あなたの好きなビートメイカーは誰だろう。国内外にはキラキラと星のように輝くビートメイカー達が無数に存在している。当企画『BeatMakerz File』では、Native Instrumentsの協力の元、多様なビートメイカーの世界にフォーカスをあて、どのような機材を操り、どのように考えて自分のビートを練り上げていくのかを探っていく。Vol.1には環ROYが登場し、Vol.2の今回はMC/ビートメイカーとして圧倒的な人気を誇るKREVAをフィーチャー。
B-BOY PARK MC BATTLEで1999年から3連覇した伝説の印象が強いのか、KREVAの凄さを語る時、多くの人はラップのうまさを言及する。もちろんそこはまったく否定しないけど、KREVAはビートも超ヤバい。だがそこはラップほど語られない。ヘッズならSEEDAのアルバム『街風』に収録されたクラシック"TECHNIC"を知ってるだろう。あのクオリティは当然のレベルで、彼の作品には狂ったアイデアがぶち込まれたビートがゴロゴロある。にも関わらず、彼のディスコグラフィーを振り返ると、そこにあるのは小難しさよりも開かれたポップさ。この二律背反はどのように成立しているのか。今回は彼のビートメイカーとして一面を掘り下げた。
取材・構成:宮崎敬太
写真:横山純
好きなものは妥協しないで全部入れる
- KREVAさんの楽曲にはアヴァンギャルドな実験精神と、気持ちいいポップさが同居しているように思うんです。ずっと前から「これはどういうバランス感覚で作ってるんだろう?」と不思議でした。
KREVA - 好きなものは妥協しないで入れるって感じなんですよね。まずはビート。ドラムが力強く鳴っていてほしいという気持ちは最初にある。でも同時に小さい時から日本のヒット曲を聴いて育ってきたので、その良さが自分の深いところにあるんですよ。みんなに受け入れられることを「ポップ」だとすると、俺には常に受け入れられたい気持ちがある。だからどっちも妥協しないで入れる。「俺だけわかればいいだろう」みたいなのは一番カッコよくないと思うから。
- “嘘と煩悩”、”想い出の向こう側”、”Tan-kyu-shin”、”マカー”などは、ビートミュージックと言っても差し支えない奇抜さだと思いました。
KREVA - 毎回こういう曲を作ろうと思って作ることはあまりないんですよ。ソフトや機材で遊んでるうちにああいうものが出てきちゃう。作ることが好きだから、暗いのもいっぱい作るし、変わってるものもいっぱい作る。しかも意図的に作ってるのではなく、できちゃう感じかな。
- おそらくKREVAさんには未発表曲が山のようにあると思うんですが、リリースされる曲との違いはどこにあるのでしょうか?
KREVA - 確かに未発表曲はいっぱいありますね(笑)。自分の場合は、言葉が乗るか乗らないかがひとつの大きなポイントです。言葉を想起させるトラックというか。いわゆるビートバトルが成り立つ世の中だったら、もっと曲だけで作品をリリースしてたと思う。
- 『KREVA Youtube Live !』でビートメイクしてた時、「機材のショートカットを覚えるのが大事」と話されていたのがとても印象的でした。自分は機材をいじれないので、ビートメイクは感性を磨くような、インスピレーションに重きを置いたものなのかな、と思っていたんですが、そこは大前提として当たり前で、アイデアを形にするために地道な努力もされているんだな、と。
KREVA - 地道な努力というか、ゲーマーと一緒ですよ。コンボとかを手が覚えてるじゃないですか。それと同じ感覚です。誰からも求められてないけど「この技出したい!」「こんなことしたい!」っていう自分の欲求と、コンボできた時の気持ち良さを知ってるから好きで何度もやる。
- それってギタリストがギターを練習するのと一緒なのかなと思いました。
KREVA - そうそう。「この発想ヤバい!」って頭に浮かんだ瞬間、いやその前に形にできれば、それが最高に高揚感を味わえると思うんですよ。ショートカットを覚えるのはそれが欲しいから。地味な作業だけど一番の近道だったりする。それに機材を触りたくなるかどうかも自分にとっては大事。最近Native InstrumentsからMASCHINE+というコントローラーが出て、ノブがプラスチックから金属になった。本当に些細な差なんですけど、俺にとっては素材が変わっただけで、(曲作りで)やりたいと思うことすら変わったと思います。
「ビートメイカーでありながら、ラッパーでもある」というのがデカい
- 昨年12月にリリースされた”Fall in Love Again feat. 三浦大知”も不思議な曲でした。普通に聴くとベルの音が印象的でクリスマスソングっぽいけど、もしも夏にリリースされたらギターのカッティングに耳がいってサマーソングだと感じるような気がしました。1曲の中にどれだけたくさんのアイデアが詰まってるんだとすごく驚いたんです。
KREVA - あははは(笑)。実はこの曲は、MASCHINEに入れた拡張音源キットを巡ってる時に作ったんです。Native Instrumentsのキットをよく買ってる人だったら”Fall in Love Again”のネタは持ってるはずです。オーディオ素材のプリセットの元々設定されているループ箇所とは異なる箇所を取り入れたんです。
- とはいえ、あの曲はものすごく練られた曲ですよね?
