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【インタビュー】tha BOSS『IN THE NAME OF HIPHOP II』 | 渾身のアルバムへの道のり〜敢えて向き合い、乗り越えていく生き方

コロナ禍、ウクライナ侵攻がもたらした政情の不安定化と物価の高騰、そして何より民を顧みる事がない政治は、日本社会に重苦しい空気を蔓延させた。そのストレスを反映するかの様に、至る所で衝突が起こり、ただただ人と人との間に横たわる断絶だけが深まり続けている。

我々はこの苦境にあって、どう生きるべきなのだろうか。人と人は分かり合えないのだろうか。だとすれば分かり合えないまま、共に暮らすことはできないのだろうか。そんなことを考えている折に届いたのが、THA BLUE HERBのラッパーILL-BOSSTINOのソロ名義、tha BOSSのアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP II』の音源だった。

傑作である。数多くのビートメーカー、ラッパーと作り上げた本作の中で、BOSSは人間の営みを肯定し、讃えている。あらゆる場所にいる人々を癒し、鼓舞している。また原点回帰的とさえ言えるベーシックなHIPHOPの美学が織り込まれており、誕生から50年の時を経たこのカルチャーの魅力をあらためて実感させてくれる。

断言してしまおう。『THE NAME OF HIPHOP II』には、そしてHIPHOPというカルチャーには、逆境にあろうとも心豊かに暮らし、多様な人々と共に生きるためのヒントが詰まっている。そこで今回はtha Bossにニューアルバムの制作や作品に込められた思いに加え、HIPHOPとの出会いと「目覚め」、さらにビーフやコミュニケーションのあり方についても聞く事にした。

文・構成:Dai Yoshida

撮影 : 雨宮透貴

制作期間は3年。ビートメーカーに大きく「引き出された」という実感がある

- 本作の制作が始まった時期を教えてください。

tha BOSS - 2019年、5枚目のアルバムを制作していた当時の俺とO.N.Oは、いくらでも曲を作れる境地に入っていたんだ。でも「ここで終わらせよう」ってタイミングを見極めることが出来て、2枚組30曲入りのアルバム『THA BLUE HERB』を完成させたんだ。そこで「久々にO.N.O以外のビートメイカーとも曲を作ってみようかな」って思ったのが始まりだね。

だけど翌年にコロナで世の中が大きく変わってしまったよね。やっぱり今しか出せない曲をO.N.Oと作りたくなってさ。一旦ソロの作業は止めて、またTHA BLUE HERBの制作に入る事にした。それで出来上がったのが『2020』ってミニアルバム。そこから今度はdj hondaさんとアルバムを作る事になった。当然だけど、あのdj hondaさんと向き合うわけだからね。のんびりやるわけにはいかない。だからこのアルバムは止めてる期間も含めれば3年かかってる。

- OGから若手まで幅広い年齢層のビートメーカーを起用しています。

tha BOSS - 腕の良いビートメイカーの友達だね。音だけしか知らない人にお願いしたのはほんの数曲。TOSHIKI HAYASHI(%C)くんとは今回のアルバムで知り合ったんだけど、彼はスタジオに来てくれてさ。作業を終えてYOUちゃん(YOU THE ROCK★)と一緒にご飯食べて仲良くなった。だから友達だね。

- ラップとビートが絶妙にマッチしているように感じました。楽曲やアルバムのコンセプトを事前に伝えていたのでしょうか?

tha BOSS - それは全然なかった。 アルバムを作ることだけを伝えた上で候補を送ってもらって、その中から選ばせてもらった感じだね。俺はビートを聴いて、リリックを書いてくこともあるし、その逆もある。ただ今回のアルバムに関しては、本当にビートメーカーの作る曲に大きく「引き出された」という実感があるね。 

- フィーチャリングラッパーの起用に基準があれば教えて下さい。

tha BOSS - そこもやっぱり腕の良いラッパーの友達。俺自身が日頃から一目置いている人たち。あとはタイミングだね。そこが合った人達。JEVAは他の皆に比べると歳が若いけど俺は昔からファンだったんだよね。「イオン」(2017年)って曲が好きでさ。俺は彼が歌っている景色と似たような場所で育ったからさ。聴きながら自分が生まれた町のことを思い出して、色んなことを考えたよ。もちろん純粋にスキルがあるし、ライムがすごくタイトなラッパーでもある。ここ最近の動きも良くてさ。面白いことを沢山やってるんだよ。

