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tofubeats Interviewed by in the blue shirt | 『REFLECTION』をめぐる雑談

tofubeatsが今月リリースした4枚目のアルバム『REFLECTION』は、これまでハイペースでアルバムをリリースしてきたtofubeatsだが、前作『RUN』から4年のスパンをかけて制作された。同時発売された初の書籍『トーフビーツの難聴日記』で明かされたように、今作は突発性難聴を発症したことをきっかけに鏡というテーマが導き出され、制作が進んでいった。

プロデューサーにとって最も大事な器官である耳の病気を患ったこと、さらには上京や結婚といった環境の変化や、またコロナ禍という風が吹き荒れる中で、このアルバムはtofubeatsらしさを全く失ってないどころか、さらにその純度を高めた作品であるのは間違い無いだろう。

誰しもが戸惑う状況の中で、tofubeatsはなぜこれまで以上にtofubeatsらしい作品を発表できたのだろうか。『トーフビーツの難聴日記』を草稿段階から読むことのできた数少ない1人であるプロデューサーのin the blue shirtとの対話から解き明かす。

取材 : in the blue shirt

撮影 : 盛島晃紀

構成 : 和田哲郎, namahoge

tofubeats -  基本的な応答に関しては本の中でもやっているから、もはや雑談の方が大事という可能性もある。

in the blue shirt - 雑談しすぎると迷惑かかるのでは。

tofubeats - 原稿書くのが大変ってだけじゃない。

in the blue shirt - あまりにもとっちらかって、この内容を記事にするのか、ってなったら嫌やなみたいな気持ちはちょっとあったんすけど。

- そっちの方が面白かったりしますからね。

in the blue shirt - 本懐は雑談なんで面白いとは思いますけどね(笑)。どうやってスタートすればいいのかわかんないですけど(笑)。

tofubeats - 録音はぬるっとされているから。で、和田さんはほんまにこういうぬるっと録音されているところを書き起こして、平然と送ってくるタイプの編集者やから。

-(笑)。

in the blue shirt - でも、アルバム作り出して長かったですよね。日記を書きはじめて、我々に日記の閲覧権限を与えてから今に至るまで、まあまあ長かった。Evernoteで少なくとも2018年後半か19年からは共有されてたじゃないですか。

tofubeats - 書き始めて半年後ぐらいにはもう閲覧権限を付与してたんじゃないかな。

in the blue shirt - その時点で鏡をテーマにとは書かれていて。ここまでもずっとコンセプトにありきでアルバムを出してきてると思いますけど、4年空いての作品じゃないですか。しかもテーマがかなり早い段階で決まっていて、テーマを元にずっとやってるっていうのも、今までにない。ただ、こういっちゃなんですけど、創作物において鏡ってよくあるモチーフではあるじゃないですか。「その心は?」というのを日記読みながら思っていたんです。めちゃくちゃざっくり言ってしまえば鏡をテーマにした作品って、異世界へ行くための装置的に使ってるパターンと、自分が映るという自己観照的なメタファーのどっちかが多いじゃないですか。今作は『不思議の国のアリス』的な、鏡の向こうが異世界みたいな話ではない。鏡を、自分の真実を映し出すものとして見ているのか、「見えない自分が」みたいな書き方してましたけど、ありのままが映っているのか、虚像の成分があるのか、どっちとして捉えているのかアルバムを聴いても分からなくて。

tofubeats - それはどっちもで。そもそもなんで鏡がおもろいかっていう風に思ったかっていうと、鏡の中に映ってる自分を、確かに現実が映ってるねんけど、それを今の自分が感じている現実と同一と思えない、みたいな話。で、そのズレをテコに自分自身を考えようっていうのが、鏡がおもろいなって思った最終的な意味なんよ。鏡をテーマにして、いわゆるベタなテーマにフォーカスしていこうっていうよりかは、これまでやってたような、自分自身を理解するみたいなセラピー的なことを、今回は鏡をテコにやろうって決めた感じ。

in the blue shirt - だから、像的にはありのままが映ってるけれども、これが俺なんか、俺はこんななのかか、という戸惑いがある。

tofubeats - それが理解できないし、実際に形而上学的な話でさ、認知が不可能やん。人間はさそれを実際に感じられないやん。それが困った、ヤバイ、嫌だ、みたいなところからスタートして、最後はメタ認知みたいなのが完成するみたいな。それによって、矛盾を抱えても生きていけるみたいなメタファーになってるわけよ。そういうのができるようになるための4部構成になっている。

in the blue shirt - そういう意味では、どちらかというとtofuさんってメタ認知に長けている側の人間ではあるじゃないですか。にして、なおそのズレが気になるっていうのが結構怖いことやなとも思ってて。

tofubeats - やっぱ難聴がきっかけだったよね。最初の時点ではだいぶ聞こえていなくて。聴力がガツンと落ちた時には、左耳がほんまに普通に暮らしてて気づくぐらい聴こえへんかったよ。でも、鏡を見てても耳が聞こえないヤツ感が一切しないわけよ。それがヤバいなみたいな。それって翻ると人に対してもそうやっていうことやん。実際に本の最初の方にあるエピソードで、結構俺の中で大事なエピソードがあって。SKY-HIの日高くんが耳聞こえてなかったって話。日高くんが片耳聞こえてないって、これまで1ミリも感じないで生きていた。めっちゃ普通に接してて、なんなら何でもできるかっこいい人やと思っていたけど、よくよく調べたら、それでサッカーを諦めて音楽やってるんやって気づいて。何にもわかってなかったんだと。その難聴後の半年でダニング=クルーガー曲線的な、俺は何も分かっていなかったっていうのが完全に来たのよ。ガツンとそこまで落ちたぐらいのところで日記を公開しだしたって感じよな。そっからはもう上がっていくだけという感じだったから。

in the blue shirt - そもそも、ズレの話でやばいなと思ったのは、アーティストって言っちゃ悪いですけど、虚像を築くことが仕事みたいなところあるじゃないですか。夢を見させるっていう言い方をするとポジティブですけど。ヒップホップのボースティングほどはいかないけど、天才肌的に見せるとか、アーティスト然とするとか、そういうデカく見せるというのは戦略としてあるじゃないですか。それを、日記を出すことによって世間の思うtofubeats像を実像に寄せていくみたいなことを積極的にやってる人ってマジでいないなと思ったんすよ。

tofubeats - でもやっぱそこに関しては頑として昔から否定があるよな。有村くんとか分かると思うけどさ。(石野)卓球さんってインタビューで「身の丈を理解する」みたいなことをめちゃくちゃ言うのよな。そういうのにめっちゃ影響を受けた。嘘つくのがいいことか悪いことかみたいな倫理観の話になっちゃうねんけど。日記にも書いたけど、音楽やっててさ、その像と本当のものが違うってわかった時、俺はやっぱショックやったんよね。自分が憧れてる音楽作ってる人で会ったらめっちゃクソみたいなやつやったみたいな話が。有村くん、科学とか好きやんか。

in the blue shirt - はい。

tofubeats - あれとかさ、どっちかっていうと実直の先にやるもんやん。

in the blue shirt - そうすね、すごそうな人がヘボかったってことはシステム上起きないですよね。

tofubeats - そうそうそう。そこまでじゃないねんけど、文系としてそういう性みたいなものに対する畏敬の念があるから。だから、音楽を通してそれになりたいっていう憧れもあるよね。シンプルに積み上げていけば遠くに行ける、みたいなことを、いわゆる科学的じゃないことでもできるというのが芸術の面白さやって俺は思ってるのよ。

in the blue shirt - 2022年時点でのtofubeatsの進捗こうなっています、前回との差分はこうなっておりますみたいな。

tofubeats - てか、DTMって普通の作曲と違うのはそこやからさ。差分が超見えるっていうのが面白いわけで、それを全てに適用していくとこうなっていくかなっていうのは思うことかな。

in the blue shirt - でもそれってすごくないですか。運転するならドラレコ回すやろ、じゃあドラレコ見返したら運転の上達見えるやろ、みたいな話ですけど、実際に運転の上手さを見せるのにドラレコ出してくる奴っていないじゃないですか。

tofubeats - たしかにな(笑)。

in the blue shirt - ドラレコ渡すよりも、口で「俺はマジで運転が上手くて」って普通喋るじゃないですか。だから、それをやろうとしている人が意外といなくて、そこが「tofubeats一人にこんな大変なことを……」みたいな気持ちはあるんすよ(笑)。やっぱりみんな自己を上振れさせたいじゃないですか。積極的に嘘ついて「秒速で1億稼ぎます」みたいな意図的な上振れはそういう商売だからもういいけど、勝手に周りが上めに取るのは別に良くないですかって僕ちょっと思うんすよ。