KREVA - 冒頭のサビは俺が考えて、最後の大サビは大ちゃん(三浦大知)が用意してくれたものなんですね。”Fall in Love Again”は元ネタが良かったから、最初に思いついたメロディのままで行こうかなと思ったけど、作ってるうちに頭の中でシタールが鳴ったんです。だから実際に弾いてもらうことにして。あと大ちゃんの大サビを聴いたらギターも入れたくなって。結果的にああいう感じになったんです。
- MASCHINEを使って作曲する様子は『KREVA Youtube Live !』でも公開されていましたが、実際リリースされる曲でもああいった形で制作されるんですか?
KREVA - はい。最初はああいう感じですよ。でも実際はもっとタイミングにシビアになりますね。YouTubeライブはみんなに見て楽しんでもらうためのものだから、できるだけ流れを止めたくなくて。だからクオンタイズをかけて、自動的に正確な位置に乗るようにしてます。普段1人で作ってる時も普通にクオンタイズをかけることもありますけどね。
- なるほど。細かく正確にやる場合はクオンタイズをかけるけど、外す時もMASCHINEだと、ヒップホップ的な予期せぬポジティブな事故が起こることもある、と。
KREVA - MASCHINEはいろんな状況に対応できる。そこが良いんですよね。
- 以前STUTSさんに取材した時、彼は生のグルーヴ感を追求するためにあえてクオンタイズを外してビートを打ち込むと話していて「なるほど」と思ったんですけど、今KREVAさんのお話を聞いて、一口に打ち込みと言ってもいろんな方法があるんだなと勉強になりました。
KREVA - 自分は「ビートメイカーでありながら、ラッパーでもある」というのがデカいと思います。STUTSは曲で自分を表現するミュージシャンだからトレンドに合わせてスタイルを変える必要はないけど、ラッパーは最新のビートにも乗りたいし、そこでスキルを見せていかないといけないところがある。だから自分は時々によって、いろいろやり方を変えてるんです。
俺のドラムに対する信頼度は異常だと思う
- なるほど。ちなみに"ma chérie" 、"俺の好きは狭い"など、KREVAさんの曲は、いわゆるヒップホップとして展開が多いと思います。
KREVA - (展開は)遊んでるうちにできてる場合が多いんですよね(笑)。
- 特に意識して作ってるわけではないんですね。
KREVA - はい。あと自分はビートメイクをよく料理に例えるんです。普段から包丁を研いでおけば切りたいものをスパッと切れるのと同じように、自分だったらキットの中の「これを使いたい」ってやつに印をつけておくんですね。それを日常的にやってる。『KREVA Youtube Live !』で使った 「PARADISE RINCE」なんかもまさにそんな流れで目星をつけたキットでしたし。本気で作る時のための準備をしておくという感じですかね。
- そこは"調理場"のリリックで言ってる「作るものが思いつかなければ/包丁でも研いで"切りたい!"と思ったもの/適当にCHOP CHOP」の部分ですね。
KREVA - まさに(笑)。コンピューターで作る音楽と料理の決定的に違うところはUNDOです。ビートメイクはUNDOすれば「今のナシ!」ってできる。料理だとそうはいかないですよね。醤油の量を間違えたら、水を足すなり対処しなきゃいけなくて、そうすると違うものになってしまうんです。そういうリスクがないから、俺は面白そうだと思ったらとりあえず試してみるようにしてますね。
- ちなみにUNDOする時って、予備のセーブデータを残したりするんですか?
