突然ですが、ストリートって聞くとどんなイメージが浮かびますか?明治通りを滑走するスケーター?シュプの長蛇の列?Yeezy?Off-White?バスじゃモロ最後部な奴ら?
でも私たちハウス好きって何だかそういうのから縁遠い、無印のシャツとユニクロのパンツで「ハウス好きな人」として地味ハロウィンにも余裕で参加出来そうなくらい至って普通の格好をしてクラブに行き、街に出掛けてたと思うんです。でも「WELCOME TO ACID HOUSE」Tシャツを手に入れた今はどうでしょう?もし最新のダンスミュージックをチェックしているなら、Peggy Gouのインスタで、YaejiのAgainst The Clockで、1度は見掛けたことがあるかもしれない。90年代ハウスやレイヴのムードを大いにまとったThe Internatiiional。ブランドを手がけるJihaとSolが考えるストリートウェア、ブランドのこと、そして現在の韓国のハウスシーンについて話を聞きました。
構成・写真 : 寺沢美遊
取材 : 和田哲郎
通訳 : akari
- 2人の出会いとブランドの成り立ちを教えてください。
Jiha - 2011年、自分たちが23~24歳くらいの時に、TigerdiscoもいたYMEAっていうDJクルーのパーティで知り合って友達になりました。私はVJで、Solはカメラマンとかスタッフをやっていて。
- どんな曲がかかるパーティだったんですか?
Sol - ディスコですね。その当時はエレクトロブームで、韓国のDJ達はよく海外で流行ってたエレクトロをかけていたんだけど、YMEAのパーティではディスコを中心にプレイしようって感じで。
- YMEAはどこでパーティしていたんですか?クラブ?
Sol - 弘大(ホンデ)とか梨泰院(イテウォン)にあるクラブでやってました。Hwangbaxaという人がいて、その人がYMEAの主催だったんだけど、世代交代でメンバーが変わったんです。それで次の世代の人が自分たちの友達で、そこからはハウスをプレイするようになりました。ちなみにYMEAでディスコをやってた人たちはいまEast Disco Wav.という別のクルーをやってます。
- そこからブランドを始めるまで少し時間があきますね。
Jiha - ずっと友達で、それぞれクリエイターとしてデザイン会社にいたんだけど、2人ともなにか自分たちのものを作り上げたいっていう思いがありました。2人が好きなものとか、同じような考えを持っている人達に好きになってもらえるものを作りたいと思っていたんですね。
Sol - YMEAでNight Tempoを初めてゲストで呼んだ時があって、その時のポスターを2人で作りました。その後に「デザインスタジオを作らなきゃね」という話をして、2016年に2人で立ち上げました。当時は”いかだ”という意味の『Raft』って名前でした。
Jiha - そこから1年くらいで、The Internatiiionalを始めて。
- The Internatiiionalのグラフィックからは、90年代のハウスやレイヴのムードを凄く感じるのですが、こういった音楽をモチーフに服をつくろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
Jiha - 韓国に影響を受けたブランドが無いっていうのもあるし、まず2人がダンスミュージックが好きだからというのが一番です。例えばヒップホップをやっている人は「ヒップホップをしている」みたいな恰好が多いじゃないですか(笑)。
Sol - 韓国のサブカルチャーのシーンの中ではヒップホップをやる人同士が共有出来る空間は凄く多いけど、ハウスミュージックが好きな人達にはそういう場が無かったんです。
Jiha - ハウスが好きな人はどんな服を着ればいいのかというのを考えていて。
- なるほど。ストリートブランドはヒップホップがベースにあるものが多いし、韓国の人気ショップWarpedやブランドだとMischiefもそうですよね。
Sol - Mischiefはとても好きですし、Warpedはヒップホップだけでなく様々なカルチャーをキュレーションしていると思います。
- 「WELCOME TO ACID HOUSE」は2017年のファーストコレクションの時点でありましたね。さっきJihaが言っていた「ハウスが好きな人はどんな服を着ればいいのか」という問いに対して、もうこれが答えなんじゃないかというくらいインパクトがありました。
