日本でも高い知名度を誇るビッグフェスEDC(エレクトリック・デイジー・カーニバル)。日本では2017年に初上陸したEDCは、本国アメリカではEDCの一般的なイメージとなっているEDMのトップアーティストを含め、ヒップホップのアーティストなども登場する総合的な音楽フェスとして名を馳せている。
すでに来年の日本での開催も発表されている中で、EDCやHard Summerなど数々のフェスを運営するINSOMNIACの創設者でCEOのPasquale Rotellaが、FNMNLの取材に応えてくれた。Pasqualeが語る理想的なフェスの形とは、そしてEDCは今後日本でどのようなかたちで開催されていくのだろうか。
取材・構成 : 和田哲郎
撮影 : 横山純
- まず、EDC JAPANは今後、より幅広い音楽ジャンルをカバーすると聞いたのですが、それについての背景と具体的にどのようなことを計画しているか教えてもらっていいですか?
Pasquale Rotella - 僕たちがやろうとしているのは、『米国のEDCを日本に持ち込む』VS『日本が今EDCに持っているイメージ』。現状は、おそらく日本からしたらEDCは『EDMのフェス』っていうイメージが根付いていると思う。僕らにとってEDMっていうのは音楽のジャンルで、確かにMartin GarrixとかZEDDだったりEDMのアーティストは出演しているけど、それはEDCの小さな一部にすぎない。EDCはハウスでもあり、テクノでもあり、トラップでもあり、ヒップホップでもあり、ベースミュージックでもあり、ブレイクビーツでもあり、ハードスタイルでもある。それを皆に伝えたいし、このユニークなショーを日本に持ち込みたい。EDCに対するイメージを払拭してね。
- 今のアメリカのヒップホップシーンは外部からみているとバブルのような状況に見えますが、どう捉えてますか?
Pasquale Rotella - 米国のヒップホップは君が言うほどバブルだとは僕は感じないよ。世界各地のフェスでDJがセットにヒップホップアーティストのトラックを含めて、客が大盛り上がりしているのを目にしているし...ごめん質問の意図をちゃんと受け止めてないかも。
- 質問をもう少しシンプルにすると、ヒップホップの今の勢いを見てどう思いますか?
Pasquale Rotella - 美しいと思うよ。僕はヒップホップを聴きながら育った。LAで生まれ育ったんだけど、高校生の時に、廊下を歩くときとか、休憩時間には、みんなで韻を踏んだり、ラップでバトルしたり。
- その高校時代のようなヒップホップ文化を今2018年でも目にしますか?
Pasquale Rotella - そうだね。僕からしたらヒップホップがシーンから去ることは絶対にない。その証拠になる人たちと一緒に育ってきたからね。親友を初めてレイブに連れて行ったりした。Black Eyed PeasのWill.I.Amとか、ヒップホップにいつも触れていた子供時代だった。そんな環境で一緒に育った人たちが、今は業界で働いている。彼らはヒップホップを一度もやめなかった。だからヒップホップは今生きているし活気がある、なぜなら本当にヒップホップを愛していた人たちが一度も止まらずにここまできたから。トレンドに左右されて色んなジャンルを飛び回る人たちとは違って。エレクトロとかダンスミュージックも人気だったり人気じゃない時代があったりしたけど、僕らは離れずにいた。僕らは愛しているし、トレンドがなにであっても関係ない。楽しめるし幸せにしてくれたからやり続けた。ヒップホップが飛躍しているのは見ていて嬉しい。聴いて育ったからというのもひとつの理由だし、テクノとかハウスのパーティーやレイブに向かう時でも車の中ではヒップホップを聴いていたし。昔のLAアンダーグラウンドシーンの美しいところは、テクノとハウスが常にあったことだ。ヒップホップとロックが国内では群を抜いて優勢で、ダンスミュージックは全く人気じゃなかった。ダンスミュージックがアメリカでビッグになってきたのなんて最近のことだしね。僕が子供の時はどこでもヒップホップかロックで、僕はヒップホップ側だった。だからこそアンダーグラウンドパーティーに行くことはものすごく勉強になった。テクノとハウスだったり、レアグルーヴのルームがあったり、そこでDJでファンクやソウルやディスコを流したり、たまにAfrika Bambaataaとかオールドスクールなものとかも。まるで学校に行って学んでいるような気分だった。Eazy-EとかDe La SoulとかIce CubeとかA Tribe Called Questとかを、初めて聴いた時は、サンプリングなんて知らないから全部彼らの音楽なんだと思っていた。でもそこにいたDJたちは、そういうアーティストがサンプリングしていたオリジナルのものを流していたんだ。De La SoulのサンプリングとかA Tribe Called Questのサンプリングとかを耳にして「やべえ!あの曲はここから来たのか!知らなかった!」って驚いた。だからアンダーグラウンドのパーティーに行くことは本当にクールだった。音楽のルーツや人々がインスピレーションを得たものを知れる冒険だった。
- EDCはEDMシーンに大きな貢献をしてきたフェスだが、EDMという用語自体について何か思うことはある?
