAでやって。いまとなってはBATICAに本当申し訳ないっすけど、コンビニでシャンパン買って持ち込んで、ベロベロに酔っ払ってスピーカー壊しちゃったりして……。
BIM - 挙句、先にひとりで帰ってるんですよ。片付けもせずに。
in-d - そのあと、JUBEEに二子玉の高島屋とかで“そういうのよくないよ、ほんとに”って言われて。もちろんその通りなんだけど、心の中では“あぁ、こういうのもBIMに言わされてんだろうな”とか思ってて。でもやっぱ酒飲んでそういうことになるのよくないとは思ったんで“次のイベントからオレ酒飲むのやめるわ”って言って飲まないようにしてたんだけど、次のCDSのイベントのとき、途中から飲みてぇなって……(笑)。
一同 - (笑)。
in-d - お酒って美味しいじゃないですか。
- ヤバいヤツですねぇ(笑)。
in-d - で、ちょっと飲んで、横見たらJUBEEはもう酔っ払っててめっちゃ楽しそうなんですよ。で、“タクミ酔っ払ってない?”みたいに言われて、いやこっちは我慢してんだけどってムカついて、JUBEEに“おまえ、表出ろ”って。
一同 - (笑)。
BIM - そんでJUBEEに腹パン。腹パン、ドーンって。
VaVa - その時期ってだいたいin-dになんかあったとき、あいだに入るパイプ役がオレだったんですよ。そういう感じでin-dがよくやらかしてた時期にみんなで表参道に遊びに行く予定があって。で、とにかく反省してもらいたかったからin-d以外のみんなで話し合って、アイツは今日は帰ってもらおうって。自分はパイプ役として集まる前に原宿のキャットストリートでふたりだけで会って“ちゃんと反省してほしいから今日は帰ってほしい”って気まずいながら言ったんですよ。そしたら“わかった”ってなって反対方向に別れたんですよ。そしたら、その瞬間に、バコーン!ってin-dが道にあったコーンに蹴り入れてて。オレはもう“ええーっ!”って(笑)。
一同 - (笑)。
VaVa - いや、めっちゃ怖かったもん。
JUBEE - やぁ、すごいねぇ……。
- トガりが極まってますねぇ。いまからは考えづらいかもしれない。トガりが落ち着いてきたのにはきっかけがあったんですか?
BIM - ってかタクミ、汗すごくない?
一同 - (笑)。
in-d - イヤな汗かいてる(笑)。
JUBEE - あんまり言われ慣れてないからだよ。
BIM - この話はインタビューとかではあんまりしてないんじゃない?
VaVa - してないしてない。はじめてだと思うよ。
in-d - たしかに。トガりに関しては、20代後半に“このままじゃヤバい”って自分で思ったんですよね。だから、これまでの禊ぎじゃないけど、ちゃんと徳を積んでこう、みたいな意識になりました。アルバムに入ってる"Go Ahead"での“あのころのオレは腐ったリンゴ”って部分も、さっき話したような時期のことを歌ってますね。
VaVa - それこそ"Wisteria"のオレとin-dの掛け合いも、去年、オレとin-dでふたりで飲んだときの話をベースにしてます。そのときにじっくり話して、ふたりの考え方が正反対だったのがめっちゃ印象に残ってて。
JUBEE -"Wisteria"では自分もけっこうさらけ出して書いてるかも。以前、BIMと話してるときにマジでオレの本質を突いたことを言われたことがあって、それをそのまま書いてる。
BIM - JUBEEも怒んないけど、普段から思うことあるだろうし、怒らないこと=優しいこととはオレは思ってないよ、って話をしたんだよね。そりゃ揉めたくないのはわかるけど、たまにでも意見をちゃんと言うことが優しいって思う。
JUBEE - BIMはバンバン意見を言うわけですよ、昔から。でも、それが優しさとは思ってなかったんですよね、当時は。だけど、いまになって考えてみたら優しさで言ってくれてたんだなって。自分がファウンダーになってRave Racersをはじめてみて、やっと当時のBIMのCDSでの立場なりの考え方が理解できて。それで電話したんですよ。
BIM - そう、急に電話きた。
JUBEE - そのときに“当時はちゃんとわかってなかった。ごめんね”って話をしてね。
- 収録楽曲の話題になったので、そのままアルバムの話題にスライドしていきますが、今回の作品、当初の青写真はどのようなものでした?