KREVA - そういう時もありますよ。でもね、そう遠くにいかないから失敗を恐れずとりあえずやってみるようにしてます。
- そういう発想があるから"俺の好きは狭い"みたいな曲が生まれるんですね。あの曲は言葉の強さもさることながら、選んでる音も展開も予想外すぎて、初めて聴いた時本当にびっくりしたんです。
KREVA - あの曲って、言ったら途中からドラムが入ってきてるだけとも言えるんですよ。ベースやギターが入ってきたりもしてるけど。そういう意味では、俺はドラムへの信頼が人一倍強いんだと思います。信頼度合いが異常(笑)。「ドラムさえカッコよければいいだろう」って。一番はドラムなんですよ。
- PUNPEEさんにフィーチャリングされた"夢追人"でも「いまだどこから聞こえるダッサいドラム/そういうやつらの退路ばっさり断つ」と言ってますもんね。
KREVA - はっきり言って今売ってるキットでダサいものってそうそうないんですよ。なのに日本だとね……。ミックスの感じなんだと思う。超簡単に言うと、もっと大きく出してくれよって感じ。
- なんでなんですかね?
KREVA - わかんないです。おかずが多すぎるんですかね。もしくは入れ物が小さいのか。俺はもっとご飯が食べたい。とにかくドラムの音が小さい。ヒップホップが誕生してから、いわゆるチャートに入ってくるような音楽はほぼ全ジャンルで、ドラムの音量は絶対的に上がっています。そこは数値化できるくらいのレベルで。なのに日本は‥‥‥。ミックスする人が問題なのか、アーティスト側の意向なのか、もしくは展開にとらわれすぎてるのか。J-POPという音楽の形がドラムの小ささも混みなのであれば、自分はそこがあまり好きじゃないのかもしれないですね。
- なるほど。
KREVA - 自分とは全然ジャンルが違うけど、ONE OK ROCKのドラムが良い鳴りをしてるなぁと思って、調べてみると海外のプロデューサーがしっかりミックスしてたりとか、ポピュラーなバンドという大きな括りの中で言えば、Maroon 5はドラムがカッコいいと思うことが多いし。日本のバンドの人たちももっと意識的になってほしいと思います。
JAY DEEは自分が欲しいサウンドを自分で作ってた
- ドラムという点でいうと、KREVAさんはJ Dillaからの影響を公言されていますね。
KREVA - 俺はJ Dillaになってからはそんな聴いてなくて、JAY DEEの頃、特にQ-Tipたちとウマーをやってた時代に一番影響を受けてるんです。特にスネア。あのパカッと抜ける感じ。俺はあのスネアに受けた衝撃がデカい。なんでこんなに抜けがいい音してるんだろってのが不思議だった。そしたらエンジニアのD.O.I.さんがJAY DEEとスタジオに入ったことがあるらしくて。JAY DEEはディスコミキサーでHighとかMidをすごく調整して、あの音を作ってからサンプリングしてたらしいんです。
- A Tribe Called Questの”1nce Again”、”Stressed Out”とか、あとJanet Jacksonの”Got 'til It's Gone”とか。
KREVA - これはQ-Tipも何かのインタビューで言ってました。JAY DEEがディスコミキサーで音を作り込んでサンプリングするとあの音になるって。自分にはその発想が全然なかった。でも今になってみると、そこにやられてたんだと思います。
- 僕はキックや間のグルーヴなのかと思ってました。
KREVA - もちろん全体のノリの良さとかは、同じ機材を使ってる自分からするとすごいと思ったけど、それよりも自分が欲しいサウンドを自分でちゃんと作ってるということに衝撃を受けましたね。
- 近年はトラップが完全にスタンダードなものとして定着し、ヒップホップはいま新たなトレンドを模索している感じがします。そんな中でKREVAさんは今どんなサウンドが面白いと感じていますか?