- SHINGO★西成さん、YOU THE ROCK★さん、Mummy-Dさんとの楽曲には、ちょっとした会話が入っていますよね。BOSSさんの日常を垣間見た気がしました。

tha BOSS - シンプルに付き合い方が曲に出てるんだろうと思う。例えばSHINGOと飯を食いに行くと、常にああいう掛け合いがある。YOUちゃんとの付き合いの中にはイントロみたいなシーンがあったりする。で、Dくんとはお互いここにたどり着いた感がある。

- 逆にJEVAさんとの"STARS"、ZORNさんとの"LETTER 4 BETTER"には会話が入っていないです。

tha BOSS - (SHINGO★西成、YOU THE ROCK★、Mummy-Dの3人は)皆同世代なんだよ。でもJEVAとZORNはちょっと若い。もちろん俺は彼らのことも友達だと思ってるけど、彼らは先輩後輩の折り目を大事にして接してくれてる。だから曲の形も違った感じになってくる。

- JEVAさん、ZORNさんとの曲には、ちょっと張り詰めた感じがありますね。

tha BOSS - バースを分け合って、お互いの場所には入れさせないで、最後まで自分の場所は1人でやりきることになったからね。そこは勝負でもある。同世代との3曲とは少し違った緊張感が出たと思う。

札幌にはチーマーが沢山いたけど、頭一つ抜けてたのが「タクオ君」だった

- 本作は、ラッパー、アーティスト、クラブなど、全編にわたってネームドロップが多い気がします。

tha BOSS - 特に意識はしてないね。「言われてみると多いのかな」くらい。

- 自分が大切にしている人や場所を知ってほしい?

tha BOSS - そうとも言えるけど、一番の理由は「ライム(韻/詩)」だね。俺はかつて誰も吐いたことがないライムを生み出したいんだよ。格好良く、しかも自分の経験や知識も踏まえて、もちろん音楽とリンクさせて。なんなら名前を出す人間の生き様もリンクさせて踏む。例えば「(忌野)清志郎」と「ニーナ・シモン 」で踏んでる。でも目的は単に踏むことだけではない。その二人の名前を、若いラッパーが踏むわけではなく、俺が踏む。 そこに意味が生まれると思ってる。

- 以前「札幌にいる誇り高い先輩たち」として、アーティスト以外にチーマーをあげていました。"S.A.P.P.O.R.A.W. Pt.2"に登場する「タクオくん」もその一人ですよね?

tha BOSS - だね。札幌にはチーマーが沢山いたけど、その中でも頭一つ抜けていたのがタクオ君だった。俺より年上で「ジェロニモ」(※)ってチームのリーダー。その少し下の世代には「シッティングブル」っていうチームもあって、歌詞の通り彼らは俺と同年代。O.N.Oちゃんとも仲が良かった。 俺たちはヒップホップ、あの人たちはチーマーだったけど、札幌って狭い街だからさ。色んな場所で顔を合わせるんだ。いつだったか忘れたけど、もう随分昔に一方的にタクオ君を知ったんだけど、当時「オーストラリアをハーレーで横断していた時に、バイカーギャングの集会に紛れ込んで、リーダーと相撲をとって勝ったらしい」って噂があった。後々、タクオ君に聞いたら、かなり話に尾ひれが付いてるってことだったけどね(笑)。

※その名は日本のハードコアパンク・バンドGASTUNKの名曲"ジェロニモ"に由来するという。

- かなり豪快な伝説が多い方みたいですね。

tha BOSS - おっかないんだけどめちゃくちゃ面白い先輩っているじゃん?タクオ君たちもそういうタイプ。周りの人も皆がキャラが立っていて、全然悲惨な感じがしない。そういうところも含めて格好良かった。色んな人がストリートにいた。皆で札幌の同じ時代を飾っていた。俺はいつも見ていた。後々こうして歌詞になるようなエピソードをそこで集めていたんだ。

