さる4月13日にPUNPEEとJJJによるコラボレーション楽曲"Step Into The Arena"が発表された。稀代のラッパーふたりによる初タッグという話題性はさることながら、本楽曲が『マジック:ザ・ギャザリング』(以下、MTG)とそのオンラインゲーム『MTGアリーナ』の新ウェブCMへの提供楽曲であるという点にも大きな注目が集まっている。かつて実際にMTGをプレイしていたふたりならではのビートの世界観、そしてリリック。本稿ではふたりがどのようにMTGの世界に触れ、本楽曲にどのようなエッセンスが注入されているかを解き明かす。対談には解説役として今回の"Step Into The Arena"プロジェクトでクリエイティブディレクターを務めるウィザーズ・オブ・ザ・コースト社日本オフィスの石黒ユウイチ氏にも同席してもらった。
取材・構成 : 高橋圭太
撮影 : 横山純
- まずMTGシリーズがスタートしたのはいつだったんでしょう?
石黒 - 来年30周年を迎えるので、スタートは1993年ですね。
PUNPEE - その時期はやってなかったですね。いちばんはじめにMTGに触れたのは中学1年くらいの時期。
JJJ - みんなそれぐらいの時期にはじめる感じですよね。
PUNPEE - あの当時は遊戯王のカードゲームとかも出だしたくらいで、みんなやってた気がする。Jくんはいつぐらいにはじめたんですか?
JJJ - 自分は中学2,3年のときぐらいです。兄がやってて、そのおさがりのカードではじめました。今回の曲のリリック(“追いかけた兄貴の背中はでかい”)にも出てくるんですけど、当時、兄が川崎の地元のローソンに自転車でカード買いに行くんですけど、自分はそれを走って追いかけてて。そのときの兄の背中がなんかPUNPEEくんと重なったんですよね。どっちもお兄ちゃんだし。
PUNPEE - ありがたい。そんなでかい背中じゃないけどね(笑)。
JJJ - 地元だとそのローソンにしか売ってなかったから、オレらにとって聖地みたいになってたんですよね。普通のローソンなんですけど。
PUNPEE - コンビニでも売ってたんだ。自分は家のまわりでは当時どこにも売ってなかったっすね。板橋からいちばん近い都会が池袋なんで、池袋のおもちゃ屋をめちゃめちゃ回ったんですよ。でもどこにもなくて。最後にダメ元で入った東急ハンズにあったのを覚えてます。そこでスターターキットっていう60枚入りのやつを買って。当時は『ミラージュ』っていうシリーズだったっすね。
JJJ - 自分が最初に買ったのは『(基本セット)第7版』でした。
PUNPEE - 自分のときは4~5版でしたね。
JJJ - あと、自分がMTG買いはじめたころにテレビCMもやってて。ロウクスっていうデカいサイみたいなキャラクターがいるんですけど、そいつが出てくるCMで、それ、めっちゃ覚えてるんですよね。海外のこどもが白い部屋でMTGやってて、ロウクスがこどものプレイを見て我慢できずに壁をぶっ壊して入ってくるっていうやつ。
PUNPEE - へー! 見たことないかも。
JJJ - そのCMを見て勝手にロウクスがこのカードゲームでいちばん強いキャラなんだって思ってました。
PUNPEE - ハハハ! あと、今日同席してるSummitのA&RのRENくんもめちゃくちゃMTGやってたひとで。RENくんは『ウルザ』とかのころだよね。
REN - そのあたりまではバリバリやってましたね。ほぼPUNPEEさんと同時期。
JJJ - 『ウルザズ・レガシー』とかありましたね。
- MTGに思いっきりハマってた時期はどのぐらい続いたんですか?
PUNPEE - 2年ぐらいかな。当時は中学生とかでカード買うにもお金がないっすからね。
JJJ - そうそう。ちょっと高かったんですよね。自分もがっつりハマってたのは2年間くらいです。
- なるほど。現在もカードショップをのぞくとカードが高値で売買されていますよね。そもそもゲームの構造として高いものを買わなくても勝てるものなんでしょうか?
PUNPEE - デッキ60枚の組み立て方があるのでカード個々の強さというより戦略が大事なのかもしれません。自分は最初はパック単位でしか買えないと思ってたんだけど、しばらくして専門店があるっていうのを聞きつけて、弟といっしょにそこに行ったらそこはバラで1枚づつ買える店で。感動したのを覚えてますね。
JJJ - ハハハ! めっちゃわかります。自分もはじめて川崎駅のイエローサブマリン(全国にチェーン展開するカードゲーム/アナログゲーム専門店)に行ったときにその気持ちになりましたね。
PUNPEE - もちろん当時は1枚2000円のカードとかは手が届かなくて。うらやましく眺めてましたね。で、奥ではいろんなひとがカードゲームやってて、こどもからしたら夢みたいな空間だった。Jくんは知らないひとと対戦したりもしてました?