tofubeats - 人ってやっぱ怠け者だからさ、それは最終的に、後者の上振れも前者の上振れに近づいていくって思うけどな。これに対するこだわりみたいなのってむずいけど。若い時にメジャーの育成部門にいたっていうのも結構でかい気がしていて。オーディションで受かってメジャーデビューしていくようなバンドと自分の違いって何なんだとかを、常に突きつけられてたっていうのはあるかな。ライブハウスで、DJとライブの差って何なんだとかさ。基本的にはその場でパッと虚飾を出せる奴が強いって現場にずっといさせられていたわけよ。今もそうやん、ラッパーばっかおってさ、ラッパーがすごいみたいな感じになっているところにずっといさせられて。でも、そういうとこで輝ける人ばっかりじゃないし、それだけが音楽の魅力じゃないやん。昔から人よりも強く感じさせられてる、というかそうなりたくないっていうのが強いっていうかさ。丸裸でそこの情報量を超えられるんやぞっていう、地肩を高めるみたいなことに、やっぱりどっかから変わってる感じはあるかな。

in the blue shirt - 例えばですけど、R-指定さんとか川谷絵音さんとか、ああいう人たちがテレビに出る時って、すごさをみんなに分かってもらうために即興で何かをやらされるじゃないですか。すごい人はTop of the headでできるのがすごくて、みたいな。家でじっくりしこしこやる奴の価値が軽視されているみたいなことがありますよね。tofuさんが是としていることって後者じゃないですか。

tofubeats - それがどんどん過激になっていってる。小説読まなくなって人文書ばっかり読むようになってるとかも近い話だと思うねんな。研究者とかそういう人に憧れを抱くようにどんどんなってきている。あと有村くんが朝永振一郎を紹介してくれたことが結構でかくて。

in the blue shirt - 嘘をつかないことの最大のメリットって、継続に必要なことじゃないですか。嘘をつき続けて死ぬのって結構不可能じゃないですか。長期的に何かを誤魔化し続けるって可能かもしれないけど、やっぱり限界がある。継続に重きを置くと、嘘はつけなくなるなって。

tofubeats - 当初から音楽を長くやりたいっていうのが、自分の中でだいぶ決まってた目標やから、そこから逆算していくとこういう風になるのかも。ファストライフってのは全く想定してなくて、どんだけ長い趣味としてこれをできるかって考えたときに、いわゆる誠実さみたいなのはめっちゃ大事なファクターやな。さっきの話に戻るけど、小さい嘘とか虚飾とかを利用したら、命が短くなるっていうのも、長くやればやるほどわかっていくわけよ。『FANTASY CLUB』の時は、やっぱり俺の方がダメなのかなって思うことが何回もあって。こういうスタイルではやっぱりダメかもしれんと思って、『RUN』に戻ったりとか、自分に自信が持てるかっていうところのブレがあってんけど、30歳まで続けてくると、一緒に始めた世代の人がある程度整理されてくるやん。そこで、これでいいんやな、とか、これでしっかりやろうみたいな風に、ちゃんと思えるようになったってのは今回デカかったかな。あと特にコロナで、みんながブレたやん。自分とかは、「風強い」ってなったけど、一切土台が揺れへんかったってのは感情として結構大きくて。

in the blue shirt - 確かにコロナがきたからといって自分の根幹のスタイルを変える必要はほんまにないっすよね。だってそのままなわけじゃないですか。

tofubeats - やし、人前でやらなあかんけど、それができひんくなって辛いとか、これをやらないと自分の魂が死ぬみたいなことが一切なかったわけ。びっくりするくらい。もうちょっとあれよと思ったくらいなかったのよ。

in the blue shirt - (笑)。そういう意味では、コロナのあれこれよりも耳が聞こえんくなる方が百倍由々しき事態ですよね。想定していた継続に対して急所を奪われるっていうことじゃないですか。

tofubeats - そうそう。でも、耳聞こえなくなった時に、TACのサイトをすぐ開いたっていうところがtofubeats的な最たるエピソードでさ。でも、こういうタフさがあるってこともわかったっていうか。これもやっぱり音楽を通じて得たタフさやと思うんよ。物事を習得してここまで来れたっていう経験が一個あるだけで、それでやっていけるんだなっていうことに気づいて。いいこともめっちゃあったよね。

in the blue shirt - 耳が聞こえなくなったことによって?

tofubeats - そう。鏡を見てヤバイみたいな話もそうだし、いやな言い方やけど、ご縁的な? 逆境でっていう。

in the blue shirt - あー、ピンチをチャンスに、みたいな(笑)

tofubeats - あとはその「ピンチをチャンスにせねば」って精神も育っていることに気づかされたんよ。

in the blue shirt - そうですよね。

tofubeats - そこで、ほんとに口が軽い俺みたいな奴が半年黙って日記を書いたってこと自体がめっちゃデカイからね。

in the blue shirt - たしかにビビりましたよね。難聴日記っていうタイトルで、難聴だったんだっていうリアクションがまず世間的にはありますよね。

tofubeats - tofubeatsが4年間黙ってたことなんてないと思う(笑)。でも、それをあの購読メンバーをはけ口にすることによって、世間に黙っておくっていうこととかも、二十歳とかではできなかったかなって感じかな。

in the blue shirt - 逆に世間に言わなかったっていうのはどういう意図だったんですか。

tofubeats - 普通にステークホルダーが増えてるのもあったし、ワンマン前でちょっと忙しい時期ってのもあったんよ。広告の仕事もあるしあんまり大々的に公表したりすると、決まってる仕事に支障が出ちゃうっていうさ。

in the blue shirt - 走っているから止められへんっていう。

tofubeats - 落ち着いたら言って普通に休んだりもできるかなって感じやったのが、ほどほどに落ち着いて、まあぬるっと、コロナにもなったし。って感じかな。耳が完全復帰やなって思ったときにコロナになったから。

in the blue shirt - こういう時期にアルバム出すと、コロナの影響が、みたいな話に絶対なるじゃないですか。もの作る上で影響ないわけないか。そういう意味では、そんなにないっすよね。

tofubeats - 自分はそうやな。どっちかっていうとコロナの状況下の他のアーティストの動きとかは影響でかかったかな。自分はパワーがあるからこうやってじっとしてられるっていうのは全然あるやん、これまでの蓄えっていうか。

in the blue shirt - パワーっていうのはどっちもっすよね。スタイル的な話もそうですし、蓄え的なものもそうですし。

tofubeats - ただ記録として、コロナと関係ないアルバムにするのは自分的にはダサいことだと思ったから。

in the blue shirt - 次に聞きたいのが、最初はアイデアレベルで鏡でいこうってなった時に、アルバムのギミックみたいなものをどれぐらい決めてたのか、ギミックっていうとちょっと言い方悪いですけど、何ですかね。1曲目”Mirror”から始まって最後”Mirai”の中村佳穂さんの声のサンプリングをしていて、アルバムの最後で収録曲のエディットして、みたいな仕掛けは過去作でもやっていましたけど。このアルバムの全体の構成みたいなものって、どのレベルまで当初から決まっていて、どの部分がコロナとか外的要因によって変わったのかなって。

tofubeats - まず、『TBEP』が出た年の年末に出すっていうのが一番最初のスケジュールやったんよ。だからその時点では”Keep on Lovin' You”もばりばりアルバム入れる予定やったし、”クラブ”とかもなんならアルバムに入れるのを目標で作ってたんやけど、そこから1年遅れた段階で、クラブっていう要素を取ろうってなったわけ。今の四部構成で”REFLECTION(feat.中村佳穂)”で終わろうっていうのはあの曲ができた去年の年明けくらいやから。それまでは仮題が「Mirror」で進んでて、メモとかのタイトルも、そうはならんやろうと思っていたけど「Mirror」やったんよ。

in the blue shirt - 「Mirror」が主題であることには変わりないですからね。

tofubeats - 去年の1月とか2月には”REFLECTION(feat.中村佳穂)”のデモがほぼ仕上がって、この曲がゴールやなみたいになったわけ。前回の『RUN』の時の”RUN”ができたみたいな感じ。『REFLECTION』で行こう、”REFLECTION(feat.中村佳穂)”で終わりじゃなくて、最後の曲は別で作る。頭が錯乱状態で、それからまとまっていくって流れはそこでもうほぼほぼ決まったかな。

in the blue shirt - どこまで錯乱してるんすか。”REFLECTION(feat.中村佳穂)”までは錯乱しているんですか。

tofubeats - いや、”REFLECTION(feat.中村佳穂)”はもう錯乱してない。てか、矛盾しているって分かって生きているって感じ。

in the blue shirt - “Okay!”ってそういうOKなんですか。

tofubeats - 「Okay!」はもうちょっと偶然みたいな感じで、1曲目で使ってる「OKです」っていう音声。あれは日比谷ミッドタウンの壊れた駐車場の音声なんやけど、駐車場自体がむちゃくちゃ壊れてんのよ。朝の10時、仕事で朝から行かなあかんくて、全然ガラガラやったんよ、その駐車場。ほんで客は俺しかおらんくて、エレベータ待ってたら、機械式駐車場がむっちゃ壊れてて、6人くらい技師が来てて、「OKです、OKです」って音声が鳴りやまんくなってる。OKじゃないのにずっとOKと流れてて。

in the blue shirt - どこがOKやねんっていう(笑)。

tofubeats - で、それを横目に俺がエレベーターに乗っていくっていう時の音声をまるまる録ってんねんけど。その感じが、まさしくそういう気持ちと合うな、みたいになったんよ。

in the blue shirt - それはアルバムを聴いていて汲み取れない情報じゃないですか、完全に(笑)。

tofubeats - そんなのはお客さんは汲み取らなくていいよ。やっぱりそこは俺のために作っているからさ。だから、”Mirror”って曲はもともとも入れへん予定で、もっとしょぼい弾き語りのデモしかなかってんけど、その音が入って、矛盾の感じが超出るな、みたいになったんよ。それでできたっていう感じなのよね。

in the blue shirt - そういう話を聞いていると、tofuさんってこの4年間でずっとヤバいっていうか、調子悪い時期があったんですか?