- 以前「札幌に帰ると後輩に戻ってしまう」「謙虚でいられるのがいい」と言ってましたが、本当言葉通りなんですね。

tha BOSS - そんなタクオ君も、今じゃ札幌のラジオ局で昼の帯番組のパーソナリティをやっていてさ。でもずっと札幌のストリートのナンバーワン。そこはずっと変わらない。俺が言うのもなんだけど、 今の姿もすごくイイ感じに見えるんだよ。

- "S.A.P.P.O.R.A.W. Pt.2"では、そんな瑞々しく、魅力的な青春時代を振り返っています。これまでTBHが発表してきたバックインザデイズをテーマにした楽曲とは少しテイストが違っていますよね?

tha BOSS - "S.A.P.P.O.R.A.W. Pt.2"は特にそうかもね。自分でもフレッシュにやれたって実感がある。やっぱりNAGMATICのビートに引き出されてる部分が大きいと思う。この曲でスクラッチをしてるDJ DYE(THA BLUE HERB) にも「スウィングしてますね」って言われたね。

- 今回のアルバムは、かなり緻密に曲順が計算されているのかなと感じました。具体的に言うと曲をまたいでリリックやイメージが繋がっていたりします。最初から全体の構成を意識して制作していったんでしょうか。

tha BOSS - 曲順は作り終わってから最後に並べてみたら良い感じになった。リリックに関しては、一人の人生から出るメッセージだからさ。流れや一貫性があるのは自然なことじゃないかな。でも、たしかに曲を並べていく中で「この部分とこの部分はなんとなく繋がるな」ってマジックがあるとは感じたね。

- ちょうど真ん中、8~9曲目に転換があるような気がしました。アナログレコードをA面からB面に変えるタイミングというか。

tha BOSS - スタートなのかゴールなのかは別として 、9曲目の"THE WORLD IS YOURS"が曲順に良い影響を与えているとは思う。音の質も他の曲と少し違っていて、メッセージもシリアスで。あれでアルバム全体の構成が見えたところはあるかもしれないね。

毎晩『ILLMATIC』の訳詞を読み込んでいたら、円形脱毛症になってた

- 本作はヒップホップをテーマとした作品です。あらためてBOSSさんとヒップホップの出会いを振り返って行きたいのですが、そもそも高校時代はパンクが好きだったそうですね。

tha BOSS - 大好きだったよ。でもある時にヒップホップに目覚めたね。

- パンクはBOSSさんのレベル(=REBEL)なアティテュードのルーツになってるのかなと思っていました。

tha BOSS - 「16、7の時にパンクの何が分かってたんだよ」って問われれば、何も分かってなかった。ただただ「格好良い」と思ってただけだね。俺は北海道の田舎に住んでて、なんとなくMTVを観て、音楽を知ってさ。Michael Jacksonとか好きになって、そこから色んな曲を聴いて、そのうちパンク的なものに引き寄せられて行った。言ってしまえば、ただの目移りなんだよ。ヒップホップだって最初はそんなもんだった。高校3年の終わりくらいにテレビで『ダンス甲子園』を見てさ。それでダンスを始めたんだよ。だからヒップホップの思想に感銘を受けた、とかではないよね。

- ダンスを始めたのが1990~91年くらい。その後、先行して札幌でラッパーとして活動していたB.I.G.JOEさんを見てラップを始めた。それが92~93年頃ですよね。

tha BOSS - そうそう。それもただただ「かっこいいな」って。

- ところが1994年にNasがリリースした1stアルバム「ILLMATIC』を聴いたことを機にラップへの取り組み方が変わった。

tha BOSS - あのアルバムが俺を変えたのは間違いない。もちろん作品全体が凄かったんだけど、中でもリリックがデカかった。なまら食らったね。対訳を読んだ瞬間に「超すげえじゃん」って驚いた。それまで「かっこいい」とだけ思ってたヒップホップの捉え方が変わった。

- どういうところに驚いたのでしょうか?

