FNMNL (フェノメナル)

【インタビュー】Kzyboost 『Too Wise』| 音楽と仕事を続けること

 トークボクサー・ビートメイカーで、Kzyboostが、チームメンバーでもあるDaichi YamamotoによるレーベルAndlessからEP『Too Wise』をリリースした。

元々ダンサーとして活動をしていたKzyboostは、社会人になってからトークボックスを始めその後ビート制作も行うようになった。そこから現在に至るまでKzyboostは10年以上平日の社会人生活とアーティストとしてのキャリアを両立させている。ただでさえ続けるのが難しいアーティスト活動だが、なぜKzyboostは、両者共に充実したものにできているのだろうか。今作のリリースの過程を聞くと共に、彼の人生観などを聞いた。

取材・構成 : 和田哲郎

撮影 : 横山純

- 今日はEPのことだったり、正式に副業申請を出したっていうお話も聞いてたりするので……バランスよく仕事と音楽を続けるということって難しいと思うんです。そのあたりについてもお聞きできたらなと思います。

Kzyboost - わかりました。なんでも聞いてください。隠すことなんてないので(笑)。

 - よろしくお願いします(笑)。今って大阪に戻っているんですか?

Kzyboost - 3月まで東京にいて、4月に異動の指示が出て、また大阪に戻りました。

 - どういう会社で働いてるんですか?

Kzyboost - エレコムっていうメーカーなんですけど、パソコンの周辺機器をメインで売っているような会社です。最近だと携帯のアクセサリーとかヘルスケア事業とか、調理家電とかにも挑戦している創業40年くらいのところですね。

 - 新入社員で入社したんですか?

Kzyboost - そうです。今年34歳なんで、12年目。

 - もう中堅の域ですね。

Kzyboost - 気づいたらベテランみたいな感じになってましたね(笑)。

 - 転勤は多いんですか?

Kzyboost - 多いですね。北海道から沖縄まで全国に拠点があって、海外にもあるんですけど、僕の場合は1年目から3年目まで東京にいて、また大阪に戻って、東京に来て、というのを2回繰り返してます。

 - 転勤生活はどうですか?

Kzyboost - 1回目はめちゃくちゃ嫌だったんですよ。僕はそれまで一人暮らしをしたことがなくて不安だらけだったし、お金もないし。でも2回目来た時はめっちゃ良かったと思いました。音楽もやってたタイミングなんで色々広がって、めちゃくちゃ楽しい3年間になりましたね。

 - 最初のトラウマを払拭できたと。

Kzyboost - 払拭しました。最初は池袋に住んでたんですけど、その頃は「どんな街やねん」みたいに思うことがあって。

 - 池袋はカオスですよね(笑)。

Kzyboost - 東だったら大丈夫だったんですけど西選んじゃって。裏がラブホテルみたいなところだったんで。楽しいことももちろんあったんですけど、2回目来た時の方がより楽しいなと思いました。転勤自体、大阪に最終的に居たいっていうだけで、死ぬほど嫌とかではないです。

 - トークボックスを始められたのはいつ頃でしたか?

Kzyboost - 社会人になって1、2年ぐらい経ってたんで、23、4歳ぐらいですね。

 - それは最初の東京時代?

Kzyboost - そうです、ほんまに最初の東京の時。ずっと「トークボックスやりたい」って言っていて、たまたま知り合いの先輩からもらったんですよ。

 - 最初は全然できなかったと伺ってます。

Kzyboost - 全っ然、できなかったです。ずっと「トマト」って発音するのを練習してたんですけど「おあお」みたいになって、何も言えなかった(笑)。できるようになるのに3年ぐらいかかりました。

 - どうして音楽を始めようと思ったんですか?

Kzyboost - 僕はストリートダンスをやっていたんですけど、どっかで「音楽やりたいな、向いてんじゃないかな」と思ってたんですね。もともと多趣味というか、手品やハイパーヨーヨーやってみたりとか、いろいろ手を出してるんですよ。親父が多趣味な人だから、そこが似たのかわかんないですけど。