Pasquale Rotella - 僕はEDMは音楽のジャンル名として使うことを推奨する。エレクトロニックなダンスミュージックスタイルを全てカバーする意味でEDMって使う人がいるけど、でもハウスミュージックが好きな人はEDMと呼ばれたくないだろうし(笑)。それぞれの区別について勉強できてない人が多い。「あー!EDCね!知ってるよEDMのやつでしょ」みたいに言われると「えーっとね...確かにEDMのアーティストも少しいるしEDMをサポートするよ。でもそれ以外のものもめちゃくちゃ多いよ」って言う。この何年間で、日本にEDCがなんなのかうまく伝えられたとは思ってない。きちんと認識させることがゴールだ。EDCが常にわくわくできて新鮮なイベントであるために、色々改善しなきゃいけない点があるし、クリエイティヴな方法で斬新なことをしたいとも考えてる。でも新しいEDCは人々がEDCがどんなイベントなのかきちんと知ってからだ。アメリカでは人々がEDCがなんなのかを認識するのに20年以上かかった。アメリカでINSOMNIAC(EDCを主催する会社でPasquale Rotellaが創設)は100個以上のイベントをやっているんだ。テクノ/ハウスに特化したイベント、トラップやベースミュージックに特化したイベント、ヒップホップに特化したものとか色々。『EDC』はそういう1年を通してうちが開催している全てのイベントをひっくるめて、めちゃくちゃ大きいパーティーとして開催しているんだ。僕らにとっては新年パーティーみたいな気持ちだ。Martin Garrixとかが大好きな人もEDCには来るし、そういうステージは一切見ないひともEDCには来る。それら全てのベストを届けたい。EDCは色々な全く異なる世界を含んでいる。新しいものを求めてくる人もいるし、そういう人にとっては冒険になるだろう。ラインナップとかをチェックせずにイベント自体を信頼して来る人もいる。イベントに来て探求して名前を聞いたことないDJを見たりするんだ。「この人聞いたことなかったけど、頭ぶっ飛んだよ」っていう声が聞けたりするのが一番僕らにとっては嬉しい。でかいアーティストをブッキングすることだけが重要なわけじゃない。誰も聞いたこと無いアーティストとかバズり始めたアーティストをブッキングするのも好きだし、よく知られたアーティストをブッキングするのも好きだ。
- 個人的に興味があるのですが、ここ最近ブッキングしたあまり知られてないアーティストはいますか?
Pasquale Rotella - 日本に呼んだ中ではFisherかな。ハウスなんだけど、彼が誰なのかみんな知らなかったし、EDC Japan直後にBillboardに1ヶ月ぐらいチャートインしたりした。伸び始めているオーストラリアのやつだよ。でも彼は本当に一つの例で、他にもいっぱいいる。今最初に思い浮かんだ理由は、ただこの前一緒にサーフィンしに行ったばかりだからだね(笑)彼が最近うまくやれているのがすごい嬉しい。
- USでは様々なフェスが林立していて、今後もこの状況が続くと思うか、もしくは淘汰されていくと思うか?