tofubeats - 難聴直後は調子悪かったけど、でも、精神的には全体的にずっと調子はいいよ。あと、やっぱり結婚もあるかな。上京したし。精神的にめっちゃ落ち込んでいるみたいなことはなかったかな。

in the blue shirt - じゃあ静かに怒っているみたいな。怒っているとは違うけど……。

tofubeats - 虎視眈々と次は気合が入ったアルバムにするぞ、ということだけはやっぱりずっとあったから。なにか分からない仮想敵への負けへんでという気持ちだけが。

in the blue shirt - 永遠の仮想敵。このインタビューがあったんで、一枚目から順番に聴いていって。日記とか読んでいると今作はtofuさんがメンタル的に大きく変わったなって思ったんすけど、過去のアルバムを聴いていると別にそんなに昔から言ってることマジで変わらんなって思ったんすよね。日記と合わせて今作を聴くと、シビアやなって思う時とかけっこうあったんですよ。昔のアルバム聴いていてそういう印象を持ったことがなかったんで、言っている歌詞の内容も変わっているのかなって思って聴き直したんですけど、変わっているっちゃ変わっているけど、別にそんなに変わっていないなって。ずっと。

tofubeats - なんならむしろ、昔言いたかったことを精度高く言えてるなって印象が自分にはある。

in the blue shirt - そうそう、だから言っていることは同じだけど、言うのが上手くなってるっていうか。そういう意味では理想的な状態ではありますよね。的に向かって投げ続けていて、コントロールだけがよくなっている。

tofubeats - ほんまにそうやと思う。あとは、それを調整する時間が過去作と比べてもとにかく長かったっていうのがあるね。『FANTASY CLUB』で1年かけて長かったって言ってたけど、今回は4年かけているからね。そりゃあコントロール良くなるよな、みたいなのも思う。

in the blue shirt - でも、やっぱりだいぶ投げすぎておかしくなってる感じ出てきましたよね、さらに。もともと『FANTASY CLUB』でだいぶ来てましたけど、さらにおかしなことになってきてますよね。同じところに投げ続けてるやつ感が。

tofubeats - 昔から言っているけど、俺はそれしか目指してないから、そうなりたくてこうなってる。さっきのインタビューでも言ってたけど、イルリメさんみたいな、ああいうどこにでもいるし、でもどこにも属して見えない人みたいなのを、超理想としてるから。

in the blue shirt - イルリメさんって的は一緒ですけどフォーム変わるじゃないですか。

tofubeats - ああ、でもフォーム変えているつもりよ。まあ、器用ではないからね。

in the blue shirt - 実際、ここまでソロアーティストで一人で続けている人ってあんまりいないっすよね。だから比較対象も、もはやあんまなくなってきたところは結構あって。

tofubeats - 上の世代にはいっぱいいるけど、自分の世代いないよね。

in the blue shirt - 別にソロでアルバムを出すことは珍しくないですけど、だいたい例えば、生演奏のバンドやったら、演奏箇所を全部1人で弾くことってあんまりないから、他者を入れるじゃないですか。今回も客演がいますけど、そういう意味でそんなに遠くの人を呼んでいるわけではないじゃないですか。だから1人で作っていることの美しい部分と、やっぱり大変な部分と、みたいなのは聴いてて同時に来るなってすごく思いましたけど。

tofubeats - なるほどね。

in the blue shirt - 実際、そういう他者の介入みたいなのを今後許していく予定はあるんですか。

tofubeats - 今回はわりと、前作に比べればだいぶ許してる。ただ、他者が考えたことを言わせるっていう意味では、今回は過去のどれとも違うんよ。

in the blue shirt - 自分の言いたいことを言わすためにとかじゃないですもんね。

tofubeats - そうそう。それだったらやっぱ呼べないなって前作でなっちゃって。でも他者を入れようと思ったら、どうやって呼ぶかといったら、他者が歌うとこは全部他者に考えさせる、っていう。だから本当の意味での客演。UG Noodleさんはテーマすら渡してないし、Neibissもトラックしか渡してないし、テーマすら与えない。そのときにそいつの言いたいことを言わすっていう(笑)。

in the blue shirt - UGさんもNeibissの2人もほぼ本人の感じですもんね。

tofubeats - あと、それができる人しか呼べないなっていうのがあった。Kotetsu Soichiroさんもそうやけど。自分自身のフォームで、自分自身のストライクに向かって投げられる人。Neibissがなんでおもろいかって言ったら、ratiffもhyunis1000も全然トレンドに向かってなくて、自分の思っている方に一直線に向かってる感じが、俺はむっちゃ好き。UGさんも。でも、ミュージシャンっていうのはさ、これができるやつは、自動的にどんどん自分で自分を磨くことができるけど、これができなかったら永遠に、他人の評価とかでしかモノが作れない。そういう人は絶対どこか止まっちゃうっていうのが、なんとなく肌感としてあるから、できる人を呼びたいってのはずっとあるけど。それが前は先輩やったのが、後輩になってきたっていう感じかな。

in the blue shirt - この前Maltineのイベントがあったんですけど、tofuさんにMaltineヤングの皆さんをマジで見て欲しかったっす。

tofubeats - いろんなヤングから「もちろん来るんですよね」ってめっちゃ連絡来て、ほんまごめんな俺行かへんで、って(笑)。

in the blue shirt - マジでtofubeatsの意思が継がれているっす。

tofubeats - めっちゃカバーとかされていてウケてんねんけど。

in the blue shirt - いやカバーとかじゃないです。tofubeatsのカバーするやつって世にごまんといるじゃないですか。

tofubeats - そこには”水星”と”LONELY NIGHTS”以外のカバーをするやつがおるやん(笑)。

in the blue shirt - 選曲とかもそうなんですけど、カバーの底にある意思を継いでいる性がすごくあって。これが歴史かあ、みたいな(笑)。tofubeats系列のツリーを感じましたよ。

tofubeats - ありがたいね(笑)。まあちゃんとゲートドラッグとして機能してるんやとしたら、俺が思っていたメジャーにいってよかったなっていうことは、ほんまに達成が1つはされたなとは思うかな。

in the blue shirt - ようやく可視化されたんですよ。tofubeatsの意思というか、tofubeats軍団みたいなもので共有されているムードが、完全に内輪ではなくて外の若手に継承されているっていうのが、個人的にはアツかったです。

tofubeats - 嬉しいなあ。でもやっぱ、ハードなやつが増えるのはいいことなのかという迷いも俺の中にはあるんですけど(笑)。これにみんな耐えられるとは思わないから。

in the blue shirt - tofubeatsがメジャーに行ってから今に至るまでって、そういう意味ではハードでしたよね。

tofubeats - いまだにそういう意味ではマイルストーン的なものはないしね。

in the blue shirt - 本当に、メジャーのフィールドでtofubeats軍団が出来てほしかったんすよ、僕は正直。

tofubeats - それができてないなって思ったから、『FANTSY CLUB』ができたんよな。それで『FANTASY CLUB』出して、やっぱり無理やったか、一人でやるしかないなっていう。それは仕方ないし、テイさんから話聴いていても、やっぱそうなんやって思ったんよな。テイさんと楽屋で話していて、30年くらい経たないと自分と話せるいい感じの若手って出てこないね、みたいなことを酔っ払って言っていたんよ。たしかにちょうどテイさんの30くらい下か、俺、って。でもそうやって考えたら、あんまり焦ることもないなってことも思うんよな。歳的にもトレンドから離れたしさ。

in the blue shirt - 年齢とトレンドの感じってあんまり関係ない気がしますけど。

tofubeats - いや、自分的にね、自分がもう追う立場じゃなくてもいいなみたいな。4枚もアルバム出して、これだけある程度地盤が整ってたら、投げたいように投げても別に説明いらんやん。

in the blue shirt - 世間への目配せみたいなことももうする必要ないですもんね。

tofubeats - そうそう。自分的にそれがトレンドを追うことやったりしたから。あとは制作期間が長いと一切意味なくなるから。そこをいい意味で気にしないでいけたから、ほんまに今回良かったね。もう自分のフォームだけを、山奥で見るみたいな。それに俺と、こういう時にその気持ちを共有できる人っていうのが、かなり近しいアーティストでもいなくなったっていうのは結構でかかったかなあ。