 - 数多くある趣味の中のひとつだったと。

Kzyboost - ずっとやってたダンス自体も「あんま自分向いてないんちゃうかな」って思っていて。「上手くならへんな」みたいな。

 - でも、ダンサーとしてのインタビューもあるくらいじゃないですか。

Kzyboost - いや、僕は才能ないと思います。練習は好きなんですけど「うまくいかんなあ」ってことが多かったですね。

 - ちなみに、多趣味というのをもう少し伺いたいです。

Kzyboost - ハイパーヨーヨーって流行ったじゃないですか。僕が大学生なったぐらいでフルメタルのヨーヨーがすごい流行りだして、それ買ってみようと思って。昔のヨーヨーって投げたら戻ってくるじゃないですか。でも、それは投げても戻ってこないんですよ。下でずっと回ってて、一行程加えないと手元に戻ってこないっていう。それを知ってから買ってみて、とか。手品も世界中のコインとかトランプを集めていて。

 - お父さんも多趣味だったんですか。

Kzyboost - 父親もいろいろ集めていて……でも、父親は釣りが一番好きなんですよ。釣りのレベルもプロ級っぽくて。普段は警察官なんですけど、僕の祖父が持ってるちっちゃい山で農業も手伝ったりとか、いろいろやってた人なんですよね。

 - そういう多趣味な姿を子供の頃から見ていた。

Kzyboost - 仕事から帰ってきた父親が寝ずに釣り行って、次の日休みやから山行く、みたいなのが普通にありました。「いつ寝てんの?」って(笑)。親父は僕に、「仕事やりながら音楽やってるん大丈夫なんか。アホちゃうん」とか言うんですけど、「いやあんたもやん」って。

 - (笑)。でも働き始めて、新入社員のうちは東京に慣れるというところも大変だろうし、その間にトークボックスを始めたというのはすごいですね。

Kzyboost - 最初は寝る時間はなかったですね。ダンスやってる頃も仕事終わってから練習に行ってたんですけど、やっぱり、「家に帰って座ったら負け」って考えてたんで(笑)、とりあえず「着替えるだけ着替えて外行こう」ってしてましたね。音楽は家でできるので、帰ったらとりあえず寝転ばずにやる感じでしたね。

 - それをずっと続けてた。

Kzyboost - 一人だったんで、ひたすらそればっかりでした。

 - めちゃめちゃストイックですね。

Kzyboost - 変に真面目かもしれないです(笑)。でも、ダンスやってる時はそれがあんまり良くなかったんですよ。一つの形とか、一つの動きをずっと練習するのは好きやったんですけど、そればっかりやっていた。「何かを突き詰める」ことに向いてたかもしれないんですけど、「はい、では自由にどうぞ」ってなるとなかなかできない人っていうか。それが音楽をやり始めてちょっと変わった気はしますね。

 - 変わった部分というのは?

Kzyboost - それこそ形に捉われないというか、「そうじゃなくてもいいんや」って、自分の「これじゃないとあかん」って許容範囲が広がったので、色々なものに目を向けられるようになりましたね。

 - PRKS9のインタビューでも、「トークボックスやるんだったらビートも作れなきゃ」ということで機材を買ったとコメントしてましたね。

Kzyboost - 読んでいただいてありがとうございます(笑)。もともと作りたいイメージもあったんですけど、ダンスの師匠にMPCのアプリを教えてもらって、そこから始めました。それまでトークボックスばっかりやってたんですけど、逆にそっちばっかになっちゃった時期もあったりして。トークボックスやり始めて1年経った頃に曲を作り始めました。最初のボーナスだったんで覚えてるんですけど、それでマシンを買いましたね。でもオーディオインターフェースとかそういう言葉も知らなかったんで、とりあえずでっかいスピーカー買っといたらいいかって、Beats by Dr.Dreが出してたbluetoothの赤と黒のめっちゃでっかいスピーカーを訳もわからず買って使ってました。

 - 働き始めたのが2011、2年あたりだと、そこから作品をリリースするまでの期間が結構ありますね。

Kzyboost - 最初は自分でCDを作ったりもしたんですけど、正式に作品として出させてもらったのは2019年の"Callin'U"っていうLPで。それもレーベルのオーナーが元々ダンサーと繋がりがあって出させてもらったんですけど……でも、自分あんまり作るのうまくないなって最初思ってたんで、ずっと試行錯誤してました。

 - その間ライブはしていたんですか?

Kzyboost - 長いですよね。たぶん初めてのライブが26、7歳ぐらい、始めてから3、4年で人前でライブしたと思います。下手くそすぎてその時の動画とか見れないです(笑)。

 - その時はどういうイベントに?

Kzyboost - ダンサーの子がやってる『Party Party』ってイベントで、日本中のダンサーが出ていて、そこで初めて「トークボックスとマシン使ってライブします」みたいなんでやらせてもらいました。それが正式には最初だと思います。カバー曲ばっかりですけどね。

 - もっと作品をリリースしようとは思いませんでしたか?

