今日、僕は君に伝えたい才能がある。その名前はaryy。2020年にデビューEP『Nostalgia King』と共に彗星のように日本のインディシーンに現れ、耳の速い人を中心に絶賛を浴びた関西出身のシンガーソングライターだ。
その評価の例を挙げるなら、初期の彼を評価する際には多くの人があのインディーロック界の天才Roy Blairを引き合いに出していたり、世界中にファンを持つバンドDYGLがツアーのオープニングアクトに起用したり、目利きとして名高い大阪の名店Flake Recordsが自主レーベルからの初作品としてそのデビュー作をカセットテープでリリースしたり、先日初来日を果たしたNYの才能あふれるロッカーHarry Teardropがその才能に共鳴したほどだ。
そんな彼は、現在はLil Soft Tennis、ry0n4と共にHEAVENのメンバーとしてオルタナティブなラップシーンでも活躍し、そして自身の2枚のEPとHEAVENとしての2枚のミックステープを経て、遂に1stアルバム『me and the world』を完成させた。
SNSの発展が心を惑わし、コロナの猛威による絶望が若者の未来への希望を奪た精神的に過酷な時代を生き抜いた現在25歳の彼が、制作期間に出会った自身の"心の声"による気付きを経て「今だけじゃなくいつ聴いても満足できるような作品にしようと思った」と語るこの傑作アルバム『me and the world』は、聴くほどに魅力を増す彼の成長の過程が詰まった作品だ。
この作品の魅力を探るべく、彼自身や制作背景への問いに加え、筆者の個人的な「昔に比べ最近の若いミュージシャンはなぜ、me & youの世界のことは語るけど、世の中のことを語らなくなったのか」という問いに対し、英語と様々な音楽を通じて世界を学びそして自身に向き合ってきた彼が、言葉を選びながらまっすぐ答えてくれた。
さて少々前置きが長くなってしまったけれど、筆者の取材経験の中でも最も価値のあるインタビューの1つになったと思うので、是非お読みください。
取材・構成:sypht(HARVEST)
写真:yoshiki murata
Special thanks:aryy、TOMMY(BOY)、Aoto、LINNA FIGG(SATOH) & FLAG crew、shakke-n-wardaa.
aryy誕生
- 出身と年齢を教えてください。
aryy - 大阪出身の1998年生まれで最近25才になりました。今も大阪に住んでて、この記事が出る頃には東京に引っ越してるはずです。
- 音楽とはどのように出会って、どのように作り始めたのですか?
aryy - 両親とも音楽が好きな家庭だったので、小さい頃はQUEENとかJOURNEYとかのハードロックとか、ファンクとかを主に聴いて育ちました。ぼくは覚えてないですけど両親によると、小さい頃は遅い曲が苦手だったみたいで、メロコアとかが流れるとテンションが上がって、バラードがかかると不機嫌になる感じの子供だったらしいです(笑)。自分の意志ではっきり好きだと思ったのは、たぶん小学校の高学年ぐらいの時に聴いたELLEGARDENという日本のバンドが最初でした。その頃から近所にTSUTAYAがあったのでそこでCDをいっぱい借りてきて、親に買ってもらったMDウォークマン(携帯音楽プレイヤー)に好きな曲を色々入れて、いつも聴いてた記憶があります。中学まではポップパンクとか邦ロックとか、あと洋楽ヒットチャートみたいなので流れてたポップスが好きで、その後高校に入ってサマソニとかに行くようになってからインディーミュージックや打ち込みの曲を好んで聴くようになって、ヒップホップはトラップ全盛期の2016年頃からハマりました。中1ぐらいから、当時親に買ってもらったちっちゃいギターとボイスメモを使ってふんふんふんーみたいな感じで録ったりしてて、しっかりとした曲は高校で同級生とバンドを始めてから作るようになっていった感じです。その後18歳の頃に組んだR4というパンクバンドと並行しつつ、緊急事態宣言でバンド活動が出来なくなったタイミングでソロの曲を作るようになって、2020年に『Nostalgia King』を発表しました。(発表時はnon albini名義)