JJJ - いや、自分はしたことなかったですね。やってました?
PUNPEE - うん。何回かやったけど、強すぎてイヤになっちゃって。
JJJ - ハハハ、わかるっす。自分も兄貴の友達とかとやって全然カモにされちゃってた。ちなみに5lackは何色でやってたんですか?
PUNPEE - 青でやってたね。
JJJ - 青なんだ! へー!
- 現在はアプリでもMTGがプレイできる時代になって。おふたりは『MTGアリーナ』もプレイされてる?
JJJ - もちろんです。
PUNPEE - 自分も去年、楽曲制作のお話をもらったあとに始めて。で、それと同時に実際のカードゲームのほうも再開したんですよ。“むかしは買えなかったカードもぜんぜん買えるじゃん!”ってのもあるし、当時は10000円ぐらいしてたように感じたカードも、見てみたら1200円とかで。たぶんカードの値段が下がってるっていうより、当時はそれぐらい高いものだって思ってたんでしょうね、価値的に。Jくんとも渋谷WWWの楽屋でやったよね。
JJJ - あぁ、あのとき。BIMもカード買ってて、それを借りてやってましたね。そういえば、アプリでプレイして思ったんですけど、当時やってたときは曖昧だったルールがちゃんと分かりやすく説明されててすごいよかったです。っていうか、自分らが地元でやってたルールとはぜんぜんちがってて。
PUNPEE - ハハハハ。そういうことあるかもね。
JJJ - 兄に教えてもらったルールを疑ってもなかったけど。いま思えば力技が多かった気がしますね。兄貴がダメって言ったらダメっていうか。
- フフフ……。もしかしたらお兄さんのいいようにルールが捻じ曲げられてた可能性もある。
PUNPEE - あとたぶんローカルルールも多くって。そういうのは板橋でもあった気がするなぁ。クリーチャー2体で1体をガードできるっていうのも自分は知らなくて。
JJJ - 地元だと自分の相手もマリガン(ゲーム開始時のみ、手札を引き直すことができるルール)をやったらおたがい7枚で大丈夫でカードが減らない、っていうルールがあったんですけど、Pくんの地元だとそんなのないですか?
PUNPEE - それもローカルルールだと思うなぁ。
JJJ - ハハハ、ですよね。
PUNPEE - これからはじめるひとからしたら、様々なルールがあるからイメージとして難しいのはあるかもしれないですね。でもアプリだと全部正確に計算してやってくれるんで。最初の壁を超えたらおもしろくなるっすよね。
- おふたりのMTGにおいての戦略のクセってどんなものなんでしょう。
JJJ - 自分はあんまり戦略を練って戦うっていうのが苦手だったので、いわゆる脳筋プレイみたいな感じでした。多色を使ってプレイすると強いっていわれてるんですけど自分は1色だけですね。緑色だけで組んでた。全部で種類が5色あって、強いプレイヤーは2色のデッキだったり3色のデッキだったりするんですけど。
PUNPEE - 自分も緑だけですね。なんか緑のカードが好きだったんです。でも、このチョイスってけっこう性格が出るよね。最初のカードの選び方とか。緑色の特徴はシンプルでとにかく物理的に殴っていくっていう印象。
JJJ - クリーチャーを出してむこうのクリーチャーにぶつける、みたいな。すごい分かりやすいし基本的なスタイルですよね。
PUNPEE - RENくんは何色使ってたんだっけ?
REN - ぼくは赤を使ってましたね。
PUNPEE - RENくんは全国大会にも出てたんですよ。
REN - その話、Pさんにずっとされるんですけどね。1999年のジュニアオープンって大会で12位になったことがあって。日本ではじめての選手権みたいな感じだったと思います。パシフィコ横浜でやってたんですよ。生涯初の表彰台で、賞金も貰いましたね。
- すごい話ですね。RENさんは2016年に主催したイベント『Diagonal』で、MTG風のグラフィックTシャツも制作されてましたよね。
JJJ - 佐々木(KID FRESINO)がカードのデザインになってて“いいなぁ!”って思ってました。
REN - ほかにもやK-BOMBさん、Pさん、Seihoさん、OMSBさんがMTG風のカードのデザインで書かれてて。完全にあれは自己満足でやってましたけど、いい感じでしたよね。
- さて、そこから時を経て、PUNPEEさん、JJJさんで公式にイメージ楽曲を作ることになったわけですが、いきさつを教えてください。
PUNPEE - 最初にウィザーズ社から自分のところに楽曲制作の話が来て。で、前にJくんのリリックに“マナ”ってMTGのワードが入ってたりしてたから、“もしかしたらJくんもMTGやってたのかも?”と思って連絡したら、やったことあるっていうことで。そういう共通点からJくんとの共作という話になり。でもよく考えたら“マナ”以外にも“flame”って曲でカードの名前を使ってたりするんだよね。自分も“Happy Meal”って曲で引用したりとかしてたので意外な共通点でしたね。
- おふたりが制作をいっしょにするというのははじめてですよね。距離的には近いのにトラックの提供とかもこれまでなかったというのが意外でした。
PUNPEE - そうですね。前にビートを提案してもらったことはあったんですけど、表には出てないので。
JJJ - おたがい近いところにいましたしね。
PUNPEE - 弟ともやってるし、STUTSともやってるしね。
- 当初に思い描いていたコンセプトや曲のイメージはどのような感じのものだったんでしょうか?