Pasquale Rotella - そうだね。USでは徐々に落ち着いてきていると思う。前は1ヶ月ごとに新しいフェスが生まれたりしていた。特にダンスミュージックに関してはものすごい数のフェスがあった。でも今はヒップホップにみんな飛びついたからね。『Rolling Loud』っていう僕らも関わっている世界最大のヒップホップのフェスがある。もとのマイアミのには関わってないんだけど、US各地で開催されるのと、他の世界各地のは僕らがやっていて。ヒップホップは本当にでかい。だけど僕らのダンスミュージックに対するパッションは全く変わってない。これからもコミットするし、徐々に大きくなっているのは確かだ。バブルが弾けたと思っている人々もいるのかもしれないけど、僕らにとっては実際はまだ成長し続けているんだ。イベント業界にいる人達がヒップホップに移って、フェスが多くなったけど、結局今は特定のフェスに落ち着いて、僕らの開催するショーに来ている。だからヒップホップがものすごく優勢なこのご時世でも、ダンスミュージックの成長を感じる。あとは僕らのプロデュースしている『Hard Summer』とかは、今年Travis Scottとかがヘッドライナーで過去最大規模の『Hard Summer』になった。毎日8万人を超えるお客さんが来た。
- そういう他のイベントも日本で開催する予定は?
Pasquale Rotella - もちろん。USで達成できたことを日本でも成し遂げたい。時間はかかるだろうし簡単ではないけどね。USで今の立ち位置になるまで25年かかったから。でも日本でもできるようにアイディアは考えている。今は130人のチームでやっているんだけど、ダンスフロアから直接でてきた情熱的な人たちでそれぞれジャンルに特化したチームがあって。僕らは音楽を本当に情熱的に愛している人たちを常に求めてるんだ。たとえば『Hard Summer』をプロデュースする『HARD』チームに、今年のEDCでひとつステージを担当させる話とかハッピーなことだ。去年のラスベガスでは『Hard』が監修するcosmicMEADOWステージにPost Maloneとか呼んだり。『Hard』は日本でcosmicBEACHステージを監修する予定でめちゃくちゃ楽しみだ。ラスベガスでは原っぱの上だからcosmicMEADOWステージなんだけど日本は会場がビーチだからcosmicBEACHステージだ。EDCを代表するイベントもどんどんこっちで開催したい。『Factory 93』も開催したいね。『Factory 93』っていうもっとアンダーグラウンドミュージックにフォーカスしたイベントがあるんだけど、Carl Coxとかが出る大規模なイベントを今度開催するし、Loco DiceとかJohn Digweedとかハウス/テクノに特化したアーティストを扱ってる。それを日本に持ってきて、まず『Factory 93』を知ってもらって、それから『Factory 93』が『EDC』一緒にやっているのを見て、Hardwellとかだけのショーじゃないんだって認識してほしい。Hardwellを愛していることも分かってもらいながらね。そうだね、それがいまやろうとしているEDCのひとつのゴールだ。
- 本当のEDCというブランドを日本に広めると強調していましたが、それとは別に日本で開催されるものだけの特徴って何かありますか?