in the blue shirt - 僕とかは仕事をしているから、真の意味での理解者にはなられへんみたいなとこあるじゃないですか。あともう一個、コロナでなるべく人に会わんとこ、感染すのも嫌やし、っていうシンプルな理由でtofuさんってほんまに人に会わなかったじゃないですか。ほんまに仲良い人とかでも外で会うみたいな。音楽関係者を除いた知人レベルでも、そこまでした人はほんまにいないですよ。コロナの時期にクラブに行くなんてあり得ないでしょって世間のムードがなった時って確実にあったじゃないですか。それから学校で流行りだしたじゃないですか。大阪とか子どもがどんどんコロナになったんですよ。そうすると、おのずと家族も感染するので、会社勤めのサラリーマンもコロナになるフェーズがあったんですよ。私の観測範囲でコロナになっている人って、最初は音楽関係者ばかりだったけど、それがだんだん普通の人もコロナになりよって、コロナ感染回避を真の意味でやっているのはtofubeatsだけやってなったんですよ(笑)。誰にも会わないってことが正解やってわけではないですけど、なるべく人には感染さんとこう、っていうのをやりきっているのはすごいことだと思います。

tofubeats - そういう人は活動してないから見えてないだけで他にもいるとちょっと思うねんけど。そういうのを置いておきたいっていうのは、日記のモチベーションでもあったかな。自分はこれをやってたし、あとそうやってやってて世に出てない人に対して、少なくともいいことだよってことも伝わるやん。

in the blue shirt - 同志への旗振りみたいな。

tofubeats - 俺もそれをやることによって同志からのメッセージを受け取ることもあるだろうし。そういう時のセラピー的なところでも日記ってでかかったかなと思うよね。

in the blue shirt - まだ見ぬ同志に対して熱いメッセージを送ってるみたいなんがありますもんね。そういう意味では、昔に比べても大きな変化はないですよね。今作においてもモードがめちゃめちゃ変わったっていうのはないですよね。

tofubeats - 淡々と俺は自分のやるべきことをやってるとは思うかな。これで大きい変化があるかどうかはもう世の中次第かなと思うんだよ。運がいい悪いとかにもなってくるかな。

in the blue shirt - そういう意味では、この作品に対してのリアクションってどれくらいを想定してるんですか。

tofubeats - 今回は本があるからちょっと期待してるところもあるけど、『FANTASY CLUB』出した後とかに、やっぱり期待しすぎてたなってめっちゃ反省したよな。

in the blue shirt - そんな話もしていましたね。

tofubeats - あれが出た時の反応が一番落差があって。でもやっぱりこれよくないな、みたいな。無意味な期待だから、極力やめようとそれ以降は思ってるかな。ただ、置いとくことによって未来に何かが起こるかもしれへんっていう気持ちは大事っていう感じ。

in the blue shirt - 期待が大きすぎて結果をみて、嫌になって辞めちゃうっていうパターンってあるじゃないですか。そういう意味では、辞める気配のなさみたいなのは、すごい力になる。アルバムを聴いて一番ポジティブな気持ちになるところかなって。

tofubeats - 『FANTASY CLUB』の後はだいぶやられてたから。これだけ頑張ってもこんなもんか、みたいなのはやっぱ思ったけど、でもそのあとにそれはそうかとも思った。それは興味ないよな、みたいな。っていう話は日記のあとがきにも書いてる話かな。誰が興味あんねん、みたいな(笑)。ヤナギブソン状態(笑)。

in the blue shirt - 大衆の母数で言うと誰が興味あんねんって話であって、それは特定の層においては、それしかないってものになるわけじゃないか。

tofubeats - あとはやっぱり、自分みたいな奴がいるメジャーといないメジャー、どっちが好きかって言われたら、いた方がやっぱりいいから頑張ろうみたいに思うよ。こういう人がいなすぎる。俺はやっぱり音楽を始めたとき、インターネットでやればやるほど同志が増えていくっていうことを喜びやと思ってたから、この30代のフェーズは大変ではあるよね。

in the blue shirt - みんなライフステージ的にぶち当たるっていう、音楽とか関係なく年齢的にそういう感じではあるんでしょうね。遊ぶ友達が減っていくとか、そういうのは誰しもあると思うんですけど、それと音楽やめちゃうひとが増えるタイミングが、ちょうど重なってより感じてしまう。マルチネ初期のころは同志が増えていく感がやばかったですからね。

tofubeats - そこはやっぱり朝永振一郎の本とか読むと、同志じゃないけどこの感じアガるな、みたいな。頑張ったやつにはいいゴールが待ってることはあるねんな、ってことをめっちゃ感じたよね。

in the blue shirt - いいゴール待ってるってのもそうですし、頑張り続けたってことの軌跡が書かれていること自体がもういいゴールだから、それでアガってるっていうのは確実にあるっすよね。

tofubeats - ほんまによかった。全然科学のこと分からんけど、ただただ日記文学としてすげえいい本やと思ったで。

in the blue shirt - tofubeatsを思わされんですよね。

tofubeats - 逆やろっていう(笑)。

in the blue shirt - そうなんですけど、tofubeats的な苦悩みたいなのが、国吉康雄さんの生い立ちが抱えている苦悩みたいなのと重なるなと。あと、科学者あるあるで、自分が本当に心から興味関心を持って突き詰めて手に入れた成果が、戦争に転用されて病んで死ぬとか、科学者あるあるなんすよ。

tofubeats - 科学者あるあるスケールでかすぎるやろ(笑)。

in the blue shirt - 大戦期の1900年代なかばくらいの科学的な偉人って、だいたい戦争利用との戦いというか、望まれない形で自分の功績が世に出てしまうというパターンがめっちゃ多いですけど、だから、そういう苦悩の性質が似てんなって思ったんですよ。

tofubeats - たしかにそうかも。音楽で起きるそういうことって、それに繋がってるって俺はやっぱ思うのよ。音楽が軍歌っぽく使われるのは、科学が戦争に使われるみたいなことと一直線に繋がってると思ってて。

in the blue shirt - “朝が来るまで終わる事の無いダンスを”現象がこれはもうハーバー・ボッシュと一緒だなって思ったんですよ。

tofubeats - “朝が来るまで終わる事の無いダンスを”と風営法みたいな話で、J-POPとクラブミュージックの立ち位置がそういう感じで、J-POPっていうトップダウン性のあるものを、クラブミュージックみたいなボトムアップの精神性でやる。日記で俺が何に対して怒っているかっていうと、そういう「与えてあげましょう」「人を動かしてあげましょう」みたいな、感情を技術で動かしてあげましょうみたいな感じ。全部ムカついているのよ。

in the blue shirt - 感動の構成的には24時間マラソンのサライみたいなもんですよね。

tofubeats - マラソン自体は全然悪いことじゃないけど、それこそさっきの虚飾みたいなのと一緒で、自分をでかく見せるみたいなこととも似ているっていうか。それを技術とか、人がどうしても見ちゃう、強引に見せてやろうみたいなことに対して、基本的にムカついているって話。それもやっぱ最終的にはその戦争利用とかと繋がってるなって思うのよ。

in the blue shirt - ここ数年でスポーツとオリンピックじゃないですけど、トピックス的にもそういう出来事っていっぱいありましたもんね。スポーツそのものに対して興行的な側面というか国威発揚みたいなものとも一緒ですよね。

tofubeats - そういうところも、イシューとしてめっちゃ考えさせられていたかな。音楽をどういうものと思ってやってるか。これが、一番シンパシーを感じるのはムズいって話。J-POPをやっている同業者の人に、自分の音楽がなんで異端とされてるかっていうと、やっぱこの精神的な部分がたぶん結構違うんよ。

in the blue shirt - J-POPは好きやけど、今のJ-POPが持つマナーとは完全に違うものではあったっていうのがあるかも知れない。

tofubeats - あとはさ、そういう技術で人を感動させようとした結果、なんか出てしまうそういうやつみたいな。逆に俺は小室さんとかそれを感じるわけ。技術でやろうとした結果、なんか小室さんの人間性がめっちゃ出てるみたいなさ。

in the blue shirt - それは僕らが西野カナ好きなのと一緒ですよね。

tofubeats - あ、そうそう。西野カナはマーケティングで歌詞作るって言うやん。

in the blue shirt - マーケティングで歌詞作るとか言ってるけど、絶対ちゃう部分が出てもうてる。

tofubeats - そういうのがやっぱ面白さやねんけど。でも、これはやっぱりさっきの虚飾とかTop of headでできるかみたいな話で、TV番組で一朝一夕に見せれるものじゃないわけよ。それがやっぱムズい、大変、やりたくない、できないっていうところで、『ドライブ・マイ・カー』とか『シン・エヴァンゲリオン』があったってのもあるんよ。長いからいいっていうのがその時期に立て続けに出たわけで。やっぱり長いからいいってあるよな、ってけっこうポップな形で、アカデミーとエヴァンゲリオンやん。長くてもいいっていうのは映画でもできるわけよ。かつ、一般の人でも喜ぶ形で。しかもどっちも超絶クセあるよ。

