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【コラム】 Styles from the Scene |Vol. 2『モキシー 〜私たちのムーブメント〜』

映画の印象的なラストや、ドラマのハイライト、またはミュージックビデオなどでも作品の中の人物のファッションに魅了されたことがある人は少なくないはずだ。この連載ではそんな記憶に残る様々なシーンを基に、インディペンデントファッションマガジン『STUDY』の編集長である長畑宏明が新しいスタイリングを提案するというもの。アイテムのチョイスはオンラインセレクトショップのSSENSEから行われている。

文:長畑宏明

もしあなたが『ブックスマート』という映画に夢中になり、さらにそこに脇役として登場するタナーという男の魅力に気付いていたとしたら、今年Netflixで公開された『モキシー 〜私たちのムーブメント〜(以下、モキシーで統一)』で重要な役割をはたすセスにもきっと虜になるはずだ。この2人はともに、サンフランシスコで生まれ育ったスケーター兼俳優のニコ・ヒラガが演じている。そして、『モキシー』での彼の振る舞いは、現代における「ジェントルマン」の見本だ。

本作の主人公は、元ライオットガールの母親をもつ高校生のヴィヴィアン(ハドリー・ロビンソン)。彼女は、アメフト部の男子に嫌がらせを受けたクラスメイトを勇気づける目的で、自作のZINEを匿名で配りはじめる。それを機に高校のフェミニズム活動にコミットしていくのだが、途中から彼女のパートナーになるセスはというと、いろんな抑圧を受けながら闘う彼女の「味方」であり続ける。とはいえ、バカみたいにすべてを受け入れるだけではない。たとえば彼女が自暴自棄になって周囲の人たちにひどい態度をとった際には、「君はひとりよがりになっているだけだ」と正直に怒りを表明する。フェミニズムの理解者として高尚な立場からアドバイスを送る、という態度ではなく、彼はいつだって彼女という「個人のよきサポーター」であることに徹するのだ。

そこには、真っ当なコミュニケーションがある。あまりに長すぎたマッチョな時代、そして男性対女性の対立構造をへて、ついにこのようなパートナーシップが映画のなかで堂々とレペゼンされるようになった、ということ。『モキシー』は、現代におけるライオットガールの在り方だけでなく、新しい男性の役割を教えてくれる映画でもあった。

さて、本作の冒頭には、セスがカーゴパンツ(2021年のトレンドでもある、らしい)をはいてスケボーをすべるシーンがある。それまで学内で控えめに生きてきたヴィヴィアンは、そんな彼をみて「彼って優しいよね」と親友のクラウディア(ローレン・サイ)に同意を求めるが、クラウディアは「え、Shrimp(スラングで小者、という意味)じゃん」とその魅力が掴めていない様子。で、当のセスはいかにもピュアなお調子者といった感じで、シャツをまくりあげてさりげなく腹筋をみせるところからは、自分がクールであることを自覚しているようにもみえる。このインタビューを読むかぎり、ニコ自身がまずナチュラルなナルシストなのだろう。だけど、それこそが本人の色気につながっているのだから、ふむ、文句のつけどころがない。

今回は、そんなセスくんおよび「学校」というモチーフからヒントを得て、SSENSEのアイテムを使い2つのルックを組んだ。キーワードは「いなたくて、シンプル」。

ルック①(写真右)解説

ひとつめは、セスがはいていたカーゴパンツとラウンジパンツのディテールがくっついたボトムスを軸に、上はともすればスリフトに転がっていそうなユルいロゴT、足もとはスケーターらしくローファイなスニーカーを採用。このJUNYA WATANABEとNEW BALANCEのコラボアイテムは色も形もいなたくて秀逸なのだが、今のトレンドからすると渋すぎるのだろうか、早くもセールにかかっている。余談だが、「セールにかかったスニーカーを履きつぶす」という行為は、「90年代、大量に売れのこったジョーダン1をスケーターがセール価格で買いあさった」という逸話を思い起こさせる。で、この冗談のようなデザインのアクセサリーは……えーっと、ただのアクセント。

※クレジット

ネックレス:VETEMENTS Silver & Red Crystal Heart Necklace

Tシャツ:Bode Blue Logo Appliqué T-Shirt

パンツ:Feng Chen Wang Multicolor Paneled Lounge Pants

シューズ:Junya Watanabe Beige New Balance Edition Numeric 379 Sneakers

ルック②(写真左)解説

もうひとつのルックは、映画の中盤、廊下のロッカー前でヴィヴィアンと喧嘩するセスからインスパイアされたもの。ロンTの上にTシャツをかぶるのは、ティーン・ファッション(もしくはダウンタウンの浜ちゃん)独特のコードだが、見た目にはかわいい派手な色柄のロンTをリアルに落とし込む方法論でもある。ジーンズとシューズは、「ファッション」に気を遣っていない風のセスらしく、とことんプレーンなものを採用。品が良いボタニカル柄のバッグは、大人にとって懐かしい響きをもつ「ナップサック」なのがポイント。

なお、アジア系のデザイナーが手がけるFeng Chen Wangやギャルソン、JUNYA WATANABE、JUUN.J、Goodfightなどのブランド選びにはアジア(日本)の血をひくニコのルーツとリンクさせているわけだが、このような政治的な文脈を意識せざるを得なかったのは、むろんアメリカでアジア系ヘイトが吹き荒れていた2021年だからこそ、である。#StopAsianHate

※クレジット

ロングスリーブTシャツ : Juun.J Black Stripe Embroidered Long Sleeve T-Shirt

Tシャツ:Comme des Garçons Shirt Black Logo T-Shirt

ジーンズ:Nudie Jeans Blue Steady Eddie II Jeans

シューズ:Maison Kitsuné White Canvas Laced Sneakers

バッグ:Goodfight Multicolor Bale Puffer String Backpack

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