KREVA - EDMが流行ってた時期だとハイファイ志向というか、いかにレンジ広く音をぶっ込めるかみたいな戦いだったのが、ここ1〜2年はいかに汚せるかってほうになってきてて。カセットテープっぽい音を出せる古い機材のエミュレーターとかが流行ってるんですよ。面白いなと思うのが、これってYouTubeからリッピングをサンプリングしたザラザラ感がヒップホップだと感じる世代の動きなんですよね。リッピングでどうしても出ちゃう角をいかに丸くするか、本物っぽく劣化させるためにたどり着いたのがテープのエミュレーターなんだと思う。でも使ってる機材はむっちゃくちゃ良い機材なんですよ。でもワンループ。ある意味、究極ですよね。先祖返りというか(笑)。
誰でも使える素材で誰も作れないカッコいい曲を作る
- 2020年はPUNPEEさんやZORNさん、さらにtofubeatsさん、VaVaさんといわゆるKREVAさんを聴いて育った世代との共演が続きましたね。
KREVA - たまたま声をかけてもらったんですよ。みんなすっごい俺の音楽を聴いてくれてる感じがしました。自分以上に自分のことを知られてる感じというか。嬉しかったけどちょっと恥ずかしかったですね(笑)。PUNPEEは俺がBLASTって雑誌で機材を打ち出してたことに食らってくれてて、ZORNはライブパフォーマンスまでしっかり見て影響を受けてくれてた。
- そういった世代と絡んだ”Fall in Love Again”のMVリアクション動画はかなり面白かったです。
KREVA - ビートメイカーって饒舌じゃないんですよ。俺より良いビートを作る人はいっぱいいるけど、ビート作りの面白さを上手に伝えることに関しては俺のほうがうまいと思う。自分は昔から結構いろんなことを思いついちゃうほうで、今はそれを形にしやすい世の中だから。 YouTubeのリアクション動画も、俺が実際に行ってリアクションしてるのを録ったら面白いかなと思って。やり方に関しても結構親切に教えてくれる人がYouTubeにいっぱいいるので、そういう動画を見て勉強して。それこそMASCHINEの使い方も、俺は普通にYouTubeで調べたりもしますし。
- では最後にKREVAさんにとって「ヒップホップの定義」とは何か教えてください。
KREVA - 難しいな……。まずビートはかっこよくありたい。俺はずっとコード進行とか知らなくて、ずっと「これでいいのかな?」ってやってきた部分があるんですよ。でも「嘘と煩悩」を出す前、バンドの人たちと絡む機会があって。そしたらみんな俺の奇妙なコード進行を面白いと思ってくれてた。あとドラムも。「なんでそんなにデカいんだ」って。そこがカッコいいと言ってくれた。ドラムの価値観は自分の中で揺るぎないものではあったけど、音楽知ってる人たちにそう言ってもらえたのはかなり大きかったですね。やっぱり間違ってないんだって。
KREVA - あとこれは定義じゃないんですけど、俺はヒップホップの土足感が好きなんですよ。良いと思ったら、出自はどこだろうが関係なく使っちゃうってとこ。RUN DMCの"WALK THIS WAY"が歌ってる部分も含めてほぼエアロスミスそのままと知った時は衝撃でした。同じように衝撃を受けたのがClipseの"Grindin’"。「TRITONのプリセット音だけか!?」って。しかもそれで最高にカッコいい。誰でも使える素材で誰も作れないカッコいい曲を作るのはヒップホップだと思います。
Info
BeatMakerz File Vol.1 環ROY:https://fnmnl.tv/2020/12/05/112443
Native Instruments