in the blue shirt - 『鬼滅の刃』の映画がめっちゃ流行ったことで、鬼滅がすごく説明的で現代的なわかりやすいものとして捉えるみたいな話がありますけど、無限列車編を見ようと思うと、その前の漫画ないしアニメを履修しなあかんじゃないですか。みんな時間には耐えられるはずなのに、なんでなんだろうなっていうのはずっと思っている。履修に対しては抵抗ないのに、なんかインスタントな感じになるっていうか。これ雑談っぽくなってインタビューじゃなくなってくるんですけど(笑)、最近思ったのは、『100分de名著』って名著を100分で知るっていう番組があるんすけど、あれも長いものを短い時間で効率よく摂取したろうっていう、取り方によってはすごい嫌な感じの企画なんですけど、実際の取り扱いかたが結構ハードで、100分で分かるわけないよ、っていうのを常に言ってくる。

tofubeats - あれヤバいよな。イカつい。だって文庫本とか普通に読んでも3時間くらいよ。

in the blue shirt - 100歩譲って100分で分からせてやるよ、でも100分じゃ足らんよっていうのが、ヤバいなと思ったんすよ。こんな奴がおるんかって。

tofubeats - でも、いい音楽って基本的にそういう性質があると思っていて。奥にある何かを感じるみたいなさ、その『100分de名著』性があるわけよ。キャッチーなだけじゃないっていうかさ。

in the blue shirt - キャッチーなのとインスタントなのは一致しないですからね。

tofubeats - そうそう。そういうのを見聞きして、いいなあみたいな。俺もこうなりたいなあっていうのはあったかも。

in the blue shirt - まあ、結局100分に縮める前に名著を準備しなきゃいけないってところになるじゃないですか。ってなって、結局頑張ろうっつって、毎日曲作る、みたいな話になるんですよね。

tofubeats - そうやな。『100分de名著』、結果あれ読まされるんよな。

in the blue shirt - なんもズルさせる気がないっていう。

tofubeats - あれはいいプロモーション番組。めっちゃ思うわ。

in the blue shirt - テレビっていう業界で『100分de名著』をあの内容にするっていうのはかなりハードっすよね。時間制限に対してアジャストしているのは関ジャムみたいな感じになる。どっちがいいとかじゃないですけど。

tofubeats - でもあれもゲートドラッグとしては機能しているわけよ。

in the blue shirt - あれ見て聴きましたって人いるわけですからね。

tofubeats - tofubeatsは”水星”とか”LONELY NIGHTS”があるから『REFLECTION』聴いてくれる人もおるわけやからな。入り口はやっぱり必要で、力の加減として考えたりするかな。

in the blue shirt - 引き込んでほしいですからね。絶対数としてはもっといるはずですから。

tofubeats - やっぱりまだ、思っていた未来じゃない(笑)。Maltine Recordsが始まった時はこういう層ができると思っていたけど、ちょっと俺は今は感じられないっていうか。ヒップホップばっかりだし。

in the blue shirt - それはtofuさんが一人でやるはめになってしまったという現実は、我々サイドにも責任があるんで。我々と括るのもいいのか分かりませんけど。

tofubeats - でもまあ、有村くんは下やん。俺はもともと上の世代の中の一番下やったわけよ。ずっと末っ子でやってきたけど、気がついたら俺しかおらんやないかい、みたいな感じやから。そこは少し複雑というか、切なさがあるかな。

in the blue shirt - リリース単位では出し続けている人はもちろんいますけどね。メジャーというフィールドの問題でいうとやっぱり難しいし、同志不足という感じはある。

tofubeats - ここにいるっていうことに価値を感じている人が、もともとあんまりいなかったけど、よりいなくなったなっていう印象かな。

in the blue shirt - そう考えると、中村佳穂さんとかこのタイミングで呼んでいるのはいいですよね。中村さんもどんな気持ちでやっているのかわかんないですけど。

tofubeats - まあ中村さんは聞きたいよね。「清濁併せ飲んで」とか「有名税」みたいなことって、いらんからっていうのはずっと思ってるんよな。なんでそれをせないかんのかって言ったら、やっぱりそれをよしとしてる人がいるからやん。

in the blue shirt - そうですね。清濁併せ飲んでって、飲ます側のポジショントークではありますからね。

tofubeats - ほんまにそうなんよ。だって学者とかに嘘を言えってことないやん。

in the blue shirt - でもそれも今怪しくなってるっていうのがありますよね。

tofubeats - それをやっぱり憂いてるっていうか好きじゃないから、自分もあんまりかなと思ったりするかな。

in the blue shirt - コロナのアンチ専門家みたいなことってJ-POP的ではありますよね。

tofubeats - 自分もインターネットを出自としているというムズさがめっちゃあんねんけど、だからこそ固いものに惹かれてて。「専門家軽視」みたいなんは『FANTASY CLUB』のときからあったけど、それはずっと気にしているイシューの一つかもね。

in the blue shirt - でも、tofubeatsがアンチ資本主義っていうのもなんか違う気がするな(笑)。

tofubeats - 俺は全然ちゃう。むしろ大好きやから。っていうか、これを固めることが重要っていうのを、他のアーティストより意識しているから、たぶん。これがあるからブレていないんやっていうのは自覚としてあるからさ。やっぱり足元見られないために、っていうのもあるんよな。有村くんとかそうやん、ある意味。

in the blue shirt - そうですかね。

tofubeats - そうすることでミュージシャンとしての自由を得ているっていうのはある意味であるから。

in the blue shirt - それはそうですよ、なんにせよ、別に音楽しなくてもいいっていうのが、自分を支えているところなので。しなくていいけどやっているっていうのが。tofuさんは音楽を仕事でしている音楽家じゃないですか。これがやっぱり、逆立ちしても敵わないところですよ。

tofubeats - まあまあまあ、どっちもどっちだからさ。

in the blue shirt - という話もあるんですけどね。その精神性をもとに音楽家を名乗って活動するっていうことが根性座ってるじゃないですか。

tofubeats - なんでよ(笑)。むしろ職業人なんやからさ、みんなこうあるべきでしょ。

in the blue shirt - いやいや、資本主義との相性の悪さがゆえに、そうはならないみたいな。で、一人で背負ってしまっているみたいな……(笑)。

tofubeats - ただでも、個人でものを作るっていうのは、さっき言ったクラブミュージック的な精神性に変えていくけど、やっぱり是としてるもんなんよね。大変やけど。みんながこうやってやればやっぱり面白くなるっていうことが日記にも出てるっていうか。やっぱドキュメンタリーっておもろいよなみたいな。その人っていうのはその人自身で替えが利かないっていうことがわかるっていうのは、みんなを後押しすることでもあると思うのよ。自分的には。

in the blue shirt - 完全にそうですよ。みなさんをドライブする機能としては申し分のないあれですからね。

tofubeats - 日記もアルバムも、ポジティブな要素としてはそれをめっちゃ込めたかな。

in the blue shirt - あと、tofuさんのクラブミュージック愛というかクラブ愛みたいなのって、前作もそうですけど、通底して出ているじゃないですか。”PEAK TIME”でもそうですけど。tofubeatsの歌詞あるある「今夜」出てきがち、みたいなのもあると思って。

tofubeats - (笑)。

in the blue shirt - でも調べたらそんななかった。

tofubeats - 歌詞はちゃんとEvernoteで管理してるからさ、そこまで被らんようにしてるのよ。

in the blue shirt - それでもやっぱ「今夜」という言葉がすごい出てきて、”クラブ”もそうやし”PEAK TIME”もそうやし。”Don't Stop The Music”にも出てきますけど、この人夜ふかしせえへんのに、夜ふかしの歌詞多いなって(笑)。

tofubeats - (笑)。やっぱビーチボーイズ性? 山にいてのビーチボーイズ。

in the blue shirt - 山にいるからこそ海の歌が歌えるって、そんなことないですからね(笑)。

tofubeats - でも今回は特にそういうのはあったかも。日記にも書いたけど、それこそMaltine若手勢の曲を聴いて、4畳半性みたいなのは忘れていたなって。忘れてないねんけど、やっぱ、想像したものを出す、みたいなことを最近やってないな、みたいな。追いついてきていたな、生活と現実が。そういう想像力を糧にやってきた頃をちゃんと思い出そうっていうのは、今回やってきたかも。

in the blue shirt - 四畳半性っていうのは確かにそうかもしれないですね。その四畳半がスタジオの防音室かもですけど。

tofubeats - でかい四畳半を手に入れたってだけだからね。

in the blue shirt - でも、クラブミュージックと四畳半ミュージックって一致しないじゃないですか。Maltineの若手はクラブミュージック性はまだなくて、四畳半性が強い、みたいな。

tofubeats - ムズいな。クラブで流す音楽作っている人で、密室で音楽作ってないやつっておらんと思うんよ。それがやっぱりクラブミュージックのおもしろさだとも思うんよね。みんながみんなでっかい音で鳴らしたら面白いぞって思って、ちっちゃいところで作ってるっていうのがクラブミュージックやん。