tha BOSS - リリックに詰まってるインテリジェンス。それに尽きる。しかもラップしてるのは、俺より2〜3歳下だった。クイーンズのプロジェクト出身でさ。大学出でも何でもないストリートでハスリンしてきた人間。今でもあの時感じた衝撃は蘇ってくるよ。ドハマりして、毎晩リリックを読み込んでいるうちに、気づいたら円形脱毛症になってた。痛みは全然なかったよ。あの人が持ってる知性、にやられてしまったんだろうと思う。

- 94年当時、Nas以外にインテリジェンスを感じたラッパーはいましたか?

tha BOSS - その時代は結構良い作品が多かったとも思う。Jeru(The Damaja)の1stもかなり良かった。俺からするとNasの方がストリート目線が多くて共感できる余地があるんだけど、Jeruはもっと内省的だった。でも彼の言葉からも途轍もないインテリジェンスを感じた。とんでもない宇宙観を持っていてビビった。O.C.はもう少しストリートっぽくて、独白っぽいNasと比べると少しコミュニティと向き合ってる。それも俺にとってはヒップホップだったし、かなりインテリジェンスを感じた。ビギー(The Notorious B.I.G.)からも相当インテリジェンスを感じた。もう少しストラグルした経験とかを聞かせるタイプだった。

- 全員、94年に1stアルバムを出しているラッパーですよね。若い頃はそうやってHipHopを学ぶ修行の時だった?

tha BOSS - いや。結局は楽しみの中にあることでしかないんだよ。シンプルに好きになったから探求して行って、その結果。俺みたいなもんでも、ここまでヒップホップにのめり込めたからさ。好きになれば、自然とそこまで行くんだと思う。ヒップホップはファッション的な上辺じゃなくて、もっと奥深いものを見出せるものなんだ。

- 今回のアルバム、"YEARNING"をはじめ、ヒップホップの根底にあるものをシンプルにわかりやすく言葉にしてますよね。

tha BOSS - そこもセロリくん(Mr.BEATS a.k.a.  DJ CELORY )のビートが俺の心を開かせて、ああいうフレッシュな気持ちにさせたんだと思う。聴くと自分でも「溌剌としてるし、躍動してるな」って感じるよ。もちろん俺が重ねてきた経験とかキャリアとか年輪みたいなものも上手く合わさったからだと思う。ただ「どうありたいか」だとか「どういうテンションで行きたいか」だとかって部分については、やっぱり大きくビートメーカーに引き出されたところがある。

ライムスターに「下からガッツリ言う」感覚だった

- 本作収録の"STARTING OVER"では、かつてビーフがあったMummy-Dさんをゲストに迎えています。発端となったのは、ヒップホップ専門誌『blast』1999年12月号に掲載されたインタビューでした。ライムスターを名指しして「少なくとも俺が志してるアートとは到底言えない」と発言した当時の心境を教えて欲しいです。

tha BOSS - あの時は、古川くん(ライターの古川耕氏)が札幌の俺の家を訪ねて来てさ。俺はチルってたこともあって、なまら調子こいてベラベラ喋りまくった。それが雑誌に載ったんだよ。当時の俺は、まだ東京では一回しかライブをやったことがなかった。でも「これから俺たち行くぜ」って時だった。そういうテンションで言ったことなんだ。

- THA BLUE HERBの1stアルバム『STILLING, STILL DREAMING』をリリースした直後に出たインタビューだったように思います。

tha BOSS - 計算じみたことは全くなかった。「やっと俺にマイクが回って来た」って感覚だったんだよ。だから「言いたいことを全部言わせてもらうわ」って感じだった。それまで考えてたこと、「言ってやりてえ」って思ってたことを、ひたすら吐き出しまくったんだよ。なにしろ俺の人生が変わるか変わらないかの分かれ道。大勝負の時だった。本当に自分のことしか考えていなかったね。だからこそ、あんなことを言ってしまう「強さ」みたいなものがあった。だけど、そこに思慮深さはなかったし、聞いた相手がどういう気持ちになるかなんて全く考えてなかった。今の俺からすると大いに危うかった。