- 影響を受けたArtistや作品を5つ教えてください。
aryy - 5つだと、Katy Perry『Teenage Dream』、Phoenix『Wolfgang Amadeus Phoenix』、XXXTentacion『?』、くるり『TEAM ROCK』、Carole King『Tapestry』ですね。
Katy Perryの『Teenage Dream』は、中学生の頃にめちゃくちゃ聴いていました。なんかいつ聴いても胸がキュルキュルってするし、おれの音楽にあるポップさとか、スカッとする感じの源泉だと思います。
Phoenixの『Wolfgang Amadeus Phoenix』は、インディーミュージックにハマるきっかけになったバンドです。サマソニで見たライブが素晴らしくて、照明は煌びやかで音楽も爽やかなのに、演奏はパンキッシュで力がこもっている感じにビックリしました。
XXXTentacionの『?』は、自分はちょっと古いロックとかを聴いて育ってきたので、基本的に音楽は後追いで、digして知っていくことが多かったのですが、Xは初めてリアルタイムで大きくなる過程を知れたアーティストだったので、すごく影響を受けました。このアルバムの中だと、"i don't even speak spanish lol"という曲が好きです。音楽が大好きな人なんだなーと思います。
くるりの『TEAM ROCK』は、元々は有名な曲を知ってるぐらいだったんですけど、去年めちゃくちゃハマりました。なので影響を受けたというよりは現在進行形で受けてる感じですね。このアルバムは『me and the world』を作るときに、主にサウンド面で意識しました。
Carole Kingの『Tapestry』は、小さい頃から、寝れない時とか寂しくなった時によく聴くアルバムです。歌詞も、歌声もとてもシンプルで素朴なんですけど、毛布みたいな温かい気持ちになります。タイムレスな作品だと思うし、多分おじいちゃんになっても聴くと思います。
挙げてみると、意外とミーハーな感じかも知れない(笑) 。あとは音楽じゃないんですが、高校生の頃に読んだ『アルケミスト 夢を旅した少年』っていう、パウロ・コエーリョという人が書いた小説が好きで影響はとても受けてますね。羊飼いの少年が宝物を探すために旅をして、いろんな人に出会っていろんなことに気付きながら進んでいくみたいなシンプルな話で、内容も良いんですけど言葉がとても美しくて好きです。いま読むと「ん?」と思う部分もありますけど。アルバム8曲目の"naked feels"の歌詞に出てきてます。
- aryyさんの作品は、とても自然に英語で歌っている印象が強いのですが、どのようにして英語を学んだのですか。また歌詞は英語で浮かんでくるのですか。そして英語で歌うことを選んだ理由はなぜですか。
aryy - 小学校とか中学の頃から好きな曲の歌詞を自分で和訳したりして英語を覚えだして、徐々にわかるようになっていきました。歌詞もそうやけど、Twitter(現X)とかで海外の人が何を言ってるのか理解したくて独学で頑張りました。そのあと2018〜2019年にイギリスのロンドンに9ヶ月ぐらい住んでたんですけど、その時に頑張って喋れるようになった感じです。英語しゃべれないとご飯とか買いに行けなくて、部屋で1人でイメトレしてビクビクしながらスーパーに行ったりしてました(笑)。歌詞については、ぼくはなんとなく日本語で話すときの自分と英語で話すときの自分、みたいなのがそれぞれあって、歌詞を書く時は英語の自分な時が多かったんですけど、最近は日本語の自分でも思うような詞を書けるようになってきた感じですね。英語で歌うことに関しては、元々音楽やろうと思った当時にぼくが聴いていた日本の色んなバンド、例えばELLEGARDENとか今回"summertime"で参加してくれたNobukiくんがいるDYGLとかも英詞だったし、そういう英語で歌うカルチャーが身近にあったからそういうもんやと思って、英語で書き始めてそのままやってきました。
『me and the world』について
- このアルバムはいつ頃から作り始めたのですか?
