1975年設立。まもなく50周年を迎えようとしている、日本のインディーズ音楽シーンの立役者的存在であるP-VINE。元々ブルースの魅力を世に広めるべく設立されたのだが、今ではDogear RecordsやWDsoundsなどのレーベルと協力関係を築きながら、歴史あるヒップホップレーベルとしても名を馳せている。8月18日に東京・渋谷のライブハウスWWW Xにて行われた『P-VINE Presents THIS TOWN』は、そんなP-VINEのヒップホップにおける一つの集大成とも言えるイベントだった。
故FEBBのアルバム『The Season』収録曲“This Town”を冠したイベントにラインナップされたのは、若手からベテランまで、P-VINEと親交の深い6組のアーティスト。
この日オープンのDJを担当したのは、東京のクラブを毎週のようにDJとして飛び回り、今回のイベントにも出演するFlat Line ClassicsのバックDJも務めるRyo Ishikawa。D.L.I.P.や仙人掌などの楽曲を全てヴァイナルで回し、徐々に集まり始めた観客たちの温度が高まってきたころ、トップバッターである品川出身のヒップホップクルー・Flat Line Classicsのライブが幕を開けた。景気の良いイントロとメンバー・BIG FAFの一言の後にステージ上に現れた4名は、堂々と、そして心から楽しんでフロアを巻き込むようなライブをしていた。定番曲である“FLAT LINE CLASSICS”や“GOLDEN AGE”以外にも、「スペシャルセット持ってきたぜ」と“Authentic”のビートジャック・ヴァージョン、リリース予定のEPから新曲なども披露された。ライブアンセムである“HOT MAGIC”では、メンバー・Dazの力強く歌うフック部分を観客が共に口ずさみ、手を上げ、一つになって盛り上がった。
続くMUDは“Where My Money At”の勢いとともに登場。一気に会場をサウスのヴァイブスが包み込んだ。途中のMCでは、今年惜しまれながら解散したばかりのKANDYTOWNを思い、「KANDYTOWN for life、みんな忘れないでくれよ」と一言発し、“The Pain”を披露した。P-VINEからリリースした『Make U Dirty』から6年ほど、いろんなことがあったと語り、「何年ぶりだろう、これ?」と始まったのが“Chevy”。最近のライブでは滅多に聴くことのできない名曲の披露に心が高鳴った。後半は最新アルバムから“MAKE U DIRTY 2”、“Tameiki Summer”などをプレイ。会場が少し浮ついた夏の雰囲気に変わる。最後は「次の曲は仲間に捧げたいと思います」と、“One Love”で締めた。
ここで一旦、長野県松本を拠点に精力的に活動するビートメーカー・MASS-HOLEによるDJの時間が持たれた。新進気鋭の若手ラッパーからOGにまでクオリティの高いビートを提供するMASS-HOLEならではの選曲にライブで完全に温まったフロアがさらに湧く。
熱気をそのままに、PCとともにステージの中央に現れたのはLIBRO。いなたいストリートの空気感から一変、“ハーフベストタイム”でライブが始まり、会場の透明度が上がった気がした。「久しぶりにやる曲だからおかしなことになるかも。みんなを鼓舞する、自分を鼓舞する曲です」と“胎動”を披露。長年LIBROを追いかけてきたであろう会場のヘッズたちの体が、自然と気持ちよさそうに揺れていたのが非常に印象的だった。“対話”に続いて“雨降りの月曜”のイントロがかかるとフロアからは歓声が上がる。ラストは“なおらい”をプレイし、観客たちの手が自然と上に上がった。イベント前半からの空気感がガラッと変わる、LIBROらしさ溢れる、グッと引き込まれるステージだった。
ライブのクライマックスを飾ったのは東京を代表するラッパーの一人、ISSUGI。バックDJはもちろんMONJUのMr.PUG a.k.a. P-Hzが務める。「Young GunからOGまでP-VINEにリスペクト!」とシャウトし始まったのは“LOUDER”。薄暗く怪しいストリートの色が会場全体に立ち込め、観客たちは待ってましたとばかりに首を縦に振り始める。「ヒップホップ好きのみなさん、調子どうですか」と語りかけると、この日が本邦初公開となった“Both Banks - GQ Remix”を披露。イベント前日にリリースされたばかりの楽曲の披露にファンが大いに湧いた。「このイベントの名前を聞いたとき、俺はこれが思い浮かんで、絶対このビートをこのイベントで鳴らしたいと思ったんだよな」と“This Town”のビートを流し、スペシャルなパフォーマンスを披露。生前仲間として共に過ごしてきたFEBBについても触れ、熱い声援に包まれた(この日、ISSUGIはFEBBの“Skinny” TEEを着用していた)。続いて“INDIPENDENT”、“Perfect Blunts”、“ONE ON ONE”などをプレイ。リリースされてからかなりの年月が経った歴史ある楽曲から、最新アルバムの収録曲まで、多作なISSUGIならではの音楽性の厚さと信念の揺るぎなさを見せつけた。
“BOOM BAP”のイントロがかかると、その次の瞬間突如ステージに現れたのはBES。まさかの客演の登場にフロアが一瞬で湧き、その勢いに任せてBESのキレと凄みのあるラップが飛び交う。フック部分の「例え ファッション ミュージック 変わっても それでも曲げずに通すこのソウル ISSUGI BES ブレないFlow 音と言葉と遊ぶ All Night Long」は、まるでこのイベントそのものを表しているようだった。熱をそのままに、今年4月にリリースされ、盟友5lackがコーラスを担当することで話題にもなった“Twice In A Lifetime”、最近ではライブアンセムとなっている“366247”が続き、フック部分の「366247」でマイクを向けられた観客たちが精一杯の声を上げて共に歌っているのが印象的だった。
最後を締めくくるのは“Blackdeep”。フック部分で仙人掌がステージ上に現れ、待ちに待ったMONJUの全員集合に、盛り上がりはこの日の最高潮に達した。仙人掌の切れ味の鋭いラップと、今まで後ろでDJをしていたMr.PUGのスピットに、フロアの歓声は溢れ続けたのだった。その後は再びMASS-HOLEのDJに移り、様々なスタイルのヒップホップに触れることのできた、満足感のあるイベントは幕を閉じた。
年齢や経歴、スタイルが違う、普段同じステージライブをすることも稀な組み合わせのラッパー、DJが一同に介した『P-VINE Presents THIS TOWN』。見てきた景色は違えども、ヒップホップを愛し、その歴史を大切にしてきたP-VINEのスピリットと通じ合うことで、同じ方向を向いていた。
また、それぞれのアーティストが特に思い出のある楽曲を披露したことによって、仲間を大切にするヒップホップのアティチュードを体感することもできた。演者のみならず、観客含め、好きなことや考え方の芯の部分で共通する者たちが集まることのできる、貴重なイベントだった。(取材・文 : MINORI)