- その後、2001年にライムスターの楽曲"ウワサの真相"の中でMummy-Dさんにディスられています。

tha BOSS - 先のインタビューを受けた当時の俺は札幌でどん底を味わっていた。そういう立場から、東京のシーンで輝いてるライムスターに対して「下からガッツリ言う」感覚だった。でも、Dくんにディスられた時、俺たちはビジネス的に成果が出てきていたし、俺もラッパーとして上がって、ライムスターとは違うけど俺たちなりの位置からの目線を持つようになっていたんだよ。だから「そう来るなら、俺はこう受けるよ」って感じでアンサーを返したね。

- 2002年にリリースしたTHA BLUE HERBの2ndアルバム『SELL OUR SOUL』収録の"SHINE ON YOU CRAZY DIAMOND"、"サイの角のようにただ一人歩め"の中でアンサーして、一応そこで一区切りついた形ですよね。

tha BOSS - だからさ、結局はたった3年の間に起こった話なんだよね。

- その後、Mummy-Dさんやライムスターに対して、気まずさを抱えたりはしていましたか?

tha BOSS - 俺がカマしたことによって、Dくんたちの音楽や動きに大きく損失を与えたのなら、そう思ったかもしれないよね。でもライムスターは、ずっと調子が良かった。最初は彼らが先を走ってて、俺たちも後ろから走った。それからも俺たちとライムスターは、ずっと走り続けてきた。直接の交流こそなかったけど、俺的には勝手にフェアな競争相手って思っていたんだよ。結果的に痛みだったり、悲惨さみたいな感覚は残ってなかった。

- 宇多丸さんとは、2010年に福岡のCLUB BASEで、およそ10年ぶりに再会しています。

tha BOSS - そうだね。現場でシロウ(宇多丸)君やJIN君に会えば、良いテンションで話すようになった。ただDくんとは顔を合わせる機会がなかったんだよ。2016年の『SUNSET LIVE』で、ようやく初めて会う事が出来てた。ところがさ、 D君は俺に「久しぶり」って声をかけてきたんだよね。「あれ?」って思ったよ。だって会うのは初めてだったからさ。ちょっと腑に落ちなかったけど、そんなことよりD君と会えたことが嬉しくてさ。皆でワイワイ喋ってたよ。

それから少し間が空いて2020年。カメラマンのcherry chill will.が場所を作ってくれて、渋谷でD君と飲むことになった。そこでもD君は俺と会ったことがある感じで喋りかけてくるんだよ(笑)。「絶対違うよな」と思ってさ。意を決して「いや、会ったことないよ」って言ったら、D君は「あるよ!昔札幌で一緒にフリースタイルしたじゃん!」って言い張る。 よくよく話を聞いていくと、どうやらジョージ(B.I.G.JOE)と俺を勘違いしてたみたいなんだよ。

- 25年間に渡って勘違いを抱えていたんですね。

tha BOSS - でもさ、その勘違いを入れると、D君があれだけ怒ったのも分かるんだよ。 「1度会ったことがあるのに、いきなりBADな感じでカマしてきやがって」みたいな感じだったんだろうね。ちゃんと話したらD君も納得してくれたよ。お互い、肩の力が抜けるというか、馬鹿馬鹿しくなっちゃってさ。その場にいる全員で笑っちゃったよね。蓋を開けてみれば、すごく俺っぽいし、Dくんっぽい話だったねって。その日、俺たちのビーフは本当に「グラスのアイスのように溶けていった」んだ。すごく良い夜だったよ。

吐いた言葉は必ず自分に返ってくる。その返ってきた言葉を乗り越えたい

- なぜMummy-DさんやYOUTHEROCK☆さんと和解できたのでしょう?振り返ってみて、何が大きな要因になっていると感じますか?

