日本を代表するラウドミュージックバンドとして、世界中で評価されているバンド・Crystal Lake。初期の楽曲を新しいアレンジでレコーディングし直した前作『The Voyages』から約11ヶ月ぶりとなるシングル『CURSE』がリリースされた。今回はニューシングルの話題はもちろん、Crystal Lakeが海外でどのように活動しているのか、そして「Crystal Lakeとヒップホップ」というテーマでも話しを聞いた。
取材 : 宮崎敬太
撮影 : 横山純
ツアーはホテル付きのバスで他のバンド一緒に700〜1000キロを移動
-『CURSE』はこれまでサポートメンバーとしてバンドを支えていたMitsuru(B)さんとGakuさん(D)に加え、新たなにTJ(G)さんも迎えた5人体制になって初のシングルとなります。
Ryo(Vo)- MitsuruとGakuは海外はもちろん、長いこと僕らと一緒にやってくれていて。2人の功績はすごく大きい。だからサポートメンバーとか正式メンバーとかをまったく意識せず活動していたんです。そこに今回TJが加入することになったので、「じゃあ、改めて正式に5人のバンドとして活動しよう」と。
Mitsuru - そうですね。僕がCrystal Lakeに関わるようになってからは、ライブ三昧でずっと一緒に過ごしてたんですよ。だからサポートメンバーという気持ちもあまりなくて。今回正式に加入しましたけど、気持ち的にはまったく変わらないです。
- Crystal Lakeは世界中のラウド系のフェスに参加し、海外ツアーも多いと思うのですが、向こうではどんなスケジュール感でライブを行うんですか?
Ryo - 1ツアーは2週間から1ヶ月くらいです。
YD(G)- その間、ほぼ毎日ライブがあるんですよ。で、10日に1回くらい休んで移動。ホテル付きのバスで700〜1000キロくらい? で、またその土地でショウをやる、みたいな。
- ……ホテル付きのバス?
YD - はい。僕らは何組かのバンドと一緒にパッケージでツアーを回ることが多いので、20人くらいが個別に寝られるスペースにリビングとキッチンがついたバスで一緒に移動するんです。
- ロックスターの世界ですね!
YD - いやいや、あれはスパルタですよ。
Ryo - うん、どちらかという『男塾』の世界(笑)。
YD - なぜかみんな軍隊みたいにずっと筋トレしてるんですよ(笑)。そういう感じだからコンディションを整えるのがすごく難しい。ヴォーカルは一番大変だと思う。
Ryo - 僕は移動中はひたすら寝てます。最高に多い時は15連チャンでライブがあるんですよ。だからできるだけ身体を休めることを意識してますね。ヨーロッパだと国をまたいだ移動もあるので。ツアーが連チャンする場合もあって。だから2ヶ月半くらい家というか日本に帰れない。
YD - 1日でドイツとオランダのフェスをはしごしたこともあったよね。あれはいろんな意味で貴重な体験でした(笑)。
- そんなバンドにTJさんは新加入することになりました。
Ryo - TJはもともとHER NAME IN BLOODというバンドに所属していたんです。でも残念ながら解散してしまったので、今回声をかけました。HER NAME IN BLOODは昔から知ってる仲間。TJのプレースキルは言うことないし、見た目もかっこいい(笑)。「もうこの人しかいない」って感じでしたね。
TJ - HER NAME IN BLOODでは1ヶ月くらいの海外ツアーを1回だけやったことがあるんですよ。でもCrystal Lakeは2〜3ヶ月の海外ツアーが当たり前にあるだろうから楽しみにしてます。プレッシャーもありますけど(笑)。今は日々勉強してるところです。
Mitsuru - ちなみに僕が加入した時、最初のライブはほぼぶっつけ本番でした(笑)。Crystal Lakeはライブの数が多いので、みんなで集まって練習する時間が取れないんですよ。だからツアーを回りながら、ステージでみんなが何をやっているのか、どういうグルーヴかをライブで覚える感じでしたね。
『CURSE』というシングルはコミュニティに向けたパンプアップ
- 今回の『CURSE』はバンドにとってどんな作品なんでしょうか?