Jiha - オールドスクールなUKで流行っていたようなアシッドハウスが好きなんだけど、あるコミックに「WELCOME TO ACID HOUSE」という文字があったんです。
Sol - 「WELCOME」と書いてあるのに実際に行ったら中が地獄だった、みたいな風刺漫画で。もの凄く昔に描かれた物なんですけど。その漫画で風刺されるような、大人たちが嫌う文化が面白いと思ったんです。もちろんその漫画とは違って、私たちの「WELCOME TO ACID HOUSE」Tシャツは本当にハウスのパーティに来てほしいという意味です(笑)。あとは、レコードのラベルやジャケットからも影響を受けています。そういうデザインは凄くカッコよかったり洗練されているわけではないんですが、ルールが無いように見えて実はあったり。
Jiha - 昔のダンスミュージックのレコードはアートワークが無かったり、ただ色がついたラベルだけが貼ってあったりシンプルなものが多いんですが、それがその時代の人たちにとっての反抗だと思うし、そういうデザインを今見ると新鮮に思うんです。このブランドを作るときは、2人が好きなものを全部リストアップして書いて、持ってるイメージを全部プリントしました。持ってる物を全部切り取ってボードに貼って、そうやってブランドを形にしていきましたね。
- パーティにもとても思い入れがあるはずですよね、これまでに忘れられないパーティ体験のエピソードはありますか?
Sol - パーティは凄く沢山やりましたが、毎回考えずに遊ぶので記憶があまりないです(笑)。でもYMEAは楽しかったですね。あと2012年の夏に40~50人で観光バスに乗ってリゾートに行って、一泊二日でパーティしたのは凄く楽しかったです。ものすごい量のお酒をスポンサーに用意してもらって、みんな友達になって帰ってきましたね。あとはソウルでローラースケートをしながら音楽を聴く、というイベントもやりました。
Jiha- 昔はよくパーティーも行ってたけど、だんだん年を取るにつれて体力が無くなってきたので、本当に好きな曲がかかる場所しかあまり遊びに行かなくなりましたね(笑)。最近だとClique RecordsでMood Hutのクルーと一緒にやったパーティーが良かったですね。
- そういえば、Solは兵役のときに出来た友達とパーティをやってたんですよね。
Sol - 2009年頃に軍隊にいたんだけど、その時にダンスミュージックにどっぷりとハマって(笑)。軍隊が本当に嫌で、ダンスミュージックは軍隊とは本当に逆だからどんどん好きになって。その時に一緒だった人の中にDJをやっている人もいて、みんな友達になりました。軍隊の中にもネットが出来る時間があって、その時間の内にディグして、仕事をする時間に小さな音量でずっと聴いていて(笑)、その時に「これ何?」って聞いてきた友達と一緒にパーティをしています。
- 音楽を聴いていてバレないんですか?
Sol - 軍隊の仕事でもデザインをしていたんです。本部の中で絵を描いたりデザインをする部署があって、そこの偉い人たちに「お前たちはデザインが出来るから音楽も聴くんだなあ」と言われたりして、だから大丈夫でした(笑)除隊する人たちの似顔絵を描いたり、あとはプロパガンダの絵を描いてましたね(笑)。
- ははは、韓国ならではのエピソードですね。話を変えてそもそも韓国におけるハウスの受け入れられ方はどのようなものでしたか?
Sol - ハウスというよりテクノですね。90年代くらいからテクノは外国から来たものとして20代から30代の人たちの間では人気があったみたいです。テクノが新しい文化として盛り上がっていた時期がありました。
Jiha - テクノの中にも色々なジャンルがありますが、韓国ではサブジャンルを掘り下げずにざっくりとテクノとして受け入れて、それが1つのカルチャーとなっていました。私たちはその世代ではないですが、振り返ってみればそういうブームがあったと思います。
Sol - 2007~2009年くらいに韓国にはエレクトロミュージックのコミュニティがあって、そこに入っていた人たちが今のダンスミュージックのプレイヤーとして活動しています。DJ Bowlcutが代表的で、コミュニティに居た人たちはみんなBowlcutを知っています。
- Bowlcutは同じ世代ですか?