tha BOSS - やっぱり俺から動いたからだよね。ディスられた側は、そのディスがどんなものであったとしても傷付く。ラッパーだって人間だからさ。もちろんディスられた側からは歩み寄れないよね。だからこそケリをつけるなら、 ディスった側が行く以外ない。俺は過去に自分がやったこと、自分が誰かを傷つけたこと、そこから始まったことを1つ1つ終わらせたかった。知っての通り、俺は強い言葉を本当にたくさん吐いてきた。そして吐いた言葉は必ず自分に返ってくる。だから俺は本当に沢山の言葉を背負って生きてる。でもさ、その返ってきた言葉を乗り越えたいんだよ。自分のかつての邪悪な言葉の「呪縛」みたいなものを乗り越えたい。もう誰も覚えてなくても俺は忘れない。だからこそ、少なくとも自分が仕掛けたビーフに関しては全て自分から終わらせたかった。そして今回できっちりけじめをつけて終わらせる事が出来たって思ってる。

- BOSSさんは沢山のラッパーにディスられてきました。

tha BOSS - そうだね。俺も聖人なんかじゃないから、失敗もするし、誤解を招くことも多々ある。ものの見方もそれぞれ違うし、俺がでかい口を叩けば面白く思わない人がいるのもわかる。だから色々あったね。その中には「あの時はごめん」「やりすぎた」って言ってきた人もいる。そういう人たちとは仲良くなってるよ。ただ、そうじゃない連中の方がずっと多い

- TOKONA-X さんにディスられたことがありましたよね。

tha BOSS - あれはTOKONA-Xが俺にディスられたという勘違いをしたとこから始まってる。だから俺からは行けなかった。でも彼が亡くなる少し前のことだった。彼が俺のところに来てさ。もちろん「ゴメン」なんて言わない。ちょっと照れてるのか、それとも気まずいのか、なんともいえない感じの態度で。俺の目を見ないで、ちょっとした笑みを浮かべながら話しかけてきた。「あの"未来は俺らの手の中"って曲...結構良いすね...」って。そんなことが起きたんだよ。

- ビーフの結末を「忘れがたい、悪くねえ話だったんだ」っておっしゃっていましたが、そういう感じだったんですね!

tha BOSS - あいつはそのまま亡くなってしまったけど、俺は最後に友達になれたって思っている。やっぱり、先にやった側から行かないと動かないんだよね。

- 自分や相手と向き合い、覚悟を決めて一歩踏み出したからこそ和解というゴールが生まれた。

tha BOSS - D君に関しては時間がかかったけどね。でも、そこにドラマがある。きっと仲直りするタイミングなんていくらでもあったんだよ。だって俺から会いに行けばいいだけの話だからさ。だけど25年もかかった。そのくらい重く捉えていたところも無意識だけどあったんだろうと思う。でも、最後はヒップホップがあったからさ。

政治がどうあれ、俺たちの人生は存在するし、これからも続く

- 世の中には、様々な考えやスタイルを持った人がいます。意見が異なっていたとしても、ともに生きていかざるを得ない。決定的な衝突や断絶を避け、しかし自分の考えを主張する上で、何が大切だと思いますか?

tha BOSS - やっぱり痛みを知ることだよね。俺自身、これまで生きてきた中で沢山の痛みを知って、味わって、やがて回避する方法を覚えていった。本当に色んなことがあった。憎しみが残る結末を迎えたことは何度もあった。それっきりになってしまった人もいる。そういう経験を重ねて、このまま進むと、自分や相手の身に何が起こるのか分かるようになっていったんだと思う。

- 自分の痛みを知り、そこから他人の痛みも知って、その上で自分がどう行動するかを考えていく。

tha BOSS - そういう、ある種の処世術みたいなものだって、ヒップホップの一部なんだと思うよ。取り返しのつかない痛みや憎しみを避けていくために、吐く言葉はもちろん、立ち振舞いや人付き合いも含めて、色んなことを経験の中で身に付けていくんだろうと思う。

- 衝突するにしても「勝ち過ぎも危ない。無闇にトドメは刺すな。逃げ道に誘導するのさ。気づかさずな。気持ちよくお引き取り願うんだ」(※)みたいな。

tha BOSS - うん。

※tha BOSS『IN THE NAME OF HIPHOP』収録の楽曲"NOW IS NOT THE TIME"の一節

-「自分の方が凄い」とスタイルをぶつけ合うヒップホップというカルチャーは個人主義的で、利己的に見えることすらあります。その一方でスタイルウォーズの中には切磋琢磨があり、実は相手のスタイルを尊重していたりもしますよね。

tha BOSS - そこだと思う。まずは「個」がしっかりしていないと話にならない。俺自身、アメリカでHIPHOPをやってた人のテンションとかアティテュード、突破力みたいなところに大きく影響を受けてる。でもその先、相手のことを思うってことは、日本もアメリカも関係ない。自分自身がどうありたいか、と直結してる部分だね。