aryy - 2021年の冬に2nd EPの『alien』を出した後、次はアルバムを作ろうと思ってデモ作りを始めたんですが、かなり難航して。2021年の春ぐらいにはある程度できあがっていたのを丸ごとボツにしたりしました。その後も作っては消してを繰り返していたんですけど、2022年の9月ぐらいに突然よくわかんないんですけどパッと視界が晴れるような感覚になって、それくらいの時期に全体のコンセプトを思いついて、溜めてたアイデアとかギターのコードとかも使ったりして昔の自分も振り返りつつ新たに作り始めました。
- ありがとうございます。その「パッと視界が晴れるような感覚」というのが気になったのですが、もう少し詳しく教えてもらってもいいですか?
aryy - そのことについてはアルバムを作りながら色々考えたりしてたんですが、ぼくもいまだによくわかってないです。なんか「これは自分の人生で、それをどう生きるかは自分次第だな」みたいなことをぼんやりと実感したことがあって、もしかしたらそれが結構大きかったのかなと思います。
- じゃあこの1年の成長が詰まっているって感じなのですね。
aryy - そうですね。けっこう成長期ですね(笑)。
- アルバムを作るにあたって意識したことはありますか?
aryy - アルバムを作るまでは、音楽だけじゃなくても全てにおいて、それまでの自分を否定して上書きしていくみたいな感じだったんです。新しく作品を作る時にはその前の作品はもう嫌いになっちゃうタイプで。EPサイズだと勢いとかムードで書き切れるからそれでよかったんですけど、アルバムは時間がかかるので、今だけじゃなくいつ聴いても満足できるような作品にしようと思いました。だからもっと"自分の核"みたいなのがないと作れないなって思って、自分が好きだったものとか、自分のルーツになった音楽を聴き返したりとかしながら作りました。
- 今作では日本語歌詞がメインの曲があったり今までとの心境の変化を感じたのですが、何か理由はありますか。
aryy - HEAVENでは日本語で歌ったりもしてたけど、基本ソロは英語で歌ってて。アルバムも最初は全部英語で書いてたんですけど、さっき話したような体験もあって「おれ普段日本語で話してるのに、なんで英語で書くんやろう」と思うようになりました。元々英語で書いてたのには多分、自分が結構シャイな性格なのもあると思ってて、英語だとまわりの人に知られずに好きなことが書けるので良かったんですけど、制作していく中で聴く人にもっとダイレクトに伝わって欲しいと思って、日本語でも歌うようになりました。
- アルバムの収録曲について教えてください。
- "me against the world"
aryy - この曲はインストのスキットなんですけど、ぼく普段いろんなことに同時に興味を持っちゃうタイプで、パソコン触ってダラダラ調べ物してる時に気がついたらYouTubeの動画が15個ぐらいブワーって開いてて、「おれヤバいかな」みたいになって、なんとなく全部同時に再生してみたらゴォォって面白い感じになったんでそのままイントロにしました。 - "emotion"
aryy - "emotion"は、元々サビのメロディーとギターがずっと頭の中に残ってて、ある日ふと1行目のリリックが出てきたので、そのまま一気に残りの歌詞も書き上げてその日に完成させた感じですね。その当時は自分の感情が"無”のようになってた時期で、何を聴いても何を食べても何をしても全然なんも思わないし楽しくないみたいな、自分自身にがんじがらめにされてる気分になって。そんな時にあえて"emotion"って曲を作ってみた感じです。どっか連れてってくれないかな、みたいな。サウンド面でいうと、いまHIP HOPの文脈で使われるいわゆるLil Peep的なエモと、自分が聴いてた90s-00sのエモには結構差があると思っていて、もちろんLil Peepも大好きですが、「これが本当のエモラップじゃい!」みたいな気持ちで作りました。ギターのガガガガって感じとか、メロディ感とか、焦ってる感じとか。
- "trying"