Kzyboost - そこまではいかなかったんですよね。自分のトークボックスとビートが、「ビートはビート」、「トークボックスはトークボックス」みたいな。

 - うまく噛み合わなかった。

Kzyboost - そうなんですよ。自分のトラックの制作レベルとトークボックスが全然マッチせえへんな、っていう時期があって。トークボックスが入ってる曲とか聞いて、こういう風にやりたいとは思っていたんですけど。たぶん実現するまでにすごく時間がかかったんだと思います。

 - トークボックスとビートを合わせたサウンドで、リファレンスにしたアーティストは?

Kzyboost - DJ Battlecatですかね。トークボックスだけならTeddy RileyとかStevie Wonderとか憧れですけど、それをイカつめにトラックに落とし込んでる人でいうと、DJ Battlecatやったんです。

 - トークボックスとビートメイクをしながら、仕事は仕事でモチベーション高く続けていたんですか?

Kzyboost - そうですね。本格的に音源を作ってみようかなって思い始めたのは、大阪に帰ってからですね。結婚してからだと思います。

 - でも、そう思えるまで続けてきたんですね。

Kzyboost - いやー、あんまり作るのうまい方じゃないって自分で思ったりするんで、とりあえず納得いくまでやる、みたいな感じでずっとやってました。

 - 2019年からリリース数が多くなってきますが、そのあたりで自分のスタイルが見えてきたんですか?

Kzyboost - "Callin'U"で、海外の女性のボーカリストに歌を入れてもらったんですよ。Sleepers recordzのオーナーが「この人どう?」って言ってくれて。それでR&B的なテイストな曲ができて、「こういうのだったら俺もできるかもしらへん」と思って、そこからちょっと意識して作るようになりましたね。

 - それから日本のヒップホップシーンとリンクしていくきっかけは?

Kzyboost - 一番最初はたぶんgrooveman Spot先生ですね。ダンスのイベントで紹介してもらって出会って、それこそ"Callin'U"の音源を送りました。で、そっからBrandyの"I Wanna Be Down"のリミックスをgrooveman Spotさんが作っていて、それをライブでやらせてくださいってトラックをもらったのがきっかけで、すごく仲良くさせてもらったんです。

 - その後イベント出演やリリースの機会が増えるようになって、そこでも「音楽一本でいきたい」という風になっていかなかったんですか?

Kzyboost - もちろん音楽だけで、好きなことだけで食べていけたらいいなとは常に思います。僕が30歳になる手前、2019年頃にDaichi Yamamotoと出会ったんですけど、今のDaichiの体制って僕からしたらすごい理想の形なんですよ。それから音楽に関わることが増えだして、まだ音楽で生きたいという気持ちはあるんですけど、土日にライブやって月曜日は「しんど」みたいな感じで会社行くのもいいな、って思うようになったんですよね(笑)。ギャップがすごいじゃないですか。普段接することがないような人たちの一方で、「おはようございまーす」と挨拶するいつもの会社の人たち、みたいな。それが「生きてる感じ」じゃないですけど、味わえるものというか。

 - 仕事をすることで音楽に対してなにかフィードバックされる感覚はありますか?

Kzyboost - ありますね。それこそ、社会に対してムカつくこととか……別にそんなストレスないですけど(笑)。僕、マインド的には、どうせ仕事するんだったら自分が楽しくというか、やっぱり給料もらって働く雇われの身としては、雇われているけどその中で最大限楽しむことを自分のモットーにしてるんで。でもムカつくこととかダルいこととか、それこそ嬉しいこともあると思うんですけど、そういうのを持ち帰ってとりあえず「今日作ろう」みたいな、ぶつけるみたいなのはあったりしますね。

 - 仕事と音楽は、しっかり切り分けられてるんですか?