YD - リスタートですね。コロナ以前の俺らはライブ三昧でした。でもそれがコロナで飛んでしまって。本当だったら今年も海外も含めて170本以上のライブをやる予定だったんです。俺らはいつも大体2年先までスケジュールを立てていて。いついつに新作を出して、どこどこで誰とツアーして、みたいな。それがコロナで全部狂ってしまった。最初のほうは「久しぶりに長い休みが取れるな」くらいの感覚だったんだけど、思った以上にいろいろうまくいかなくて。だから自分たちのモチベーションも含めて、全体を再構築していくのがものすごく大変でした。『CURSE』はその一発目なんです。
Ryo - だから今回の表題曲“Curse”は、自分たちの王道のスタイルをもう一段階引き上げるというテーマで制作しました。疾走感はありつつヘヴィで「Crystal Lakeといえばこれだよね」っていうのを出したかった。
- ちなみに、皆さんはどのように制作を進めていくんですか?
YD - 作曲は俺がすべてコンピューター上でやってて。Protoolsを使ってノリでバーっと作ってます。そういった意味では、俺らの作り方はダンスミュージックのトラックメーカーと一緒かもしれない。
Ryo - ある程度曲の構成が決まった状態で自分のところにきますね。自分はそこからヴォーカルを乗せて返して、さらにYDはアレンジしたり、曲をブラッシュアップしていく。
YD - 制作ではスタジオに入らないんです。
Mitsuru - 僕らの界隈ではそんな感じですよ。スタジオでジャムって作曲してる人たちのほうが少ないかも。
YD - コンピューターで制作したほうが、アイデアを形にするまでのスピード感が圧倒的に早いんですよ。もちろんジャムから生まれる原始的なパワーやダイナミクスは魅力的なんですが、俺らの場合は海外ツアーも多いので、みんなで集まってスタジオで制作する時間が取れないという事情もあって。300キロ以上あるアンプを持って行って、向こうで配線もがっちりやって、バコーンと音出せればいいんですけどね。それにツアーの合間に制作しなきゃいけない場合も多いので、基本はコンピューターでやってます。
- なるほど。
YD - あと俺らは油が5センチくらい浮いたラーメンみたいな音楽を作りたいと思っていて。だから全体のチューニングを極端に下げてるんですね。そうするとアナログよりもデジタルのほうがローの音の粒が立つんです。こういう表現はアナログではできない。
- ダンスミュージックの低音の感覚にも通じるので、そのスタイルはすごく面白いです!ちなみにメンバーのみなさんは曲をもらった時どんな感じですか?
Mitsuru - スタジオに入る二日前くらいにポッと送られてくるんで「これを今から覚えるんですか?」ってなる。もうちょっと早く音源ください(笑)。クオリティを上げるためにギリギリまで調整してるから仕方ないんですけどね。途中で聴かせてもらって「意見きかせて」みたいなこともあるんですよ。それが反映されて、完成版が送られてくるんですけど、「これ(再現)できんのかな」って。そこは不安なんですけど、スタジオで何回か演奏するとだんだん馴染んでくる。
TJ - 僕は今いろんな曲を覚えてる段階なんですが、一緒にスタジオに入ってYDさんが弾く(ギターの)手元を見せてもらって、動画に撮って、メモもして、帰ってひたすら練習ですね。自宅では動画をスロー再生したり、何度も見て。
Mitsuru - 極端なケースだとツアー中のバスの中で覚えてましたね。アンプなんてないし、周りもうるさすぎるから、なかなか音が取れなくて。そういう時はネックに耳近づけてやるんです(笑)。
- もう1つの新曲“Mephisto”もCrystal Lakeらしいヘヴィなナンバーです。
YD - “Mephisto”は「ヘヴィスタッフがほしいよね」という流れから生まれた曲で、自分たちのバックグラウンドを踏まえつつ、今やりたいことを形にしました。あと今アルバムを作ってるんですよ。新しい世界観に挑戦した実験的な内容になっていて。“Curse”と“Mephisto”はキャッチーなので、シングルとして選びやすかったという面もありますね。さっきプランの話をしましたけど、俺らにとってはライブがすごく重要で。ステージで実際にプレーして、自分たちにもファンのみんなにも曲が根付いていく部分があるんですよ。今は簡単にライブができないから、バンドの温度感をどこでみんなに伝えるのかっていう。自分たち的には、この時期ならもっとライブできるだろうと予測してたから。でも、この『CURSE』というシングルは、自分たちのコミュニティへのパンプアップ。来年のアルバムに向けて、「こういう取り組みなんだ」っていう階段を作って、新しいフェーズを楽しんでもらいたいなって。
シンプルでダイナミックなアメリカのヒップホップに勝つためには