aryy - この曲はいろいろ考えすぎて拗らせていた時期に作った曲です。よく頭の中でいろんな自分が行ったり来たりするんですけど、どれが本当の自分か迷子になっちゃって悩んだりしてて、そんなごちゃごちゃさがそのまま出てる曲だと思います。歌詞が基本英語だけどちょっと日本語が出てきたりしてるとことか。音に関しては、PhoenixやTwo Door Cinema Clubのような10代の頃よく聴いてたインディーポップと、最近のthe Kid LAROIとかLauvみたいな今のポップスを一本線で繋ごうみたいな気持ちで作って、結果的にはどっちでもない感じになったと思います。イライラしていたので、いつもより力を入れて歌いました。
4. "summertime"
aryy - これはこのアルバムの中では唯一、前のボツにした作品に入っていた曲です。全編英語で書く一旦ラストの曲になると思います。音に関しては、デモの状態からメロディが良いのが自分でもわかっていたのでボーカル、ギター、ベース、ドラムっていう一番ベーシックな形態にして、ちゃんとバンドサウンドと向き合ってみようと思いながら作りました。
- 高揚感のあるサビが印象的な爽やかで気持ちのいい曲ですね。
aryy - 音はそうなんですけど、自分的には結構悲しい曲で、作ったのも真冬でした。でもそういう印象を持ってくれているのは嬉しいです。ぼくは、日本の人が英語の歌を聴いたり書いたりすることはユニークな体験だと思ってて。声と意味がバラバラに入ってくるじゃないですか。だから本当は悲しい曲が楽しく聴こえたり、政治的な曲がただのバンガーになったり、解釈がより自由になる部分があると思う。それはネイティブじゃないおれら独自の感覚じゃないかと思います。だからそう言ってもらえるのは気持ちいいし、そういう点でもNobuki(DYGL)くんがフィーチャリングで参加してくれて、英語でバースを書いてくれたのはよかったなーと思います。あとこのアルバムはミックス&マスタリングをSarenという友達のアーティストにやってもらったんですけど、特にこの曲は彼のミックスがヤバくて、ここ数年間でやりたかったことがやっとできたような、かゆいところに手が届いた感じでした。Sarenは自分でも曲をリリースしていて、素晴らしいアーティストなのでみんなもチェックしてほしいです。
- "me and you against the world"
aryy - この曲もスキットですね。元々アルバムとは関係なく遊びで作ってたトラックにタイトルの文字列を乗せていきました。制作のかなり最後の方に出来ました。これもSarenがエフェクトとかを足してくれました。
- Sarenさんとは普段どのように共作を行なっていますか?
aryy - Sarenとは基本Discordを繋いで、オンラインでやりとりしながら作業してます。だから結構自由にワークしてる感じですね。この曲もぼくがベッドで『MOTHER2』をしてる間にどんどん曲が進化していって今の状態になりました。ナイスプレーでした。
- "in my life"
aryy - この曲を書いたときはどうしようもないくらい最悪な気分で、もう音楽とかも全部やめちゃおうかなーみたいな。そんな気分でベッドに寝転がってアコースティックギターをガーって弾いてるうちに5分くらいでスルッと出来た曲です。前半の部分は当時の自分の心境を要約したような、まあ暗い歌詞なんですけど、その部分を歌い切った時に窓からふわーって風が入ってきたんですよ。そのまま後半の「夜中 かぜがふいて ことばが流れていく 星がみえないあの街に」という部分を書いたんですけど、今までこういうスタイルの歌詞を書いたことがなかったし、自分の頭では思いつかない展開なのでとても不思議な体験でした。曲作るのってすごい大変で、だからこそ良い曲が出来た時はすごく救われたような気分になるんですけど、"in my life"は曲が出来ていくプロセスそのものにすごく救われたと思います。アルバムの中でもすごくお気に入りの曲です。 - "bleach"