BIM - 自分が最初イメージしてたのは、VaVaくんといえばこういうイメージ、タクミといえばこういうイメージ、JUBEEといえばこういうイメージ、オレといえば……みたいなものを全員が裏切れる作品。以前、JUBEEがタクミのDJを聴いて“DJでかける曲と作る曲が全然ちがうね”って言ってたことがあって。で、普段DJでかけるような好きな曲作ってみれば? ってところから、タクミが"Cloud"みたいな曲を作っていくっていう流れがあって。そういう感じのことを、グループだったらもっとできるかなっていう。あとは、ひとつのビートがあって、それに対して各々のアプローチがあるわけじゃないですか。たとえば『IPPONグランプリ』みたいな大喜利を観てると、出す順番とかもめっちゃ関係あるし、最初にベタな答えを出してから回答が捻くれてって、それによって笑いが増幅していく感じとか、それ自体がひとつのショーだなと思ってて。こうやって引き合いに出すと芸人さんに失礼かもしんないけど、ひとつのお題に対して4人のMCが“この流れだったらこういうふうにやったほうがおもろいな”みたいな……たとえば"Hi"みたいに、自分が最初のヴァースでずっとケツで踏んでくだけみたいにして、ほかのみんなが自由なフロウをしてもらったほうが曲が活きるな、とか。そういう感じに、みんなでひとつのものを曲ごとにポジショニングを変えてながら作り上げていくっていうことができるんじゃないかと。だから、そこまで最初からテーマとかは設定してないんですよね。
VaVa - そう。だからこそ客観視できるというか、“自分だけど自分じゃない”みたいな作品の在り方で作れるんですよね。ソロのときとはちがう脳の使い方が楽しかったです。ひとつの作品に対して6つの脳が使えるわけじゃないですか。しかも昔みたいに意見が言いづらいとかももうないですし。
- すべての収録曲にMC陣全員が参加していますよね。別のインタビューで"JENGA"はもしかしたらJUBEEさんがスケジュール的に参加できないかもしれないけど、ギリギリで間に合ったというエピソードを語られてましたが、そもそもMC陣全曲参加が前提ではなかった?
JUBEE - 最初はそうっすね。なんならふたりだけの曲とかもあったし。
BIM - やっぱ合宿で制作してると、録ってるあいだにすることないから書いちゃうんだよな。ヴァース録音できたらみんなで聴きあうじゃないっすか。そうすると“オレはこういうふうにしよっかな”とか思いついちゃって、結局は全曲書いてたっすね。
JUBEE - 候補のトラック聴いて、オレはそこまでだなと思うのもあったし、そういうのは参加しなくてもいいかっていう自由度はありましたね。最終的にはそこまでだなってビートは省いて現在の形になったんだけど。
VaVa - やっぱビートによってめっちゃ好き嫌いがあるからね。だれかがいいって言ってるビート、オレがあんまりだなと思ったり、もちろんその逆とか。
- ちなみにBIMさんは本作で印象的な楽曲を挙げるなら?
BIM - まあ"Go Ahead"っすかね。この曲は制作の終盤にできたんですけど。オレの親の実家が山形の米沢ってところで、その実家が空いてるから、みんなで遊びに行くことになって。メシがめっちゃ美味いし、みんなに食べてもらいたいラーメン屋さんとかもあったから。そこに行った夜、みんなで熱い話になったんですよ。なんか11年間グループをやってて、まだ血の通った会話をみんなでしあえるのってすごいことだろうなって思って、せっかくアルバム作ってるし、これをリリックとして残さないのはもったいないっていうか、変な感じがして。で、そのタイミングで韓国で知り合ったLou XtwoっていうLAのビートメーカーのストックをもらって。このトラックはたぶんソロだったら選ばないビートなんだけど、いま思ってることを歌うならバッチリなビートだと思って。みんなにも相談せずにサビとヴァースを書いて送った。特にテーマの説明とかもしなかったんですけど、みんなわかってくれたと思うんですよね。
in-d - 聴いてすぐ“あの日のことを歌ってるな”って思ったっすね。あの山形の夜はすごい感じることも多かった。自分は最近ひとと話すのがけっこう楽しくて。ぼくらってグループですけど地元もちがうし、趣味もちがう。このメンバー全員が学校でおなじクラスだったとしても友達になってたかどうかわかんない。でも10年ぐらいいっしょに仕事して月日を重ねて……これまで真面目な話ってあまりしてこなかったけど、最近は家族とか友達とかと、たとえわかりあえなくても、そういう話をする必要があるっていうか、おもしろいんじゃないかっていうふうに考えるようになったんです。CDSのメンバーといるときはみんなの話を訊きたいし、この1年ぐらいで自分も“こういうこと最近思ってるんだよね”みたいな話をよくするようになった。BIMのデモを聴いたときに、そういったやり取りとか気持ちを曲に絶対残したほうがいいんじゃないかって。だからこの曲ではあんまり比喩とか使わず、ストレートに書いてます。そういう意味でも"Go Ahead”は印象深いですね。
- ちなみに今回同席されてるA&RのRenさんはいちばん身近で制作を見てきたわけですよね。印象的な曲や出来事はありますか?