Sol - 同じくらいですね。
- Bowlcutは今のソウルのハウスシーンの中心という印象があります。
Sol - Bowlcutも代表的なんですが、今年のBOILER ROOM BUDx Seoulに出ていたC'est Quiなどが段々シーンを大きくしています。昔はダンスミュージックのレコードショップも少なかったんですが、今はレコードショップも多くなったし、世界の音楽や文化を共有できるようになりました。
- 韓国はヒップホップが強い国というイメージですけど、今はダンスミュージックのレコード屋やクラブも出来ていますよね。日本からダンスミュージックが好きな人が韓国に旅行に行くときにおすすめの場所はありますか?
Sol - Clique Recordsと、あとはFaustというクラブのオーナーがやっているKammer Recordsがおすすめです。Kammer Recordsはテクノが多いです。クラブだと、ファンクとかディスコ・ハウスはPistilで、Contraはテクノとかハウスに強いですね。Cakeshopはベースミュージックとかヒップホップが強いです。決まっている訳ではないけど、そういう印象ですね。Volnostはディープなテクノが多くて、Faustは引っ越しして新しい所に出来たんですが、そこは結構良くてみんな行ってます。音響が良いとみんな言ってますね。弘大のMODECiもおすすめです。Clique Recordsは最近僕たちのスタジオと同じビルに引っ越してきて、スタッフが僕たちの事務所に来たり、僕たちがClique Recordsに行ったりして色々教えあう仲です。その建物に友達をみんな呼んでくるのが目標(笑)。
- 2人のスタジオやClique Recordsがある乙支路3街(ウルチロサムガ)のエリアにみんな集まるのはどうしてなんですか?
Jiha - 昔からある古い街だからちょっと傾いてるビルとかもあって、家賃が安い場所が多いんです。独特の雰囲気で、印刷工場通りみたいなのもあって。
Sol - アクリルや木のような材料を売っている店が凄く沢山あるので、デザイナーが事務所を作るようになって。乙支路の中で全部完結するのがいいところですね。
- 乙支路3街には独自のカルチャーが出来てるんですね。
Jiha - そういう雰囲気が好きだし楽に感じるから、昔日本に旅行したときは下北沢に行きました。
- 最後に、今後ブランドをどんな風に続けていきたいですか?
Jiha - イギリスや日本には私たちが打ち出している文化を理解できる人たちが多いので、海外に積極的に出ていきたいです。 服だけを作るブランドではなく色々な文化を作っていきたくて、パーティをしたりコンピレーションのリリースもしたいですね。
Sol - YaejiやPeggy Gouのような人たちがきっかけになって多くの人たちに広めることが出来るようになったと思います。昔は想像も出来なかったですが、日本の人も私たちのブランドを買ってくれるし、ヨーロッパやアメリカの人も買ってくれるようになって、今は境界無く仕事が出来るようになりました。
Jiha - 韓国の国内で何かをやろうと思ってましたが、予想以上に海外からの反応があったので、私たちもそうやって外に出ていこうと思っています。
Sol - サポートしてくれる人たちも増えて、色々な挑戦が出来るようになったので、僕たちも韓国で活動している人たちの力になって、お互いに手伝いながらサブカルチャーを大きくしていきたいと思っています。
- ありがとうございました。
The internatiiionalは『The intl. Mix』というミックスシリーズをスタート。最初はソウル在住のイギリス人DJのMike Shinsによる「Welcome to (Breakbeat&) Acid House」がテーマのミックスになる予定だ。
さらにUKのレーベルAxe on WaxとのコラボTシャツがリリースされていて、今後同じくUKのShall Not Fadeとのコラボアイテムもリリース予定だ。
さらにさらにソウルアートブックフェアで先行販売された、韓国のグラフィックデザイナーInjullmiとのコラボTシャツももうすぐリリース予定。
またThe internatiiionalがビジュアル面のサポートを務めるCIRCUIT SEOULの来日イベントも今週末に開催。
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