aryy - "bleach"は、いつか忘れちゃいましたけど明け方目が覚めたら、部屋が朝日ですごい青く染まってた時があって、「朝日って青い時もあるんや」みたいに思って感動して、その時に作った曲です。"in my life"の後半の歌詞が日本語で出てきた時になんか掴んだ気がして、もっと日本語で書いてみようと思って、ほとんど全部日本語で歌ってみました。トラックに関していうと、YouTubeにChief Keefの"I Don't Like"とMy Bloody Valentineの"When You Sleep"をマッシュアップしてる動画があって、おもしろいなと思ったのでその感じで作りました。音像はサウンドクラウドラップを意識したんですけど、意外とバンドをやっている友達からの反応が良くて面白かったです。 - "naked feels"
aryy - アルバムは大体できた順に並んでて、"naked feels"は最後に作りました。入れたい曲が全部揃ってから最後の曲どうしようってなってた時期が3ヶ月ぐらいあって。ここまでの曲は結構悩んだり試行錯誤して作っていたので、アルバムに対する思い入れもあってうまく終わらせたい気持ちもあったんですけど、最終的には背伸びしたり、深く考えたりせず、今の自分から出るものに任せちゃおうと思って、タイプビートに乗せて半分フリースタイルみたいな感じで作りました。その後ボーカルに合わせてビートを作り直したんですが、サウンド面でも他の曲にはある程度あった「こういう風にしたい」みたいなイメージがなくて、その時に気持ちいいと思った音の組み合わせで作ったので、過去一ストレスフリーで出来ました。 - "me and the world"
aryy - 最後のスキットですね。アルバムが終わって、PCを閉じて外に出ていくっていう、まあ聴いたままなんですけど、録音しようと思って夜中に外に出てみたらすごく怖かったので、最後はちょっとホラーゲームみたいにしました。初代バイオハザードみたいな感じですね。
- ありがとうございます。制作について伺っていて思ったのですが、結構一瞬で降りてきたのをサクッと作る感じですか。
aryy - 一瞬で降りてくるというよりかは、「なんか今いけるな」みたいな、ゾーンに入ってるような感覚になるときがあって、そのときに頭の中にあるアイデアやメロディーを組み合わせて作ることが多いです。そういう「今いける」みたいな状態は、入っちゃえばスルッと曲ができるんですけど自分ではなかなかコントロールできなくて、いまのところは運とタイミングですね。なので最近はその状態に自分の意志でどうすれば入れるようになるかには興味があります。瞑想とかしてみたり(笑)。
自身にとっての"リアル"な表現
- aryyさんの作品は内面的な自己対話の表現が中心で社会的なことへの直接的な言及を控えているように見受けられるのですが、リスナーとしてパンク等のレベルミュージックを経験されている身として自身の社会に対するスタンスや表現にどのような考えを持っていますか。個人的には「昔に比べ最近の若いミュージシャンは、自分のことやme & youの世界のことは語るけど、世の中のことを語らなくなった」と思っています。
aryy - そういうレベルな表現を行ってる人にはリスペクトしていますし、ぼくも10代の時そういったパンクだったりレベルミュージックには影響を受けました。バンド(R4)をやってた頃はそういうことを歌詞に書いたりもしてたんですけど、コロナ禍にあった色々なことについて考えていく中で自分にそういう直接的な表現をすることへの"確信"みたいなものがなくなってしまって。UKやUSのオリジナルパンクとかレベルミュージックが盛り上がった世代の人にはその"確信"があると思うんですよ、人と人が触れ合う場所があって、そこに友達とか同じ境遇の人たちがいて、自分がその集団の一員として生きていくために闘うべき存在があって。そういう流れでレベルな表現が生まれていったと思うんです。でもそもそもぼくに友達が少ないってのもあって、そこにいくための前提というか、社会に対する認識がぼんやりしているんですよね。
あとは部屋にひとりで閉じこもってオンラインで色んな情報に接するうちに、未来に対して不安になっちゃって、自分を保つことが精一杯で人の心配をする余裕がなかったというのもあるし、ここ数年で直面した環境問題とかBLMみたいな社会の大きな運動とか、コロナに対する考えの対立とかに自分がコミットしようとしてるうちに、自分の気持ちの中で、外から来た感情が占める割合が増えていって、自分が希薄になっていく感じがしたんです。そういう中で自分が世の中についてコメントすることの意義がわからなくなっちゃったというのが大きいと思います。