in the blue shirt - 日本の住宅事情とか考えるとそうですよね。

tofubeats - 海外でもそうやと思うんやけどね。

in the blue shirt - コロナでみんな制作の動画をあげるようになってそれは思いましたよ。

tofubeats - そういう意味では、原始的なモチベーションに戻る、みたいな感じやな。

in the blue shirt - 有り体に言えば初心に帰るみたいな話になっちゃいますけど、実際そうですよね。

tofubeats - でもそうそう、もう一個のアルバム全体のバランス感を『lost decade』に寄せようってかなり最初の段階で杉生さんと決めてさ。それは結構そういうのにも繋がる話かな。杉生さんが最初の方に提案してきて、プラン組む時に、『First Album』と『POSITIVE』の感じ、あと『RUN』と『FANTASY CLUB』の感じみたいなのをガッチャンコして、30代で出せる『lost decade』みたいなのやろう、みたいな。

in the blue shirt - 『POSITIVE』前後の感じはだいぶなくなった感じはしますけどね。

tofubeats - そう? 抜けて終わる、解放感があって終わるみたいなのは、『POSITIVE』とか『First Album』、あとは『lost decade』の感じかな。

in the blue shirt - そういう意味では『First Album』もフィールドレコーディングじゃないですけど、リリスクのエアーの音で始まっているっていうのは、構成的には回帰している感じがあるかもしれないですね。

tofubeats - あとちょっとガチャついた展開みたいなのは、『lost decade』っぽいし。『ドライブ・マイ・カー』を見てさ、『寝ても覚めても』のときに濱口さんはこれをやりたかったんやって思ったんよ。でも、『寝ても覚めても』は2時間の映画で、音楽も自分で、自分もちゃんとわかってなかったなってめっちゃ思って。やねんけど、確実に『寝ても覚めても』と『ドライブ・マイ・カー』で濱口さんがやりたいことって繋がっているっていうか一緒やと思うねん。それが、『ドライブ・マイ・カー』を見たことで超分かったみたいな。この人これがやりたかったけど、前できひんかったことを全部直してんねん、って思った。自分も『lost decade』のときくらいからやりたいことはずっと一緒で、それをより伝えられるようにアジャストできる力がついていたらいいな、っていうのが『REFLECTION』には全体的にあるかな。

in the blue shirt - 『ドライブ・マイ・カー』観て、『カメラの前で演じること』(濱口竜介、野原位、高橋知由著)って本を読みたくなって。読んだ上で思うのは、tofuさんと似ているところは、映画も好きなんですけど、映画自体が好きなのと同時に映画を撮ったり、演じるっていう行為自体も好きで。ってなると、作品で映画を撮るんじゃなくて、映画ないしは演技をしているところを撮らなあかんっていうか。だからどうしてもメタっぽい構造になるんですよね。それはテクニックで面白くしてやろうっていう小手先のメタ構造じゃなくて、マジで好きなのは演技であって、映画を撮るっていうことだから、そこを題材にせざるを得ないみたいな。そういう感じをすごく感じたんですよ。そんな本読みのシーン見せなくてもええやん、みたいな。

tofubeats - 濱口さんの映画、全部に出てくるからね。

in the blue shirt - セミナーの様子とか、その演じるまでの過程みたいな。この人はここに対しての矜持がすごいあるから、ここを題材にせずにはいられないみたいな。自分が一番興味あるところを作品にするべきだと僕は思ってるというのもあるんですが、それってtofubeatsとめっちゃ似てるなって思っていて。tofubeatsは音楽を作るのも好きなんですけど、四畳半で作っているっていう、その制作してる状態もまた同じくらい好きなんすよ。音楽制作をテーマに音楽を作るみたいな、ちょっとメタっぽさが発生するみたいな、それが一緒なんですよね。メタの発生の仕方が。だからtofuさんが昔から濱口さんを好きなのも、ここがおんなじこと言ってるからやって。

tofubeats - 今言われて分かったわ。たしかにそれは『ハッピーアワー』を観て感動するわな。

in the blue shirt - あれだけの時間をかけてなんでやんなきゃいけないか言うと、映画そのものがそうなんですけど、映画を作り上げる過程を見せなあかんって。

tofubeats - 有村くんやっぱり『親密さ』っていうのを見たほうがいいよ。中でまるまる一本演劇やってる。でも、あそこまでやる胆力ないよなって思うから(笑)。

in the blue shirt - 僕の中で一緒で、”SHOPPING MALL”のPVを自分のスタジオで自撮りでラップしているの撮るじゃないですか。そんな変わんないっすよ、僕の中では(笑)。

tofubeats - たしかにそこは変わんないかもな。

in the blue shirt - あれは楽やから自分のスタジオで撮ってるとか、映えるからとかじゃなくて、それが好きやからじゃないですか。

tofubeats - 作っているところでやるっていうのが大事やからね。

in the blue shirt - 作るところでやることが何よりも先立って重要なことになるっていう。

tofubeats - さっきの虚飾の話じゃないけど、事務所がディストリビューションセンターっぽいみたいな話もそうでさ、難聴日記のリプライズって本出たあとの日記でも書いているけど、せっかく苦労してスタジオ作ってもこうなってしまうっていうのは、そういう性がある。

in the blue shirt - もっと映えとかね、おしゃれなエアコンにするとかあるわけですもんね。

tofubeats - そういうのに対する興味がマジでないんやなっていうのを感じさせられる。

in the blue shirt - 吸音材の位置とかを音響特性とかじゃなくて映えの観点で決めるとかってありますからね、実際。tofuさんは鳴りが改善するように順番に貼っているだけじゃないですか(笑)。

tofubeats - でも、そういうものに対する憧れもめっちゃあるからね。倉庫っぽいって言われるたびにこれ言うねんけど、清水ミチコが何かで「仕事をしているやつの机が綺麗なわけがない」って言ってて、めっちゃいいなと思って。作業してんねんからそりゃ机汚いよなって思うんよ。

in the blue shirt - でも結局、さっきの虚飾の話と繋がって、アンチ見せ本棚ってだけじゃないですか。読んでもない本を棚に置くなっちゅうだけの話ですよね、言わんとしていることは。

tofubeats - それは例えとしては不適切やけど、本は置いているだけで大事な場合はあるからな。使ってないのにラックマウントしている機材とか、聴いていないのに飾ってあるレコードとか、そっちの方が近いかも。それこそ俺らとか、機材のラインナップ見ていると分かるやん、どうしてもさ。こういう揃え方してるんやって思うっていうか。

in the blue shirt - やっぱ耳潰れてる柔道家強そうに見えるじゃないですか。ファッションでは潰せない部分が一番かっこいいというか。

tofubeats - そうそうそう。本当に使ってるんだなっていう方がかっこいいなって思っちゃう。これはもうフェチよな。

in the blue shirt - 別に褒められたもんでもないっていうのは最近思うんですけど。

tofubeats - ただ、tofubeatsの感情を表すにはこうなるわな、みたいな。

in the blue shirt - 価値観としてはけっこう重要なことやと思いますよね。

tofubeats - まあ、弾かへんギターかけてるけどね。

in the blue shirt - 楽器演奏には興味ないっていうのもそれも異常なポイントやと思いますし。

tofubeats - 我ながら拭えぬコンプレックスがあんのよな。

in the blue shirt - 興味がないっていうのもあるだろうけど、意地でもやらんみたいなところありますよね。

tofubeats - 弾いちゃったら意味なくなっちゃう部分もあって難しくてさ。有村くんって難聴日記のリプライズの方読んでる?

in the blue shirt - インタビュー前に全部読みましたよ。

tofubeats - ユーミンの話書いてるやん。

in the blue shirt - あの、四畳半のおこったみたいな話ですよね。

tofubeats - そう、昔ユーミンがNHK BSのドキュメンタリーで「狭いとこで音楽作っていてかわいそう、今の若い人たちって」って言い放つ場面があって。それを見て、死ぬほどムカついたってことがあって。若い人たちはそれしかないからそれでやっているわけであって、自分も含め、そこで何かを巻き起こせるんじゃないかって淡い期待を持って音楽作ってるのに、もともと金持ちがそんなこと言うっていうのが、心底腹たって。ユーミンはサンプリングもしてるからあんまり悪く言えないけど(笑)。

in the blue shirt - まあそこはマリー・アントワネット的な話であって、もう出自が違うからしかたがなくないですか。

tofubeats - やねんけど、そういう出自が違う東京のアーティストの写真とかサンレコで見て血の涙流しながら頑張ってきてたわけやん。ってなった時に、いざ自分が環境を経て、そっち側にやすやすと行っていいものかっていうのはずっとあんのよね。これを肯定したくてやってんのに、結局そっち側に転ぶんかって。それは結構難しいよね、「俺モテないんで」っていうのを売りにしていたアーティストがめちゃくちゃ売れてモテるようになったらどうするかっていう話とも似ていると思うけど。

in the blue shirt - その反省を大切にしてブレイクした結果、巨大なスタジオを設けることは別にワックではないですけどね。四畳半でい続けろとは思わないし。