Kzyboost - ……全然切り分けられてないです(笑)。例えば、誰かから音源が届いたらトイレ行って聞きます。普通にしれっと。爆音で。喫煙所行く時も、絶対せんでええのにブルートゥースのヘッドセットつけてって(笑)。仕事が終わったら仕事のことは考えないです。やっぱ、音楽の方が楽しいから。

 - さっきご自身でも言ってましたけど、Kzyboostさんってどこの場所にいてもスッと入っていけるような感じがあるなって。

Kzyboost - ありがとうございます……自分ではめっちゃ人見知りだと思うんですけど。

 - 本当ですか(笑)。

Kzyboost - 本当っす(笑)。営業なんで、職業柄、挨拶とかそういうコミュニケーションは難なく取れる方やと思うんですけど、「自分はこう思ってる」みたいなことを言うのは……いや、でも、これ人見知りになんのかわからないですけど。人見知りの定義ってなんですかね。

 - (笑)。最初に会う人とのコミュニケーションに関してじゃないですか。

Kzyboost - ああ、それは大丈夫です。じゃあ人見知りじゃないかもしれないです(笑)。喋るのは好きなので。

 - だからこそ両立できているのかなって。

Kzyboost - ですかねえ。わかんないですけど、環境にはすごい恵まれてるなっていつも思います。自分が呼んでもらったり仲良くさせてもらったりする人って、僕がすごく好きな人ばっかりなんで……だから自分がとかじゃなくて、恵まれてるなって思います。

 - そんな中でEP『Too Wise』がリリースされたわけですが、もともとAndlessからリリースすることが決まってたんですか?

Kzyboost - 最初は決まってなかったと思います。Andlessが立ち上がる前からずっと出したいなってマサトさんにちょこちょこ話をして進めてはいたんですけど、タイミング的にちょうどAndlessから出させてもらえるようになったっすね。

 - 最初のきっかけになる曲は先行で出てた"Zero"ですか?

Kzyboost - きっかけはもちろんあの曲ですけど、今回、トラックを作り出してからの制作期間が長くて。それぞれのトラックが同時並行で1年か1年半ぐらいずっと進んでいて、"Zero"はすぐ完成した方ですね。

 - 複数曲をちょっとずつ進めていくスタイルなんですね。

Kzyboost - 最初からEPを作りたいなとは思っていて、テーマは正直決まってなかったんですけど、20、30ぐらい同時に作っていて。その中で納得いくやつが数曲できて、それを削ぎ落としていきました。

 - 日々コツコツと作っていった。

Kzyboost - でも、全くアイディアが出てこなくてずっとNetflix見てる時もありますし。最近それが多くなったというか、出てくる時は出てくるんですけど、出てこない時はほんまに1ヶ月とかかかるんで、逆に何もしなかったりしました。これまでトークボックスをしっかり全曲に入れてる作品がなくて、それにリリックもそんな書いたことなかったので、今回は特にすごい時間がかかって。

 - 今回リリックを入れようとなったのはどうしてですか? やっぱりDaichi君のチームで一緒に動いてることも関係あるのかなと。

Kzyboost - 僕の中でDaichiの影響は大きいし、リリックの内容だけじゃなく曲もそうですし、影響されてる部分はめちゃくちゃあると思ってます。それと同時に、自分のトラックとトークボックスが理想通りにマッチしてきたタイミングなんかな、と思って、「これだったら乗せれるわ」みたいなので今回取り組んだというところがありますね。

 - "Always"はリリックがかなり赤裸々ですよね。

Kzyboost - 赤裸々すぎるんかもしれないけど(笑)。言ってしまえば相手は妻なんですけど、いつか作ってみたいなという気持ちはずっとあって、それがやっと実現しました。でも”Alwaysは”、東京に行ってなかったらできてない曲なんですよ。大阪に家があって、単身赴任してたので、遠距離というか離れて暮らしてたんで。「いつになったら帰ってこれるの?」みたいな会話をいつも妻としている中で書けた曲ですね。

 - トークボックスに合う曲だなって。

Kzyboost - ありがとうございます。最初の一言目が出てくるまでに半年くらいかかって(笑)。僕リリック考えるのがめっちゃ苦手なんですよ。

 - すごくいいリリックだと思います。

Kzyboost - しかも、トークボックスで日本語の曲を作る時って、一歩間違えるとカッコ悪くなっちゃうなっていうのを思っていて。トークボックスってやっぱり英語の発音が合う楽器だと思うんですよ。日本語はどうしても子音の発音が強くて、聞こえ方がカッコ悪くなっちゃうと個人的には思っていて。そういうのも相まって、いつもより時間がかかってしまったんですよね。

 - 日本語も大丈夫な発音ってどうやって研究したんですか?