JJJ - 自分はPUNPEEくんにドリルでやってほしいなって。ちょうど話をいただいたときに自分はドリルのビートをたくさん作ってて。 PUNPEEくんとのやつもこんな感じでやったら意外性もあっておもしろいんじゃないかなと思いまして。
PUNPEE - おたがいやりたいイメージがあったから、それならビートも共作にしようってなったんだよね。なので、先に自分が上ネタっぽいのを作って、それをいくつか送って。で、そこから上ネタに合わせてJくんがドラムを組んでくれた感じですね。作っていく過程で“ブリッジがあったほうがいいかも”とか、おたがいにアイデアを出しあって完成しました。ビートを共作するっていうのも、そこまでたくさんはやっていないので。
JJJ - それ、すごい意外ですね。
PUNPEE - 刺激的でしたね。Jくんのドラムは信頼感がある。ドラムの置き方に艶があるっていうか。すごくシンプルで、それでいてちゃんとカッコよく鳴ってて。自分だったらまた別の感じになってたと思うし。
JJJ - 自分は楽器ができるわけじゃないし、こういったお仕事の場合って権利上、サンプリングがNGなことが多いので。サンプリングが基本の自分からするとゼロから上ネタを作るのって苦手なんですど、PUNPEEくんが4つぐらいループ作って送ってくれたときに“あー、この人やべえな”って思いました。しかもちゃんとドラムが入ったときのことを考えて伸びしろを残してくれてるのもすごいなと。今回使わなかったループも本当によかったし、使わないのがもったいないぐらいでしたね。
PUNPEE - あと、Jくんがどんなプラグイン使ってるか見れたのも刺激的でしたね。ほかにもベースをダブルにしたりとか細かい技が見れてよかった。
JJJ - ヒップホップのベースに限らずベースってモノラルにする人が多いんですけど、そこを敢えてワイドにしてhifiでスペイシーな感じの音にするのがUKのダンスミュージックのサウンドの特徴なのかなと普段聴いてて思ってて。今回808に試してみました。
PUNPEE - 自分でやってみて改めてドリルのビートって異色だなって思いましたね。今回、Jくんにドラム乗せてもらったトラックを聴いたときに、本来スネアが置かれる場所にスネアじゃなくてクラップが入ってきたり。
JJJ - そうそう。ドリルのビートって裏の拍のリズムでビート煽りまくるイメージがあるんですよね。スネアの位置に急にキックが来たり、普通だったらハットの部分を敢えてスネアで打ったりするパターンもあって。後者はパーカッシブでアフリカンなノリを感じたりして好きです。
- リリックに関してはどうでしょうか? リリックを見るとおふたりともMTG特有の単語をだいぶ入れ込んでいますが。
JJJ - PUNPEEくんは最初、MTG用語みたいなのはあんまり入れないほうがいいんじゃないかって言ってたんですけど、蓋を開けたらめっちゃリリックに用語入れてて(笑)。
PUNPEE - 最初はただ“戦う”ってテーマについて書いたほうがクールだなと思ったんですけど、書いていくうちに楽しくなっちゃって、どんどんリリックに入ってきちゃったっていう(笑)。最終的に“ポケモン言えるかな?”の歌詞みたいになっちゃって。
石黒 - こちら側からも“こういう言葉を入れてくれ”みたいな注文はあえてしていなかったんですが、形になったリリックを見て“これはほんまもんやな”と思いましたね。
- いろんな引用が散りばめられてて、一聴して筋金入りのMTGプレイヤーであるのがわかりますよね。
JJJ - 自分としては“ぶどう弾”って言葉を入れ込めてよかったです。2007年にあったMTGの大会の動画を昔から見てるんですけど、その動画で“ぶどう弾”を使って、勝負を1ターンで終わらすプレイヤーがいて。
石黒 - “ぶどう弾”は単体では弱い呪文なんですけど、条件次第でそれを連打できるっていう仕掛けがあるので1ターンで勝負を決められる可能性があるんですよね。
JJJ - そうなんです。その動画は本当に神回なんで興味がある人はマジで見てもらいたい。初期の大会の動画って、色々と熱がすごくて知らないひと向けに解説がすごく丁寧で。その回がおもしろすぎて、ほかの動画はあんまり見てないくらい。PUNPEEくんは好きな動画とかありますか?