- 今回はみなさんとヒップホップというテーマでもお話をうかがいたいと思っています。
Ryo - 自分がヒップホップを好きになったのは中学生の時に聴いた『The Eminem Show』がきっかけですね。そこからDr.Dre周辺のLAのヒップホップも知って。あと90年代にハードコアとメタルとヒップホップがクロスオーバーしたニューメタルという音楽があって。有名なところだと『Judgment Night』のサントラとか。そういうのが好きだったから、ヒップホップも自分の中の要素のひとつとして自然に受け入れることができたと思います。
TJ - 僕はMTVから音楽にハマっているので、当時よく流れてたLinkin Parkには影響を受けてます。特に“In the End”のMVがカルチャーショックだったんですよね。「ヘヴィな音楽とラップが混ざるんだ!」って。そこからヘヴィロックと一緒に50cent、Nelly、Eminemなんかも聴いてました。
Mitsuru - 音楽にハマった頃、ニューメタルとかラップメタルが流行ってたから、Linkin Parkは自然に聴いてましたね。でも僕はどちらかというと、バンドという集合体に憧れとこだわりがある。あくまで個人的な感覚なんですけど。だからラッパーが1人でいるステージより、集合体としてのバンドが立ってるステージに魅力を感じます。なので自分は今もバンドの音楽を聴くことが多いですね。余談ですけど、今回から自分もCrystal Lakeという集合体の一部に正式になれたことも結構アツいんです(笑)。
YD - Mitsuruはヒップホップそんな好きじゃないもんね(笑)。
Mitsuru - そうですね。嫌いじゃないけど、ついていけないっていうのが正直なところ。バンドに取り込まれたラップとかだと聴けるんですけど。
YD - それも全然ありだと思うよ。
Mitsuru - あ、でもKOHHさんと対バンさせていただいたことがあって。すげーヤバかったです。その時思ったのは、ライブと音源では全然違うんだなって。バンドとは違う観客の引き込み方をするんですよ。言葉ひとつで。あの感じっていうのはバンドの音楽と全然違うと思って。衝撃を受けましたね。
YD - たぶんそれはKOHHさんがすごくエクストリームだったからだと思うよ。逆に言うと、バンドでも音源で良くてもライブがショボいやつってたくさんいるじゃん?
Mitsuru - なるほど、そういうことか。確かにバンドでもライブ見ると「これでプロやってるんですか?」って人たち世界中にたくさんいるからな(笑)。そういう意味でもKOHHさんのライブはすごかったですね。しかもバックヤードでお会いした時、すごく物腰が柔らかくて。
TJ - KOHHさん、かっこいいですよね。ONE OK ROCKのTakaくんとやった“I Want a Billion”とかもすごく好きでした。
YD - 俺は2000年代のCam’ronとか、ドラマチックなイーストサイドのヒップホップが好きでしたね。彼らの音の雰囲気を自分がやってるメタルハードコアに投影させると、似たようなエモさとかドラマチックなビートを作れたり。他にもAmerieとかCrown City Rockersとか、俺はいろいろ聴きました。ちょっと話しが飛んじゃうんですけど、今のアメリカのヒップホップって音数がすごく少ないじゃないですか。でも一個の音のレイヤー感や作り込みはすごい。シンプルさを追求するかっこよさがある。だから今回の『CURSE』では、その真逆をいこうと思ったんですよ(笑)。
- どういうことでしょうか?
YD - 俺は整理整頓された優美なレイヤー感というか、シンプルな音が重なって印象が変化する瞬間は日本人しか出せない気がしてて。和音とか重奏とか。むしろそこで勝負しないとアメリカのシンプルでダイナミックなヒップホップには勝てないと思ったんです。トレンドミュージックの低音に憧れず、自分たちが生きてきた音の中での低音感を表現したり。あとは民謡のメロディーとか。次のアルバムではそういうこともやろうとしてる。あと日本語も。アメリカ人は「俺たちは英語しか喋れないからさ、お前らが英語も喋れるのってすごいよ」ってよく言ってくれるんです。それって心からの声だなって感じて。だから僕らも日本語をもっと大事にしたほうがいいかなって。たとえ伝わらなくても打ち出すことで、リスペクトを持った何かになるのかなって最近は捉えるようになりました。
- Ryoさんに質問ですが、ロックとヒップホップだと歌詞の内容や扱うトピックが違いますよね? 例えばヒップホップは身近なことを具体的に歌う面があって、逆にロックはあえて抽象的で詩的な歌詞が多いとか。では、Ryoさんは作詞面でヒップホップ/ラップをどのように聴いていますか?