Kzyboost - やってみるしかないかもですね。できるだけサ行を言わないとか。サ行とカ行が多くなると、めっちゃ言葉が強くなるんですよ。英語の発音って流れるフローが綺麗だったりするんですけど、日本語は「カッ」とか「サッ」とか、止まるんですよね。日本語ラップとか歌とかでもあると思うんですけど、トークボックスだとそれが余計強い気がしてて。こういうのを、なんでも録ってみて、聞いてみて、っていう感じですね。

 - 日本でトークボックスやってる人でも、日本語詞を書いている人ってそんなに多くないですね。

Kzyboost - そうなんですよ。ラップやってる人のサイドでやるみたいな、あんまりなかったことを今やらせてもらってるんで、せっかくやったら他の人がやってないことをやりたいなっていうのはありますよね。

 - トークボックスで日本語の発音が難しいというのは初めて意識しました。

Kzyboost - いやそうですよね、ほとんどの人がやったことないと思うんで(笑)。でも、それが難しいって正直わかんなくてもいいと思うんですよ。自分はこだわりを持ってやってますけど、「僕トークボックスやってます!」みたいに主張したいわけじゃないし、それをサラッとやって、普通に歌として聴いてほしいんで。

 - トークボックスはエッセンスの部分としてすごく重要ですけど、それ以上にKzyboostさんがどういう音楽をやりたいかということが伝わる作品になっていると思います。

Kzyboost - 本当ですか、ありがとうございます。いろいろ詰め込みましたね。

 - ハウスっぽい要素もあるし。

Kzyboost - やったことなかったんで、そういうのも欲しいなって。

 - "Zero"のDaichi君のバースは、Kzyboostさんに向けられていますよね。

Kzyboost - これ恥ずいっすけど、俺、初めて聞いた時泣いたっす(笑)。すごい僕得な「そんなん言ってくれんの」っていう(笑)。"Zero"は個人的にもエピソードがあって。Daichiが東京タワーの下かどっかでライブした時があったんですけど。

 - レッドブルのイベントですよね。

Kzyboost - そうです。東京にいた時なんでそのイベントを見に行って、なんでかわかんないですけど僕めっちゃベロベロなったんですよ。帰りもめっちゃベロベロで帰って、そっから夢中になって2時とか3時ぐらいまでトラックを作って。その時は別にDaichiのことも考えてなかったんですけど、しばらくしてDaichiと僕でSTUTS君の家に集まって遊んだ時があって、その日にリビングで「これ作ったんやけど聞いてくれへん」って聞かせたらDaichiが「これ書いていいですか?」って言ってくれて。それでほんまに1週間も経たないうちに返ってきて……泣いたっすね(笑)。そこから、これにフックつけるんやったら絶対ZIN君やなって思って、お願いしたら1日でパッて返ってきて。すごいスピード感でできていった曲でした。

 - 今作に参加されているZINさんとKenTさんもSoulflexのチームですよね。

Kzyboost - そうです。KenTはサックスプレイヤーで、大阪にいる時からすごい仲良くさせてもらってて。High Emotionsはラフが出来た段階で絶対KenTにお願いしようと思いました。ZIN君とKenTは普通に友達ですね。一緒に曲やれるいい友達でもあり、ライバルじゃないですけど、そんな感じですね。

 - Daichi君というのはkzyboostさんにとってはどういう人ですか?

Kzyboost - どういう人!難しいなぁ……なんですかね。

 - 出会った当初から仲良くなったんですか?

Kzyboost - ……いや(笑)。たぶん、僕の感覚ですけど、Daichiと本当に仲良くなったって言えるまで1年ぐらいかかったと思いますよ。弟みたいな存在でもあり、めっちゃ先輩って思う時もあり、「猫なの?」みたいに思う時もあり、僕に全くないものを持ってる人で、本当に魅力的な人と思います。人としても、アーティストとしても。

 - さきほどDaichiさんのサポートに関して「今の体制でやれてることは理想的だ」と仰っていましたが、改めて、それはどういう部分ですか?

Kzyboost - 誰かのサイドでトークボックスをすることにすごい憧れてたんですよ。誰を見て、とかでもないんですけど。サックスのポジションが一番かっこいいな、それをトークボックスでできたらいいな、っていうのはずっと思っていて。メインでトークボックスじゃなくて、サイドにいて「めちゃくちゃカマしてるやん!」って思ってたら、Daichiが誘ってくれたんで、「理想のポジションです」って思いますね。

 - 編成もちょっとずつ豪華になってきていますね。

Kzyboost - (Bobby Bellwood aka Sauce81さんや有坂美香さんといった)レジェンドの方たちがコーラスに入ったりとか(笑)。すごいですよね。その中で僕も勉強になりますし。でも、やっぱり最初のPhennel KolianderさんとDaichiと僕とでやらせてもらってた3人の体制の中で自分は「ラップに対してトークボックスって何したらいいん」って感じだったんですよ。でもやっていくうちに、Daichiのアプローチはやりやすいし、研究していくうちに自分も気持ちよくやらせてもらったりとか、それにコーラスが入ることによって「こういう風にやるんや」みたいなのを勉強させてもらったりとか。なので自分のできることが広がる可能性しかないな、って。あとはそれぞれのやりたい方向性とか、やっていくものがまた変わっていくと思うので、どうなっていくかすごい楽しみですね。

 - ご自身の作品やDaichiさんのサポートで音楽的にも発展していく中で、今後、仕事と音楽のバランス感はどうしていきたいですか?