PUNPEE - 自分も作りたいデッキの動画を見たりするかなぁ。あと海外ではPost MaloneもMTGやってたりして、彼が対戦してる動画が上がってたりするんで、それを酒をチビチビ飲みながら見てるかな。おじいさんが囲碁とかを見てる感覚に近い。
- ハハハハ。たしかにいまの世代が高齢になったら、囲碁や将棋がMTGになってる可能性はありますよね。
PUNPEE - ですよね。古典的なゲームとして。以前、カナダに行ったときにカードショップに入ったら、片隅で50歳くらいのひとたちが酒飲みながらMTGやってて。そういう風景もこれから日本で見れるかもしれないっすね
- 頭を使うゲームだからボケ防止にも効果がありそうですし。さて、本題に戻りましょう。PUNPEEさんはドリルのビートスタイルでのラップは今回がはじめてですよね。ラップの作り方としてこれまでとちがいはありましたか?
PUNPEE - 自分としてはパズルを組み立てるって感じですね。自分が慣れ親しんでるBPMでもないし、いろんな言葉をここだったら当てはめられるなって感じで書いていった。
JJJ - それ、すごいわかります。このBPMってそうなりますよね。
PUNPEE - 今回イメージしたのは最近のドリルビートのラッパーっていうよりも、前からいるベテランのグライムのアーティストとかですかね。自分の時代のフローでうまいぐあいにおとしてく感じ。
JJJ - 自分はドリルだとM1LLIONZとHAZEYというラッパーがすごく好きですね。ほかのラッパーとちょっとカラーがちがくて。ドリルって低音の声でゴリゴリにライムしてくイメージが強いんですけど、M1LLIONZやHAZEYは高い声で淡々と進んでくところがすごい好きで。あと、M1LLIONZに関しては言葉を置いていくポイントが普通じゃなく、リズムの取り方だったり跳ねてる感じがオリジナルだなと思ってます。リリックもかっこいいです。
- なるほど。そして今回シングルのジャケットは実際にMTGのカードアートを手掛けてきたアーティストが描いています。
PUNPEE - そう。今回ジャケットデザインをやってくれたアーティストはMark Pooleさんっていう、自分がいちばんプレイしてた時期にカードのデザインをしてたアーティストで。だから実際に自分が使ってたカードのモチーフもジャケに入れてくれてたり。
JJJ - “極楽鳥”とかを描いてたひとですね。“極楽鳥”、中学生のころにめっちゃほしいカードでした。
PUNPEE - あとは“嵐の運び手”とかも描いてる。
JJJ - やはり絵柄で惹かれてMTGやってたところもあるので、当時のアーティストにジャケを描いてもらえたのはうれしいですね。あと、今回のこの仕事を兄に伝えたところ本当にめっちゃ喜んでくれて、毎日この曲聴いてるって連絡がきて本当にやって良かったと思いました。呼んでくれてありがとうございました。
- ありがとうございます。楽曲にまつわるお話はだいぶ訊けたかと思います。あとはおふたりにお気に入りのカードの話などを伺って……。
(※このあとふたりによるさらにディープなMTG談義が長時間続いた。そこでふたりがチョイスしたお気に入りのカードについては以下で紹介する)
■PUNPEE編
《ミシュラの工廠/Mishra's Factory (Winter)》
バージョンちがいがあるのを知ったとき、めちゃくちゃ上がった記憶があります。シンプルにイラストもカッコいいです!
《Mox Emerald》
緑のデッキを作るのが好きだったし、デザインもとても好きなので購入してしまいました(白枠)。これで(ネックレス)ヘッドを作りたいぐらいですが、この量のエメラルド買ったらいくらなんだろうか……。
《ゴブリン斥候隊/Goblin Scouts》
このカードもそうなのですが、コミックアーティストがイラストを描いてるものがあって自分の好きなものとリンクしていて上がるときがあります。これはGeofrey "Geof" Darrowというアーティストで、ほかにもSimon Bisley、Bill Sienkiewicz、プロモアートをJae Leeというアーティストが手がけたものがありました。
■JJJ編
《停滞/Stasis》
絵がかわいい。
《マスティコア/Masticore》
名前が好き。
《飛びかかるジャガー/Pouncing Jaguar》
切札勝舞がむかし使ってて当時かなり憧れてました
Info
Artist : PUNPEE, JJJ
Title : Step Into The Arena
Format : Digital Single
Release Date : 2022/04/13
No. : SMMT-179
Label : SUMMIT, Inc.