- もともと差別され、政治家や役人、もっと言えばマジョリティが仕切る社会に見捨てられた人たちが、自力で作ったカルチャーですからね。

tha BOSS - 俺自身が、そういうノリに目覚めたのは、まだ日本が本格的に壊れる前の話だった。でも当時から、国家はもちろん何か大きな存在に生活を「何とかしてもらおう」とは思ってはいなかった。最初から「自分で何とかしてやる」って思っていたよ。だからこそ自主レーベルを作って、自分たちの音源のリリースを始めた。時は流れて、いまの日本は根っこまで腐っていて、本当にどうしようもない状況にあるよね。正直言って手遅れだろうと思うこともある。でも政治がどうあろうと、俺たちの人生は存在するし、これからも続いていく。たしかに俺たちの人生が幸せなものになるかどうかには、国や政治のあり方が大きく影響する。だけど大きな力に頼ることなく、俺たちの力で、俺たちが望む幸せを作り上げることだって出来るはずなんだよ。もちろんこのクソな世の中をクソたらしめているものには向かっていく。でもさ、俺はクソな状況を自分の力で乗り越えたいとも思ってる。少なくとも、周りにいる人、俺たちの音楽を聴いてくれてる人たち、俺たちの集まりに関しては「絶対に俺が良い所に連れてくぞ」っていう気持ちで生きてるんだよ。

Info

アーティスト : tha BOSS(ザ・ボス)

タイトル : IN THE NAME OF HIPHOP II(イン・ザ・ネーム・オブ・ヒップホップ・ツー)

レーベル : THA BLUE HERB RECORDINGS

発売日 : 2023年4月12日(水)

CD購入初回特典 : CD(アルバム未収録音源1曲収録)

購入店URLs : https://tbhr.lnk.to/itnoh2

①通常盤CD

フォーマット : CD

品番 : TBHR-CD-039

税抜価格 : ¥3,000

バーコード : 4526180631446

②生産限定盤2CD

フォーマット : 2CD(インストDISC付属)

品番 : TBHR-CD-040

税抜価格 : ¥4,000

バーコード : 4526180631453

③ダウンロード

DL/CD購入店URL:https://tbhr.lnk.to/itnoh2

収録曲

1. HOLD ON  [Beats and Scratched by CARREC]

2. THAT'S WHEN  [Beats by BACHLOGIC]

3. サウイフモノニワタシハナリタイ  [Beats and Scratched by INGENIOUS DJ MAKINO]

4. STARS feat. JEVA  [Beats by LIBRO]

5. SOMEDAY feat. SHINGO★西成  [Beats by MANTIS]

6. S.A.P.P.O.R.A.W. Pt.2  [Beats by NAGMATIC, Scratched by DJ DYE]

7. MUSIC IS THE ANSWER  [Beats and Scratched by grooveman Spot]

8. DEAR SPROUT feat. YOU THE ROCK★  [Beats by TOSHIKI HAYASHI(%C)]

9. THE WORLD IS YOURS  [Beats by SHIBUIBEATS, Scratched by DJ DYE]

10. LETTER 4 BETTER feat. ZORN  [Beats by BACHLOGIC]

11. STARTING OVER feat. Mummy-D  [Beats by INGENIOUS DJ MAKINO]

12. POETIC JUSTICE  [Beats by DJ WATARAI]

13. AROUND TOMORROW  [Beats by Michita]

14. SAY GOODBYE HEARTACHE  [Beats by Jazadocument]

15. YEARNING  [Beats by Mr.BEATS a.k.a. DJ CELORY]

初回出荷分特典CD収録曲

1. YEARNING Pt.2  [Beats by Yotaro]

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