Ren - 曲でいうなら"Yo, My Ladies"ですかねぇ。みんなのいい意味で平熱感あるラップもいいし。そもそもビートを聴いたときから自分はいいなと思ってたんで、みんなにも8回くらい“このビートでやりたい”って提案をしたんです。で、あるときJUBEEが“これでやろうよ”ってリアクションをくれたんで“刺さってくれた!”と思って。VaVaちゃんのリリックの“まだ見ぬそのひとのために稼ぐ”ってラインもVaVaちゃんらしくていいなと思いますし、JUBEEが普段やらないような高い音程を意識したラップがハマってたり、レコーディングもNGが全然出なかったんじゃないかな。そういう空気感も含めてばっちりハマったと思ってます。あとは"Wisteria"ですかね。構成自体もイレギュラーだから、どんなパターンになるのかなと想像してたけど、かなり意表を突かれました。“この角度で来るんだ!”っていう驚きがあった。
VaVa - あの曲の対話形式の構成は自分が提案したんですけど、そもそも小節数も関係なく作りたくって。ふたりづつ16小節で、というのだけ決めて、そのなかで自由にやり取りできればいいなと思って。リアルな掛け合いというか。
- ありがとうございます。さて、アルバムを作り終えて、ここからツアーが開始するというタイミングですが、この先、ツアーが終わって以降のCDSの動き方ってもう話題に上がったりしますか?
BIM - パリでみんなと話してて意見が分かれたよね。JUBEEはフルアルバムを作りたいって言ってて、VaVaくんはシングルを作りたいってなってて。
JUBEE - 時期とかまでは考えてなかったけど、経験上、EPサイズで作る労力もアルバム作る労力も正直いっしょだと思ってて。それならフルサイズの作品のほうが“おめでとう!”的な感じになるっていうか。
- ツアーも組みやすかったりするかもしれないですね。
JUBEE - そうそう。どうせ作るんだったらアルバムのほうが絶対いいと思う。
in-d - どういう形で出すのであれ、もっとみんなで曲作ってみたいっていうのは大前提あるっすね。いっしょにいて楽しいですし、今回の制作を経て成長した部分もすごくあるんで。たぶん次に作品リリースするときはまた全然ちがうものが作れると思ってて。もちろん1stアルバムなんで、まずは“『Wisteria』よろしくお願いします!”って気持ちなんだけど、次作についてもすごい前向きに考えられてますね。
VaVa - 自分もまずは10年間かけてアルバム作ったから、『Wisteria』大事に聴いてもらえたらなと思ってて。それ以降は……シングルとかだったらいろいろ実験的にできそうだし、おもしろそうと思うんだよなぁ。でも、オレも制作がすごい楽しかったから、これが続くならJUBEEが言ったみたいにアルバムでもいいと思ってますね。ツアー終わってしばらく活動しないとかはいやですねぇ。
BIM - 『Wisteria』が10周年で出した企画モノ的なところで見られるのもしょうがないと思うんですけど、個人的には全然そのつもりなくて、今回でCreativeDrugStoreっていうラップグループが誕生したっていう感じで思ってて。だから次出るのがアルバムでもシングルかはわからないけど、ひとつオレのなかで決まっているのは“続けていく”っていうこと。
JUBEE - やっぱ聴いてるひとたちをもっとアガらせたいなって思いますね。オレらもっといろんなことできるし、それをまだアルバム1枚では全部見せられてないなって思ってる。それはライブでもそうだし。
BIM - あくまで前哨戦というかね。
Info
Artist : CreativeDrugStore
Title : Wisteria
Format : Streaming / DL
Release Date : 2023/12/13
No. : SMMT-225
Label : SUMMIT, Inc.
- Ceremony
Beat by Rascal - Taste Test
Prod. by DJ MAYAKU - Hi Beat by Rascal
- 6ix Pack
Beat by Rascal - Yo, My Ladies
Beat by Rascal - 180
Prod. by VaVa - Boomerang
Prod. by VaVa & JUBEE - JENGA
Prod. by VaVa - Nah
Beat by Rascal - あながち
Prod. by doooo - Menthol
Beat by Rascal - Retire
Prod. by VaVa - Go Ahead
Prod. by Lou Xtwo - Wisteria
Beat by Rascal
Mixed by D.O.I. for Daimonion Recordings
Mastered by Stuart Hawkes (Metropolis Studios)
A&R : Ren “Reny” Hirabayashi, Takeya “Takeyan”Masuda (SUMMIT, Inc.)
℗© 2023 SUMMIT, Inc.