ヒップホップの影響かもしれないですけど、かっこよくあるためにはまず"リアル"でいることが大事って気持ちが強くあるので、そういう中で自分にとっての"リアル"を考えた時に、なんなんだろうみたいな。SNSとかでみんなで見るタイプの「世界」みたいなものに、今自分の目の前にある「世界」がズボって吸い込まれているような精神状態でなにか言っても、それは今ここにいる自分にとって"リアル"なものじゃないと思ったので、とりあえず今は自分のことを理解しようという感じになりました。
- 今話を聞いてaryyさんたちの世代の気持ちが少し理解できたように思えます。自分は今40代なのですが、自分達が20代の頃は今より景気も良く未来に夢を見られたし、SNSの反応に悩むことやそのことで孤独を感じることもほぼ無かったし、自分の言葉に対する責任も薄かったと思います。また自分も社会的な問題に感情移入して疲弊してしまったタイプです。最近はロシアとウクライナに関しても西洋寄りの報道を鵜呑みにしてしまうのも危険だなって思っています。
aryy - 戦争はして欲しくないし嫌だなって思うんですけど。ロシアとウクライナの件だと、ロシアが最初に攻撃したならそれはロシアが良くないんじゃないかと思いますが、おっしゃる通り実際にどういう状況とか空気感だったのかは今のぼくらにはわからないし、もしかしたらそんな簡単な話じゃなかったかも知れない。戦争って大体もっと複合的なものやと思うから。そういうことを考えると色々悩んじゃって。パッとみえない部分まで考えると、物事が単純に言えなくなってくるじゃないですか。そうなってくると一概に「戦争ダメ」とも言えなくなってくるというか。でもかといって実際にぼくらと同じような人たちが苦しんでるのに、そんな当たり前のことが言えないような世界もやっぱり変だと思うし。みたいな感じでループしちゃうんですよね。
アルバム作ってる時の自分の状況って、そういう感じに近かったと思うんです。色んなことに対して何か思うけど、もしかしたらそれはフェイクかも知らんし、そう思わされてるだけかもしれない。これはかっこよくてこれはダサいって言いたいけど、それってホントかなとか、おれそんなこと言える立場かな?みたいに考えちゃう。そうすると自分と、自分の目の前のこと以外なにも言えなくなっちゃったんです。それはぼく個人だけじゃなくて全体的にそうなんじゃないかという気がします。でも最終的には言いたいと思うんですよ。なのでこれをいかに打破するかっていうのが今の自分の中にある課題です。自分が”確信"を持って言えることを探したいというか。
だから最近の若者は自分のことばっかり話すように思うってことに対しては、"確信"を持って話せるのが自分のことしかないからじゃないかなって思いますね。おれがこんなこと言って良いのかな、わからんけど(笑)。自分はそういうことを考えて作ってましたね。
なので今の自分の音楽に関しては、自分としては別にそういうレベル的なことや社会的なことを排除しているつもりはなくて。この先にそういった意思表示ができたらいいなって気持ちはありますけど、ぼくはそういういろんな問題に振り回されちゃう人やったんで、流されやすいし、だから一旦自分自身に立ち返ろうって感じですね。時代の空気感や勢いに任せて「今ここにいる自分」とかけ離れた何かについて歌うんじゃなくて、自分の人生を生きていく中で、自分の頭で思ったり体で感じたりしたことを歌うことは、社会的な問題に向き合うひとつのやり方だと思うし"リアル"な表現だと思う。だから今回の作品はそういう意味では個人的な経験を通じて生まれた、社会的なアルバムでもあると思うんです。
- 今後はまた違う視点で表現を行なっていく可能性があるってことですね。