tofubeats - やねんけど、メンタリティの問題っていうか。

in the blue shirt - 四畳半精神を失わずにおるのは難しいですよね。

tofubeats - そのメンタリティに、楽器をやるとめっちゃ作用しちゃうなと思って。

in the blue shirt - それは極端な考えかもしれないですけど(笑)。

tofubeats - まあ……あと、ほんまに練習が嫌いっていうことに尽きる(笑)。あと、Top of headでできる人になってしまうのが嫌っていうのもある。

in the blue shirt - 一方で、僕らを幽閉してHARD OFF機材で曲をTop of headで作らせてますけどね(笑)。

tofubeats - まあ、あれもめっちゃ長くやるやん。

in the blue shirt - そうですね、即興って感じでもないか。

tofubeats - 逡巡しているのがおもしろいってやつやから。あれはゼロから人が何かを学習してるっていうおもしろさやん。

in the blue shirt - 学習コンテンツなんすね。

tofubeats - この木と木で火を起こしてくださいっていうおもしろさやからさ。火が起きればいい。

in the blue shirt - コンロいらんねやー、みたいな(笑)。

tofubeats - だからびっくり人間大会みたいな感じでは全然ないっていう感じ。

in the blue shirt - めっちゃ楽器上手いやつがばーっと弾いて、みたいな喜びは求めてないわけですもんね。

tofubeats - DJってさ、今はさ誰でもやりやすいやん。あれはやっぱ、誰がやってもおもろいみたいな感じの方のおもしろさが好きっていうかさ。

in the blue shirt - DJ誰でもできるやん論みたいな、散々こすられた話ですけど、長くやっているやつほど差が歴然になっていくっていう。最近たまにDJするっすけど、ずっとやっている人との差を感じてうなだれていくだけっすもん。

tofubeats - DTMに関してはこれに似た現象があって、それがやっぱ面白いし、ギターの上手さ的なものと全然違うベクトルのものやん。これに魅力を感じたのよね。ギターを弾ける人がもてはやされる中……どうしても当初のコンプレックスを感じてまうね。tofubeatsという人間の。

in the blue shirt - でも不思議なもんで、楽器って、そういう即時的な凄さがある一方で、明日突然めちゃめちゃ楽器が弾けるようには絶対にならないじゃないですか。

tofubeats - ああ、そうそうそう。

 in the blue shirt - でも、ことDTMに関しては、脳がスパークして3時間後に神曲できてる可能性もあるじゃないですか。

tofubeats - 確かに。

in the blue shirt - それは逆におもろいなと思いますけどね。習得コストみたいな意味では、即興性みたいなのはないと見せかけて、実はDTMはめちゃめちゃ短い時間で大義を成し遂げる可能性は秘めているみたいな。

tofubeats - っていうか、そういうのがやっぱり練習嫌いに向いているというのはあるよな。その射幸性が高いっていうの?

in the blue shirt - そうそう、そうなんすよね。

tofubeats - でも射幸性が高いのも、やっぱり楽にいいのが作れる可能性が高いってことやからね。

in the blue shirt - だからと言って、その楽に作り出されたもんは全然やっぱり良くなくて、なんだかんだでやっぱ最後感動するのはめちゃめちゃ投げまくってるやつで、みたいな。

tofubeats - 偏差がどんどん取れていくみたいな感じやない?やっぱ続けると。

in the blue shirt - そうですね。

tofubeats - やっぱ1個ポンって外れた点も出ては来るっていう感じでさ。

in the blue shirt - だんだん分散が小さくなっていって。

tofubeats - そうそう。それもやっぱ楽器と全然違うっていうさ。

in the blue shirt - 移動してるんじゃなくて正規分布の山を狭めているだけ、みたいな。

tofubeats - その点がパーンって飛んだのを最初に感じると、やっぱりみんなハマってまうっていうかさ。やっぱそういうのはあるよね。

in the blue shirt - 結局、まぐれでできた1曲を追いかけてるみたいなとこありますもんね、自分で。

tofubeats - だから俺とかラッキーなんよ。20歳位で”水星”できてさ。まぐれも何ももう、組み合わせやからさ。

in the blue shirt - それもおもろいっすよね。”水星”が完全にtofubeatsオリジナルだった場合の未来とかを考えると、何かちょっと違ったかもな、みたいな。

tofubeats - そうなってたら米津玄師みたいになってたんじゃない。

in the blue shirt - 「いうて”水星”は僕が作ったんじゃないんで」みたいな、tofuさんはそういう距離感じゃないですか。

tofubeats - テイさんと大臣が作った曲やからな。

in the blue shirt - そうそう。ラインは大臣やし、オケはサンプリングやし、別に俺の曲じゃないし、みたいなのがどこまでいってもある感じは、なんかおもろいっすよね。

tofubeats - “LONELY NIGHTS”とかもKEIJUの曲みたいなもんやん。フック作ったのも自分やけどさ

in the blue shirt - でも編集とかの重要性はわかってるじゃないですか。

tofubeats - 分かっとるな。

in the blue shirt - 全然アルバムと関係ない話になってしまった。

tofubeats - 結構大事な話やったからな。

in the blue shirt - 大事な話はしてますけど(笑)、こうなることが予想されてた。

tofubeats - アルバムの話であとなんか取りこぼしある?

in the blue shirt - もともとフィールドレコーディングが、日比谷である意味が何かあるのかを聞きたかったんですよ。さきほど話に出た駐車場の機械のぶっ壊れがデカいっていう。

tofubeats - そもそも俺、東京で日比谷がめっちゃ好きなんよ。神戸性高いから。日比谷っていうか丸の内・日比谷らへん。

in the blue shirt - 日比谷の神戸性まったく理解できてないですけど、どこが神戸っぽいすか?

tofubeats - 日比谷めっちゃ神戸っぽいやん。大丸っぽいやん。旧居留地感あんのよ。銀座自体がそうやん。てかそもそもたぶんやけど、神戸が銀座を模してるやん。

in the blue shirt - はいはい、じゃあ建築様式的なそういうところがデカいっていうことですか?

tofubeats - というか、何ていうかな。そのハイソなバイブスっていうの? ああいう、高級じゃないけど、石畳のさ。買い物をする人しかいないからやっぱ人いないし。ああいうパキっとしたとこ好きなんよ。で、結構そのあっこらへんとかをブラブラして結構アルバム考えたことは多くて、”REFLECTION”もだし。

in the blue shirt - じゃあやっぱり、魂が神戸を求めてるってことですか。

tofubeats - それはもう否めないね。

in the blue shirt - (笑)。

tofubeats - あとは東京出てきたときは「どうせ毎月帰れるやろ」って思ってたってのもあんのよね。コロナがなかったらさ。

in the blue shirt - 意外と帰らなかったっていう。

tofubeats - そうそう。っていうのもあって。東京で落ち着く場所があんまり見つけられてなくて、最初の方とかは。日比谷が比較的買い物とかもしやすくて、車でも行けるしみたいな。なんか落ち着く場所というか、買い物に行くってなったら日比谷とか銀座ってなってたんよ。あと物産展とかめっちゃあってさ、地方の。物産展ってかアンテナショップとかがいっぱいあって。

in the blue shirt - ありますね。

tofubeats - やっぱ瀬戸内を物質的に満たしてくれる存在なんよ。広島のアンテナショップとかがあんのよいっぱい。都道府県の中でショップがめっちゃ集まってて、関西のものが仕込めるのよ。

in the blue shirt - じゃあ日比谷・銀座はマジで好きなんですね。

tofubeats - マジで好き。で、そういうちょっとハイソなああいうエリアのビルの鏡とか見てて、”REFLECTION”思いついたんよ。

in the blue shirt - そういう意味では、ぽい話ではありますよね。都会に対して地方が好きってわけではないっていう話じゃないですか。

tofubeats - そうそう、全然そうよ。

in the blue shirt - だから別に、神戸はシティに対しての郊外だから好きなんじゃなくて、別に神戸っぽさが好きなだけであって、ハイソな成分だったりとか、シティとしての神戸も好きやったってのはなんかいい話ですよね。

tofubeats - あ、そうそうそう。神戸には要素として代替不可能なバイブスがあるんやな。ロケーションとして。

in the blue shirt - 人がいっぱいいて嫌だから、田んぼと山の暮らしに戻りたいみたいな、そういう感じの神戸・東京観ではないんやなっていうのが今はっきりしました。

tofubeats - だからコロナの最中はむしろ全然居心地いいっていうか。そん時も緊急事態宣言の時で、そんときに日比谷めっちゃ歩いてて、最高やなみたいな、俺は音楽を聴きながら道を歩いてて、めっちゃ味わえてるな、みたいな。これを俺から奪うことは誰にも不可能やなみたいな全能感にめっちゃ襲われたんよ。

in the blue shirt - 、それはめちゃめちゃわかるっす。緊急事態宣言になって、家で音楽聴けるのに散歩しながら聴くようになったってのはマジでわかるんすよね、「REFLECTION」聴いて。

tofubeats - ちょうど同じぐらいの時期にドイツがロックダウンしたやん。メルケルは東ドイツ出身やから。移動の自由を制限するってのはどれだけ大事なことかと。やけど、それでもドイツはやらせてもらいますみたいな、めっちゃいいスピーチが当時上がってて。それがあっての散歩のよさみたいなのもあったんよね。だからそのメルケルのスピーチもアルバムの制作メモに書いてある。移動の自由みたいなことはメモしてあった。

