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Netflixオリジナル番組『キラー・マイクのきわどいニュース』で学ぶ、ぶっ飛んだアイデアと実践力

現在Netflixで配信されているドキュメンタリーシリーズ『キラー・マイクのきわどいニュース』をご存知だろうか?

この番組はRun The Jewelsの片割れとしてもお馴染みのラッパーKiller Mikeが、現在のアメリカが抱える問題を独自の発想で解決していくものとなっている。黒人コミュニティの経済的枯渇や教育問題、あるいは国家の分断といった問題の一つ一つにKiller Mikeは向き合っていき、草の根的な活動を続けていく。

例えば、第一話「黒人ビジネスだけで生活」では黒人が経営するビジネスのみを利用して生活しようと試みる。ここで浮き彫りになるのは、白人やアジア人と比較して黒人による企業やサービスの数が非常に少なく、また知名度も無いという問題である。黒人ビジネス生活を実践した三日間、Killer Mikeは食事も満足に摂ることができず、また宿に泊まることも出来ない。大麻産業に白人が参入しているためマリファナにもありつけない。ここでのKiller Mikeの行動は極端かつコミカルなものではあるが、結果的に身をもって「黒人コミュニティに誰も(黒人でさえも)金を落とさない」という問題を可視化することとなる。

第二話「使える技術を教えるアイデア」では大工の技術を学べば簡単に職を得ることが出来ると考え、無職の若者にシンクの詰まりを直す方法やコンセントの交換を教えようとする。彼らに「教育ビデオはつまらない」「エンタメ的な教育ビデオなら観ると思う」と言われたKiller Mikeはなぜか「もちろんここで言う“エンタメ”、それはポルノだ。誰も言わなかったが分かってるはず」と解釈し、大工ポルノの制作を開始。強引かつ狂った発想ながらも、実際に大工ポルノを観た者は観る以前よりもはるかに大工の知識を身につけることに成功している。

第五話「既存の枠を飛び出して」では、現在のアメリカにおける人種や思想によるコミュニティの分断に対処する方法として人種、性別、思想がばらばらの人々を集め、音楽グループを結成させる(プロデュースはT-Pain)。集まったミュージシャンはアルビノの黒人男性やユダヤ人女性、フェミニスト、白人至上主義者、サタニストなどなど。当然レコーディングは大荒れとなり、やっとの思いで開催したライブも失敗するなど散々な結果に終わる。しかし、それでもKiller Mikeはアメリカの変化をこのライブから予感する。ここで語られているのは自らと異なる立場、信条に身を置く人の話を聞き、看過出来ないような発言に対しても脊髄反射的に否定するのではなく一度耳を傾けるというスタンスの重要性だ。

Killer Mikeの行動は次第にスケールを増していき、最終的には新たに国家を建国するというぶっ飛んだアイデアを実行に移すこととなる。第六話「さらばアメリカ」では、バチカン市国のような「新アフリカ国」という独立国家をアトランタ近郊に建設しようとする。国民となるのはこれまでのエピソードに登場した人々。立場は違えどいずれも「現在のアメリカに疑問を抱いている」という点は共通するため、連帯することは可能であるという考えだ。しかし、現実はそう上手くいかないもの。定められたルールに従わない者、与えられた権力に酔って威張り出す者などの間でトラブルが発生し、「新アフリカ国」はさながら一つの心理実験のような様相を呈する。国民と共に労働をせずただ指示を出すだけのKiller Mikeへの不信感も募る。ここで彼らが採用した解決策は選挙を実行するというもの。理想の元首を選ぶため皆真剣になり、演説に耳を傾けそれぞれに熟考する姿が感動的だ。小規模な仮想国家を創ることによって、一人一人の政治への参加者意識を促すことがこの企画の目的だったことが分かる。

このようにKiller Mikeの行動はどれも一見ぎょっとするような物ばかりだが、全てに「まずは行動を起こす」そして「皆の意見にしっかりと耳を傾ける」というテーマが一貫している。活動家としての彼の主張は黒人に寄ったものであり、時には「白人から身を守るために全ての黒人が銃を持つべき」と言うラディカルな意見も口にする。しかし彼は自らと立場の違う者の話を聞き、その意見を否定することはない。一つの殻に篭るのではなく枠を飛び越えて活動していく勇気を、この番組は視聴者に与えてくれる。

現在はシーズン1まで公開されている『キラー・マイクのきわどいニュース』。日本に住む我々もこれを観れば、社会を変えるために必要なことをKiller Mikeから学ぶことが出来るかもしれない。

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