aryy - そうですね。まあでもそういう表現にも興味はあるけど、今は日本にすごい興味がありますね。自分は特に西洋に対する海外かぶれだし、最初に英語が喋れるようになりたいって思ったのも「こんなとこ(日本が)嫌だ」って思ったから勉強し始めたわけで。でも最近はなんで嫌やって思ったんだろうってところが気になってて。なので、今は日本っぽいことに興味がありますね。寺とか神社とか、宮崎駿の世界観みたいな神とかスピリチュアルなものとか、歌謡曲とか。だからもしかしたら次の作品はもっとJPバイブスになるかもしれませんね、今思っただけですけど(笑)。
絡まってしまったイヤホンをゆっくり解いていくみたいに、自分の感情を紐解きながら作ったアルバム
- 今回のアルバムの総評というか、全体を通してどういう作品になったと思いますか。
aryy - 客観的にみても良い作品だと思うし、aryyのことを知らない人に向けた、名刺のようなアルバムになったと思います。でもそれ以上に、このアルバムを作ったことは自分にとってすごく大切な経験だった気がします。おれ、すぐ物を無くしちゃうので、いまだに有線のイヤホンを使ってるんですけど、ポケットに入れっぱにしとくとすぐ絡まっちゃって。だから毎回解くところから始まるんですけど、それに似たような感覚でした。絡まってしまったイヤホンをゆっくり解いていくみたいに、自分の感情を紐解きながら作ったアルバムという感じですね。
- 今までaryyさんの楽曲を聴いたことがある人や、これから聴く人にメッセージをお願いします。
aryy - このアルバムはどこでどんなふうにいつ聴いてくれても良いけど、出来れば大きい音量で聴くといいと思います。あと11/17にCIRCUS Tokyoでリリースパーティをするので、来てほしいです。ぼくはまだ自分の曲を聴いてくれてるみんなの正体がわかんなくて、HEAVENの曲を聴いてくれてる人はなんとなくわかるけど、ソロを聴いてくれてる人と一致しているわけじゃないと思うから、みんなの正体が知りたい。最近ライブに来てくれた人と話すのも楽しくて、だからライブにも来てほしいし、SNSにもどんどん送ってほしい。いい感想なら(笑)。これから、これからもよろしくお願いしますという感じです。
- 最後に、『Nostalgia King』を作った頃のソロで活動を始めたての自分にメッセージをお願いします。
aryy - あはは(笑)。え〜っと『Nostalgia King』を作った頃はあんまなにも考えないで作ってたから、あの頃の自分に対しては「いいね!」って感じですね。名前はややこしいことになるから最初からaryyで始めたらいいんじゃない、とは思うけど(笑)。今回のアルバムは色々考えて曲を作ったけど、1周回って今"Kyoto"みたいな曲を作れたらとても価値がある気がするから、次はそういう作品を作ってみたいですね。
Info
Album info:
aryy
1st full album 『me and the world』
Release date:2023年9月20日(水)
各種Streaming service:
https://linkco.re/51Xtn17z
Lyrics:
https://linkco.re/51Xtn17z/songs/2334410/lyrics
Album relese party info:
タイトル:aryy 『me and the world』 Release party
日程:2023年11月17日(金)
会場:CIRCUS Tokyo (東京都)
時間:START 18:30
出演:aryy、AMBR、arow、hyunis1000(Neibiss)、Tennyson、Hue Ray + Vís
スペシャルゲスト:Linna Figg(SATOH)、Lil Soft Tennis & ry0n4(HEAVEN)
料金:ADV. ¥2,500 / DOOR. ¥3,000(税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング))
チケットリンク(e+ ):(前売り受付期間 ~2023/11/15(水)18:00)
https://eplus.jp/sf/detail/3989000001-P0030001
公演詳細ページ:
https://circus-tokyo.jp/event/arryme-and-the-world-release-party/