in the blue shirt - 勝ち取った権利として、外で音楽を聴くことができるという無敵要素が。

tofubeats - 勝ち取ったっていうより、まだここは侵されていないんやって。コロナで何もできないと思いきや、全然できることあるなって。そもそも音楽作れるし。

in the blue shirt - そういう意味では何ですか、さっきの四畳半の話じゃないですけど、聴き手に関してはどうですか。どういう環境で聴いて欲しい、例えばクラブミュージックをクラブで聴いてほしいみたいのは、そもそもそんなにないっていうことですよね。

tofubeats - 全然ないな。

in the blue shirt - 今回の場合リスニング的な要素があるからちょっとあれですけど、前回の『TBEP』とかは完全にハウスのEPじゃないですか。それも含めて、クラブで聴いてほしいっていうのはそもそもないっていうのはあるんかなって思ったんすよ。

tofubeats - でも、どんな環境で聴かれてもいいけど、いい環境で聴いた人にはいいことが起きるよみたいな感じ。

in the blue shirt - そういう意味では聞き手をなめてないじゃないですけど、どうせiPhoneで聴いてんのやろみたいなことを言う人ってたまにいるじゃないですか、最近。そういうのはなくて、こだわった部分の奥行きは準備されていて……

tofubeats - そうそう。上げていけば上げていくみたいな感じやな。"SOMEBODY TORE MY P"とかはマジでそうやと思う。いい環境で聴けばいい感じになるし。違うっていうのも、勝手に気づいてくれたらよろしいやんみたいな感じやな。

in the blue shirt - “SOMEBODY TORE MY P”マジでいい曲っすよね。

tofubeats - 嬉しいわ。

in the blue shirt - 今後出る全部のリリースに紛れ込ませてほしいっすもん、この曲。

tofubeats - (笑)。でもほんまにそうなんよ。『TBEP』作って、めっちゃええ曲できたからアルバムにも入れたろうみたいな感じ。

in the blue shirt - 『TBEP』で思い出したっすけど、カバー出せんかったみたいやつ、聞きたいっすよね。

tofubeats - やから、カバーは”I Can't Do It Alone”ってシングルなんよ。で、メインで出せなかったのは「X XXXXX XX XXXX XXX」っていうXXXXXをサンプリングした曲。クラブとかでめっちゃかけてたけど。

in the blue shirt - そういえばそうっすね。

tofubeats - それはサンプリングできるって言われてたけど急に無理になったんよ。

in the blue shirt - アルバムのインタビューとしての着地がどこへ行くのか分かんなくなってきましたけど。

tofubeats - 有村くんもまとめていこうよ、断末魔(トーフ注 in the blue shirtの言葉にならないボイスエディットのことをトーフビーツは断末魔と呼ぶ)をさ、言葉にして。

in the blue shirt - まあそうっすね、でもそんなことより、tofubeatsの『REFLECTION』ってアルバムがどういうものなのかを世間に問いたいですから。

tofubeats - まあ世間からの反応が楽しみやけどね、今回は。

in the blue shirt - 日記を含めた反応がみたいですよね。

tofubeats - そうやな。俺はずっとああいうことを思ってやってんねんけど、たぶん新鮮だと思うんやけどな、世間からしたら。

in the blue shirt - そうだと思いますよ。僕らからしたら日記もはいはい、またこの感じね……ってなりますけど。

tofubeats - そうそう(笑)。みんなが聞き飽きてるtofubeatsの感じやん。杉生さんとかは白目で聞いているような話やからさ。

in the blue shirt - でも、それを内輪じゃなくて外向けにもするっていうのは重要っていうか。tofubeats史における重要なところではあるからっていうのは間違いなくありますよね。僕とかもtofuさんが上にいなかったら、もっと軟派な人間やった可能性もありますもん。

tofubeats - でも俺は有村くんだけはそうじゃないって思ってるから。だって結局周り見てったらそんなことないよ。有村くんだけよ、この影響受けてるのは。だから有村くんの中にあるそれ性が…

in the blue shirt - いやちゃうっす、だからMaltineのイベントに行くと、形は違えど伝わっているんで、大丈夫っす。ほんまにいっぱいいるんで。

tofubeats - いやあありがたいね。

in the blue shirt - そう、雑談レベルの意思共有みたいなものは人よりでかい気がしているんですけど、音楽的な話で言ったら僕以外でもしっかりtofubeatsリファレンスツリーが下にありますからね。

tofubeats - 早くここまで来て首を討ち取ってほしいね。

in the blue shirt - ……首を取る必要なくないっすか(笑)。

tofubeats - (笑)。早く会いたいなみんなに。でも、感じてるから息吹は。Telematic Visionsくんとかを筆頭に。

in the blue shirt - そういう打算とか抜きに音楽おもろいわっていう人が出てきているのはいいなって思いますよね。すぐマーケティングがとかセルフブランディングがとか、いやいや、みたいな話になるじゃないですか。

tofubeats - ある意味seaketaからするとね、俺にもその責任はあるっていう話だから。

in the blue shirt - いやseaketaはすごいですからほんと…。普通にtomadくんのDJ見ながら「やっぱり権威側の人間になりましたよね」とか言ってて、お前誰やねんって(笑)。

tofubeats - seaketaはほんとにルサンチマンでやってるだけやから、まだ。かわいいもんやん。でもこれが、さっきのミュージシャンがモテたらどうなるよって話で、seaketaもいつかそのギャップに悩むことになるよ。

in the blue shirt - いやもう悩んでいると思いますよね。ユンボに乗って走り出したいくらいのアナーキーさがあるはずなのに、ユンボの運転の仕方は絶対に知らないみたいなところがあるんで。

tofubeats - 俺とかはこっから最終的にチェーンソーとか鳴らすところにいくからね。こっから。

in the blue shirt - こっからっすか(笑)。

tofubeats - 俺もほんまはユンボに乗りたいと思ってんのよ。で、着々とユンボに向かっているんよ。ノイズの洪水の中にユンボで突っ込むために今があると言ってもいいよ。

in the blue shirt - でもやっぱりノイズの洪水の中にユンボで突っ込みたいじゃないですか、どうにかして。

tofubeats - そこに道理をちゃんともたせる。裏音楽(トーフ注 裏音楽については「トーフビーツの難聴日記」をご参照ください)ってそういうことやん。

in the blue shirt - ただぶっ壊したいとかじゃなくて、「解像度高くノイズの洪水にユンボで突っ込んだtofubeats」っていう記事を出させたいっすよね。

tofubeats - そうね、例えとかじゃなく向かっていきたいって感じ。なんとなくアンビエントとかじゃなくて、しっかり周って向かいたいやん。って感じかな。そのためには現世での修行が足りてないから、表での修行が足りてないな。

in the blue shirt - まあまだ先は長いですから。

tofubeats - 先輩とか見てるとマジでまだまだやと思うからな。

in the blue shirt - それは幸せなことですよね。

tofubeats - そうそう、なんやかんやイカれた先輩方が日本にはいっぱいいらっしゃるからさ(笑)、安心よね。

in the blue shirt - あと伸びしろまだあるってのはすごいことですよね。まだ余地があるとかじゃなくて、普通にこう、右肩上がりでいきますからね。

tofubeats - そうやんなー、マジで思うわ、それは。右肩上がりで頑張っていきたいね。…っていう感じで、ちょっといい話でまとめました(笑)。

in the blue shirt - インタビューって難しいっすね。って思いました(笑)。

- (笑)。でも、素晴らしいお話でした。

tofubeats - ありがとうございました。直しが多そうですけど(笑)。

in the blue shirt - なんでもやるんで(笑)。

- ありがとうございました。

 Info

<配信情報>

 2022年5月18日

 tofubeats 『REFLECTION』

Link: https://tofubeats.lnk.to/REFLECTION

<CDリリース情報>

2022年5月18日リリース

tofubeats  5thアルバム『REFLECTION』

初回限定盤/WPCL-13374 ¥3,800  (税込¥4,180)  

通常盤/WPCL-13375 ¥2,800 (税込¥3,080)

初回限定盤は、人気イラストレーター山根慶丈がこれまで描いてきたtofubeatsのアートワークを12枚のポストカードにまとめたスペシャルパッケージ。

各店舗でCD購入者へのオリジナル特典も予約受付中。

■汎用特典:オリジナルステッカー

■Amazon:メガジャケ

■楽天ブックス:缶バッジ

■セブンネット:ミニスマホスタンドキーホルダー

以下の予約ページをチェック

Link:https://tofubeats.lnk.to/REFLECTION

1. Mirror 

2. PEAK TIME 

3. Let Me Be 

4. Emotional Bias 

5. SMILE 

6. don’t like u feat. Neibiss 

7. 恋とミサイル feat. UG Noodle 

8. Afterimage 

9. Solitaire 

10. VIBRATION feat. Kotetsu Shoichiro 

11. Not for you 

12. CITY2CITY 

13. SOMEBODY TORE MY P 

14. Okay! 

15. REFLECTION feat. 中村佳穂 

16. Mirai 

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