Pasquale Rotella - 日本に来て日本のアーティストだけのイベントにはしたくない。僕らのイケてるアーティストたちを連れてこないと意味がないだろ?日本にはすでにクールなアーティストはいるんだから。ただローカルなアーティストとコラボしたいとは思う。この場合のアーティストっていうのはミュージシャンだけじゃなくて、グラフィティアーティストとか、プロモーターとか、ナイトクラブとか、他にも日本でクールなことをしてる人をEDCに呼んで彼らのテイストを混ぜたい。僕らのかっこいいEDCを日本に持ち込みたい。EDCの裏には大きなコミュニティがあって、世界中の人を連れて来日することになると思うんだけど、世界各地のEDCイベントの集合体のひとつとしてユニークなものにしたい。必ず違ったものにはなると思う。ビーチでできるEDCなんてないし、君らにとってビーチでパーティーするのはそんなに特別ではないのかもしれないけど、僕らからしたらかなり最高だ。cosmicMEADOWをcosmicBEACHに変更するのはかなり楽しみだ。日本のローカルの人達とも色々話をしている、ファッションだったり、今年できるかどうかわからいけどスケートパークを会場内に作ることを検討したり。ヴェニスビーチで育ったんだけどそこにはグラフィティ、音楽、ファッション、スケートボード、サーフィン、とか色んなサブカルチャーがあって、それらの様々なことを愛している人で溢れてた。繰り返し同じことをしていたり、同じものばっか聴いていると退屈になるんだ。ヒップホップを聞いて育ってそれがハートとソウルになっているけど、俺のマインドは初めてのレイブでぶっ飛んだ。人生が変わったんだ。だからEDCはそういう、一個一個の小さな生々しいムーブメントやカルチャーを目にすることができる場にしたい。人々に教えたいし、EDCに持っている間違ったイメージを払拭したい。人々がEDCのヒストリーをちゃんと理解していないっていうのはここ数年で学べた。それを「わかってもらえないのはクソだ」って一蹴するんじゃなくて、可能性とかわくわくするのを感じるんだ。
- チャレンジとして捉えているんだね。
Pasquale Rotella - そのとおり。
- もともとダンスミュージックなどのフェスがどんどんヒップホップのフェスに移り変わっていく中、客層は同じ人達がフェスと共に聞く音楽を変えているのか、それともジャンルを変えれば来る人達もガラりと新しい人に変わっていると思いますか?
Pasquale Rotella - USにおいては、ダンスミュージックファンはダンスミュージックのフェスに行くし、同時にヒップホップもものすごく愛している。Drakeを一昨年EDCに呼んだんだ。Drakeがものすごい大きいアーティストっていうのは知っていたけど、EDCとの相性は未知数だった。結果、めちゃくちゃ盛り上がってクレイジーだったよ。ちょっと心配してたんだ。観衆が全員前に行くから、安全面で心配だったんだけどみんな楽しんでいたし大丈夫だったよ。僕が子供だった時とは違うんだなって感じた。いまのこの現状にものすごくワクワクする。僕が音楽を聴き始めた頃はインターネットがなかった。ダンスミュージックが好きな人、ヒップホップが好きな人、ロックが好きな人、ってみんな別々で分かれていた。分別されていた。まわりの環境にものすごく左右される。まわりの友達が毎日24時間ヒップホップしか聴かなくて他のジャンルを嘲るようなやつらだったら、そこからしか影響を受けない。でもインターネットがあると全てのジャンルの一番いいものを聴ける。だからこそいまは、色んなジャンルが好きな若者が増えた。それがUSの現状。もちろん他のものよりトレンドになりがちなものはある。
でも僕たちはトレンドを無視して、自らムーブメントを作ってきた。僕らの巨大なコミュニティだったり、ついてきてくれるオーディエンスがいるのは本当にありがたいし。長い間業界にいるから、音楽とかライブイベントの変化を目にしてきた。21歳の時、僕は4万人集まるダンスミュージックのフェスを開催していた。でもある日を境に、客の数は1万に減った。フェスの規模を縮小する必要があった。フェスの内容をヒップホップに移したり、ロックにしたりしたんじゃなくて、同じことをしながら規模だけをスケールダウンさせた。国で一番大きいフェスである必要はなかった。やってきたことにコミットし続けた。ヒップホップが大飛躍した時、さらに規模を縮小する必要があるのかなって思ったけど、その必要はなかった。そのうちダンスミュージックのアーティストたちがヒップホップのアーティストとコラボし始めた。レイブでDJがヒップホップの楽曲をドロップしたりしていた。会場は大盛り上がり。Metro Boominが自分のDJセットにDrakeを呼んで、客が大盛り上がりしたりね。だからいまはもう分離されてないんだ。人々はオープンマインドになっていて、それはクールだと僕は思う。君がテクノとハウスが大好きで他の音楽全部嫌いな人じゃなければね(笑)宗教的な音楽ジャンルっていうのはいろいろあるからね。ただ僕らは世界で一番のパーティーがしたくて、向上するために常に努力してるし、違ったやり方をしたり、新しいクリエイティブなアイディアを持ち込もうとしているんだ。