Ryo - ヒップホップはストリートのリアルを伝えるものですよね。ハードコアやパンクの人たちは、ストリートのリアルをダイレクトに表現していると思うんですが、特にメタルは現実の出来事を脚色してフィクショナルな、SFっぽい世界観で表現することが多い。単純に自分もそういう表現が好きなので、映画や小説、哲学、科学を自分の身近なことに当てはめた時にどうなるか、どういう影響を与えるか、みたいなことを考えて書いてますね。一歩引いた、みんなが「これってどういうことだろう?」って思ってもらえるような。あと僕らはサウンドも壮大で映画的なので、歌詞にもスケール感やストーリー性が出るのかもしれないですね。
- では最近好きなラッパーを教えてください。
TJ - 僕は女性のラッパーが結構好きです。昔だとMissy Elliottみたいな。歌えてラップもできる、みたいな。たぶん自分はメロディーありきなんだと思います。Cher LloydやIggy Azalea、日本だったらchelmicoさんが好きです。
YD - 俺はMACCHOさんですね。若い人やトレンドの人も沢山聴いたけど、やはりMACCHOさんはキングだと思います。言葉の使い方、メンタルの保ち方、立ち振る舞い。これはオールドスクール、ニュースクール、トレンドも関係なくすごくパーソナルな部分でも影響を受けました。あとヒップホップの枠を越えますが、先日RUDEBWOY FACEさんとジャムセッションを一緒にやったんですけど、あの方もMACCHOさんに似た物凄いVibesを感じましたね。モチベーションの保ち方とか。アティチュードがクラシック。一人の人間としてヤバいと思いました。
Ryo - 僕は最近だとJUBEEさん。『Mass Infection』というアルバムはかなりロック的なアプローチで作られてて、そこにドラムンベースやハードコアテクノみたいな要素も入ってきてて、新しいと思いました。ライブのスタイルもアグレッシヴだし、自分とマインドが近い気がする。もうひとつはTohjiさんとLootaさんのアルバム『KUUGA』。あれはなんかもう……別次元に行った感じしました。トラックもそうですけど、Tohjiさんのフロウというか言い回しというか、あれは唯一無二ですね。
- あのアルバムはSigur Rósを聴いてるような気分になりました。
Ryo - あー、わかります。アンビエントっぽいとこもあるし。かなりネクストな音だと思う。僕、音楽はジャンルに限らずなんでも大好きなので、おもしろければなんでも聴きたいタイプなんです(笑)。
YD - Sigur Rósつながりだと、自分はBlack Boboiが超好きです。大ファンでライブもちょいちょい行ってて。一番コラボしたいかも。
- ラウドミュージックからインスパイアされたLil Peepのようなエモラップはどのように聴きましたか?
Ryo - 同じものを聴いてきた自分たちにとってもなかった視点だったので、エモラップはすごく面白いと思いました。クロスオーバーが自然な形で出てきてるっていうか。トラップメタルとかもそうだし。最近だとオルタナラップって言われてる人たちもいれば、インダストリアルやノイズでラップする人たちもいて。それがアンダーグラウンドでつながってるのがすごく楽しい。今までとは違う、ちょっとわかりにくい形で、新しいカウンターカルチャーの動きがある。みんな今までにないものを作ろうとしてる感覚を受けます。
YD - すべてミクスチャーというか。ルーツという言葉を再定義しているような気がしたな。しかも面白いのは、混ざってはいるけど、土地ごとに捉え方とかが微妙に違うこと。だから次のアルバムでルーツを意識した自分たちらしい実験をしようと思ってるんです。
- みなさんは世界中をツアーしているから言葉に説得力があります。
YD - 俺らは恵まれてると思います。他のバンドとパッケージでツアーを回ることが多いから、もしかしたら会場にはハードラインやレイシストの人もいるかもしれない。でもダイレクトに会うことはない。だからただヤバいライブをぶちかまして、それが刺されば良いレスポンスをもらえる。つまり気に入ったものの前ではみんなフラットになっちゃうんですよ。だったら日本だけで活動する意味はないと思うんです。
Info
2021.7.14 Release
Crystal Lake “CURSE”
LABEL:CUBE RECORDS
品番:CUBE-1017
価格:¥1,430(税込)
<収録曲>
1. Curse
2. Mephisto
3. Apollo Re:Coded - Kool Empire Remix -