Kzyboost - できれば変わらずやっていきたいです。僕、一応会社だとマネージャーみたいなポジションで、営業課長っていうんですけど、その上が支店長なんですよ。「支店長で音楽やってたらやばいな」、そういう変なやつが一人ぐらいいてもいいかな、と思ったりします。

 - 総合的に見たら続けていきたいと。

Kzyboost - たぶん、全てプラスに動いてるかなと思います。アホなんでしょうね(笑)。ヘコむことはもちろんあるんですけど、根がポジティブなんです。「ま、いいや」ってすぐ思ってしまうタイプ。反省はするけど、引きずらない。今両立できているんで、合ってるのかなって思います。

 - でも、体力的な面はどうなんですか?

Kzyboost - 体力は考えてないです、もう(笑)。あ、でもちゃんと休める時には休みますよ。どうしても仕事が営業なんで歩いて体疲れることもあるし、無理はしないですね。前までは「やらな、やらな」みたいなマインドがあったんですけど、それがちょっと無くなってきた。しんどいけどやりたいとか作りたいとかなる時もあるので、そういう時はそれに従って。思うままに、じゃないですけど、自然な形でやっていこうとは思います。あと、全然寝てます(笑)。時間は短いかもしれないですけど。

 - ビートメイカーは特に副業的にやっている人も多いと思いますが、若い人でそういう人にアドバイスをするとしたら?

Kzyboost - たぶん一番難しいのって、続けることだと思ってて。好きは好きでも、やり続けるってすごい難しい……めっちゃ突き放しますけど、やり続けられないっていうのは、もう仕方ないじゃないですか。自分に合ってないというか。だから、やり続けられないことがあったとしても、自分に合ってるものを見つけるための時間だと捉えて、本当に続けられることと出会った時に思いっきり打ち込めばいいと思います。あと、音楽って辞めるとか辞めないとか、そういう感じでもない。自分の趣味の一つであっていいし。それともう一個僕考えたのは、なにか仕事があった方がコミュニティ自体も広がると思いますし、外を見るきっかけの一つとして、そういうものがあった方が僕はいいかなと思います。

 - ありがとうございます。

Kzyboost - いいアドバイスだったかどうか分からないですけど、とりあえず続けてみましょう、みたいな感じです(笑)。

 - 何か他に話されてないなみたいなところはありますか?

Kzyboost - なにかあったかな。あ、今回の『Too Wise』っていうタイトルなんですけど、仕事と音楽の2つをやってるってことで、2つって意味合いはかけたくて。それで今年の1月にDaichiとKolianderさんと僕で遊んでて……誰かの誕生日に北新地のエグいくらい高い寿司を奢るっていうのをやり始めて、その2ヶ月目で僕が金めっちゃなくなるやんみたいな時やったんですけど……そんな時に「いい言葉ないかな」ってDaichiに相談したら、「Wiseとかつけるのどうすか」って言われて。「Too」ってtoo muchとかあんまよくない意味で普通じゃないとかで使われるんですけど、僕も「いつ寝てんの」とか「よーやるわ」みたいに言われて、周りから見たらおかしいかもしれないけど、別にできるよ、みたいな意味を込めて"Too Wise"って。そういうのを一緒に考えて、つけてもらいました。

 - Daichi君はそういう言葉のセンスがありますよね。

Kzyboost - そうっすよね。今回のリリックも、ちょこちょこ考えてもらったやつも入っていて。それは話したかったですね。

Info

Artist:Kzyboost

Title : Too Wise 

Release:2023.09.20(水)

Cat # : Andless-003 ※Digital Only

Tracklist:

1.Tie 

02.Melt 

03.Too Wise 

04.Last Take

05.Zero feat. Daichi Yamamoto & ZIN 

06.Always 

07.High Emotions feat.KenT 

08.Someday

Exit mobile version